遠近法
「おっす、隆」
「おお」
「なんかすげぇ事になってるよな。俺のせい?w」
「そうだよ」
「…おお、そか。ところでさ、写真撮ったんだけど、見てくれるか?贈っとくな」
「おん」
「…でさ」
「うん」
「お前、マジで来る気ない?」
「どこにだよ」
「俺と一緒にだよ。一緒に人間滅ぼして、俺達だけの世界を創り上げようぜ!あ、もちろんお前の家族も一緒だぜ!後は、彼女作って…」
「行かねえっつの。言ったよな俺」
「そか、悪ぃ」
「…」
「まあ、しょうがねぇな。人間から吸血鬼に変わっちまったんだ。簡単に受け入れられやしねぇよな…」
「あのな、俺が受け入れてねぇとこはそこじゃねぇんだよ。…何で元人間が人間を襲って、殺して、平気な顔してられんだよ!それが受け入れられねぇっつってんだ!」
「…」
「吸血鬼になったならなったで良いよ。誰も襲ってないんだったら良いよ。でも、お前は襲った!何の躊躇もなく、今でも沢山の人を襲ってる!そんな血に汚れたお前が、その汚れた手で俺に電話掛けてくんなって言ってんだ!」
「…」
「その汚ぇ声も、汚ぇ面も見せにくんな。もうお前とは…絶交だ」
電話を切った後も、俺は震えていた。怒り、悔しさ、悲しみ…全ての入り混じった震えだった。
震えた手と感情を紛らわすかの如く、俺は持っているスマホを再び眺めだした。
二度と見るか、と思っていた明のLINEを不意に見ていた。明が撮ったと言っていた「写真」が妙に気になったのだ。
見てみると、まあなんて事ない写真だった。
明が近くから遠くの山を指差しているという、所謂『遠近法』を用いた一枚だった。
写真で遊ぶ余裕もあるのか…と落胆したが、同時に安心もした。てっきり、出来心で人を襲っている最中の写真とかだと思っていたからだ。
ホッと肩を撫で下ろし写真を閉じようとした時、慌ててダブルタップしてしまい、写真が拡大された。
写真が拡大されると同時に、山も拡大される。そう、遠くの山がくっきり写し出されたのだ。
その山を見た瞬間、俺は言葉を失った。