剣術指南②
ところ変わって、学園のグラウンド。
周囲を山々に囲まれたそこは、広々とした開放感に溢れている。
そこにアレンのクラスメイトと、なぜか違うクラスのイザベールとその取り巻きも居た。
「あれ、イザベール? どうしてここに?」
そのアレンの声。
それに、横で腕組みをするフウカは応えた。
「イザベールが張本人だからよ」
それに付け足す、もうひとつの声。
「そう、今回の決闘の首謀者はあいつ。 フウカから全部聞かせてもらった。首謀者だけ蚊帳の外ってわけにはいかないからな」
「あ、アカネ先生」
「よっ、フウカ。それとーー」
アレンの側。
そこで足を止め、微笑むアカネ。
「どうした? 顔が赤いぞ」
「あ、俺。アカネ先生が相変わらずお綺麗だなと思って」
「あなたね。思ったことをすぐに口に出す癖、直したほうがいいわよ」
「嫉妬させてごめん。でも安心してくれ、フウカさんも綺麗だから」
「あのね。わたしはそういうことを言ってるわけじゃないの」
「し、しまった。あっちではしゃいでるココネもめちゃくちゃかわいいってこと。忘れてた」
「はぁ……もういいわよ」
ため息。
それをこぼし、フウカはアレンの真っ直ぐさに白旗をあげる。
「はははっ。楽しい会話をありがとう」
他愛もない会話を交わすアレンとフウカ。
アカネはそれを笑い、二人と肩を組む。
だが、そこに割って入るヤナギ。
「失礼します」
そして。
「成程、あなたがアレンくんですか」
アレンの頭のてっぺんからつま先。
それに視線を這わせ、ヤナギはちいさく頷く。
そして。
「見たところ普通の男子生徒。本当にあなた、アカネ先生に競争で勝ったのですか? どうにも信じられないのですが」
品定めをするような眼差し。
それをもって、アレンの顔を凝視するヤナギ。
そのヤナギに、アレンは応える。
「なら、試してみます?」
自信たっぷりなアレン。
それにクスリと笑う、ヤナギ。
「いいでしょう。と言いたいところですが、まずはわたしの実力をあなたに見せておきましょうか」
竹刀。
それを腰から抜き、ヤナギは生徒たちのほうへと歩いていく。
そのヤナギの背を見つめながら、アカネは声をあげる。
「おーいッ、本気でやるなよ!! あくまでお仕置きレベルに留めておけよ!!」
「承知しております」
声を響かせ、生徒たちの前に立つヤナギ。
そしてーー
「イザベールくん。前へ」
「やれやれ、いきなりぼくを指名かい? まっ、この中で一番剣術が強いのはぼくだけれども」
へらへらと竹刀を弄び、イザベールはヤナギの前に立つ。
スキル……器用(レベル10)。
それを生まれつきもっている、イザベール。
なので他の生徒と比べても剣の腕は多少はたつ。
だがそれはあくまでも、素人の中に限った話。
「この前の決闘。それを反省させる意味でぼくを指名したんだろ? だけどね、それは早計というものだよ」
瞬間。
ヤナギ。
剣術(レベル100)発動。
たぎるヤナギの剣士としてのオーラと、眼光。
それは、イザベールの戦意を喪失させるには充分だった。
瞬きひとつ。
その間でヤナギはイザベールの竹刀を弾き飛ばす。
そして、尻餅をついたイザベールに竹刀の先を向けるヤナギ。
「こ、降参です」
「「……っ」」
息を飲む、イザベールとアレン以外の生徒たち。
その生徒たちに、ヤナギは続ける。
「さて、はじめましょうか。皆さん、構えてください」
竹刀の先。
それでヤナギはココネを指し示す。
「次は貴女です」
「あ、アレンくん」
ココネは怯え、アレンに縋ろうとキョロキョロと辺りを見渡す。
そのココネの姿。
それに、アレンは竹刀を縦に一振り。
スキル……剣聖(レベル500)。
その力は、人知を越える。
三日月型の光の斬撃。
それがこちらに背を向けるヤナギの側を掠め、連なる山々を縦に真っ二つにし消える。
その斬撃。
それは神話で語られる剣聖の一振りそのものにして、剣術を極限にまで磨き上げた者だけが到達できる境地だった。