輸送船
数日経った後も、依然、吸血鬼の報道は続いていた。
次々と人から血を吸い取るその様子は、最早人間としての記憶を完全に忘れてしまったのか、と思える程だった。
─「速報です。本日午後1時、また『吸血鬼』が現れました。吸血鬼は、男女数名を襲った後、輸血パックに血を入れました。またその最中、男が吸血鬼を止めようと向かいましたが、その男も返り討ちに遭い、血を輸血パックに入れられました。吸血鬼は、逃亡中です。」
明─吸血鬼の暴走は止まらなかった。怒りや憤りが勝っているからか、身内を襲わないと言われたからか…不思議と恐怖の感情は消えていた。
しかし、また別の問題が頭をよぎった。
身内を襲わないのはわかったが、なら『身内の身内』は?俺の家族は…無事でいられるのか?
そんな事を考えていると、不意に、ピンポーン、と玄関から音が鳴った。
「はーい」
インターホンのモニターを覗くと、やや小柄な女の子が一人立っていた。妹だ。
「おお、叶か。今、開けるな」
「よっす、おにぃ」
「おお、よっす。元気だったか?」
「うん。…おにぃも、元気?」
「ああ。元気だ。吸血鬼、ヤバいよな」
「ヤバいね。…あがるよ」
「おお」
妹はズカズカと、一人暮らしの俺の部屋を闊歩していく。
「気になっちゃってさ。おにぃがやられてないか」
「俺もだ。お前も安全かとも思ったんだが…」
「安全?」
「い、いや、言葉の綾だ。安全だと良いな、と思ってた」
「そうだね。…うちも家に居りゃ良かったんだけど、どうしてもおにぃの顔見たくて。ちょっとおにぃのトコ行ってくる!って、走ってきちゃった」
「途中、吸血鬼には遭わなかったか?」
「会ってたらもうちょっと焦ってるよ」
「そうか」
「あ、そうだ。そういえばさ。さっきスマホのニュースで見たんだけど…こんなのがあって」
「…『防衛班、武器やミサイルを積んだ『輸送船』による吸血鬼陽動作戦を始動。準備完了次第、制圧か』」