女教師は環境によっては禁止
「はい、今週分ありがとうございます、来週もお願いしますね、本当にっ!」
「わかってます、ただそれならサボらず時間通り来てください」
「……おじゃましましたー」
「おい」
バタンとドアが締まるのを見送る。今週のおつとめの終了である。バイトのことではなく国の推進する大きなプロジェクトのだ。
まぁ偉そうな言い方だが、出したものを専用のキットに入れて週ごとに回収するだけである。
担当の回収に来た駄場さんという女性(そろそろアラサーと呼べなくなる年のはず)は下請けの民間の人だ。
精子の提供をお願いしますと営業で男の所をまわる仕事なのだが、男子中学生、今は高校生だが俺の評価値が高くて、ノルマの大部分になるのでサボりをしてる人でもある。
まぁ男性の個人情報を国が下請けに平気でポイしているとか、そういうのはいまさらどうでもいい。部屋の換気をしてより重要度の高い案件、祐のハーレムについて検討するべきだ。
現在鯉田姉妹ともいい感じになった祐は4股……と言うと聞こえが悪いので4人と交際している。いや変わらんな。現在もう一人条件に合いそうな人がいる。しかし、少々難しい立ち位置でもあるのだ。
なんか双方の会社巻き込んだ話をどんどん勧めて最近忙しい虎先輩とかも居るけど、彼女はそれとはまた違う形で、立場があるのだ。
結局、その後も考えてベッドで寝落ちして一晩経ってしまった。寝不足である。まぁ割りと体の若さでどうにかしてるが、デブ故に消耗が激しいのである。
「おい、出部谷! もうすこし真面目にできないのか!?」
その結果ただでさえ苦手な、翌日の体育は、散々な結果になっております。仕方ないですね。
「もう少しやる気出せよ、いくら男でぬるいとはいえ、授業なんだからな」
「う、うす、すみません」
男女比がバグっており、男性の多くは自宅学習なんて手段もあるこの社会で、共学校の男子の体育の授業は、少人数レッスンだ。
それでも年代によっては男子が2人しか居ないとかもあるので、俺含め4人いるうちのクラスはまだましな方だ。
ストレッチや走り込み、護身術などが中心で、チームスポーツなんかはほとんどない。まぁ前世さんも私立なら、体育自体が選択授業でダンスとかウェイトトレーニングとかに細分化してる欧米のカリキュラムを導入してるとこもあったって言ってる。
そんなものとは思う。というかなんでそんな事知ってるのに因数分解できなかったんだろう?
そして、今注意してきたのは、どう考えてもさぼりというか閑職扱いの男子体育の担当教師だ。まぁ彼女の本業は部活の顧問(女子柔道部)だから別にいいのだろう。
俺はデブで動けないタイプ。運動そのものが嫌いだから目をつけられているが、さぼりをせずに参加はしてるので、お小言程度で済む。
この先生は男子の運動音痴になんて興味ないし、良いのだろう。
適当にやり過ごして教室で早く休むべく廊下の端をダラダラ進んでいると、正面から見ていたのか別の先生が声をかけてくる。
「む、お前また吉谷先生から注意されたのか」
「あ、はい。そうです。はい山上先生」
運の悪いことに、女子体育の教師につかまってしまった。若手なのに生活指導も担当しており、年中ジャージを着ているという、テンプレな体育教師だ。
いわゆるできない奴ほどしっかり見るタイプで、管轄でもないのに俺が太りすぎだと注意してくる。
「だいたいなんだ、その腹は。もっと痩せろ運動して、間食を控えるようにと毎回言ってるではないかっ! というよりも顔色からしてまた夜更かしをしたな?」
「は、はい、すみません……」
「体型に関しては長期的に直せばいいが、最低限睡眠は取るようにと前に言ったな? 私は」
「はい、すみません」
頭を下げつつ顔を合わせないようにする。俯いて、山上先生の足元を見ているこっちの視界にも映り込む無駄にでけぇ乳に視線が行ってることがばれると、余計に面倒だからである。ジャージの前が開いてるのは閉まらないのではないかと俺の中でもっぱら噂だ。
山上先生は無駄に勘が鋭い。こっちのでかい腹を注意できるほどお前も細くないだろうという、俺の気持ちがこもった眼を見抜かれるリスクがあるからでもある。
本当なら適当に相手して、無視するなりすればいいのだが、
こいつは、祐の嫁候補の現状最後の一人とかなり仲が良いので、俺の悪評が伝わるのは避けたいのだ。
「お前は何時も、龍瀧と比較されて馬鹿にされてるんだぞ、男なら見返したいと思わないのか?」
