ブラックドラゴン①
「へ、ヘスティアさん。あれって本当なんですか?」
「うん?」
「その。10分間、好きにしていいっていうのは」
「えぇ、本当よ。魔物を討伐してくれたら、ね?」
森の中。
そこを歩きながら、アレンを仰ぎ見微笑むヘスティア。
その側にはフードを深く被った取り巻きの二人も居る。
「わたしは絶対に約束を守るわ。ふふふ。アレンくんはわたしになにをしたいのかな? 10分って短いように見えて結構長い時間だよ?」
「えっ、えーっと」
頬を赤らめ、アレンはぽりぽりと頬をかく。
そして思いのままに声を発した。
「も、揉んでみたいです」
「なにを?」
「むむむ。胸を」
「嫌いじゃないわ。その思春期の男子って感じの答え。なら、どうかな? アレンくんのモチベーションをあげる為に……一揉みぐらいさせてあげちゃおっかな?」
立ち止まり、アレンのほうに身体を向けるヘスティア。
そのヘスティアの魅力たっぷりな提案。
それにアレンは焦る。
「い、いいんですか?」
「えぇ、どうぞ」
だが、そこに。
取り巻きのうちの一人の女。
その声が響く。
「ヘスティア様」
「なに?」
「年端もいかない相手をからかうのはおやめになったほうが。それに」
「それに?」
「どうやら感づかれたようです」
瞬間。
周囲の木々と草むら。
そこから、二人の人物が姿を現す。
曰く。
「アレン。お前は相変わらず女に弱いな」
「うまく化けたものですね、ヘスティア。いえ、ブラックドラゴン。といったほうが正しいでしょうか?」
アカネとヤナギ。
その二人がそこには立っていた。
その二人の姿。
それにヘスティアはしかし、動じない。
「あら、バレてたの? 残念。完璧な擬態だと思ってたのにな」
「えっ?」
ヘスティアの言葉。
それに耳を疑う、アレン。
そして動揺するアレンを後ろから抱きしめ、その耳を甘噛みするヘスティア。
「もう少しでこの子を使って、魔物の姿を被せたドラゴン族の天敵"本物のヘスティア"を葬り去ることができたのに。やっぱり、うまくいかないものね」
かみかみ。
や、やべぇ。
めちゃくちゃ気持ちいい。
見るからに危機的状況。
しかしアレンはヘスティアの甘噛みに悶絶。
かみかみ。
「ねぇ、アレンくん?」
「は、はいぃ」
「魔物を倒して。わたしと10分間、楽しみたいよね? アレンくんがその気なら30分でも一時間でも構わないわよ」
「い、一時間?」
「えぇ。どう? わたしとイイことしよ?」
甘い吐息。
それを首筋にかけられ、アレンはしかし理性を保ち叫ぶ。
「ま、魔物はお前だろ!! そそそ。そんな誘惑に俺は引っかからないぞ!!」
「やんっ。アレンくん乱暴」
むにっ
「くっ、めちゃくちゃ柔らかい。しかしここで負けるわけにはいかない!!」
ヘスティアを荒っぽく振り払い、アレンはアカネとヤナギの元に駆け寄る。
そして。
「はぁはぁ。かッ、覚悟しろブラックドラゴン!! もう色仕掛けは通用しないぞ!!」
声を響かせ、鼻血を拭うアレン。
その姿に、ヘスティアは可愛く手招き。
「説得力ないよ、君。ほらほらっ、この胸に飛び込んでおいで」
胸を揺らし、アレンを誘惑するヘスティア。
それにアレンは身体を震わせ、必死に堪える。
「おいっ、そろそろやめてもらおうか。ブラックドラゴン」
「はい。3日という時間を与えたことが運のツキ。学園長は騙せてもわたしたちは騙せませんよ。大方、ヘスティア様の不意をついて催眠魔法でもかけたのでしょう」
アレンの両手を左右から握りしめ、ブラックドラゴンに吐き捨てるアカネとヤナギ。
その光景。
それに取り巻きの二人はフードを取り、声を響かせた。
「だから言ったじゃん、ブラックドラゴン様。下手な芝居を打つより直接叩いたほうがいいって。ご自身の擬態能力に慢心して調子に乗るからこうなるんですよ」
「こうなってしまっては致し方ありません。実力行使といきましょう」
赤と青の髪。
そしてその髪の隙間から垣間見える小さな角。
加えて。
「アレンくん。その力、わたしたちのために使ってよ。ね? サービスするからさ」
ヘスティアの姿のままピースサインをし、角と尻尾そして漆黒の翼を露わにするブラックドラゴン。
そしてその三人がアレンたちと向き合い、場に異様な空気が満ちていく。




