鑑定士③
「ひ、ひぃ」
情けない声。
それを発し、尻餅をつくフィル。
そしてそのまま後退りをし、フィルはアレンたちから更に距離を置こうとした。
そのフィルから意識を逸らし、アレンは見る。
稲妻の跡。
それに視線を固定し、アレンはとあるスキルの名を口にした。
「天候操作」
そして。
「今の稲妻。もしかして」
呟き、アレンはソフィへと視線を向ける。
そのアレンの視線。
それを受け、びくっと身体を震わせ染み付いた謝罪を響かせるソフィ。
「ご、ごめんなさい。そ、ソフィはいけないことをしました。ご主人様にいけないことをしてしまいました。フィルさま。ごめんなさいっ。謝ります。ごめんなさいっします。だからっ、ソフィに痛いことはしないでください」
そんなソフィをぎゅっと抱きしめる、ココネ。
「いいんだよ、ソフィちゃん。もう謝らないでいいんだよ。あの人はもうソフィちゃんのご主人じゃない。だから……いいんだよ」
「で、でも。ソフィはいけないことを」
「……っ」
ソフィの怯えきった声。
それにココネは胸が苦しくなる。
どれだけ痛いことをされたのだろう。
どれだけ、心を抉られる言葉をかけられたのであろう。
どれだけ。その身と心に深い傷をつけられたのであろう。
ココネの頬。
そこにつたう、一筋の涙。
それにソフィもまた瞳を潤ませーー
「そ、ソフィも。涙を流してしまいます。ごめんなさい。ごめん……なさい。ソフィのせいで。あ、貴女を悲しませてしました」
ぽろぽろと。
大粒の涙をこぼす。
その光景。
それにアレンは唇を噛み締め、フィルに向き直った。
しかし、その瞬間。
天候操作(レベル1)
再び発動される、ソフィのスキル。
灰色の雲。
それが一瞬にして空を覆い、あたりは途端に薄暗くなる。
そしてその数秒後。
大粒の雨粒。
それがソフィの涙に呼応し、ぽつぽつと降り注ぐ。
それにアレンもまたスキルを行使。
雨除け(レベル10)
どんな雨量でも一切寄せ付けない。
対象者……アレン。ココネ。ソフィ。
それを発動し、アレンは豪雨に備える。
だがその隙をつきーー
〜〜〜
「フィル、調子に乗りすぎ」
遠視(レベル10)
それを発動し、フィルの状況を遠くの宿屋で確認していた一人の軽装の少年と。
「まだまだ利用させてもらうぜ。あんたはわたしたちの貴重な金づるなんだからな。転移(レベル10)……対象はフィルという名の人間」
目つきが鋭く柄の悪い軽装の女。
その二人がフィルへと助け舟を出す。
〜〜〜
遠距離よりかかるフィルを対象とした転移(レベル10)のスキル。
それに藁にすがる流れ人のような表情を晒し、フィルはすがりついた。
「た、助かった。こここ。これでこの場から離れられる」
眩い光。
それに包まれ、アレンたちの視界から消えていく安堵しきったフィル。
そしてアレンもまた、「逃すものか」という思いでフィルを追跡しようとする。
追跡(レベル10)
フィルの行き先を特定。
そして、更に。
転移(レベル10)
それを発動し、フィルと同じようにその場から転移しようとしたアレン。
だが、その背にかかるココネの泣きそうな声。
「アレンくんっ。そ、ソフィちゃんの様子が」
その声にアレンはスキルの発動を中断。
そして、急ぎココネとソフィの元へと近づき片膝をつくアレン。
ココネの胸の中。
そこでぐったりとし。
「そ、ソフィを。こんなソフィを、助けてくれてありがとうござい……ます。とても、とても。嬉しかったです。あなたさまの…お名前は、なんというのですか?」
心配そうなアレンの顔。
その顔を見上げ、掠れた微笑みを浮かべるソフィ。
そのソフィにアレンは応えた。
「アレン。アレンって名前だ」
涙ぐみ。
「大丈夫だ。大丈夫。もうソフィちゃんを痛めつける奴はいない。これからは、俺が。いや、俺の仲間たちがソフィちゃんを守る。だから、もう。心配しなくてもいいんだ」
ソフィの小さな手のひら。
それを優しく握りしめ、アレンは胸が痛む。
こんな小さな女の子が苦しむ姿。
そんな光景。
できることなら見たくなかった。
天候操作。
そのスキルを無意識のうちに発動したことによる反動。
それが、ソフィのちいさな身体に耐えられなかったのであろう。
「アレンくん」
「あぁ。学園に帰ろう」
自身のスキル。
それをもってソフィを治すことができるかもしれない。
しかし、スキル使用の反動による副反応。
それに対し、治癒スキルの効果があるとは限らない。
学園には頼れる先生たちに加え、レイラやフウカ。ヘスティアさんも居る。
「転移は使わない。どんな影響があるかわからないからな」
「う、うん。そうだね」
アレンに同意し、ソフィを抱いたまま立ち上がるココネ。
そしてアレンもまた立ち上がり、二人は学園へと向かい歩いていったのであった。
〜〜〜
学園の保健室。
そこに、アレンたちは居た。
「うん。これで大丈夫よ」
ベッドで寝息を立てる、ソフィ。
その姿に頷き、ぎいっと丸椅子を回転させる白衣姿の銀髪の女性。
名をサーシャといい、治癒のスペシャリストとして学園に籍を置く保健室の先生だ。
「そ、そうですか」
「……っ」
サーシャの言葉。
それに安堵する、アレンとココネ。
「にしても。二人とも」
「「は、はい」」
「この女の子。どんなスキルを使ったの? 相当重いスキル反動だったわよ。それに、この見た目と服装。明らかに普通の女の子じゃないでしょ?」
的を得たサーシャの質問。
「正直に答えてね。それに、わたし。貴方のことも調べてみたいんだよね。最近、この耳にね。色々なところから貴方の噂が入ってくるの」
腕を組んで足を組み替え、アレンを見つめるサーシャ。
その眼差し。
そこにはアレンに対する好奇の感情が宿っていた。
そ
「お、俺のことは。その。後からお願いします」
サーシャの生足。
そこから慌てて視線を逸らし、頬をかくアレン。
「そうね。今はこの子のことを優先しないと。で、わたしの質問に対する答え。聞かせてもらえるかしら?」
「はい、先生。ソフィちゃんは天候操作のスキルを使いました。そしてーー」
「この女の子はフィルっていう鑑定士に買い取られた奴隷です。その男に虐められていたところを俺たちが助け、今に至ります」
ココネとアレンは、サーシャに答える。
それに頷き、サーシャは椅子から立ち上がった。
「うん、よくわかった。ところで」
閉じられた扉。
そこに視線を向けーー
「聞き耳を立ててる、そこの人たち。バレバレよ」
そう声を発し、ため息をつくサーシャ。
そんなサーシャの声に呼応し。
ガラッ
扉を開け、現れた五人。
曰く。
「べ、別にわたしは聞き耳を立ててたわけじゃ」
頬を赤らめるフウカと。
「アレンくーんっ。おひさ。レイラだよ」
相変わらず胸を強調するレイラと。
「その話が本当なら……アレン。おまえ、中々厄介な相手に手を出したもんだな」
「ですが。わたしたちが居れば敵ではありません」
「えぇ、間違いありません」
ほくそ笑む、アカネ。
眼光鋭くする、ヤナギ。
余裕の笑顔をたたえる、ヘスティア。
その五人がそこには佇んでいた。




