水着立ち絵統一はシーズン環境を席巻する
まぁ何が変わるわけでもないですが。
青い壁、ガラスの天井。ここは屋内プールである。
夏といえば海かプールは鉄板ではあるが、それは陽キャパリピ達の常識であり、俺は本来エアコンの効いた部屋の住人だ。
こんな陽キャの吹き溜まりみたいなところにいるのには当然理由がある。
前々から言っていた祐のデートである。以上。
なんだかんだ言って、付き合い始めて多少時間を経たという形になった。大なり小なり恋人らしい活動をしているのは観測できているものの。
祐の体力かそれとも予定的な問題からなのか、5人同時のイベントはあまり多くない。まぁ体力使うしね、双子以外は結構サシのデートもしたがるみたいだし。
先生も世間体に配慮しつつ少しでも一緒にいようとしているようだ。
まぁいうて、この社会あんまりその辺の倫理観うるさくないけど。嫉妬はめちゃくそ大きいが。
そもそも共学高校の女教師なんて、男子生徒と結婚目的だろと言われるし、男子がいるクラスをあの若さで受け持っている以上、優秀なのは事実だし。学校側も半ば了解しているのだろうか。
そうすると内の学年の女子たちは大変だ、というかかわいそうだ。なにせ100人の2年生に対して男子は俺を含めて4人。
祐を見てきゃいきゃい盛り上がって満足ならそれでいいんだけど、他の男子3人が、年上の女性が一切ダメな雪之丞君と、さる名家の婚約者がいるらしい杉崎君と俺である。教師に持っていかれてしまっては仕方ないであろう。
話がそれた、一先ず今日はプールだ。参加メンバーは祐+5人のハーレムメンバー、俺! 以上だ。
いや、これ俺いる? とも実は思った。俺としては参加して祐の周りを見てニヨニヨするのは楽しいけれど、ただのおじゃま虫になるのならば控える程度の常識はある。しかし祐、華、先輩、あとは先生の希望で参加である。双子以外は歓迎しているのだ。
まぁ祐単体より、生徒の引率の方が建前は作りやすい先生はともかくとして、先輩はたぶん女除けとか、俺を使って祐を動かしてチャンスを狙う感じだな。
華は単純にみんなでお出かけだからデートの認識が弱いんだろう。普通にお友達の遊びというニュアンスが強い、そのままの君でいてくれ。
双子も、「先輩も来るんですか?」という感じだが、まぁ納得はしている様子。去年からどれだけ俺を情報屋扱いしてたわりにと思わなくもないが、まぁ良い。
屋内プールに夏本番前で、学生が試験休みの期間だからか。出会いを求めた女性達や、未就学児を連れた親子などがいる。それほど混んでないいい感じの具合だ。
荷物を置くスペースを確保して、さっさと着替えを終えた俺が、少し遅れてきた祐と一緒に待っている。
楽しみで眠れなかったのか、少し眠そうな祐が横で座っているのを見る。黒い無個性な水着に金髪のふわふわな髪で、腹筋はしっかりと筋肉が見える。周囲を通り過ぎる女性の視線が彼に集まるのがわかるが、どう見ても男2人分の荷物の量ではないために、声をかけに来るのは居ないようだ。
しばらく待っていると女性陣がやってくる。面倒なことになる前に俺はメガネを外しておく。自分の視線を水着の美少女たちを前にコントロールできる程、俺は自分を信じていない。なので、最初から見えなくする必要があったんですね。まぁそのうち慣れるし、カメラマン担当なので大丈夫なはずだ。
各々が自身の魅力をプロデュースしている水着であろう。
ゆかり先生と虎先輩以外は、割と【控えめ】な娘が多いのがハーレムメンバーの特徴か。いうて虎先輩もまあ普通サイズだし。何とは言わないが。
んで、早速みんなしてプールの方に行く、荷物持ちが面倒なので、貴重品はロッカーに預けている。実質スペース取りである、多少マナーは悪いがピーク時期ではないので大目に見て欲しい。
とはいっても今日の俺のお仕事は。
「わぁ、腕章まで用意してるね」
「ふふ、どうだ華。今日の俺は仕事人だぞ」
はい、カメラマンです。俺はこの前買ったピンクのくそダサ水着を着て、上にXLのパーカーを羽織って、首にカメラをかけて、腕に黄色い腕章【カメラマン・撮影係】と書かれたそれをつけている。誰がどう見ても見紛うことなきカメラデブである。
他人をとったら盗撮だが、身内ならセーフである。まぁこの社会はむしろ女性がカメラ構えている方がマークされるまである。
本当に貞操観念はそのままなのか? 念のため確認したい。
前世さんがそう言ってるが、別に男からアプローチもするし、双方フラットに近いだけで、逆転はしてないだろ。
