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ステゴロソウルイーターの冒険譚  作者: 鳥野啓次
第一章 ある男の転生
18/120

018-許さねぇ

 浮遊感を感じる。

 何故? 確か砦虫(バンダラガ)が突然大きくなって……ああそうか、俺は突進されて吹っ飛ばされたのだ。

 あのデカいのに轢かれたら、そりゃあ吹っ飛ぶだろう。


 どのくらい? おそらく数十メートルくらい。

 それでも、たったの数秒で俺は地面に叩きつけられるのだろう。

 けどその数秒が妙に長く感じる。


 ああ成程。俺は今、恐怖によって思考が加速しているのだ。


「ぐっ」


 一度大きくバウンドし、その後ゴロゴロと地面を転がる。

 時間の感覚が戻ってきた。

 体がバラバラになりそうな激痛を感じる。


 この感覚は、そうだ。この星に落とされた時と同じくらいに痛い。

 それと口の中がぬるりとしていて、何だか気持ち悪い感覚もある。


「こっ、おっ」


 息が吸えない。何故?

 ああ、腕が体に埋まっている。

 咄嗟に硬くしたみたいで、腕は無事だ。


 けど肩口からの角度もおかしいし、動かせもしない。

 ポタリと青い液体が落ちた。

 何だろうか? ああ、俺の血だ。


 体が紫なんだから、そりゃあ血の色だって違うか。

 他の人はきっと赤色だろうから、ここだけ見ても全然違う生き物だ。


「何!?」

「キャアアアアア!」

「バンダラガ!? 逃げて!」

ボオオオオォォォォ!(獲物だ!獲物だ!)


 悲鳴が聞こえる。

 そして何だか汽笛のような、牛の鳴き声のような、そんな音も聞こえる。

 俺にはその音の意味が理解できた。


 じゃああれは何かの声なのか。

 いや、決まっている、砦虫の声だ。


ボオオオオォォォォ!(雌と子供だ!)


 ヤツが興奮しているのが分かる。

 砦虫は、初めから村の女子供を見つけて食うのが目的だったのだ。

 だからヤグとダイエンが来た時、逃げて行こうとした俺の方に来たんだろう。


 弱い奴がいる方に、弱いくて美味しい獲物がいるから。

 まるで人間の習性を知っているかのような、悪辣なヤツだ。


「かっ」


 逃げろ、と叫びたくても、呼吸ができなくて言葉にもならない。

 けど俺が言わなくても、逃げようとする村人たちは逃げようとしていた。

 砦虫の言う通り、女子供ばかりが目に入る。


 こんな時に村の男たちは、一体どこにいるのか?

 このままではあの砦虫は、あっという間に彼女らを殺し尽くすだろう。


ボオオオオォォォォ!(獲物おおおおお!)

「ふぅん!!」


 砦虫が今にも突撃するかと思われたその時、ヤグの声と、甲高い鉄の音が響いた。

 彼が追いついてきたのだ。

 いかに砦虫の一歩が森の木々を飛び越えるとしても、木こり小屋から村までは至近距離であるから、


ボオオオオォォォォ!(邪魔をするな雄ども!)

「全員逃げろぉ!」

「いくぞダイエン!」


 次いでダイエンの声も聞こえてきて、二人が砦虫の前に回り込む。

 そして淡く光り始めたかと思うと、手に持った剣を二人同時に砦虫のデカい胴体に振るった。

 ガァン、と一際大きな響き、砦虫の胴体がぐいと仰け反る。


 あれは何だ、魔法で力を上げているのだろうか?

 ヤグは使える人間の方が少ないと言っていたが、ダイエンも使えるようだ。


「クソがぁ! 刃が通らねぇ!」

「強化しているだけだ、斬り続けろ!」


 だがその力をもってしても、砦虫の甲殻には傷一つ入らない。

 やはりダメだ。

 傷すらつけられないのなら、あの巨大な虫は退けることもできない。


 あれは災厄なのだ。

 逃げなければ死ぬ。逃げなければ潰される。逃げなければ食われる。

 俺もそうだ。動けなかろうが、今すぐこの場から逃げ出さなければならない。


 ああ、しかし、あれは誰だ。

 小さな影が、俺の元に走り寄ってくるのが見える。


「魔物野郎!」


 ───ジャールだ。

 彼は俺が倒れているのを見て、あの足の速さで駆け寄ってきたのだ。

 見れば彼の背後からはミラと、母親と思しき女性が走っている。


「お兄さん!」

「何やってるのジャール、逃げるのよ!」


 母親の女性は、あの俺をぶん殴った女性だった。

 ジャールは彼女の子供だったのか、道理で喧嘩っ早いわけだ。

 でも勇気があって、砦虫がいる中でも俺を心配してくれる。


 ミラも一緒だ。

 あの二人は中が良く、ヤンチャで、優しい子供たちだ。


「かっ、こっ」


 だからダメだ、こっちに来ては。

 一刻も早く逃げなくては、だってほら、ヤツが怒っている。


ボオオオオォォォォ!(獲物が逃げるぅぅ!)

「何っ!?」

「ぐっ!」


 砦虫の怒声が聞こえる。

 ヤグもダイエンも足で蹴り飛ばされて、もうヤツを邪魔する人間はいない。

 直ぐに突進してきて、みんなみんな殺されるだろう。


 ジャールとミラだって殺されてしまう。

 それは駄目だ。


「ぇぁ……」


 ジャールとミラは殺されて駄目だ。だって子供だぞ。やんちゃして、俺に言葉を教えてくれる恩人だ。

 ヤグも駄目だ。家において、仕事をくれて、飯をくれる。口下手で良いヤツで、恩人なんだ。


 村長も駄目だ。俺を人間と言ってくれたから。あの女性も駄目だ。殺さず捕まえてくれたから。

 あんな滅茶苦茶なヤツが出る世界で、見ず知らずで滅茶苦茶怪しい俺を村において、しかも食べ物までくれた。

 この村の人間は皆、俺の恩人なんだ。


 それをあの野郎は、虫畜生は獲物とのたまいやがったのだ。


「『ぅせねぇ……』」


 唐突に、怒りが湧いてきた。

 巫山戯てるのか?


 逃げたくっても逃げられない。

 止めたくっても止められない。

 そんで殺されたくなくたって殺されるし、しかも俺は抗議の声すら上げられない。


 こんな理不尽なことがあるのか? 巫山戯るんじゃあない!


「『許せねぇ……』」


 クソッタレめ。クソッタレの虫畜生め。

 黒いカナブンみたいな見た目をしやがって、何が砦だ馬鹿野郎。

 こちとら魔物様だぞ!


 俺には力があるんだ。込めれば形が変わるんだ。肺だって作れるんだ。

 俺にはお前をぶん殴る力がある筈なんだ!


「『許さねぇぞ、クソ野郎!』」


 胸を押し上げて、中身を作って、腕のカタチを治して。

 俺は砦虫(バンダラガ)に向かって、怒声を張り上げた。

主人公、キレた!


いえーい筆が乗るぜ!ってノリノリで書いた文章を後から見直すと、酷くて読めない内容になっている。

あると思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに戦闘回。彼に体格差を埋める力は本当にあるのか。外見的にはガ〇バーのゾ〇ノイドっぽいのを勝手にイメージしています(違ってたらごめんなさい) [気になる点] 体液が青ということは、主人公…
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