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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第二章 森の賊
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036-兇刃

「『ヤバい!』」


 俺は空気で粘つく体を無理やりに動かして、男へ向かって飛び出していた。

 『力』は全力ではなく、また検証もしていないために、どの程度加速しているのかはいまいち分からない。

 それでも今は相手の方が早いことだけは事実だった。


 だがだとしても、この男は止めなければならない。

 俺は先ほどと同じようにタックルをしようと両腕を広げて、男が口を開くのを知覚していた。


「雑魚が」


 そして男がそう口にした途端に、剣と男の体が僅かに光を帯びる。

 魔力の光だ。

 俺がそう考えた次の瞬間には、男の剣が跳ね上がり、俺の体には左切り上げに刃が走っていた。


「『がっ!?』」


 右腕が飛び、胸部の半分くらいに切れ込みが入っている。

 やれれた、と思った時には男は更に俺に蹴りを叩き込み、俺はあっさりと進路から弾き飛ばされてしまった。


「デルミ───『硬盾(エルカー)』!」


 しかしそれでも、男の動きは一瞬止まり、アルルゥは不可視の盾を張ることに成功した。

 痛みでどうにかなりそうになりながら、俺は地面を転がって行こうとするのを、なんとか地面に指を突き立てて止めようとする。


「ハッ!」


 だがその間に、男はアルルゥの盾を一笑に付し、強く剣を輝かせた。

 そしてアルルゥが両手を前に突き出して張っている盾に対して、垂直に突きを繰り出すと、甲高い音を立ててその剣が中空で停止する。


「このぉ、『(オミゴン)』!」


 バチン! と盾の内側から電撃が男に命中する。

 だが、男はそれを意に介した様子もなく、ニヤリと笑って見せた。

 あれはダメだ、転がっている場合じゃない。


 あそこへ行かないと、あの男を今すぐ止めないと。

 あの男は何かをやる、だから笑っているのだ───!


「……効かないねぇ、それに───」

「『やめ───!』」

「え───」


 一瞬だけ、剣が輝くような光を見せ、アルルゥの盾がパキィンと音を立てた。

 男の剣が、盾を貫通したのだ。

 その様子が、俺の瞳にはハッキリと、スローモーションのように見えた。


「あ゛っ」


 剣が、真っ直ぐに進んで、アルルゥの胸部に、突き立つ。

 あまりの勢いに、刃は根本まで彼女の胸に埋まり、その背中からは、刀身が長く飛び出てしまった。


「───強化がおざなりってのも良くない」

「『あ、ああ……』」

「ぁっ……ぉ……」


 俺の見ている前で、アルルゥは男の手と剣に手を伸ばし、それを抜こうと弱々しくもがき始める。

 だが男はそんな彼女を剣に突き刺したまま、グイと片手で剣を持ち上げた。

 するとアルルゥの足が地面から離れ、彼女は目を見開いたまま、声にならない声をあげる。


「かっ……かっ……」

「ったく、勿体無ねぇなぁ、可愛いのによぉ。魔力が強過ぎるんじゃ、捕まえてもおけねぇ」


 そう口にしながらも、男はニヤニヤと笑って、まるで玩具のように彼女の小さな体を上下させた。

 その度にアルルゥの足がぶらぶらと揺れて、まるで本当に人形で遊んでいるかのようだ。


「ま、こんな臭ぇガキはいらねぇけどな。あばよ」


 そして最後にそう言うと、剣を持った右手を勢いよく振って、アルルゥの体から剣を抜くついでとでも言うように、彼女の体を地面に叩きつけた。


「『あ、アルルゥ……』」


 地面を少しだけ転がって、彼女はそれきり動かなくなった。

 彼女は死んでしまったのか?

 それはそうだ。あんな風に剣で貫かれて、生きている人間などいるはずがない。


 だからだろう。甲高い音がどこかから聞こえてきた。


「お、死んだか。お前ら、そっちの木もこじ開けて助けてやれ。あいつらが戻ってくる前にな」


 それはあの鎖の砕ける音だ。見れば、拘束されていた男たちが、モゾモゾと起き上がっているのが目に入ってくる。

 俺やあの男たちを縛っていた鎖は、彼女の魔力によって強度を保っているのだと言っていた。

 つまり彼女はもう、それが行えない状態であると言うことになる。


 だが、だがそれは、彼女がもう死んでしまっていると言う証左になると言うのか?


「アルルゥ……アルルゥ……?」

「あン? なんだこいつ、まだくたばってなかったのか。……いや、血が……?」


 俺はなんとかして片腕で立ち上がると、フラフラと倒れたアルルゥの元へと歩いて行った。

 彼女はピクリとも動かないが、死んだかどうかなど確認もしていない。

 俺は彼女の側に崩れるように座り込んで、震える手でアルルゥを仰向けに起こしてみた。


「『あ、そんな、そんな』」


 彼女は薄く目を開けたまま、口から血を垂れ流していて、もう呼吸もしていなかった。

 ゆすってみても、力無く揺れるばかり。

 気を失っている訳ではないというのが、嫌でも理解できた。


 彼女は、死んでいるのだ。


「こいつ、魔物なのか? だが人の言うことを聞くとは……切らなきゃよかったか。お宝だったかも知れねぇのに」


 男が何かをごちゃごちゃと言っているが、もう俺には何も聞こえていなかった。

 何故こんなことになったのか、そればかりを考えていたから。


「『何で……』」


 あいつらが来たからこうなったんだろうか。

 それとも、俺があいつを止められなかったからこうなったのだろうか。

 どうして俺はあいつに負けたんだろう。……それは、『力』を全力で使わなかたからだ。


 きっと全力なら、あいつの動きはもっと遅く見えたし、俺の体はもっと硬く、力ももっともっと強かったはず。

 でも、だったら何故、全力を出さなかったんだ?

 だって、相手は人間だから。


 あんなに大きな力を人間相手に使ったら、きっと簡単に傷つけてしまう。殺してしまう。

 そんなことは、俺には出来ない。

 でも出来なかったから、アルルゥは死んだ。


「『アルルゥ……』」

「お前ら、装備の確認をしとけよ。もうじき女どもも戻って……いや、もう来たな」


 あの男は、俺が何とかするべきだったんじゃないのか。

 でもそれは、殺してしまうかも知れないということだ。

 それは……でも……だって……。


 俺の頭の中で疑問と言い訳がぐるぐると回り、何も考えられなくなる。そんな時だった。


「ディンガードオオオオオォォォォォ!!!」


 バルダメリアさんの大きな怒声が、アジトに響き渡ったのは。

後悔先に立たず。

優しさと勇気があっても、守れないものはある。

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― 新着の感想 ―
[一言] 見てられない……鬱展開マッハ過ぎる
[一言] うそーん。ヒロインが、ヒロインがあっさり退場してもうた。この世界のヒロイン枠はオヤジしか生き残らないのか(絶望)
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