004-今生の肉体
どれほどの時間が経っただろうか。
数ヶ月は下らないが、もしかしたら数年かも知れない。
毎日毎日見かけたものを襲って爪を突き立てる日々。
獲物はナメクジだけではく、デカい虫もいた。骨のようなヤツもいた。スライムみたいなヤツもいたと思う。
日数も吸った数も数えていなかったし、まるで覚えていない。
しかしかなりの期間そうしていたのは間違いが無いだろう。
いつの間にか二足歩行が出来るようになり、自由自在に駆け回り、飛び跳ねられる程の期間を過ごしたのだ。
今思えばそれは、全身麻痺の人間がリハビリをするようなもので、だからこそそれだけの時間がかかったのだと理解が出来る。
(満たされない。満たされない。……満たされなかった)
だがそれだけ吸っても尚、俺は満たされなかった。
今、この瞬間までは。
目の前の俺より巨大な蜘蛛を吸い尽くした時、俺はようやく自我と呼べるものを取り戻したのだ。
「俺は、何だ。どうしたんだ……?」
ズルリと虫から指を引き抜くと、ドボドボと青色の血が溢れてくるのを無感動に見つめる。
この光景には、いつの間にか慣れていた。
死ぬ前は小さな虫しか殺せないような一般人であったはずの俺が、こうしてデカい生き物を殺しているのに、何の感情も湧いてこない。
それはそうだ。長く過ごす間、ずっと様々な生き物を吸い殺してきたのだから。
自我は無くとも俺はそれを覚えていて、経験として残っているので慣れてしまった。
だから問題はそのことでは無く、人間とは空腹だからと正気を無くして他の生物に指を突き立てるような生き物であったのか、と言う事が問題であるのだ。
「うーん」
指に力を集めると、シャキンと鋭く指が鉤爪状になる。
また違う集め方をしてみると、今度はビシリともの凄く硬くなる。
しかし力を抜いてみれば、とてもぷにぷにしていて、寧ろ人間のそれより柔らかいくらいだ。
「何だコレ?」
俺は今、人間であるのだろうか?
◇◇◇◇◇◇
「いや、人間な訳ないわ」
自分の疑問に自分でツッコミを入れた。
色々と考えて試してみたが、どうやら俺の肉体は随分と変なものになっているらしい。
光が無くても周囲が見える能力。
力を集めると身体を色々と変化させられる能力。
指を突き刺したりすると相手の魂から力を吸える。
あと身体が紫色で、妙に柔らかい。
そして何も食べなくても生存できるが、腹が減ると正気を無くす。
二足歩行の人型であるというだけで、これだけ変な生物が人間であるはずが無い。
「てい!」
試しに力を腕に集めて殴ってみると、ドゴンと音がして、石造りの壁が陥没した。
・力を集めると凄い力が出せる! ←new!
「超能力者、みたいな? うーん……」
あるいはそういう線も無くは無いが、少なくとも俺はこんな人間であった覚えなど全くない。
そもそも、俺は死んだはずでは無かったのか?
「っていうか、ここはどこなんだ? カタコンベじゃなかったし。っていうかこんな生き物見たことないし」
世の中は知らないことだらけだというし、発見されていない生物もいるという。
しかしこれだけ大型の生物が東京の地下にいるわけも無く、というか東京にカタコンベがあるなんて聞いたこともないし、そもそも昨今死んだ人間がカタコンベに入れられるなんてのも聞いたことがない。
まして俺はそういった宗教には無関係の人間であったのだ。
俺が死んだとして、こんなところに死体が入れられるわけがないのである。
「…………いやまぁ、ホントは分かってるんだけどさ」
あの時、魂の処理場の様な場所から逃げ出した時に見た惑星。
俺が落とされただろうあの星は、見るからに地球とは異なる大陸の形をしていた。
真っ二つに割けたような大陸も、それを囲むように存在する群島も、地球には存在していない。
つまり俺が今いるこの地球型(と思われる)惑星は、地球では無いのだ。
「ここが地球じゃ無いとして、人間っているのか? 文明はありそうだけど……」
何故ならこの壁は石造りであるからだ。
かなり歪な造りではあるが、文明が無ければこんな通路は作られまい。たぶん。
「うーん、まぁ、とにかく外に出てみるか」
いつまでもここで考えていたところで、答えは一生出ないだろう。
文明があるのならそこへ行って、この世界のことを知らなければならない。
それにどうせ生活しなければならないのだから、それなら文明のあるところの方が良いはずだ。
俺はそう決断すると、適当な方向へ向かって歩き始めた。
4話にしてようやくちゃんと転生完了。
俺たちの冒険はここからだ!




