027-木牢の虜
「……んなこたぁ分かってんだよ」
「あんなクズ男どもなんて、ぶっ殺して取り返せばいいんすよ!」
「そうですよ!」
「ウチらが本気になればあいつらなんて!」
『頭』に殴られた女性の言葉に、他の女性もちらほらと賛同し始めた。
どうも彼女らは元々水場を確保していたが、勢力争いに敗れて奪われたらしい。
拠点がこのように不衛生な状態になったのはつい最近のことであるから、『頭』さんは恥ずかしがっているのだ。
「駄目だ」
「何でっすか! 仲間だって何人もやられてるのに!」
「何でもだ」
「「頭!」」
しかし仲間がやられているというのに、報復しないのは不思議だ。
こういった組織はやられたらやり返すの精神で、血で血を洗う抗争に発展しやすい物だと思っていたが。
それほどまでに相手のグループと力の差があるのだろうか?
「とにかく駄目だ! そいつは牢に入れておけよ!」
部下達の言葉を遮って、最後に『頭』はそう言い捨てて、どこかへ歩いて行ってしまった。
「頭ぁ……」
「……」
部下の女性達はそうされるともう反論も出来ず、悄気返ってため息をつくしかない。
何と言うか、賊というのも大変なのだなぁという感想が浮かんでくる。
しかしそれよりも、その消沈のついでに俺を捕まえておく気も無くしてくれないかな、などと少しだけ希望が膨らんできた。
「どうする?」
「とりあえず、こいつは牢屋に放り込んどこうか」
「タスケテ……」
「黙んな」
「ハイ」
まぁ、当然ながらそんな希望は叶えられない訳だが。
◇◇◇◇◇◇
それから俺は賊の女性達に担がれて、太い木枠で作られた、頑丈そうで小さな牢屋にぶち込まれた。
畳二畳ほどのサイズの小さすぎる牢だ。とても人を入れておくための物とは思えない。
それに頑丈と言っても、俺なら苦もなく破ることが可能なレベルの造りだった。
もっとも、普段の俺なら、と言う但し書きは付くが。
アルルゥという少女にかけられた捕縛の魔法が未だに力強く健在であるのだ。
光の鎖は相変わらず俺をきつく締め上げていて、一向に解ける気配もない。
何ともはや、強力な魔法である。
もぞもぞと動いたところで相変わらずズレることすらないし、今の俺は外の音を聞くだけの芋虫と化していた。
とはいえ聞くだけでも情報収集にはなる訳で。
それで一つ分かったのだが、どうやらこのグループは『バルダメリア盗賊団』と言うらしい。
バルダメリアというのは『頭』の名前だと思われる。略してミリーというわけだ。
「『盗賊なのに人身売買するのか……』」
いやまぁ、多くの場合この手のグループの名前などは自称であるし、他のお仕事に手を出していても何ら不思議ではない。
そう考えると、俺の先行きは恐ろしく不安である。
少なくともこのままでいて無事、と言う事はないだろう。
ああ、無事と言えば、俺の荷物は無事だろうか?
あの木の板がないと、俺の勉強は一向に進まないのだが。
「タスケテ……」
ごろりと仰向けに寝転がって、俺は天に向かって呟いた。
すると、その俺の願いが通じたのだろうか?
1人の小さめのシルエットが近寄ってきたではないか。
彼女は、アルルゥと呼ばれていた女の子だ。
「あの、その……食事です」
もしや助けてくれるのか? なんて都合のいい話がある訳もなく、彼女はただ食事を運んできただけだった。
時間からして昼食だろうか。
そういえば山村でもそうだったが、この文化圏では1日3食が普通であるようだ。
裕福であるようには見えないが、もしかすると身体能力の高さ故の食事回数の多さ、とかそんな話なのかも知れない。
「イラナイ」
「えっ、でも、食べないと良くありませんよ?」
「イラナイ」
彼女が持ってきてくれたのは、肉メインの炒め物だった。
山菜も入っていて美味しそうに見えるし、匂いもとても良いので、前世なら喜んで食べただろう。
しかし残念ながら、今生の肉体では物質的な料理を食べることでは、俺の腹は全く満たされないのだ。
今だって匂いは良いと感じているはずなのに、空腹感は全く感じないのは、つまりそう言うことなのだろう。
それに食べてしまえば逆に腹が減る可能性すらあるわけで、どのみち身動きの取れない今の状況では、こういったものを接種するわけにはいかない。
「そ、そうですか……どうしよう……」
少女は本当に困ったといった様子で、俺の前に皿を置いた。
俺が食事をしないことは、どうやら彼女にとってマイナスらしい。
これは売る予定の生き物が弱ると困るとか、それかひょっとして食事に何かを混ぜているとかなのだろうか?
何にせよ彼女は賊の一味の割に随分と推しが弱い様で、強引に食べさせようとしないのは助かる話だ。
彼女の目的が俺に食事をさせるということだけであるのなら、いっそ彼女が岩虫でも持ってきてくれれば、彼女も困らず俺も腹が満たされてwin-winなんだがなぁ、と思うのだが。
……あ、そうだ。
「オオキイ、ムシ、ホシイ」
「え?」
欲しいものが明確であるのなら、彼女に伝えて持ってきて貰えば良いじゃない!
まぁ少女と言っても賊であるので、わがまま言うなとか言われそうだが。
まぁ言ってみるだけならタダだ。
「オオキイ、ムシ、ホシイ」
「大きい……何?」
「ムシ」
「んん? あ、虫って言ったんですか?」
「ソウ! 虫! 大キイ、虫!」
発音んんん!
いや、伝わったのだから良しとしよう。
彼女の言葉から拾って、ちょっとずつ修正していけば良いのだ。
目指せ岩虫。
「大きい虫が欲しいんですか? 何で?」
「ワタシ、ガ、食ベル」
「虫を? というか、何だかちょっと話し方が……」
ここまでの俺の言葉を聞いて、彼女はようやく会話に疑問を持ったらしい。
すぐに気づいてくれれば話は早いのだが、彼女はどうもそこまで聡くはない様だ。
「ワタシ、ガ、言葉、デキル、スクナイ」
「ええ、どういうこと?」
まぁしかし、だからと言って彼女が特別鈍い、という訳でもないのかも知れない。
何故なら、普通に暮らしていて言葉の不自由な人に出会う確率というのは、それほど高くないからだ。
つまり経験がなく、想像が及ばないのである。
そういう意味じゃあ、ドミ村長は偉大だったなぁ。
捕まる時にパゥワーを見せたせいで、芋虫状態にされている主人公くん。
っていうかこの捕縛魔法、人間相手だとちょっと強力すぎるな……。