「はい、すみません」
これに関してはむしろ、成績もそれなり以上でスポーツも抜群な祐がおかしいだけである。とも取れるが、実際の身体能力としてみれば、俺たちが一切釣り合ってないのは純然たる事実なので、悔しくもなく正当な評価だと思う。
ちなみに、この世界男女の筋力差はあんまりというかほぼない。個体差の方が大きい感覚だ。たぶん遺伝の過程でそうなったんじゃないかと思っている。
「全く……背筋を伸ばして、目を見て返事しろ」
「あ、は、はい、す、すみません」
言われたので仕方なく顔を上げれば、相変わらず暑苦しい顔が……というと失礼だが年の割には妙に可愛い系のそれがある。
でも、失礼ながら山上先生は彼氏いないなと思う。最低限という程度の化粧をした程度で年中ジャージだからだ。25,6くらいのはずなのに、多少老けてみるのはそのでけぇ乳がジャージとTシャツを引っ張ってみすぼらしくしてるからか、それとも今日のように暑い中でも、声も体も動かしてる為に汗をかいてて若干臭う女性の体臭からか。
「うわ、見て? またデブタが山上先生に怒られてる」
「そのまま辞めればいいのにね」
ギリギリ俺だけ聞こえるようにこちら向けて、そう言いながら通り過ぎていく女子生徒たち。多分特進クラスじゃない先輩だな。
共学につられて入ったけど成績が足らず3年間女子だけのクラスで育って、卑屈になったんだろう。
知恵が足りてないのはよくわかるからだ。なにせ
「おい、おまえら! 言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ!」
「す、すみません!」「なんでもないです!」
教師がいる前で、しかもこういうタイプの教師の前でやるのだ。内容までは聞こえなくとも、こっちを嘲りながらすれ違うのはよく見えるだろうに。
そう山上先生自体は非常に人間として真っ当なんだが、女性としては祐の傍においてもあまり意味がない。加えて別に俺の人生に何らプラスに寄与するわけではないのである。
ハーレム要員として一度検討したが、あまりにも女っ気が皆無というか乳とケツとふともものド派手な豊かさ位しかないのと。最後のハーレム候補をはじめとした、この学校の大半を占めるダメな教師勢と違って、生徒は生徒としか見てないのだ。
だから【=年齢】と仲いい生徒に揶揄されるのだ。本人は殆ど気にしてなさそうだが。
だが、そのハーレム候補の俺たちの担任と、一番の親友なので山上先生の印象を上げておく必要は、最低限はある。
非常に面倒だ。
「そ、それじゃあ、自分つぎのクラスがあるんで、し、失礼します、ふ、ふひぃ」
「あ、おい……全く」
注意がそれたのと事実時間的に考えれば当然なので、この場を後にする。まぁでも、数少ない共学で売ってる学校で、担任の先生が担当と生徒で数少ない男子生徒を秘めてはいるけど狙ってると考えれば、山上先生の方が人間としては素晴らしいのではないだろうか。
むしろうちの担任の方がだいぶあれな、だめな大人だよなと。
本当にメンバーに入れていいのか念のため再考しながら、俺は教室へと急いだ。
そう、最後の一人は俺と祐、ついでに華の担任の先生。
瀬戸川ゆかり先生。通称ゆかり先生だ。
度々話題に上げていたが、一先ず学校で考えている5人目。つまり最後の一人である。
彼女は、細いフレームの眼鏡をかけて後ろ髪をアップにしている、山上先生のような規格外ではないが、女性的な肉付きをされており。
前世さん曰く教育実習生で来たら、男子校なら2,30人に告られそう。
というタイプの女性だ。
ただ、共学のこの学校の教師をやってる以上優秀なのだが、時たまプリントの印刷枚数を間違えて足りなくなったりするとか、落としたペンに躓いて転ぶとか。あざといドジっ子要素を出してくる。
なによりも、なんで先生になったのかと聞かれたときに。聞いてきた女子生徒に対して冗談めかしてではあるが。
「かわいい男子生徒に見初めてもらって、さっさと寿退職する為よ」
と言って後で教頭にお小言をもらっていた。頭ピンクかよと思う。
色んな意味で親しみ深いタイプの先生で。年齢は山上先生とゆかり先生は同じはず、というか元同級生らしい。
ゆかり先生は服装や化粧で小綺麗にしてて、同性の生徒とから見ても人気もあるけど、教師としてどうなのかな、実際。
山上先生は服装や外見が女を捨ててるけど、教師としては非常に真っ当という、よくありそうな対照的なコンビだ。仲は良いけれど。
