島立てて シールド交換 罠伏せゴー
というわけで祐くんまわりの登場人物紹介
龍瀧 祐 りゅうたき ゆう
幼なじみ
風間 華 かぜま はな
先輩
虎澤 亜紗美 とらさわ あさみ
双子の後輩
鯉田 詩子&文子 こいた うたこ ふみこ
担任の先生
瀬戸川 ゆかり
親友枠
出部谷 十三 でぶたに じゅうぞう
休日、俺はバイトが午前中だけ入ってたのも終わり、帰って出して寝るかと標準的な男子高校生らしい思考回路で帰路についていた。
ついでに遂に山上先生から言い渡された、健康的な体型の為の運動メニューをどうこなすかとぼんやり考える。
担任でも授業を受け持ってもないのに気にかけてくるのは、もちろん彼女が良い教師であるのも大きいが。恐らく学校で一番俺が不健康な体形で、体重が重いからだろう。
この世界の男子がみんな細いんだ、ストレスからかな。別に痩せたくないわけではないが果てしなく面倒。メリットもないし。どうせ痩せてもすらっとはしないし、アメフト選手みたいにもなれない。
でも、わざわざメニューまで作ってくれたし、しかも手書きで。へたくそなウサギかネコらしい絵が噴出しでガンバレとか言ってるのは、あざとすぎないかあの先生? とか思い出していると、ポケットから振動が伝わる。
珍しく携帯電話の【電話】がかかってきた。病院の予約でもすっぽかしたか? と思いつつ、番号を見れば
「鳥槇先輩……な、なんですか?」
「ねぇ、あんた今日暇?」
先輩の取り巻きの鳥槇マキ先輩である。この前連絡先を交換して以来、向こうが要件がある時にメッセージが来る、まぁ電話は初めてであるが。彼女は名前が覚えやすくて助かるが、親はこれで良かったのだろうか? まぁ人の事言えないか。
「い、一応、よ、予定はないで、す」
「わたしにも、そのドモリはいらないって言ってるでしょ。うるさいしくどいのよ」
「はい、わかりました。それでなんですか」
鳥槇先輩は虎先輩過激派というか面倒なタイプの信奉者で、俺に最近送ってくるチャットがそれを物語っている。なんでも幸せそうな虎先輩を見るのは楽しいが、その相手が男なのが苦しいという、なんか脳破壊かNTRみたいなことを延々書いてくるのである。通知20件とか始めてみた。
「亜紗美から祐さまと水着を買いに行きたいから、予め水着を買っておけとの事よ」
「なんで俺が?……ああ、俺が新しくしたならという口実作り兼、当日の俺外しの為か」
きっかけにしつつ、置いてけぼりにするつもりなのかと。そう思わなくもないが……じゃあその代わりに華あたりにリークしてやろうと思う。
そしてそこまでは先輩の計算なんだろう。俺と祐が二人で買い物に行ってしまうくらいなら、華が居ても祐と出かけるという形にするのが大事なんだろう。
そう、夏休み前の試験休みで、祐ハーレムでプールに行く計画が水面下で動いているのだ。虎先輩が企画立案、計画実行。全部やってくれるから楽だわ。
「了解です、そのうち用意しておきます」
「いま! 今すぐ買いなさいよ、今、すぐに!」
「……別にいいでしょ、週明けまでに用意すれば」
買うと言っても帰って密林でポチる、サイズは一番でかいので、安いけど丈夫そうなの。それで終わりなんだから。そう伝えると絶句した様子の鳥槇先輩の声が帰ってきた。
「信じられない……見ないで買うの? 水着を? え? 男なのに?」
どういう感覚かわからんが、そういうものではないのか? 昨今は服もネット通販で買うなり借りるなりサブスクなのが普通だし。
まぁ制服以外の服なんて、最低限でほとんど持ってないが。
「あんた、そうやって買って入らなかったら、もっと太ってたりしたらどうするのよ?」
「それを言われると痛いですね。LLで行けると思ってたら、XLを買いなおしたことは何度かあります」
「仕方ないわね……直接買いに行くわよ。今日暇なんでしょ」
「えぇ……」
まさかの提案だ。この人は本当に目的の為には真っ直ぐだよな。責任感が強いというか頭が硬いというか、一つのことしか一度に見れないというか。だから虎先輩にべっったりなのか。
「今わたし駅前の本屋にいるから。あんたが着れる水着を買うのを確認しないと、亜紗美に怒られちゃうんだから」
でもこの人、完全に虎先輩の取り巻きやってるけど、一応友達もやってるんだよな。完全な上下関係じゃなくて。鳥槇先輩自体は普通の家の生まれのはずだけど。まぁ気にすることじゃないか、あの虎先輩がずっとそばに置いてるんだ、理由があるんだろう。
電話も切られてしまったし、仕方ないかと諦める。という訳で交差点を曲がり駅の方へと向かう。まぁ家に帰るよりは近いし、涼みに来たと思おう。
先輩と合流してやってきた水着売り場。駅直結ビルだから便利ではある。まぁもうすぐ夏だし結構品揃えはよいのだが、女性用がほとんどである。男向けはあまり品ぞろえはない。人口比を考えれば当然か。
