vsフィル①
豪奢な室内。
雨があがり虹のさした空。
それを窓際で見つめながら、フィルは唇を噛み締めた。
そして。
「く、くそっ。この俺があんな奴に」
そう声を漏らし、悔しさで拳を固めるフィル。
命からがらアレンの前から転移し、そして己のアジトへと逃げ帰ったフィル。
頬は腫れ。鼻の下には鼻血の跡。
その見た目。
そこには、鑑定士の威厳は微塵もない。
「なぁ、金ヅ……じゃなくてフィル」
「なんだ、スルト」
自分を呼ぶ女の声。
フィルはそれに声だけで応える。
振り向かず、不機嫌そうに腕を組んだままで。
「言っておくが礼はいわないぞ。あんたたちには高い金払ってるんだからな。俺が困ってれば助けるのは当然だ」
「そうカッカッすんなって。もっと金を払ってくれさえすれば、あんたをコケにしたアレン?とやらをぶっ飛ばしてやるからよ」
スルトと呼ばれた女は笑う。
自らの色褪せた赤髪。それを指で弄りながら。
「もっと金を払えば。だと?」
眉間に皺を寄せ、フィルはスルトへと続ける。
「全くいい加減にしてくれよ。今まで一体いくら君たちラグナロクに金を払ったと思っているんだ? ふんっ。今まで払った分でなんとかしろよ」
「今まで払った分。それはさっきの助け舟代だ」
「なんだと?」
助け舟代。
その単語に目尻をつりあげるフィル。
「どこまでもがめつい連中だな、君たちは。金、金、金。口を開けばそればかり。それも君たちのリーダーであるオーディンの教えなのか?」
不満げな声。
それを響かせ、フィルは身体を反転。
そして。
「いいだろう、払ってやる。その代わり、完膚なきまでに奴を潰せ。そいつの取り巻きも全員だ」
「毎度あり。よし、聞いたかロキ。存分に暴れるぞ」
"「りょーかい。一応、オーディンさんにも連絡いれとくね」"
"「頼んだ」"
フィルの金払いの肯定。
それに脳内で会話を交わし、スルトとロキは戦闘態勢に移行。
それを見つめ、フィルもまた行動を開始。
念には念を。
そんな思いでーー
"「俺のアジトに集まってくれ。面白いことをやる」"
単独行動ばかりする自らのパーティーメンバーたちにも集合命令をかけたのであった。
〜〜〜
フィルのアジト。
その大きな屋敷の前。
そこにアレンたちは佇んでいた。
「ここが奴のアジトなの?」
屋敷。
それを見上げ声を発する、ヘスティア。
アレンはそれに応えた。
「はい、間違いありません」
頷き、透視(レベル10)を発動し屋敷の中を探るアレン。
敵の数はおよそ数十人。
目標であるフィルは最上階の一番奥の部屋に、一人の女と一緒にいる。
同時にアレンはシチフクジン(レベル500)を発動し、女の詳細を探った。
「名前はスルト。所持スキルは神代の炎がランクアップした炎神(レベル500)。そしてもう一人。名前はロキ。今こちらに向かっている少年。所持スキルはトリックマスター(レベル500)」
「中々厄介そうだね。だがこっちにはーー」
「はい。ですがこちらにはーー」
「こっちにはアレンくんが居るんだよっ。大丈夫、大丈夫」
アカネとヤナギの声の続き。
それを嬉しそうに発し、ブラックドラゴンはレイラの擬態を脱ぎ捨ていつもの巨乳ローブ姿に戻る。
そして。
「ねぇ、アレンくん。わたしはアレンくんの邪魔をしないで観客に徹するよ。いいかな? そ、れ、と、も。アレンくんのやる気を100倍にする為にぃ……柔らか特別マッサージ10分コースなんてどう?」
アレンの耳。
そこに「ふぅ」と吐息を吹きかけ、ブラックドラゴンはいつかように甘噛みをする。
はむはむっ
「ぶ、ブラックドラゴンっ。へ、ヘスティアさん。助けてください」
「こらっ、ブラックドラゴン!! こっちの耳はわたしのモノよ」
はむはむっ
や、ヤバい。
めちゃくちゃ気持ちいい。
二人の甘噛み。
それに昇天しかけ、卒倒しそうになるアレン。
それをアカネとヤナギは見かね、二人をアレンから引き離す。
「ヘスティアさんにブラックドラゴン」
「今ここでアレンくんを行動不能にするわけには参りません。お気持ちはわかります。ですが、どうか堪えてください」
「いやよ」
「なら。わたしも、いや」
二人を振り払い、再び左右からアレンに抱きつくヘスティアとブラックドラゴン。
「アレンくん」
「ちゅーしよ。ちゅー」
た、堪らん。
だッ、ダメだ俺!!