異性間だったら恋愛ドラマになるよね。と前世さんが言ってる。
んで、そんな彼女をメンバー候補に入れているのは、他のメンバーとは少々趣が違う理由からだ。
なんと祐が初日に、きれいな先生だったな。と俺と連れションの際に発言したのである。
思わず固まってしまった出来事だった。
なにせ祐は女性の容姿など褒めたことがなかったのだ。そりゃ似合ってるね、とか可愛いねとか面と向かっていう事はあるけど、お世辞と言うかマナーに近いやつだ。そうではなく、あの人良いよなぁという男子学生みたいな言い様だった。
その時の祐のその言葉に、俺はだいぶ衝撃を受けた。まじ、こいつ女性に対してきれいとか思う機能があったのというレベルだった。
そんなわけで1年かけていろいろ探った結果、ゆかり先生側もまんざらではない、というか結構狙っているのがわかり、あと俺に対しても別に普通の生徒として扱う程度には内心どうあれ、取り繕えるので、足切りを合格したわけである。
いや、俺は何様だという話ではあるが。でも祐が本当にシビアにその線を見ているのだ。横にいるからわかる。
まぁもっとシンプルに、祐はどうやら年上のお姉さんスキーだったんだなと意外に思い。体育の着替えの時にその手の話を振ったら、隣で雪之丞君がトラウマを併発して吐いていたのは楽しい思い出だろう。ごめんて、今度ジュース奢るよ。
彼はあと1年で、学校に教師以外の年上の女性がいなくなるから頑張ってほしいものだ。
さて、そんなある意味不良先生と距離を詰めるのは意外と簡単である。機会と大義名分があれば勝手に詰めるだろう。
予めゆかり先生の予定を把握しておいて、空いているであろう時間に
「先生、その俺わからないところがあって、ちょっと今日の放課後に時間あれば教えて欲しいんですが」
「え!? もちろんいいわよ、じゃあ放課後教室にね!!」
実際に成績が若干やばい祐を焚き付けておく。いや赤点とかそういうのじゃなくて、こいつは求められるハードルがめちゃくちゃ高いのだ。平均を上回る成績ではあるのだがね。文武両道とはいえ、勉強は必死にやって中の上であるからな。
「それじゃあ、お願いします」
「ふ、ふぃ、お、願いします」
そして3人での個別授業を開いてもらうのだ。
「……ええ、がんばりましょうね」
ドアを開けて入ってきた瞬間にキラッキラの笑顔がスンって成るのは見ものであった。あーあ化粧直してきてるな。髪が乾くならどこかの部室のシャワーを勝手に使ってきてたかもしれない。
さて、今回祐とゆかり先生を二人きりにしなかったのには勿論理由がある。シンプルにはこれをただの生徒とのドキドキイベント程度で終わらせてしまってはいけないからだ。
すでに4人居る女性のおかげで、祐自身守りに入っているところはある。実際もう少し居るべきだが充分な奥さんの一人も言えなくはないからだ。まだ結婚していないけど。
なので、今回の個人レッスン+俺ではしっかりとお互いが好意を持っていることを認識してもらう必要がある。なんかいい感じという停滞ではなく伸るにしろ反るにしろ決着が必要だ。
俺の役割は終結させることと、伸る確率をあげることである。勿論折を見て撤退する準備はあるわけで。
ともかく、俺と先生は色々思惑があった勉強会は放課後の空き教室で静かにスタートした。ゆかり先生は祐の一番苦手な英語の先生なので、当然英語の授業である。彼の一番得意な教科は保健体育である、色んな意味でな。
「それで、ここの訳なんですけど……」
「ああ、それはね主格が……」
なんだかんだ言って真面目な祐は本当に俺が今日先生あいてるらしいし、英語やっとけというアドバイスに従って、試験対策も兼ねてやっている。というか、先生に気軽に個人授業が頼めるって、割と歪んだ環境だよな。まぁそれは今更か。
そして、ゆかり先生も授業自体は真面目で、なおかつ生徒には全体的に甘めな人だ。こういった機会でしっかりと質問すれば、普通に真面目な英語の授業となる。
ただ、どうにも距離が近い。机に座る祐の向かいではなく、隣に机の側面から覗き込むように教えている。俺は祐を挟んで反対側に居るために、完全に個人授業のようになっている。
「あ、そうか。なるほど、じゃあここが……」
「そうそう、流石ね」
飲み込みの早い祐がスラスラと自分のノートに回答を書き込んでいるのを、横から覗き込むように見つめているゆかり先生。というか、だんだん顔が近くなっていってる。ガチ恋距離だな、これ。となれば