俺は適当に右側の方に棚を進む、こっちのがでかいからだ。んで、目についた一番ダサいやつを適当に手に取ってタグを確認……よし、余裕で入るな。
ピンクのサーフパンツを引っ張って軽く体に当てて確認する。問題なし。試着とか面倒、というかフィッティングルームに近づくのが無理無理。
この時期は夏こそ男性を捕まえるという気合を入れた方が多いのだ。なおフリーのいい男などたいてい海を歩くなんてことはしないので、ごくまれにいる男同士でナイトプールに行く変わり者などを狙うのである。
一応ちやほやされるのが好きでプールやら海に行く男もいるが、まぁ人それぞれだ。
「終わりました」
「え? 早っ!? ちゃんと選んだんでしょうね?」
いちいち感嘆符が付きそうな話し方だな、この先輩も。どうでもいいことを考えながら、手元の袋を見せながら適当に合わせる。
「履けるの確認しましたよ。んで、先輩も水着ですか」
「男の水着選びなんて一緒に行くわけないでしょ、更に、あんたみたいなひねくれた奴と!」
まぁ、その通りではある。世の中にはカップルで選んでいる人もいるが、それこそ先輩は嫌がるだろう。
ふと彼女の先程までの視線の先を見ると、黒を基調としたフリルがついた、少しシックな印象のワンピースタイプの水着を着たマネキンがある。背が高いタイプか位置が高いから、どことなく高貴さもある。
「買わないんですか?」
「か、買わないわよ! 今年は受験勉強で遊ぶ暇は……亜紗美と違ってないしっ!」
まぁ、虎先輩はトップだからな、同じ大学行きたいみたいだし大変だろう。秋の推薦だかAOだか選抜型だか狙いらしいし。そんな人を雑用に使うなよという話だが。
まぁ今日は参考書を買いに来るついでにとの事だったので、俺のシフトが祐にいき、それが虎先輩に行き、使われたという流れだろう。
「それに、わたしは…… 亜紗美と違ってこういうの似合わないし」
「そうですか? まぁ確かにデザインが虎澤先輩っぽい感じですけど、別に持っておくのは自由じゃないんすかね?」
やはり、この水着が虎先輩のイメージっぽさが何となくあったから目に留まった様子だ。なにせ俺の言葉にびくっと肩を動かしている。
「なななっ! 別に亜紗美っぽいとか、そういうのじゃなくっ! 単純に似合わないじゃない!こんな可愛いのっ!」
「? いや、先輩もどっちかといえば、こういう系でしょ」
鳥槇先輩も、虎先輩程ではないけれど手足が長くてすらっとした細身系だ。横に上位互換が居るから目立たないだけで。
まぁ生真面目な所あるし、競泳水着とか着てそうなタイプだが、全体的に顔は結構きつめというか、ツリ目だからか目つきが強い系の人だ。
少なくともかわいい系の暖色のビキニタイプとかは合わないタイプ。というか、買わないでもいいから早くしてほしい。俺は帰りたい。
「……変じゃないかしら? なんでも亜紗美っぽいのを買うの」
「人それぞれでしょ、てかさっさと帰りたいんじゃなかったんすか?」
「ああ、もうっ! そうね!」
なんかやっと腹が決まったのか、横の売り物をとってレジに向かっていく取巻き先輩。
でも別にプールや海には行かないって言ってたし、次のみんなでプールに遊びに行く時は、塾の模試で行けないって言ってた。
着る機会もないのに買ってどうするんだろうね。
まぁ無駄遣いなんて誰でもする。買ったけど読んでない本とか大抵の人はあるし、それよりかはましだろう、一応実用品だし。
無駄遣いに気づいたのか、微妙な表情で戻ってくる取巻き先輩を見て、アイスでも食いながら帰ろうと、俺は決意するのだ。
お小遣い制で金欠気味の鳥槇先輩にもアイスを奢って、気分良く別れ帰路につきもう今日は数日分の愛想を振りまいたから帰って死んだ目でマゾゲーをしようと。
「あ、出部谷さん」
そんな風に思っていたのに、帰ったらエレベーターホールの椅子に座っている駄馬さん、もとい駄場さんがいた。
おい、この物件オートロックだぞ、どうせ他の住人の往来の隙を見て入ったんだろう外が熱いから。通報されても知らないぞ。もうすぐアラサーが終わるのにリスク取りすぎだろ。
「実は、お願いがありまして……」
何も言わずに同じ部屋までついてくる。顔見知りだからいいが、これが俺じゃなくて祐で、他人から見たら相当なほどだと思う。
玄関で待ち受けて部屋までついてくる三十代の女性とストーカー被害にあいそうな外見の男子高校生だ。
俺? 何かしらの金の動きがあるとみられるだろ。
「あのぉ今週分、もうちょっと増やしてもらえますか……?」
「どうしてですか」
半場不法侵入して帰り待ちして、言うことが納品数のおかわり要望って。もうなんか色々どこから突っ込めばよいのだろうか? その無駄にデカいケツか?
