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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第二章 森の賊
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032-彼女らの選択

「デルミス……」


 バルダメリアさんが付けてくれた名前は、俺にとって悪くない物だと思えた。

 短く、簡潔で、ちょっと格好いい。

 日本人的な名前ではないが、ここは惑星すら異なる別の文化圏なのだから、(こだわ)る必要などもないだろう。


「そうだ、お前の名前はデルミスだ」

「良かったですね、デルミスさん。おめでとうございます!」

「アリガトウ」


 パチパチパチとアルルゥが小さく拍手をしてくれる。

 俺がそれに対して礼を返すと、アルルゥは何故だか少し暗い表情になった。


「あの、お頭」

「ん?」

「デルミスさんを逃がしてあげられませんか?」


 彼女はずっと、俺の扱いに関して考えていてくれたのかも知れない。

 それとも言葉を教える中で、俺同様に情が湧いてしまったのか。

 何にせよ、彼女のその言葉は俺にとって有り難く、しかし彼女にとってはあまり口にして良いものではなかっただろう。


「それは、駄目だ」

「でも、デルミスさんは悪い人じゃありません」


 アルルゥは俺を気遣ってくれるが、バルダメリアさんには忠実だ。

 それが証拠に、俺は今もこうして芋虫になっている。

 彼女は板挟みであるのだ。


「アルルゥが言うからにはそうなんだろう。だから出来れば聞いてやりたい」

「それなら……」

「だがこいつはアジトの場所を知っているし、騎士団に駆け込まないとも限らない。今更逃がせないんだよ、アルルゥ。ごめんな……」


 そしてそれは、バルダメリアさんも同じことだ。

 本来そこそこの悪事で収まっていたはずの彼女らが人身売買などを始めるのは、それだけ彼女らが追い詰められているからに他ならない。

 追い詰められて、引き返せない道を歩かされている。


 だからだろう、バルダメリアさんの顔は、とても辛そうなものであった。


「お前も、運が悪かったと思って諦めてくれ」

「……」

「そうだな、はいとは言えないよな」

「お頭……ごめんなさい」


 アルルゥも悩んでいるが、バルダメリアさんも悩んでいた。

 分かっていたことだ。この盗賊団の方針が変わったのは、抗争が始まってからのことなのだから。

 だからアルルゥは謝罪をして、俺は彼女に何も言うことができない。


「ごめんな、アルルゥ、ごめんな……」


 そしてバルダメリアさんはアルルゥに謝罪することしかできずに、この場から逃げ出す様にどこかへ歩いて行ってしまった。



 ◇◇◇◇◇◇



 バルダメリアさんがいなくなってから、アルルゥは昨日と同じように、俺に言葉を教えてくれた。

 彼女は気丈に振る舞っているが、やはり何かを迷うような仕草が時折出てしまうのは、致し方ないことなのだろう。

 また、昨日と違ったのはそこだけではなく、今日は彼女をいじめにくる人間が誰もいないということだった。


「そう言えば、今日はずっとデルミスさんに言葉を教えてろって言われたんですよ」

「エ?」

「お頭がそういう指示を出してくれたみたいで、ちょっと助かっちゃいましたね」


 それは俺にとっても、彼女にとってもありがたい話だ。

 バルダメリアさんの意図がどこにあるのかは分からないが、アルルゥや俺への気遣いであるのなら、少しばかり感謝してもいいのかもしれない。


「あ、そうだ。(午後の勉強をする前に、ちょっと確認したいんですけど)」

「ン?」


 と、彼女は周囲を確認すると、声を顰めて牢に顔を寄せてきた。

 都合がいいことに、現在周囲には、ほとんど人の姿が見えない。

 内緒話をしても、誰にも気取られることはないだろう。


「(デルミスさんって、『捕縛せしめろ(アンカウールム)』を引っ張ったまま動けますよね?)」

「(ハイ)」


 俺が食事のたびに『力』を使って鎖を引っ張るのを、彼女はもう7度は目にしている。

 初日に2回、2日目に3回、そして今日で朝と昼の2回。計7回だ。

 それを見ていれば、俺が苦もなく動くことが可能なのは理解できているだろう。


 現在俺が逃げ出していないのは、あくまでもこの鎖があるからに過ぎない。

 逃げたところでこの鎖があっては、エネルギー消費が激しくて餓死してしまう危険性があるからだ。

 いくら頑丈であるとはいえ、木製の牢を破るだけなら最初から可能なのである。


「(じゃあ、そのまま山一つを越えることってできますか?)」


 アルルゥが聞いてきたのはつまり、俺がどこまで自力で逃げられるかということだろう。

 鎖を纏ったまま動くのであれば、常に全身にエネルギーを使用しなければならないが、それが全力(・・)である必要は全くない。

 それに初日ならまだしも、俺はここにきてから既に7個分の魂のエネルギーを吸収しているわけで、ストック的には10個分程度は『力』が行使できる状態にある。


 それだけあれば、砦虫のようにジャンプを繰り返して地形を無視し、山一つなど簡単に越えられるだろう。

 流石に二つ三つとなると厳しくなるだろうが、一つだけなら問題ない。


「(ハイ)」

「(良かった。じゃあ、デルミスさんはいつでも逃げられます)」

「(エ?)」


 逃げられる? 何故?

 牢を破り、距離を取れるということならその通りだ。

 しかしそれは逃げられることとイコールではない。


「(魔法の鎖は魔力の供給が途切れれば脆くなりますから、遠くまで離れればデルミスさんなら砕けます。だから夜になって、みんなが寝静まったら逃げてください)」


 だがアルルゥによれば、その二つはイコールであるという。

 それが本当なら、確かに俺はいつでも逃げられる。

 しかしアルルゥは俺にそのようなことを教えてもいいのだろうか?


 いや、よくはないが、仕方ないのだ。

 バルダメリアさんには逆らわない彼女なりの、この状況に対する精一杯の反抗なのだ。

 だがそれは、俺が騎士団とやらに駆け込まないことが最低条件のはず。


 やはり彼女は甘い。


「アリガトウ」

「はい! じゃあ、今日の勉強を始めますね!」


 甘いが、俺はその甘さによって助けられる人間で、だからこそ恩には報いなければならない。

 彼女の笑顔を見ながら、俺はそんなことを考えていた。

ちなみに鎖に捕まった時に主人公が逃げ出したとしても、多分捕まってました。

エネルギー残量とかもあるけど、彼女らも追いながら魔法使うだろうからね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 不穏な気配。抗争の迫る中、内緒で逃がす準備をしている空気に思える [一言] ロリ。ロリを助けるのだ主人公よ。それこそが君がロリに捕まった理由に違いない。
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