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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第二章 森の賊
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039-絶望ミリー

「黙れ!」


 ディンガードの口を止めようと、アタシは必死になって斬りつけた。

 こうやって、もう何人殺してきたかなんて、覚えちゃいない。

 ただ仲間を守るために、今まで必死になってたくさんの人を殺してきた。


「お前のお仲間だってよぉ、俺の一味を殺し尽くすくらいには殺し慣れてるだろ。何人殺せばそんなんなるんだって話だよなぁ?」

「黙れぇ!」


 そしてアタシが人を殺す度に、仲間も人を殺した。

 女所帯を襲ってくるクズはいくらでもいて、みんなで守るために必死になって戦ってきた。

 それでいいなんて思ったことはないけど、仕方のないことだった。


「よっと」

「がフッ」


 話の最中、ディンガードはアタシの剣を受け止めながら、無造作に拳を振るってきた。

 アタシはそれに反応もできずに顔を殴られて、地面を情けなく転がって、地面に倒れていた死体にぶつかってしまう。

 男の死体だった。


「ひでぇ話だよなぁ。俺の一味にゃ、家族がいる奴だっていたんだぜ? それをこんなにたくさん殺しやがって。人の心ってもんを無くしちまったのかね、ミリーちゃんは」

「お前らが襲ってくるからだろうが!!」


 アタシたちが悪いんじゃない。

 こいつらみたいなクズが襲ってくるから、しょうがなく殺さなきゃいけなかったんだ。


「だから許されるって? 商人から脅し取ったりしてたんだろ? だったら護衛だって何人か殺してるよなぁ」

「それは……」


 金がなくて、みんなを養うために、何回も商人から巻き上げたことはある。

 その時に護衛を斬らなきゃいけないことだって、なかった訳じゃない。

 だからその次からは必要以上の大人数で囲んで、戦意を喪失させて積み荷を奪った。


 殺さないように、努力はしていた。


「殺さなくっても積み荷がなけりゃあ商人は死ぬ。お前は仲間にずーっと人殺しばっかりやらせてたんだぜぇ?」

「……」


 けど分かってる。そんなものは言い訳で、悪いことは悪いことだったと。

 でも全部、生きていくためには仕方がないことだったんだ。

 そうしないと、みんな死んでいたんだ。


「お前が唆したから、女どもは人殺しになった。人殺しになったから、賊として死んじまった」

「……黙れ」


 アタシが悪いんじゃない。

 戦争があったから。襲ってくるから。みんなで生きていくために仕方がなかったから。

 でも、そんなものは全部言い訳で、アタシがみんなを不幸にしたっていうの?


「両親に申し訳ないとは思わないのかねぇ。どうなんだ、えぇ? アメリアル・エンパールムちゃんよぉ」

「……黙れよぉ」


 それはアタシの本名だった。

 この男はやっぱり全部知っていて、アタシを追ってきたんだ。

 戦争から生き延びたのに、こんなことをやってるアタシを、コイツは追い詰めにきたんだ。


「領民を守るために戦って、死んでいったお前の親が、今のお前を見たらどう思うよ?」

「お父様とお母様は、関係ないだろぉ……」


 涙が出てくる。

 この憎い男の言うことは全く正論で、アタシは今のアタシが嫌いだった。

 親に顔向けできないなんてことは、アタシが一番よく知ってるんだから。


「いいや、関係あるね。聞いたぜぇ? お前は親に逃がされた後、戦争で焼け出された女を集めて匿ったってな。そんで持ち出した私財がなくなった後、国を逃げ出して王国で悪事を働いて、意趣返しのつもりかよ?」


 だって、そう。アタシは貴族の子供として、みんなを守ろうとしたはずなのに。

 それなのに出来たことといえば、みんなで盗賊になって、悪いことをすることくらい。


「見な」

「いっ、あぁっ」


 頭の上から髪を掴まれて、アタシの顔は強制的に横を向けられた。

 そこには死屍累々の光景が広がっていて、それはアタシの家族の成れの果てだ。


「あれがお前のやったことだ。あの女どもがああなったのは、全部お前のせいだ」


 アタシのせい。アタシのせい。

 全部全部、アタシがここまで連れてきたからこうなった。


「高潔だった親に比べて、今のお前はただの犯罪者。親の名誉も、女どもの名誉も汚して、いったい何がしたいんだ?」

「あ、アタシ、アタシは、そんなんじゃ……」


 家族のために戦ったはずのアタシは、みんなの命を守れなかっただけじゃなくて、みんなの名誉も何もかもを滅茶苦茶にしてしまった。

 ああ、結局アタシがやったことは、何の意味もないことだったんだ───そう思ったらもう、アタシは剣を握っていられなかった。

 どうしてアタシは生き残ってしまったんだ。この男にクズなんて言っておいて、本当のクズはアタシの方じゃないか。


 生きていてはいけないほどの悪だと言うのなら、いっそ戦争で死んで仕舞えばよかったのに。

 もはや瞳から溢れる涙は滂沱となって、膝をついたアタシの顎から滴り落ちていく。


「何でだよぉ。何でこんなことするんだよ……」

「んん? そりゃあよぉ、お前をペットにするためさ」

「え?」


 泣きじゃくるアタシに、ディンガードは臆面もなくそう言い放った。


「俺ぁ、貴族ってもんを飼ってみたかったんだ。貴族連中が奴隷を飼ってるのと一緒でな」

「そんな……」

「でもなぁ、普通にどっかの貴族の娘を攫ったんじゃ、俺がぶっ殺されちまう。そこでミリーちゃんに白羽の矢が立ったのよ。攫っても殴っても、誰も文句を言わねえ」


 そんな理由で、この男はアタシを追ってきたの?

 そんな理由で、アタシの家族は殺されたの?

 怒るべきだと思った。なのに、アタシにはその気力が湧いてこない。


 だって、アタシの心はもう、ポッキリと折れてしまったから。

 理不尽に家族を殺されて、暴力を振るわれて、現実を突きつけられて。

 アタシには何もできないんだと思い知らされたから。


「戦争ってなぁ、良いもんだなぁ。馬鹿どもを使い潰しても、代わりはいくらでもいる。お前を綺麗にして躾けたら、適当に手下を増やして、傭兵でもやろうぜぇ? 食いっぱぐれて賊落ちして、殺しても良くなった奴はそこらじゅうにいるからな! 最っ高だぜぇ、ハァァーハッハッハァッ!!」


 悪魔だ。悪魔が笑っている。

 この恐ろしい悪魔が、アタシを捕まえて嬲るのだ。

 そう考えると、アタシはあんまりにも恐ろしくて、身体がひとりでに震え出していた。


 そして、ああ……悪魔がもう1人(・・・・)増えたのがアタシには見える。

 真っ赤な目で、怖い顔をして、紫色をした悪魔。

 彼は片腕なのに、その手を震えるほど握りしめて、力強く地面を踏み締めて、ディンガード(もう一方の悪魔)を睨みつけていた。

いやぁ、書いてる方も心が痛みますね。

ホントですよ?


ちなみにディンガードの言ってる仲間に家族がいたって話は、一応本当です。

誰だって家族はいますからね。

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