「げ、減給くらって……今月ピンチなんですぅ……オフィスで昼寝してたら、寝たまま気づかれずに夜になって会社閉められて、起きたら動体センサーでセコムが来て……」
ダメ人間の極みだな。それはまぁいつものことだ。この人は本当にいろいろ駄目すぎる。駄場 沙央里という名前だが、時々俺の脳内では駄馬って呼んでる時あるし。
「それで、その、お願いしますね?」
「……はぁ…まぁできるだけやってみます」
「あ、ありがとうございます」
へにゃっと眉根を下げながら、そういう駄馬さんは、それだけで用は済んだとばかりに、平坦な胸に比べて無駄にデカイ尻を振りながらルンルンと帰っていった。
頼み事、しかも一方的なことをしに来て、それが自分のミスの穴埋めで、お礼の言葉だけという。社会人としては失格もいいところだろう。取引先にミスの補填させている感じか?
「はぁ……」
そして、この人の営業の武器は泣き落としだけだ。断るとギャン泣きしてうるさいから仕方なく依頼をこなす。事実としてこちらに負担はなく、別にきつくはないからなぁ……体が若いからか。
にしても俺は、小学校のころの祐と言い。どうしてもダメなところとかを見せながら頼ってこられると、断りにくいのだ。これだけ徳を積んだら来世はイケメンかな。と思いつつも俗っぽすぎる仕事に従事するのだった。
「もうすぐ夏っすね」
「……そうですね」
放課後のバイト先、何度注意してもこいつの私語は減らない。タメなのに後輩だし、なんか自分だけ敬語使ってるのが馬鹿らしくなってきた。実際大学生の先輩も時々敬語が抜けるし。
「アタシ、夏は彼氏と海でデートなんすよ」
「そうですか」
客こねーかな、と後輩の言葉を横に流しながらドアを見ても、ガラス越しの外は雨のせいか人一人歩いてない。さっさと家に帰りたいよな。
「先輩は、海とか無縁ですよねぇ?」
「まぁ、プールは行きますけどね」
「え!? お家大好きの先輩がそんな陽キャのイベントに!?」
「友人のグループと一緒に、というか竹之下さんの彼氏、病弱と言ってましたが調子良いんですか?」
この後輩は、こちらのツッコミに黙って「えっと、えっと」と視線がどこかに行く。まぁ強く踏み込まないでおく。仏心というものが俺の心にもあるのだ。
「それよりも、先週の発注。また間違えてましたよ。店長が気づく前に直しておきましたが」
「え? すみません……また、やっちゃってました」
途端に殊勝な態度になり、頭を下げる。客前でやるなって。いや客居ないけど。
「いえ、以前教えた方法が、システムのアプデで少し変わってたみたいですし、私の指導不足でもあります」
年が近いという理由で、店長からは最初の頃面倒を見るように言われ、シフトが合った時は色々教えていたのは事実だ。
まぁできる範囲でフォローはする。回り回って自分にも迷惑が来るから。
「あ、ありがとう……」
「後で確認してくださいね」
やっと来た客が、タオルとビニール傘を買って行くのを見送りつつ。
俺は早くバイトが終わるように時計をにらみつけるのだった。
早く、祐達の水着イベントを眺めたいなという一心で。