「フヒッ! せ、先生!! これなんですけどっ!」
「え!? あ、はい、何かな?」
声をかけて我に返す。驚いて一瞬だけ苛ついたのか顔をしかめてすぐに笑顔でこちらの机に回り込んでくる。これで良い。まだいい雰囲気に成るのは早い。先生の中で俺が完全におじゃま虫という感覚になるであろう、それで良い。ひとまずはヘイトを貯めるのである。
その後のゆる~く続いて、先生が祐といい感じに慣れば折を見て邪魔をするを繰り返す。そして、いくつか候補に入れていた狙っていたタイミングの内ひとつが来た。
「それにしても、祐君が使ってるノート丁寧にまとめられてるわね」
「あ、これですか?」
祐の机の上には自分のノート、参考書件問題集、そしてもう一冊ノートがある。時折先生に質問する前にペラペラとめくって読み返しているのだ。気づいて反応してもらえれば御の字であった。なにせ────
「これ、じ……彼がまとめてくれたんです」
「え? 出部谷君が? すごいわね、とてもわかり易いわよ、これ」
「ふ、フヒヒ、ど、どうも……」
先生が、俺が作った、祐の苦手な部分を中心にまとめた解説ノートである。自分の復習のついでに作ったが、丁寧に清書して見やすくまとめてみた。
そして若干遺憾なことに、ただでさえ高い先生への祐の好感度を更にあげるのは、俺への肯定的な発言させるのが一番なんじゃないか。という結論が出てしまったのだ。
実際、祐は俺を良く言う人にかなり優しい。二人で行った喫茶店とか飯屋で祐だけにサービスがあると、感謝はしてももう二度と行かないっぽいが。俺にもサービスがあったりたまに俺だけ沢山食いそうだから大盛り。なんてする店は結構通うのだ、こいつ。
俺は完全に将を射んとする者はまず馬を射よの、馬である。まぁ弟のように甘やかしてきた俺にも問題はあるのだろうな。
さて、それじゃあ仕上げだ。すこし区切りが良くなったタイミングで雑談のような軽い口調で切り出す。
「せ、先生は恋人とか、つ、作って辞めたりし、しますか?」
「え? 特に今そんな予定ないけど……なんか聞いたの?」
「い、いえ……祐と前にきれいな先生だから、卒業までにいなくなるんじゃって、は、話してて」
基本的に担任が3年間変わらないので、逆に途中でやめられると、それはそれで面倒なんだよね。というニュアンスで尋ねている。という雰囲気を建前にしての発言だ。
「な、なぁ? 祐」
「え、ああ、うん。ゆかり先生は美人で良い先生だから卒業まで、居てほしいです。俺も」
「え、あ、ありがとう……嬉しい」
はい、俺の露骨なパスをわかっているのか、わかっていないのか完璧にノートラップで決めてくれました。これで先生的には祐からかなりよく見られていることも自覚してくれたであろう。祐も俺が改めて先生を高評価していることを認識したであろう。
あとはチャンスが振ってくれば終わるだろうね。
というわけで予め用意していた、俺の電話の着信音と同じアラームの1分のタイマーを起動。
「あ、店長からだ……もしもし……はい……あ、行けます」
口実である、いや実際今日のシフトは祐に言わずに早入りにしているので、ちょうどよい時間でもある。
「すみません、先生。バイトのヘルプ頼まれたので行ってきます。祐はしっかり勉強しろよ?」
「あ、うん」
荷物をささっとまとめて教室を後にする。そろそろ西日がオレンジ色になって差し込んでくる教室は雰囲気も良いだろう。
いま良い先生と褒めたので、私は悪い先生と言って祐を取りに来るであろう。というか、此処で来ないなら、多分ハーレム入りは無理筋なので。お膳立ては此処までだ。最後は運否天賦というのは仕方ないがこれが一学生の限界点だ。
せめてものサポートとして、用意していた教室のドアに外から【模擬試験中・しずかに】と書いた張り紙をペタッと貼り付けておく。これで邪魔は入らないだろう。
まぁ、祐が今日卒業して階段を上ったとしても誤差だよ、誤差。華には悪いけど、こういうのは年功序列のほうが良いと思う。どうせ第一夫人は華だし。
先生という年上もしっかり奥さんに入れておけば、一先ず盤石の布陣になる。あとはまぁ社会出てからゆっくりと増やしつつ愛人になりそうな女性を見繕っていけば良い。
ここからは、作成ではなく維持という方向でタスクを処理していくつもりだ。
バイトが終わってスマホを見たら、祐からの怒りマークのスタンプと俺の張り紙の写真をみて、ミッションコンプリートを確信するのだった。
これで、登場人物は全員出たはず。