JKが「あーセックスしてぇ」とか言いながらコンビニに来るわけでもないし。
男子が「美人で従順な奥さん欲しい」って吠えてるし。いや、うん。それは別の要因かも知れないが。
俺はエチケットとして、パーカーの前も閉めている。腹が少しきついが仕方がないだろう。いつも通り手袋もしてるので、これに後はグラサンにマスクをすれば、不審者であろう。なのでしていない。それでも恐らくこの施設で一番肌の露出が少ないであろう。
俺の容姿がもう少しばかり【優れていれば】自意識過剰と揶揄されたかもしれない。しかしこの顔と体型ではそういうものだと納得されるはずだ。
「ほら、行こう?」
「あ、待ちなさいよ」
「走っちゃ駄目よ! それと入る前に────」
「先輩! ウォータースライダー行きたい!!」
早速とばかりに祐を取り合うように、彼の手を引いて駆けていく女性陣。準備運動をするようになだめているのもいるけど、全体的に早く行きたい様子だ。もしかしたら女子更衣室で何かしらの取り決めがあったのか、朝集合したときに少しあった、若干のギスっていた空気はない。
これなら、5人のハーレムは問題なさそうだな。一安心である。俺ができるのは形をつくるところまでで、内実は祐と彼女たちが決めるものだ。発生した諸問題を対処する雑用係はやるつもりだし、ある程度平等になるようにおせっかいを焼くつもりだが、大枠ではどうにかしてもらわねば。
ともかく、早速その楽しそうに祐を囲む様子をシャッターに収める。
スチルというほどの物でもないが、普通に仲の良い友人たちの思い出のそれだ。
実を言うと、昔から俺は祐と華の二人を写真に撮るのが好きだった。カメラに拘ったりなんかはしてる訳ではなく、技術も勉強していない。中古のデジカメとかから始まった習慣で趣味の域すら入ってないかもしれない。
だけれども美少年と美少女、あとまぁ美女もいるか。とにかく見目麗しい人たちのやり取りは目に優しい。
こちらへの注意が極限まで薄れたので、メガネを掛け直す。うむ、やはりエロいな、水着って。性欲がないわけでもないのだが、他人のそれに向けるべき視線ではないので意識して考えないようにしておく。
そして俺はひたすら後ろから着いて行き、似たような構図の写真を量産するのだった。
祐が女性陣の希望でプールの各所、ウォータースライダーから波の流れるやつから普通に泳ぐやつまで。とにかく右に左と連れ回されるのをついていき、プールサイドからファインダーに収めていると、トンと足に何かがぶつかってきた。
「ま、ママぁ!!」
「おっと、これは……まずいな」
推定3,4歳の未就学児の幼女だ。キョロキョロと左右を見ながら歩いていた様子で、すでに目は半べそをうかべている。間違って俺に来たわけではないだろうし、はぐれたか、待っているように言われたのを動いてしまったのか。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん。お母さんとはぐれたのかな?」
「ひぃ!!」
ぶつかったのに、そのまま左右を見ていたのか、俺の声で上を向いた幼女は、直ぐに恐怖に顔を歪める。すごいな、3歳とかでもわかるのか、俺の気持ち悪さ。
もはや新鮮な感心すら覚えるが、冷静に考えてデカイから怖いだけではと前世さんが言ってくる。たしかにそうかもしれない。
祐たちは木陰の向こう側まで流れるプールの流れに乗ってしまったようで、周囲にいない。後ろを観れば軽食屋の移動販売が並んでいるので、恐らくそこからだろう。近くにスタッフも居るはずだし。
「あっちにお母さんを探してくれる人がいるから、行こうか?」
「や、い、いやぁ!」
うーん、怖がられてしまった。その上俺から3歩くらいの距離でこっちを見ている。怖くて動けないのだろうか? さてどうしたもんか。監視用の高い椅子に座っているスタッフはここから遠いけど、手を降ってみる。気づかないか。
「うーん……まぁこの場を離れても問題はないんだろうけど」
それは寝覚めが悪いというか、良心の呵責が。この後の展開なんて読めてるし、気持ちよく終わるとは思えないのもわかっているけれども、無視するよりかはいいだろう。
俺は大きく息を吸い込んで、大声で叫ぶ。
「すみませーん! ここに迷子がいまぁーす!」
そう言うと、周囲に多少居た人たちがざわざわと、通りすがりの光景として認識してくれる。まぁこれでいいだろう。
結局5分もしたら、係の人と一緒に母親が来て無事解決した。係の人も、母親も俺に対して笑顔でお礼を言ってくれた。幼女は最後までまともに喋らなかったけれども。
