035-バルダメリアの魔女
アルルゥに切り掛かっている男へと、横合いからアメフトのようなタックルをかまし、その腰を抱えて一気に押し倒す。
これで1人は引き剥がしたが、男たちは他にいくらでもいる。
俺は男の服を掴んで引っ張り、そのままこちらへ向かって来る他の男へと投げ飛ばした。
「『おりゃあ!』」
「うおっ」「ぐえっ」「うわぁ!」
飛んで行った相手はその後ろにいた2人を巻き込んで、その場に盛大に倒れ込む。
「デルミスさん!? 『捕縛せよ』、『解除』!」
「『おっ?』」
そして背後でアルルゥが魔法名を唱えると、光の紐が飛んでいって一瞬で倒れた3人を纏めて取り囲み、収縮して縛り上げた。
と同時に、俺を縛っていた鎖が甲高い音を立てて砕け散り、宙に溶けるように消えていくではないか。
これならもっと自由に、強い力で動ける。そう思ったのだが───。
「『雷』!」
「ぎゃっ」
「『突風』!」
「「「おわぁああ!?」」」
「『しなやかな根』!」
「ひぃ!?」「うわああああ!」
俺の背後より矢継ぎ早に放たれた、細い電気っぽい何かが先行する男を転倒させ、強風が別方向の男たちを吹き飛ばし、また別の方向には地中から太い植物の根のようなものが現れて、あっという間に向かって来る連中を薙ぎ倒してしまった。
『汝ら捕縛せしめん』!」
そして最後に太く長い光輝く鎖が倒れた男たちを全て吊り上げ、空中で一纏めにして縛り上げ、バシィーンという音と共に大きな錠前が完成する。
これによって真っ先に駆け寄ってきていた8人程度が捕縛されてしまい、後から続く男たちは、その光景に怯んで足を止めていた。
「くそっ、魔女が!」
「大丈夫ですか、デルミスさん!」
「『えっ、あっ、はい』」
彼女は俺が思うよりも、驚くほど強いらしい。
しかしだからと言って、全く安心できるわけではない。
何故なら男たちはまだまだ残っているどころか、何人いるのかもわからない状態だからだ。
先ほどの魔法でいくつかのテントが薙ぎ倒され、ここからでもアジトの中がある程度見えるようになっている。
そしてそこにはアジトにいたはずの女性たちは全く見えず、代わりにゾロゾロと男たちがこちらへ向かってきているのが見てとれた。
今現在襲撃されている最中だとは、とても思えない光景だ。
「『何だ、これ……』」
「どうなってるの……あなたたち、みんなをどうしたの!」
「知るかよ! お前ら、一斉に行くぞ!」
「「「おう!」」」
恐ろしい連中だった。
こちらへ向かって来る男たちは全員がその手に剣を持ち、こちらを睨みつけてきている。
明らかに害そうという気が漏れ出ているようで、俺にはその光景が、あまりにも非現実的に見えていた。
強盗か、テロリストか。そんな危険な連中が大挙している光景を、俺は今までの人生で見たことなどありはしない。
俺にとってそれはニュースの中やゲームの話、つまりフィクションに近い話でしかなかった。
だというのに今、俺はそういった類の連中に取り囲まれ、しかもそいつらは俺たちを殺そうと向かってきている。
馬鹿げている。今の俺には財産も何もありはしないのに。
だが、いや、そうだ。俺には守るものだけは幾つかあるのではなかったか?
そしてその内の一つは今、俺の背後にいる。
しかし、これほどの大群相手に俺は一体何をすればいいのか。
「答えなさい! 『広範囲の突風』!」
男たちが駆け出したのを見て、アルルゥは再度魔法を放った。
彼女は最早アジトには誰もいないと悟ったのか、一帯のテントや物資ごとを吹き飛ばす強風で、向かって来る男たちを全員まとめて吹き飛ばしていく。
「クソが! バラけろお前ら!」
「『しなやかな根』」
「ぐぁっ」「こんな、ひぃ!?」
ならばと散開して近づこうとしても、地中から伸びる太い根が男たちにそれを許さず、一方向へとまとめられてしまう。
「『突風』、『雷』、『堅牢な樹木の檻』!」
そして突風で男たちをまとめ、そこに雷を落として動きを封じ、最後に根よりも更に太く硬そうな樹木が男たちを取り囲んで牢屋を作ってしまった。
圧倒的だ。アルルゥがまるで指揮でもするかのように腕を振ると、そこに魔法が生まれて敵を封じてしまう。
「教えなさい。みんなをどこへやったの」
「チッ……これがバルダメリアの魔女か。バケモンが……!」
威勢が良かったはずの男たちの戦意は今や崩れ、完全に尻込みしているのが分かる。
もしかすると、俺が彼女を護る必要なんてないのかもしれない。
しかし俺にとって、これは理屈ではないのだ。
それに必要なかろうと、ここが危険であることに変わりはないのだから。
「『あれは……?』」
俺が周囲を油断なく観察していると、男たちの更に奥に、男が1人だけ腕を組んで鷹揚に構えているのを見つけた。
あれが、この男たちのボスだろうか?
男は俺と目があったのに気がつくと、それを切っ掛けにしたのか、周囲の男たちを押し除けてこちらへと歩き始める。
「ようし、大体分かった。お前ら、ちょっと退いてろ」
その男は他の男よりも一回り大柄で、ヤグやダイエンのように殊更に筋肉質であり、そしてその手に持った剣は輝きも装飾も、明らかに立派なものだ。
また、アルルゥの力を見てなお1人だけ自信に満ち溢れているその様は、俺にそいつの強さを確信させるには十分過ぎる程だった。
「誰ですか」
「おーおー、寂しいこと言うねぇ───」
こいつはヤバい。俺が備えようと頭に『力』を集中した瞬間には、男はいつの間にか走り始めていた。
思考が加速していてなお、速く走っているように見えるほどの速度。
恐ろしい速度で以って突撃する、それは正面からの奇襲であった。
魔法名考えるの結構大変ですね。
法則とか全部メモっとかないと忘れそう。
しかしアルルゥ強いな……。




