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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第三章 修行僧
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047-2人旅で森の中

 イノシシのような動物が、地面を鼻で掘り返しては、地中にある何かをもぞもぞと食っている。


「お、見つけた。あいつでいいだろ」


 それを遠目で見つけたのは黒い紙と褐色の肌を持った、革鎧の女性。バルダメリアさんだ。

 彼女は右手に剣を持ち、左手を真っ直ぐ前に出すと、イノシシに向けて走り出した。


「『捕縛せよ(アンカウル)』!」

『ギュー!?』


 彼女の手から飛び出した光の紐が、イノシシの周囲を一瞬で何重にも取り囲むと、それが収縮して獣を縛り上げる。

 後は接近してとどめを刺すだけ———なのだが。


『ギュゥアア!』

「あ!」


 イノシシはに突然じんわりとした光を放ち、光の紐を力尽くで引っ張って、強引に破壊してしまった。

 そしてイノシシの見た目をしているくせに即座に反転して、その獣は逃げ始める。

 通常であれば、それで逃げられてしまうだろう。


 しかし俺はそれに対して『力』を使って地を蹴り、一気に接近して、その首筋に物理的に鋭い貫手を突き込んだ。


「『ハッ!』」

『ギュッ!?』



 これでこの獣は放っておいても死ぬだろう。

 しかし後は更に突き込んだ腕から魂のエネルギーを吸い上げて、獲物を仕留めにかかった。


「『む、この、魔力を使うんじゃない!』」


 先程の魔力光からも分かるが、野生の生き物の中にも時たま魔力の使える個体が居るらしく、このようにエネルギーの収奪に少し手間取ることがある。

 とは言っても、ディンガードのように強い力で妨害されるわけでもないので、ちょっと吸いづらいという程度の話ではあるのだが。

 なので頑張って腕や指を突っ込んでいれば、ちょっと時間はかかるものの、他の獲物と同じように魂のエネルギーを吸いきることは可能だ。


『ギュ……』

「『南無三』」


 空っぽになった獲物から腕を引き抜いて、俺は合掌して祈った。

 これもルーチンだ。


「ったく、ハズレじゃなけりゃ、アタシが仕留められたのに」

「ナルホド?」


 バルダメリアさんが文句を言いながら追いついてくると、彼女は俺の側に立って、俺の血で汚れていない方の腕をがっしりと掴んだ。

 あの夜から3日ほど経っているが、彼女が俺にひっついてくる状態は、特に変わってはいない。

 そのうち腕は離してくれるが、離れようとするとまた掴む。そうやって、トイレや水浴びの時以外は、常に一緒にいるような状態だ。


 まぁ心の傷というのはそうそう治るものでも無いだろうし、ゆっくり見ていけば良いのだが。

 しかし、これで彼女のプライベートなどは大丈夫なのだろうか?

 年頃の女性の思考など、俺にはさっぱり分からない。


 俺の方は常に健康なので特に問題ないのではあるが……そういえば今まで気がつかなかったが、女性とずっと一緒にいるのに、なぜ問題ないのだろうか?

 通常ならば性欲などで大変だと思うのだが、今の俺はそう言ったものがとても安定しているのだ。

 彼女のことは可愛らしいとは感じるのに、我慢出来ないなどとは一切感じない。


 というか、そもそもこの世界に来てから既に何ヶ月も経っているはずだが、俺は魂のエネルギーの収奪と睡眠以外の生命活動をした覚えがないのだ。

 それも睡眠は必須ではない訳で。

 何が出来て何が出来なくて、そして何が必要で何が必要無いのかがさっぱり分からない。


 いったい俺はどういう生物なのだろうか?

 いやまぁ、彼女と旅をする上ではとても都合がいいので、全く構わないことなのであるが。


「ホントだって。ほら、手ぇ出して」

「分カッた」


 俺が血で汚れた手を差し出すと、バルダメリアさんは腰に差した短剣を抜いて、その刀身から魔力で水を流した。

 ディンガードの拠点で手に入れた、魔法の短剣である。

 と言っても、もともと彼女の持ち物であったらしいのだが。


「デルミスは魔力がないから、この短剣使えないもんなぁ。しょうがないやつ。アタシが洗ってやらないと、汚れたまんまになっちまうよ」

「『あー』、正しイデス」

「フフッ。それも間違いじゃないけど、そうですね(同意します)、って方が良いと思うぜ」

「ソウデスネ?」

「そ。よし、これで綺麗になった。血抜きしようぜ」


 そう言うと、彼女はニコッと笑って短剣をしまった。

 そして代わりに荷物の中からロープを取り出すと、猪の足を縛ってそのあたりの木の枝に逆さまに吊るしてしまう。

 こうしておけば、既に首筋に深い傷のあるこのイノシシからは、勝手に血が抜けて行くはずだ。


「よっし、これで終わり。ちょっと休もうぜ」

「ハイ」


 この一連の作業を彼女は苦もなく行った。

 相変わらず外見からはとても想像できないパワーだ。

 その分たくさん食べるので、生物として地球の人類より優秀であるかは分からないが。


 ともあれ、なぜ俺にとって肉は必要ないのにこうして処理をしているかというと、それはバルダメリアさんが食べるため、というわけではない。


「こいつを持っていけば、ちっとは村の連中も警戒を解いてくれるだろ」

「ソウデスネ」

「そっから先は森が途切れてるし、何か考えないとなぁ」


 彼女曰く、そろそろ森のない開けた土地になるらしい。

 俺はもちろん彼女も立場的には目立たない方が良いため、これまで街道を避けて移動してきた。

 しかし、そろそろそれも限界であるらしいのだ。


「大キナ、畑、有ル?」

「そうなんだよ。もう深い森が少ないし、回り込もうと思うとかなり距離があるんだよな」


 なので取り敢えず寄ることになった最初の村への手見上げ兼、俺たちが狩りをしながら旅をしている普通の旅人カモフラージュとして、このイノシシの様な獣を狩ったという訳だ。

 こいつを持っていけば、「まぁ取り敢えず様子は見てやるか」位にはならないかなぁという打算である。

 ただでさえ怪しい色合いの俺がいるので、こういった工夫はあって困るものではないだろう。


「ん、誰か来たな」


 と、そんなふうに俺たちがこれからの予定について話していると、バルダメリアさんが何かに気付いたらしく、声を上げた。

 彼女の見ている方向を見てみると、確かにそちらの方向から、男が2人歩いてくるのが見える。

 革鎧と剣で武装した男たちだ。

さあ、新しい日々の始まりだ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] お頭がお姉ちゃんぽく振舞っていて(・∀・) [気になる点] 森なのに帯剣ということは獣狩りより対人対策重視っぽい。何者なのか 主人公は眠る必要が無くて夜番が楽なのはいいかもだけど、ものす…
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