仕返し
「取引…?」
「ああ。と言っても、単純に俺を匿ってくれるだけで良い。出来れば一緒に来て欲しいが…まあこんな姿に力だ。絶交されてもしょうがないと思ってる」
「…」
「……」
明から取引を持ち掛けられた後、少しの間沈黙が続いた。
「なあ、何でお前はそんな姿に…吸血鬼になったんだ?動画で見たけどさ、あれは人間離れし過ぎてる。特別な事が起きたとしか思えない」
「…それがさ、何も起きてねぇんだよ」
「何も起きてねぇ筈がねぇ!こんな頭おかしい力…それにニュースで見たぞ!人を襲った後、ソイツらの血を輸血パックに入れてたな!?あれは何に使うんだ!」
「それは吸血だよ。…てか、マジで何も起きてねぇんだって。朝起きたらこうなってたんだ。俺も最初はやべーと思ったけど。ハッと感じたんだ」
「何をだよ…!」
「ビビッと来たんだよ!吸血鬼になった事がわかった途端、俺の使命って奴が」
「使命だと…?」
「おう。あのな。俺は『復讐』するんだ」
「復讐…?」
「まあ、言っちまえば『仕返し』だな。これまで人間には良いように使われてきた。だから、今度は俺が良いように使う番なんだ」
「良いように使われてきた!?そりゃ他人だけだろ!お前のお母さんはお前を育ててくれた!お父さんは会社に出向いて一家の為稼いでくれた!お兄ちゃんもいたよな!?あの人だって…あれ?」
「…隆」
あの人だって…と言った時、俺の目が潤んだ。それからは、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。
「信じられねぇんだよ。俺の親友が殺人して、それでいて平気な顔して俺の前に居るって。力の差があってもぶっ殺してやりてぇもん」
「…悪い」
「…」
「だけど、身内は殺してねぇ。お前の言ったように恩があるし、流石にソイツらから血を奪うのは気が引ける。お前も含めてな」
いっそ殺してくれよ、と思ったが、言葉は出なかった。
明は更に続けた。
「何かさ、殺しちまっても罪悪感はねぇんだ。寧ろ清々しくてさ。俺がこの手で、この世界へ復讐できる。そう思うと、今もワクワクが止まらねぇ」
「そりゃ、やめる気はないよな」
「ま、そうだな。だから取引って言ったんだ。俺はまたここに来る。そん時にもし気が向いたら…俺と遊ぼうぜ」
明はそう言うと、フッと姿を消した。瞬間移動の様なものだろうか。
「…遊べるかよ」