師匠
「剣聖の一太刀」
呟き、その手からぽとりと竹刀を落とすヤナギ。
そしてごくりと唾を飲み込み、「し、神話の体現」と声を漏らしヤナギは小刻みにその身体を震わせる。
そのヤナギの姿。
それに生徒たちもまた同じような反応を示す。
「な、なんだ今の」
「アレンがやったのか?」
「すげぇ。流石、アレンだ」
興奮し、アレンに賛辞を送る面々。
加えて、ココネの「アレン……くん」と好きな感情を帯びた熱っぽい眼差し。
その賛辞と視線を受け、アレンはゆっくりとヤナギの元へと歩み寄る。
そのアレンの気配。
それにヤナギは唇を噛み締め、落とした竹刀を拾い上げた。
そして。
「み、認めない。わたしは認めない」
そう声を発し、身体を反転。
「剣聖のはずがないッ、あなたが剣聖のはずなんてない!! 剣に捧げたわたしの人生。剣に費やした長きに渡る鍛錬の時。そッ、それをあなた如きに超えられてなるものか!!」
叫び、ヤナギは涙を流す。
小さな時からコツコツと剣術のみにスキルポイントを割り振ってきたヤナギ。
周囲に褒められ、あらゆる大会で頂を拝し得たスキルポイント。
それを全て剣術に費やした、ヤナギという名の女剣士。
幼き日より憧れた剣聖という名の境地。
いつか自分もその境地にたどり着けると信じ、来る日も来る日も剣を振り続けた。
それをーー
「受けてみろ。これがわたしの剣だ」
姿勢を低くし、「居合の型。神速」そう呟き、ヤナギはアレンに目がけ疾走。
吹き抜ける風。
そして輝く、ヤナギの双眼。
そのヤナギの本気。
それを軽く受け止める、アレン。
そして、眼前で瞳を潤ませ顔を紅潮させたヤナギに声をかける。
「俺の師匠になってください」
「ぇっ?」
「こう言っちゃなんですが……俺、スキルがなきゃただの凡人なので。剣聖は剣聖なんですが、スキルを解除したら素人に逆戻り。雑魚ですよ、雑魚」
「で、でも」
「それに。凛々しくて美人なヤナギ特別顧問が師匠になってくれたら、俺めちゃくちゃ嬉しいです!! スキルではなく、その身体に染み付いた剣術の極意。それを是非」
そのヤナギにほの字のアレンの姿。
それを遠目で見つめる、フウカ。
そして、額をおさえフウカは呟く。
「またはじまった。精神年齢何歳なのあいつ」
「はははっ。何歳でもいいじゃないか。わたしはあいつのああいうとこ、好きだぞ」
互いに意見を述べ、アレンを見つめるフウカとアカネ。
そして。
「アレンくんっ、助けてくれてありがとう」
むにっ。
アレンに抱きつき、胸を押しつけるココネ。
「こ、ココネ。今は師弟交渉真っ只中なんだ。お礼ならまたーー」
「い、いやなの?」
むにっ。
「最高。もっとお願いします」
グッドポーズをし、ココネに頷くアレン。
っと、そこに。
「あなたたちねッ、時と場所を考えなさい!! 精神年齢何歳なの!?」
響く、フウカの声。
「うーんっと。アレンくんは10歳でわたしは12歳かな?」
「馬鹿言え。俺はココネより年上だ」
「そうなの? じゃ、じゃあ。もうぎゅっとしてあげないよ?」
「年下も年下。ココネお姉さんと呼ばせてください」
そんなアレンとココネのやり取り。
それにヤナギは涙を拭いーー
「あなたの師匠。やらせていただきます」
そう声を発し、ちいさく笑みをこぼしたのであった。




