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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第二章 森の賊
34/120

033-空蝉

<Side バルダメリア>


 どうしようもなかった。そのはずだ。

 けどアルルゥと話して、アタシはわからなくなってしまった。

 アタシは何のために人を売るなんて決断をして、アルルゥを苦しめているのだろうか?


 後から来た連中に脅かされて、戦いから逃げて、守りに入って。

 確かに戦うよりは犠牲は少ない。けどそれでアタシらは貧しくなって、水も満足に使えなくなって、今じゃ水を汲みに行くのも命懸けだ。

 きっとアルルゥだけじゃない。団員みんなが不安で、不満に思っている。


 このままでいいなんて誰も思ってないはず。

 それなのに、アタシは本当に彼女らを、家族を守れていると言えるのだろうか?


「そんなわけない……」


 誰に聞かなくたって、アタシが一番分かっている。

 今の状況はジワジワと追い詰められているだけだって。

 みんなに苦しい思いをさせて、先のない崖っぷちに向かっているだけだって。


「戦わなきゃ……戦うんだ」


 だからアタシは決めた。

 逃げてダメなら、前へ行く。

 それしかみんなを救えないというのなら、アタシはもう覚悟を決める。


「あれ、頭?」

「エヌカ。カーラも、いるか?」

「いるっす」


 ディンガードのクズどもを排除して、この辺り一体をもう一度掌握するのだ。

 そうすればもう脅かされることもないし、もとの少しだけ平穏な生活に戻ることができる。

 アジトを移せれば、デルミスと名付けた男を放逐することだってできるだろう。


 これが唯一の、そして最善の方法であるというのなら、アタシはやらなければならないのだ。


「戦闘向きのやつだけ集めろ。ディンガードの連中をぶっ殺しに行く」

「え、それじゃあ……」

「やるんすね、頭ぁ!」


 生真面目なエヌカは少し不安そうにしているが、お気楽なカーラは大喜びだ。

 だがどちらかと言えば、団員たちはカーラ側の人間が多いだろう。

 みんな鬱憤が溜まっているし、連中には恨みもある。


 それにエヌカだって不安そうな顔はすぐに引っ込んで、すぐにキリッとした顔になった。

 みんなやる気は十分だ。


「今すぐ行くんですか?」

「いや、今夜だ」


 けど普通に戦うのは、やっぱり駄目だ。それは犠牲が大きすぎる。

 こちらの被害はは最小限にして、ディンガード一味を潰す必要があるだろう。

 とは言ってもアタシの頭じゃ連中をまとめて罠にかけるなんて出来ないし、強い兵器なんて作る知識も時間もお金もない。


「夜襲をかける」


 だからアタシが思いつくことといえば、奇襲を仕掛けて1発で相手の頭を刈り取ることくらいしかなかったのだ。



 ◇◇◇◇◇◇



 そして時は進み、夜。

 日が沈むのを待って、アタシたちは戦える団員だけを全員集めて、アジトを出発した。

 残っているのは怪我をしている団員や戦闘に向かない団員ばかりで、10人も残っちゃいない。


「頭、アルルゥは連れてこなくてよかったんすか?」

「今回は殺しだ。アルルゥには無理だろ」


 戦闘に向かない団員の中にはアルルゥも含まれている。

 彼女はアタシよりも圧倒的に魔法の才覚に恵まれているが、相手を傷つけることが出来ない。

 それは性格的なものもあるが、彼女の過去がそうさせるのだ。


「あー、まぁ、そっすね。弟が亡くなったのを思い出すとか……」

「だからだ。いてくれたら心強いけどな」


 アルルゥはアタシの妹分で、アタシの右腕で、アタシの拠り所。

 彼女は盗賊団の中でも特別で、アタシは彼女の優しさと献身にいつも救われている。

 だから彼女は仲間の中でも特別で、いっとう守りたいといつも思っている。


「けど頭、あんまりアルルゥに甘いと、みんなが嫉妬するっすよ」

「分かってる。けどこれが終われば、全部元通りだ」


 もちろん、団のみんながそれを面白く思っていないのも分かっているけど、それでもアタシはアルルゥが大好きだ。

 団のみんなも普段はそれをちゃんと分かっているし、今は辛いから少しギクシャクしているだけ。

 だからディンガード一味をこの夜襲で潰せば、みんなの関係はきっと元に戻る。


 アタシはこの戦いで、全部を取り戻すんだ。


「……そっすね」

「そろそろ静かにしろ。もう少しで連中の拠点だ」

「か、頭!」

「るせぇ! 静かにしろっつっただろ!」


 だっていうのに、どうしてこうウチの盗賊団はこうも堪えようがないんだ。

 敵にバレれば酷い殺し合いになる。そんなことはみんな分かっているはずなのに。

 賊なんてやってるのが悪いのか?


 そう思ったが、しかし声を上げたのは一緒にいた仲間じゃなかった。

 叫んでいたのは、こちらに走って来ている、少し前に偵察に出していた団員だ。


「はぁ、はぁ……か、頭」

「あん? 何だ、何かあったのか」

「いないんです。誰も」

「はぁ?」


 いない? 誰が、どこに?

 一瞬、アタシには意味が理解しかねた。

 けど彼女が偵察していたのはディンガード一味のアジトだ。


 ということは、誰もいないというのはあのクズどもの話のはず。


「連中のアジトは誰もいなかったんです! 火が消えてて、おかしいと思って近づいても、人っこ1人見当たらない!」

「そりゃどういう……」


 意味がわからない。じゃあ連中は一体どこに行ったというのか。

 アジトを移した?

 いやウチらの倍以上も数がいる連中が、そんなに簡単にアジトを放棄なんて出来る訳がない。


「あ」

「エヌカ?」

「まさか、そんなはず……」


 エヌカが何かに気付いたかのような声を漏らした。

 暗くて表情は確認できないが、その声色は妙に硬い。

 彼女は几帳面で心配性だが、こういう時は細かいことに気がついてくれる。


「どうした、何か分かったのか」

「頭、すぐに戻って! 戻りましょう!」

「何を……」

「アジトが! あいつら、ウチらのアジトに来てるのかもしれない!」


 そしてそんな彼女が何かに真っ先に気づく時というのは、大抵が悪いことが起きている時なのだ。

ああ、ああ。時は来たれり。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分が考え付く有効な手段は相手も考えているわけで。案外相手側も戦力という台所事情は似たようなものなんでしょうね。 [一言] 戻ってきたら物言わぬアルルゥの首が槍先に(漫画デビ〇マン)……
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