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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第二章 森の賊
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041-殺人の感覚

 左手の指を鋭く変化させ、ディンガードという男の腕に指を突き立てる。

 するとそこから血が出るとともに、魂のエネルギーが流れ込み始め、男がその瞬間に悲鳴を上げ始めた。


「『死ねぇ!』」

「何だ! 何をしてる、や、止めろ、止めろォ!?」


 半狂乱になって俺の腕を掴んで引き剥がそうとし、それが無理だと分かると俺を殴りつけるが、そんな物では俺には全くダメージにもならない。


「奪うな! 力が、力が!」


 どうやら魂のエネルギーは奪われると、何らかの力が失われるような感覚を得るらしい。

 こんな男であっても味は同じであるから、他の生物もそのような感覚を味わっていたのだろう。

 しかしこのディンガードという男は、他の生物と違ってやたらとエネルギーが奪いにくい。


 何かの膜でガードされているかのように、細くゆっくりとしか奪うことが出来ないのだ。

 俺には使えず、理解できない力。

 これは魔力なのだろうか?


「離してくれ、止めてくれ! 俺が、俺が悪かった! 嫌だ!」

「『…………くっ、駄目だ、死ね!』」


 こうなってしまうと、如何に仇とはいえ、俺には男が哀れに見えた。

 誰だって死ぬのは怖い。その恐怖に負けて命乞いをする相手を、殺すまですることがあるのか。

 そう考え始めてしまった俺に、しかし男は酷く醜い命乞いを重ねてきた。


「わ、分かった、あの女をやる! 魔物なら、食うなら何だって良いだろ!?」

「『こっ……この、クズがあ!!』」

「ぎゃああああああ!」


 俺は力の限りに左腕を握りしめ、男の腕を握りつぶした。

 やはり、こんな男には慈悲などかける価値は無い。

 いや、もっと早く殺さなければならない。


 だが、この妙な体勢から力の入る蹴り方など俺は知らないし、左腕1本では、これ以上には何も出来ない。

 右腕さえあれば、この男を刺し殺すことが出来るのに。

 そうだ、右腕を復活させられれば、もっと早く殺すことが出来る。


 俺の身体が力によって変化するのなら、力を多く使えばもっと早く変化するのかも知れない。

 砦虫(バンダラガ)に押しつぶされた時でさえ、俺の身体はあれほど早くに復活したのだから。


「『ああああああああ!!!』」


 無き右腕に力を。

 そう願い、力を操る。

 するとどうだろうか、傷口から水のように紫の液体が飛び出したかと思うと、激しく渦を巻き、指先の長さ程度までその渦が真っ直ぐに伸びる。


 渦はやがて分化して腕や手の形に近くなり、徐々に流動が収まると、そこにはもう俺の腕が存在していた。

 これならば、この男を迅速に殺すことが出来るだろう。

 俺は出来たばかりの右手の指を鋭い鉤爪のように変化させて、腕を引いて構えた。


「な、何だ、嘘だろ、止めろ、止めてくれ!」

「『死ぃねええええ!!!』」


 そして、それを出来うる限りの速度で突き出し、逃げようとする男の胸に突き立てる。


「ごっ!?」


 鈍い音がして、腕が男の体を貫通し、膝の辺りまで右腕が男の体に埋まった。

 すると魔力を扱う余裕がなくなったせいか、左手からのエネルギーの流入が一気に増えたばかりか、右腕からもエネルギーの流れが始まる。

 魂のエネルギーは、指から出なくても奪えるものらしい。


「やべ、で……ぇ……」

「『……』」


 この男の命乞いに対して、俺はもう語る言葉を持たない。

 ただ恨みのままに吸い尽くして、カラカラになった男の体から、右腕を引き抜いた。

 胸の穴からは前後に血が吹き出して、地面にビシャビシャと赤い水たまりを形成し始める。


 これで、この男は死んだはずだ。

 しかしふと、俺は不安になった。

 深く考えたことはなかったが、魂のエネルギーが無くなった生物は、本当に死ぬのだろうか?


 いや、それでは死ななかったとしても、流石に胸を貫かれて死なない人間はいないだろう。

 ……だがしかし、今の俺はこの程度の傷では、きっと死ぬことはない。


「フンッ」


 確信が持てなかった俺は、右腕を刃の様にして、ディンガードの首を落とした。

 これならば、たとえ俺の様な生物であっても死ぬだろう。

 左手を離すと、男の体はベシャリと血溜まりの中に倒れ伏す。


 死体だ。物言わぬ。

 それを見届けて、俺は何をしているのだろうかと言う気持ちに囚われた。

 復讐を果たしたはずなのに、もしくは人を初めて殺したのに、快感も拒否感も感じてはいない。


 それどころか、殺す前はあれほど迷ったと言うのに、今は殺してから首を落としさえした。

 そこには、違和感も何もない。

 必要なことをしただけと言う感情と、ただ、気持ちの悪い虚無感が漂っている気がした。


「『ぐっ』」


 それでも、終わったと思ったせいだろうか。急に腹が痛み出して、そこに剣が刺さっていることを、俺に思い出させる。

 だから俺は、今度は腹に刺さった剣の絵を握ると、『力』を使って一気に引き抜いた。


「『ぐう、う、ぐうううううう……』」


 青い血が溢れ出して、とてつもなく痛かったが、『力』を使えばこんな傷もすぐに完治だ。

 残ったエネルギーはおそらく、魂5個分ほど。

 これだけの戦いや右腕の復活をして、その程度で済んだのは、もう何と言っていいか分からない。


 しかしこれも、アルルゥが供給してくれた魂があってこその結果であるから、俺1人が人間よりも強すぎると言うことはないのだろう。

 この世界の人間は、本当に化け物ばかりだ。


「『……そうだ、バルダメリアさん』」


 アルルゥのことから連鎖的にバルダメリアさんのことを思い出して周囲を見回すと、彼女はまだ、先ほどと同じところに座り込んでいた。


「デルミス……」

「『よかった、無事で、本当に……』」


 アルルゥも、他の盗賊団の団員たちも、みんな殺されてしまったという。

 けれど彼女らに慕われたバルダメリアさんだけでも無事だったのは、ほんの少しでも救いだっただろう。


「アタシも、殺すの?」

「『え?』」


 しかし、彼女の表情は力なく、瞳はとても暗く澱んで、涙は止めどなく流れていて、その姿はあまりにも痛々しい。

 だから分かった。彼女のその精神は無事ではないのだと、見ただけで、俺にも判断がついてしまったのだ。

倫理観とは知識と経験から構築されるものな訳です。

そしてデルミスくんはこの世界へ来て生物が死ぬ感覚と、殺さなくてはいけない存在というもの学んだ結果、彼の倫理観は再構築を余儀なくされてるんですね。

と言っても『悪い人への対処法』がちょっと変わったに過ぎないんですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 命を奪うことへの暗い感情描写と葛藤が書かれていて引き込まれます。 念入りに首まで落とすあたり、想像力豊かで生来は臆病なタイプなんでしょうね [気になる点] ゲームの中には確率でレベルダウン…
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