044-酷い夜の終わり
「なんて、デルミスは魔物だし、分かんねぇかな」
バルダメリアさんは話し終えたのか、悲しそうにそう言った。
しかし俺の精神は魔物ではない。
彼女の辛さはちゃんと分かっているつもりだ。
「イイエ」
「そっか」
と言っても、彼女にそれは分からないだろう。
俺はそのことに少しだけ寂しさを覚える。
この星での俺は、孤独から抜け出せないかもしれない。
数人の理解者を得ることはできても、真の意味でそう言う人たちと一緒に生きていくことは難しいのだと、ドミ村長は示してくれた。
まぁ今のところその実感は薄いし、世界樹に行けば何とかなるという。
希望がないわけではない。
「デルミスはこれからどうするんだ?」
「世界樹ヘ、行ク」
考えていることを当てられたようで、少しドキリとする。
ここにはもう俺を縛るものは無いし、火葬ももうじき終わってしまうだろう。
どういう原理かは分からないが、遺体の山は少しずつ小さくなっていて、もう殆ど残っていない。
青い火が、死んだ人間を音もなく消してしまったようで、不気味なようでいて、少し神秘的な光景だ。
これも魔導教会式の葬儀なのだろうか?
魔法で神様の元へ送られるというのは、如何にもらしいと言えばらしい気がする。
「世界樹……西か」
「ハイ」
しかし神というと、俺にとってはあの俺をぶっ飛ばした存在であるし、あそこへ行くと言うことはピンクの処理場行きという事だと思うのだが、それは良いのだろうか?
いやまぁ、それが自然の摂理だというのならどうしようもない話ではあるのだが、アルルゥもあそこへ行くと言うことは、死後の安らぎも何もないのでは……。
そう考えると、とても諸行無常を感じてしまい、なんだか空しい気持ちにさせられてしまった。
「……」
「……」
それからまた俺とバルダメリアさんは無言になって、火葬が終わるのを見守った。
火の山は一つ、また一つと消えていき、残りももう幾ばくもせずに燃え尽きる。
そんな時になって、ふと俺は一つのことが気になった。
そういえば彼女は俺に行き先を聞いたが、彼女自身はこれからどうするのだろうか?
俺には目的地があるが、彼女にはもうそんなものは無いだろう。
ひょっとして、俺がいなくなったら彼女はまた死のうとするのではないか。
その考えに思い至ると、俺はなんだか、彼女のことが猛烈に心配になってきた。
彼女の味方をするなどとして戦っておきながら、そうさせてしまっては、なんだかとても薄情だ。
しかしだからといって、どうすれば良いのだろう。まさかストーキングなどをするわけにもいくまい。
「……アタシも行くよ」
「『え?』」
「守らなきゃいけない物、全部なくなっちゃったしな」
都合が良いことに、バルダメリアさんは俺に付いてくるという提案をしてきた。
確かにここに居る理由がなくなったのであれば、彼女が俺に付いてくるのは自由だ。
俺にとっても心配事が減るのはメリットではある。
「それにアルルゥだって、デルミスのことを気にしてるだろうし。言葉もまだ全然喋れないし。それと……そう、魔物だから、何も知らないだろ」
しかしどうにも……彼女は何かを焦っている様にも見えるが、それが何かは俺には分からなかった。
「だから、アタシがお前を守ってやるから、一緒に行くから。良いだろ?」
「ハ、ハイ」
「よかった。じゃあ、決まりだからな」
俺はその勢いに押される様に了承してしまったが、まあ良かったのだろう。
どのみち彼女を放っておくことは出来なかったのだから、彼女がついてくると言うのなら、これ以上のことはない。
そうこうしている内に、全ての山が燃え尽きそうになったのを見て、バルダメリアさんは顔の前で親指を開いて両手の五指合わせ、目を閉じて祈り始めた。
魔導教会の合掌みたいなものだろうか?
「みんなの魂に、魔の導きがありますように……いままで、ありがとう。ごめんなさい」
別れの言葉と共に、ツウと、彼女の頬を最後の涙が伝う。
相変わらず、魔法が宗教の中心であるのは慣れない話だ。
けれどそれによって人の精神が救われるのなら、それはきっと正しいものなのだろう。
「それじゃあデルミス、今日はもう寝ようぜ。今日は少し、疲れたからよ」
そう言った彼女は悲しそうではあったが、先程までよりは少し元気になった様に見えた。
だから俺は「ハイ」と同意したのだが、さてどこで寝ようか、と考えた時に、グイと服をひっぱっれる感触を覚える。
「『ん?』」
「あっちに服があるから着替えて、あと一つだけ無事なテントがあったからな。そこなら寝られるぞ」
「『えっ、あっ、ちょっ』」
「ほら脱げ、着替えさせてやるから」
バルダメリアさんは俺を強引に引っ張っていって服を変えた挙句、残ったテントにそのまま強引に引っ張り込んでいた。
しかしこれは、男女の仲とかそういうアレではない。
何故なら彼女は俺を着替えさせた後でさっくりと自分もどこかで着替えて戻ってきたし、俺を隣に寝かせると、自分も寝る体制に入ってしまったからだ。
「それじゃあデルミス、ゆっくり寝ろよ、アタシが守ってやるからな」
「アッ、ハイ」
何が起きているのか、俺にはもうさっぱりだった。
彼女は一体どうしてしまったのか。
仲間を失っておかしくなってしまったのか。それとも世話焼きスイッチの様なものでも入ってしまったのか?
意味がわからなかったが、かと言ってここから出ていくのも妙な話だ。
「スー、スー……」
「『えぇ……?』」
隣の彼女も、本当に寝てしまっている。
俺はどうすればいいのか本格的にわからなくなったので、そのまま考えることをやめて、寝てしまうことにした。
何だかんだ、俺も疲れていたのだ。肉体的にではなく、精神的に。
考えなければならないことはいくつもあるはずだが、それよりも今は寝ることを優先したかった。
だから目を閉じて、意識を落とす様に、俺は自分の意識を途絶えさせる。
それだけで、今の俺は寝ることができるのだから便利なものだ。
デルミスくんに道連れができました。
本当に酷い夜だったけど、弔えただけマシかも知れませんね。