まぁ、今回はまともな親だったようだ。この社会ですらこの年齢で不審者誘拐犯扱いされたこともあるのだ。冷静に考えて迷子イベントが多すぎる。シングルが多いからなのか? 社会の闇を感じるぞ。
そんなこんなで、そろそろお昼にするべく祐達に合わせて荷物の場所に戻る。
「よし、飯にするか! 何食べる?」
「ぶー君本当ご飯の時だけ元気だね、それなら泳げばいいのに」
華が呆れたような目で俺のカメラを見てくる。まぁ華からすると多分華の家よりも華の写真のアルバムを作ってる俺だからな。言いたくなるのもわかる。
「いいんだよ、こっちのが楽しいし。んで何食べる」
「じゃあ……カレー3つにラーメン2つと唐揚げとアイスコーヒーとお茶と」
「待って待って待って」
いきなり呪文のように注文を羅列してくる華。いや、たしかに彼女もいわゆるご飯はいっぱい食べるタイプだが、流石に量が多い、恐らく全員分だな、これ。
「あ、私は紅茶で」
「オレンジジュースがいいな」
「ふみも同じので」
「ああ! いっぺんに言うな」
俺はなんとか、ポケットから取り出したボールペンで注文を手に書くのであった。あ、祐お前は座ってろ、午後もきついだろうから体力を残しておけ。
小太りの少年が女性陣が注文した分を、何とか手に書いて小走りに自販機や店の並ぶ方向へと走っていく。この社会ではあまり見られない光景であろう。男性はどちらかと言えば、貢がれる事が多く、雑用や細かい仕事など女性がやれば良いという極端な嗜好までは行かないものの。そういった事を点数稼ぎとして奏上されることが多いからだ。
しかし、彼らの仲間内は馴染んでしまっているその姿を見送った後、祐と華は顔を合わせて、苦笑いをしながらため息をつく。
その分かり合ってるという様に、どうしようもないもやもやを他の4人は抱くが、それは置いて置いておくべきであろう。
過ごした時間によるものであるのだから、それは仕方ない物であろう。加えて今回はお互いの事を思ってではなく、対象が出部谷なのだから。
「華先輩も結構強く当たるんですね、うたびっくりしました」
「うん、ふみも驚きました」
双子がそう言うのも無理はない、彼女は誰にでも優しい、祐に対してはそれこそ大和撫子というような、お淑やかなタイプだ。強く主張せずそれでいて旦那を立てることを忘れず。時折愛情を求めるという、この社会の一般的な理想の女性像である。
「うーんと……今日のぶーちゃんなんか辛そうだったから、嫌なことでもあったんだなって」
「うん、リフレッシュさせてやりたいよね」
「それじゃあ結びつかないんだけど」
祐と華の会話は断片的であり、聡明な頭脳を持っている虎澤亜紗美にも、横で黙って思案している瀬戸川ゆかりにもわからなかった。
「あいつ、ああやって世話を焼いたり面倒見たりするのが、なんか病的に好きなんだよ」
祐は解説するかのように周囲を見ながら口を開く。小さいころからそうだった。なんというか彼は
「あれで世話焼きさんだから、無茶振りされると嬉しそうに文句言って四苦八苦するの、ぶーちゃん」
「うん、特に俺や華相手だとね」
二人は思い出すのは、宿題を忘れれば写しを急いで作れるようにしたり、買い物を忘れれば走って買いに行ったりと。そう奔走している出部谷の大きな背中だ。
「なんというか、お兄ちゃん気質なんだよね」
「頼られてるほうが、楽しそうなんだ、じ……あいつ」
二人は苦笑する。二人共あまり社交的な方ではなく、引っ込み思案だった。祐は特に周囲の女性に怯えていたが、それも全て小学校1年からずっと同じクラスの出部谷が、二人を引っ張り色々と周囲に毒を吐きつつ今があるのだ。
試験前になると、ちゃんと勉強してるのかと聞いてきてもちろんというと少し残念そうに席に戻る彼を思い出して二人は笑う。
「あの、祐先輩って」
「何だい? 」
「いえ、なんで出部谷先輩のこと、名前で呼ばないんですか?」
そんな祐に対して、双子の姉、鯉田詩子はふと先程というよりも前から思っていた疑問を口にする。それは双子の両方どころか担任のゆかりも思っていたことだ。亜紗美はある程度態度から推論を立てていたが。
「……あいつ、自分の名前嫌いなんだって。小学生の時にそう言ってた」
「そ、そうですか」
あの人の名前何だったっけ? 正直そんな事を思いつつも頷いておく。少しだけ悔しそうに大好きな祐先輩がそう漏らすのだから。華はそんな祐の横顔を見て静かに笑っていた。