今は心を鬼にしなければ。
「へ、ヘスティアさんにッ、ブラックドラゴン!! 今は戦いの場だ!! 気合をいれてくれ!!」
叫び、二人を振り払うアレン。
そして同時に。
ポイント付与(レベル10)
自分のスキルポイントを指定した相手に付与。
それを発動し、ヘスティアとブラックドラゴン。
加えてアカネとヤナギへと自身の貯めたスキルポイントを100000ポイントずつ付与。
瞬間。
四人の所持スキルがレベルMAXまで強化。
そして次々にランクアップしていく。
ヤナギは剣聖(レベル500)に。
アカネは拳聖(レベル500)に。
ヘスティアは龍騎士(レベル500)に。
ブラックドラゴンは擬態、闇焔、龍眼が全てレベルMAXまで強化される。
金色に輝く、面々。
「この剣があれば負ける気がしません」
剣を抜く、ヤナギ。
「この拳があれば負ける気がしねぇ」
拳を鳴らす、アカネ。
「元から負ける気はしなかったけど。更に負ける気がしなくなったかな? ありがとね、アレンくん」
「ありがとうっ、アレンくん」
アレンのすごさ。
それに頬を赤らめながら、アレンの思いを汲みアジトへと意識を向けるヘスティアとブラックドラゴン。
「よ、よしこれでみんな戦闘態勢だ」
汗を拭い、呟くアレン。
っと、そこに。
「君たちが排除されるべき存在?」
屋敷の扉。
そこから現れた1人の少年の声が響く。
そしてその周りには取り巻きも数人居る。
皆、フィルに雇われた傭兵でそこそこ強い。
「僕の名前はロキ。ラグナロクに所属するーー」
トリックマスターさ。
刹那。
アレンはロキの言葉に耳をかさず、手のひらをかざした。
そして、スキルを発動。
「俺たちの標的。それはフィルただ1人。一応言っとくが、俺は男に厳しいぞ」
はっきりと声を響かせーー
落とし穴(レベル1→500)
落とし穴が奈落の穴にランクアップ。
奈落の穴(レベル500)発動。
「えっ?」
ひゅーっ
目的を名乗る間もなく、ロキは奈落の穴に落ちていく。
それを見送り、冷や汗を滲ませる傭兵たち。
そんな傭兵たちの間。
そこに吹き抜ける、アレンの声と信念。
「女の子以外は奈落に落とす。覚悟しろ。俺は本気だ」
「「ひいっ」」
アレンの眼光。
それに傭兵たちは使命を放棄し、尻尾を巻いて逃走。
それを見送り、アレンは更にスキルを行使。
耳栓(レベル10)
それを自分以外の面々にかけ。
大声(レベル500)
大声が声撃波(レベル500)にランクアップ。
声撃波(レベル500)
「出てこいッ、フィル!! このまま屋敷ごと葬り去るのは容易い!! だがッ、それで収まる俺たちじゃねぇ!!」
声が凶器となり、屋敷の窓を全て割る。
そしてそれだけにとどまらず、アレンは足元に転がる小石を拾い上げーー
投擲(レベル500)
「居場所はわかってんだッ、はやくしないとここからあんたの頭をぶち抜くぞ!!」
屋敷の窓。
そこに小石を投げ込んで貫通させ、数キロ先の山にクレーターを形成するただの小石。
あまりの速さに。
ドゴォォォン……
音が後から響くのはご愛嬌。




