はじまり
朝、目を覚ますとアレンの脳内に"徒歩"という名の単語が浮かんでいた。
なにかの夢かと思ったが、どうやら違うようだ。
徒歩。
それってつまり、歩くってことだよな。
寝ぼけた頭で考え、アレンは立ち上がる。
まっ、どうでもいっか。
やべ、もうこんな時間か。
はやくしないと。
慌て、アレンは部屋を出た。
寝間着姿で、寝癖を残したままで。
しかしその時、アレンは気づかなかった。
その徒歩という名のスキル。
それは世界の常識を一変させる、最強のスキルだということに。
〜〜〜
魔法学園へと続く通学路。
その朝日の下、アレンと同級生のココネは学園へと向かっていた。
「おはよー、アレンくん。昨日はよく眠れた?」
「おう寝れたぞ。ココネはどうだ?」
「わたしもぐっすりだよ」
ぼいんっ。ぼいんっ。
大きな胸。
それを揺らし、アレンと並び歩くローブ姿の赤髪の少女ーーココネ。
そのココネに、アレンは一言。
「相変わらずでけぇな」
「そう? あははは。寝る子は育つって言うしね」
花のように笑う、ココネ。
そのココネの顔。
それは幼くも、どこか色っぽい。
そのココネを見つめ、アレンもまた笑う。
「そっか、そっか。いつか揉んでみてぇな」
「もうアレンくんったら、えっちなんだから」
頬を赤らめ、ココネはまんざらでもない様子。
「なぁ、ココネ。そういえば」
「ん、なに?」
「スキルポイント。どんだけ溜まった?」
「うーんっと……30くらいかな?」
スキルポイント。
それはこの世界に存在する概念。
スキルなる能力が溢れるこの世界では、最も重要な概念。
それがスキルポイント。
「30? すげぇ、結構溜まってんだな」
「そう? ボランティアとか学園での勉強を頑張ったからかな?」
スキルポイント。
それは、善行や誰かに褒められることで溜まる仕組みになっている。
誰がどのようにして付与しているかはわからない。
学園の授業では、「神様の贈り物」だと聞いた覚えがある。
「で、その30ものスキルポイントでどんなスキルをとるんだ?」
「30じゃ大したスキルとれないし……100まで溜めて、裁縫スキルをレベル10まであげたいかな? 今は、8ぐらいだし」
「8でも充分だと思うけど」
「ダメだよ。10ぐらいはないと、お嫁さんに行ったときに苦労しちゃうもん」
「俺のお嫁さんになれば1でもいいぞ」
「へ?」
顔を真っ赤にする、ココネ。
「冗談だよ、冗談」
「も、もう。からかわないでよ」
むにっ
アレンに抱きつき、ポカポカと叩くココネ。
そのココネに笑いかけながら、アレンもまた自分のスキルポイントを確認する。
目を閉じーー
昨日は5ぐらいだっけ?
まっ、変わってないと思うけど。
内心で呟き、瞬間。
スキルポイント……280、281、282、283、284、285、286……
は?
増えていく、スキルポイント。
それにアレンは目を丸くし、足を止めてしまう。