029-やさしい?賊の少女
まぁこの少女がいじめられているからといって、俺にはどうしようもない話だ。
可哀想ではある。しかしだからと言って、俺は庇うための言葉すら満足に知らないし、そもそも俺には彼女を庇う理由がない。
何せ俺を鎖で芋虫にしていて、牢に閉じ込めている一味には、アルルゥも所属しているのだから。
しかし陽が傾いた頃、次の食事の時間に彼女は意外な贈り物を持ってきてくれた。
「あの、食事です。あと、荷物も……」
彼女は最初から岩虫を捕獲してきてくれただけでなく、なんと俺の荷物を袋ごと持ってきてくれたのだ。
「アリガトウ」
「……ごめんなさい、窮屈ですよね」
そして彼女は俺に岩虫を渡すと、謝罪を口にした。
確かに、今現在俺は彼女に謝られる様なことをされているが、何故彼女がそれを言うのかが分からない。
彼女ら盗賊団にとって、俺は売るための獲物のはずだ。
それとも良心の呵責に苛まれているとでも言うのだろうか?
「ウチって本当は、人を捕まえたり売ったりはしないんです」
そんな俺の疑問の答えを、このアルルゥという少女はポツリポツリと語り始めた。
「殺しあいとかもあんまりなくて、ちょっと脅したり、他は狩とかで暮らしてて、その牢屋も人間用じゃないですし」
つまり正しく彼女らは盗賊であったということだろう。
何故そんな暮らしをしていたのかは分からないが、元々はそれほど大それた悪事を働いていたわけではないらしい。
ちょっとしたチンピラ集団というか、アウトローな人たちというか、そういう集団だったのだ。
「でも最近は他のところから危ない人たちが流れてきてて、争ってばかりだし、稼げてなくて。それでみんなピリピリしてて、仕方なくて……」
だがそれも、抗争が始まるまでのことだったということだろう。
水場が奪われ、仲間が何人もやられる、つまり殺されるほどの争いをしているのだ。
それによって暮らしは荒れ果てて、人心も荒んだというところか。
「私だって、ほんとはこんなこと……みんなももっと優しかったのに……」
もっとも、彼女がいじめの対象になったのは『頭』のお気に入りであることや、彼女自身の性格によるところがあるのかも知れないが。
俺にとっては彼女の優しさ、甘さや流されやすさと言ったものは有り難いが、危急にあってはそれも美点とばかりは言えまい。
決して悪い性格という訳ではないのだが。
「……ごめんなさい、こんなこと言われても困りますよね」
「……」
正直なところ、はい、と言ってしまいたい。
謝ったところでそれは彼女の気晴らしにしかならないし、俺はそれを受け入れ難い状況にある。
であれば、彼女が俺にやるべきことは謝罪よりもまず、この鎖を解いて俺を逃すことだ。
まぁそれを言ったところで彼女の心象を悪くするばかりであるし、良いことは何一つないと思われるので、俺は黙ったままアルルゥの言葉を聞いていたのだが。
そうして一通り愚痴を言い終わったのか、少女は数度かぶりを振ると、表情を無理矢理笑顔に切り替えて見せた。
「あ、そうそう、この木板なんですけど、思いついたことがあるんですよ」
「ン?」
それはとても分かりやすい予感であった。
彼女は今現在、強い罪悪感を覚えている。
そして彼女の手には俺にとって必要な道具と、彼女が使うことでより勉学が捗りそうな道具がある。
であれば彼女が言い出しそうなことは、大体予想がつくと言うものだ。
「これを使って、私があなたに言葉を教えてあげます」
確かにそれは俺にとって必要なことではあるし、協力してくれるのも嬉しくはある。
あるのだが、本当にそれほど俺を気にかけてくれるなら、今すぐこの鎖を解いて欲しいものだ。
まぁそれはそれとして、教導はありがたく受け取るのであるが。
◇◇◇◇◇◇
<Side バルダメリア>
「はぁ? アルルゥが捕まえた紫男に文字を教えてるって?」
「文字っていうか、言葉? なんかあの紫男、碌に喋れないらしいです」
「喋れないだぁ?」
あの紫男を捕まえてから2日ほどが経って、団員の1人からそんな話が舞い込んだ。
アルルゥは捕まえた動物の世話係をしていたから、あの男の世話もアルルゥが行っていたのだろう。
その中でアルルゥは紫男が喋れないということに気づいて、彼の持っていた道具を使って言葉を教えているのだそうだ。
改めて整理してみても、意味が分からん。
意味が分からんが、アルルゥがやりたいのなら止める理由もない。
「どうします、止めさせますか?」
「いや、そのままやらせてやれ」
それに、あの男がまともに喋れないのが事実なら、売っぱらったところでまともな値はつかないかもしれない。
実際の売値はともかくとして、確実に買い叩かれる。
いや、そもそも引き取ってくれるかも怪しい。
そもそもアタシらが取引している連中は、普段は盗品や動物なんかを売っている連中だ。
人間なんて滅多に扱わないし、しかもそれが犯罪者でもない一般人となれば、扱いたくない連中も多いだろう。
探されて騎士どもにバレれば1発でアウト。しかもあの目立つ見た目じゃ言い訳もできない。
あれ、冷静に考えたら普通にも売れないんじゃ?
「しゃ、喋れないよりは、多少なりとも喋れた方が売値がつくだろ」
「そりゃそうですけど、そもそもあんなの買う人いるんですかね?」
「……誰かは買うだろ」
いやいや、流石にそう、誰かは買うはずだ。
珍しいことに変わりはないのだし、腐った貴族あたりに繋がってる連中とかが買ってくれるはず。
というかそうでないと困る。人も売るとか決めて捕まえておいて、「売れませんでしたー」なんて洒落にもならない。
クソッ、いくら金に困ってるからって、いつもと違うものに手なんて出すべきじゃなかったのか?
助けてアルルゥ。
「そんなことより頭、ディンガードの連中、そろそろどうにかしないとヤバいんじゃないですか?」
売る予定の男などどうでも良かったのか、彼女は早々に話題を変えた。
その内容はこの盗賊団にとって、まさしく存亡の危機と呼べる事柄に関するものだ。
平和主義とは争わないこと。沈黙は金。
でもそれはそれとして、不満は普通に感じるよねっていう。
なお、言葉を教えたりするところは大体カットします。
一章でやったからね!




