048-賊に譲歩せず
何だかとても見覚えがある格好だが、しかし安易にそうだと決めつけてしまうのは早計というものだ。
革鎧や刀剣類はこの世界ではおそらく必須だろう。
俺もヤバい奴には一度しか会ったことはないが、あのレベルでなくても野生の獣などでも、たまに魔力を扱う個体がいる。
普通の獣でも人間にとっては脅威になるのに、魔力を扱う獣に襲われたら間違いなく命を落としてしまうだろうことは想像に難くない。
しかし逆に言えば、魔力が使えるなら刀剣一本で普通の獣を狩ることができるし、矢を何本も射かける必要はない。
だから、そう。あの男たちが弓を持っていないからと言って、狩人でないとは限らないではないか。
「お、めちゃくちゃ良い女じゃねーか! ……と、何だあいつ。気色悪っ」
「おい、あの女貴族だろ? ヤベーって」
「貴族崩れだろ。もう黒肌なんて貧民と同じだ。捕まえて回そうぜ!」
はい。彼らの会話で、俺の希望的観測は一瞬にして打ち砕かれてしまった。
男たちは剣を抜いて、そのまま俺たちの方へ歩いてくるようだ。
バルダメリアさんは最初から予想がついていたのか、既に剣の柄に手をかけている。
俺も意識を切り替えて、『力』を扱う心構えをした。
「何だテメェら」
「おお、本当だ。こんな貴族様がいるわけねーな」
「ほらな。おう、俺らはこわーいならず者だぜ。諦めて降参しな」
村を出て以降、出会う人間はこんな連中ばかりだ。
人のいる場所を避けているせいだろうか?
それに、なぜこいつらは彼女のことを貴族だと知っている?
黒肌と言っていたから、褐色の肌は貴族の証なのか?
だが彼女と同じく褐色の肌を持っていたヤグは村人だった。
分からない。この辺りの文化に俺は全く詳しくないし、知る必要のあることは多そうだ。
だが何にしても、今それは重要なことではない。
重要なのは、俺はもうこの手の連中相手に、譲歩など一歩もできないということだ。
「帰ッテ、下サい」
「デルミス?」
「はぁ? ククッ、こいつ話聞いてないのかよ」
「丸腰でお願いなんて、強面なのは見た目だけかぁ?」
「あぁ? テメェらフザ───」
「『そうか』」
一歩、近い方の男の前に『力』を使って全力で飛び込み、持っている剣の腹を人のいない方向へ向けて、思い切り殴りつける。
すると、カァン! という金属音と共に、殴った場所から刀身が折れ飛び、その衝撃で剣の柄が男のてから離れてしまった。
魔力の籠っていない剣の何と脆いことか。
「『ん』」
「え?」
俺自身そのような結果になったことに驚いて一瞬硬直したが、直ぐに殴った方とは逆の手を手刀の形にして、男の首筋へと突き込み、寸止めにする。
ブワリと風が吹き荒れて、周囲の木々や衣服が煽られて音を立てた。
「止マって、下サい」
「いてっ……えぁ?」
「は? えっ……」
男たちは俺の一連の動作をまるで捉えられず、理解も及んでいないようだった。
ディンガードのように、目で追うことすらしていない。
魔力を使えないからなのか、それともディンガードが単純に強かったのか。
どちらにせよ、全力で『力』を使う程の相手ではなかったようだ。
甚だしいエネルギーの無駄のような気がしたが、相手が魔力を扱えるかどうかが分からないので、一撃目は全力にならざるを得ないのが辛いところだ。
「あ、ひぃ!?」
寸止めをされた男は尻餅をついて、俺の手からは離れてしまった。
しかし完全に怯えている様子ではあるので、脅しは成功したといって良いだろう。
手加減をしないとは言っても、何も殺す必要はないのだ。
俺たちに危害を加える意志を挫いてさえ仕舞えば、彼らは脅威ではなくなるのだから。
「……」
「ま、待ってくれよ、俺は止めようって……は、ははは……うわああああ!」
「お、置いていかないでくれ! あ、あ、ひいいいい!」
俺がもう1人をジロリと睨みつけると、そちらの男は悲鳴をあげて逃げていき、それに続くようにして剣を失った男も背を向けて逃げ出した。
これでもう、あの2人組は俺たちを襲うことはないだろう。
「デルミス」
そう考えていると、背後からバルダメリアさんが俺を呼んだ。
振り向くと、彼女は剣を持っていない方の手で、俺の腕をがっしりと掴んでくる。
俺は今のところ離れていないのであるが、何故に?
「ああいうのはアタシがやるから、お前がやる必要はないんだからな」
「アッ、ハイ?」
「アタシが、お前を守ってやるって言ってるだろ。お前は魔法も使えないんだから、あんまり頑張らなくて良いんだから」
彼女はそう言って、俺の腕を掴む手に、さらに力を込めてきた。
そこで俺は、はっ、と気付く。
彼女にとっては俺を守ることが、俺を失わない方法なのだ。
俺の方が強いとかそう言った理屈は関係なく、彼女は俺を守ることによって、自分に優しい俺という存在を確保しているのである。
つまり彼女は俺を守れなければ、そう言った存在をまた失ってしまうかもしれないのだ。
だから彼女の精神を安定させるためには、俺は彼女に守られなければいけないが、しかしそれでは俺が彼女を守ることができなくなってしまう。
「ソウデスネ」
「本当に分かってるのか? まぁデルミスが頑張ってくれるのは嬉しいんだけどなぁ。フフ……」
難しい話、というよりも両立は不可能だろう。
何とか誤魔化しつつ、やっていくしかない。
襲ってくる相手がいなければそれが一番良いのだが、ディンガードの口振りからすると、さっきのような手合いの数は沢山いるのだろう。
なかなか難儀な旅路になりそうだ。
「アレハ、マダ?」
「ああ、血が抜けるにはもうちょっとかかるだろ」
イノシシを見ると、まだ血が滴り落ちているのが分かる。
バルダメリアはそれを見てまだ終わっていないと判断したのか、俺の腕を離して、俺の荷物を漁り始めた。
何をするのかと思えば、彼女は木の板を取り出してニコッと微笑んで見せる。
「その間にちょっと言葉を教えてやるよ。さっきみたいなヤツらは、もっと強い言葉で脅さないとな」
「エ?」
「ぶっ殺すぞ、って言ってみな。お前なら、そうやって凄めばイケる!」
「エエ……」
彼女はアルルゥに負けないくらい熱心に俺に言葉を教えてくれて、とても有り難くはあるのだが、時折こう言った過激な言葉も教えようとしてくるのが少々困りものだ。
彼女がいて、アルルゥはよくあの言葉遣いを続けていたなぁ、とちょっと感心してしまった。
「ブッ殺スぞ?」
「フフッ、ちょっと、首を傾げながら言うのはダメだろ、アハハハッ!」
まぁそれでも知っていて困るものではないので、すべてちゃんと教わるのではあるが。
バルダメリアさんも喜んでくれるし、何一つ損はないのだから。
落とすところでした。危ない危ない。
バルダメリアさんの性格が難しすぎて、かなり書くのが大変になっちゃった感。
どうしてこんな展開にしてしまったんだ!
でも正直、彼女はかなり可愛いキャラクターだと思うから、あんまり後悔はしてない。




