追放されし少女④
その瞬間。
ぴこんっ
アレンの脳内に、いつもの無機質な声が響いた。
《スキルポイント+1》
「……あ」
教室で一歩も動いていないのに。
いや、正確には。
「さっきフウカさんから逃げるために三歩下がったからか」
アレンは悟る。
(やばい。この状況でもポイントは貯まってる。わかりきったことだが」
つまり。
混乱すればするほど、俺は強くなる。
改めて思うと、やっぱり俺チートだろ。
「アレンさん」
入り口で固まっていたフィオナが、おそるおそる声をかける。
「ここ。授業中、ですよね?」
「授業という概念は一時間前に死んだ」
即答するアカネ。
「え、えぇ……?」
困惑するフィオナ。
その背後では、サーシャが腕を組み、冷静に状況を整理していた。
「なるほど。フウカのスキル変化は精神依存型。解除条件は感情の安定。そして、原因は」
じっと、アレンを見る。
「あなたね」
「全面的に同意します」
アレンは素直だった。
「ね、ねえアレンくん」
ココネが小声で囁く。
「一歩歩くたびにスキルポイントが貯まるなら」
「うん」
「今、走り回ったら?」
「世界が壊れる」
「だよね」
二人は真顔で頷き合った。
わかきったことを言い合える仲。
やっぱり、ココネは最高だぜ。
「ちょっと待ちなさい」
フウカが、胸を抱えたまま前に出る。
「話が逸れてるわ。問題は――この状態をどうするかよ」
「そうだな」
アレンは顎に手を当て、真剣に考える。
そして。
「じゃあこうしよう」
一歩、前に出る。
《スキルポイント+1》
「今、何かした?」
アカネが即座に反応する。
「いや、何も。ただ」
アレンはにこっと笑った。
「スキルポイントが貯まりました」
「……」
わかっきったことドヤ顔で語る、アレン。
それに一同、沈黙。
「ちょっと待って」
サーシャがやれやれと声をもらす。
「つまりあなた」
「はい」
「この修羅場で、成長してる? 空気を読まずに?」
「はい」
フウカの拳が、再び震え始める。
「もう!!」
ついに、ココネが声を上げた。
「こうなったらッ、フウカさんを落ち着かせればいいんでしょ!」
「そうだが」
「だったら!」
ココネは、ぎゅっと拳を握る。
「みんなで。楽しいこと、しよう?」
「楽しいこと?」
フィオナがきょとんとする。
「うん! みんなでお話したり、お菓子食べたり」
少し考えてから、ココネは付け足した。
「アレンくんは、なにもしないで。お願い。事態の収拾がつかなくなっちゃうから」
「は、はい」
「却下」
アカネが即答。
「アレンが大人しくできるはずがない。きっとまた、変なスキルを」
「信用なさすぎません?」
「積み重ねの結果よ」
正論だった。
その時。
「あの」
フィオナが、勇気を振り絞って手を挙げた。
「わたし、アレンさんに用事があって来たんですけど」
全員の視線が集まる。
「用事?」
「はい」
フィオナは、鞄から一枚の紙を取り出した。
それは。
“お困りの女の子募集”の紙。
「これを見て来ました」
「「「……」」」
アレンは固まる。
「わたし、その。胸のことで、少し困ってて」
もじもじするフィオナ。
「だから」
ちらっと、アレンを見る。
「助けてもらえるって。本当ですか?」
その瞬間。
《スキルポイント+5》
「えっ?」
アレンの頭の中で、異常な加算。
「……あ」
アカネが察する。
「厄介事が正式に増えたわね」
フウカは、深く息を吸い。
「覚悟しなさい、アレン」
にっこり。
「この件が片付くまで。あなたは一切、自由行動禁止よ」
「え」
「一歩歩くたびに強くなるなら」
フウカは指を突きつける。
「私たちが管理する。今までの放任主義の結果がこれなんだもん」
その言葉に、全員が頷いた。
アレンだけが青ざめる。
「待ってッ、それってつまり――」
アカネが締めくくる。
「ハーレム監視生活、開始ね」
アレンの平穏は、完全に終了した。
いやもとから終了していた。




