~振り払っても君がいる~
「あ、あの私と付き合ってください」
懐かしい中学の教室、放課後一人で自習をしていた俺に話しかけてきたのは、クラスの女子。まぁまぁ上位カーストにいるはずの彼女が、突然何の用事と思えば、いきなり告白してくる。
まず俺はドアを見る、隠れて見ている人はいなさそうで、しっかりと閉じている。窓の方もベランダに誰かがいる感じもしない。
「何にな、何に?」
「その、デートに……だよ?」
かなり直球だ、これで荷物持ちや先生の雑用という線も消えた。勿論冗談めかして言っている可能性もあるであろうが……であるのならば。
「誰と一緒に?」
「も、勿論、ふ、二人で行きたいなっ!」
言葉の通りデート、つまり男女の逢引に誘われていることを確認した。言い間違いや勘違いをさせようとする可能性は更に低くなった。となるとこれで考えられるのは。
「どこでツーショット取ればいい?」
「え? いや、そうじゃ、えっと。そうじゃなくてね?」
指定された場所でのツーショットを送るのが証拠ではないのか。ならばなんだ?どこかに行った写真そのものとかか?
「祐のことでなにか聞きたいなら、この場で聞きなよ」
それかもしくは情報が目的だろう。そう結論付けてみれば、目の前の彼女は、顔を引きつらせて、首を横に振っている。
「ゆ、ゆうくんじゃないし、君にその、話があるんだっ!」
「……わかった」
罰ゲームで告白して来いの線は否定しきれない、一定期間キープするのか? それほど重いものを仕掛けるような上下関係のあるグループに所属してたり立ち位置ではなかったはず。カーストの変動を見逃していたとしても急すぎる。
「それじゃあ、この後、時間ある?」
「……多少なら問題はない」
速急な誘いである。それでいて祐の情報欲しさでもない。となれば、あと可能性は────
そう考えながらも、俺は彼女についていき教室を後にした。
「ですから、ぜひ我々のグループにご提供いただければ!」
「……いえ、自分は正式な国の認可のある組織に卸していますので」
やはり、勧誘系か。
誘導されるがままに入ったファミレスで、4人掛けの席に通されて。クラスメイトの彼女は目の前ではなく、少し横にずれて座ったあと。どこかにメッセージを送ると少しして目の前に見知らぬ女性が座った。
そして始まった、いつものような勧誘話である。
独創性はないしつまらない。目の前の彼女も、つまらなさそうにスマホをいじっている。お友達を名乗っていたので、親ではないのだろう。社会的なつながりか、親の影響によるものか。可哀想だが、同情はしない。
どこの世界も変わんねーなぁこの手のは。と前世さんが言ってるのに頷きつつ。いい加減飽きてきたので席を立つ。
「興味深いお話でしたが、自分には結構です」
「あ、ちょっと、お待ちください」
まぁ宗教じゃなくて、自称NGOの活動協力だったのが意外だったけど。
そもそも告白してきたクラスメイトは名前も名乗らなかったし、いや普通告白とかデートする段階なら双方の名前を知っているのか。俺の記憶にも一応名簿上の名前はあるが、お互い呼びあったことはあっただろうか?
特に罰ゲーム告白やらの知見に関して、アップデートはできないまま、ファミレスを後にする。
まぁ馬鹿にするためやってきた奴らを、エスカレート防止の為に報復するのは手間だったし何度もやりたくないから、そういう意味では楽なものだったな。
そんな風に思いながらおやつ代が浮いた喜びを噛み締めて帰ったはずだ……。
もっと昔の記憶だ。
【邪魔】
【消えて】
【祐くんに近づかないで】
【学校に来ないで】
【気持ち悪い】
【捨て子のくせに】
全く痛くも痒くもない言葉をかけられている俺。
この頃は平均より少しだけ背は高めだったが、流石に年齢的に周りの女子のほうが背が高いのが普通だった。小学校低学年のころから、祐は人気者で。隣のクラスの子も見に来ていたくらいだったなぁ。
男子同士だから、何をするのも一緒だった。いつも年上の児童につかまってた雪之丞君は除いて、男子は2人だけだったし、ずっと一緒に遊んでいた。時折華が混ざって三人になっていったけれども。
だから華以外の女の子には、いつものようにそう言われ続けた。
今よりももっと内向的だった祐は、そんな俺を時折心配そうに見るだけだったが、仕方ないだろう。このくらいの年ならば大きい女の子たちは怖いだろう。
まぁガキの戯言っていっても、うざいもんはうざいよね。
前世さんが言う通りだけど、俺が彼女たちの前に立って、祐が俺のでかい体の後ろに隠れるのがもう定位置になっていた。
体育の時間で祐が大活躍をして俺がドベを走れば歓声が上がり、毎日おうちで遊びましょと声をかけられる祐の腕を引っ張って、女子を振り切り祐の家まで送り届けたり、華の家に連れて行った。まるで保護者だなぁと思いはするが、正直可愛い弟のように見ていたところは否定できない。
社長令息としての勉強や習い事、華もお稽古などのない日。そんな時間があう日は夕方まで遊んで、俺は家に帰った。楽しい思い出だ。
「ただいま」
挨拶は帰ってこない。オートロックのマンションだが誰もいない家。前世さんが「ろこつすぎー」と言ってるけど、こういう世界なのだ。男の子一人で道を歩くのは割りと推奨されてなくて、ボランティアの保護者が立っているけれども。家に帰ればまぁ問題ない判断なのだろう。
朝登校前に出したゴミは消えて、部屋はきれいになっているし、料理も作り置きがある。大量の作り置きで、明日の昼までに余ったら破棄されるだろう。
この世界の児童福祉はゆがんでいる。男子を育てられない家は殆どない。田舎なんかの男児信仰は今でもかなりある。そういう社会だ。
しかし、男子を政府に譲り渡すと報奨金が出る。政府の高度な教育プログラムを受けて育成して社会に奉仕する、社会を持続させるべき活動のできる人材を育てる。そんな耳障りのよいものが推進されているのだ。体の良い児童売買だ、反吐が出る。
だが、俺はまさにその口なのだ。僅かな金に目がくらんだのか。それとも望まないタイミングかなにかの出産だったのか。それとも別の理由なのか。今となってはわからないし知りたいとも思えない。
なにせ、男性が複数の結婚を求められるのと同時に、女性もある程度の年齢までに出産を求められる。相手が居ないなら精子バンクからでも良いから産めという前世のいろいろな団体に中指を立てて唾を吐く所業だ。心当たりが多すぎる。
話を戻そう、そうして政府に渡された彼らは、種馬となるべく教育を受ける。
対外的には、社会の奉仕者たるべく健全な教育を施される機関と謳っているけれども。実態は足りなすぎる男を補うためのそれであり、もっと酷い事に、若い男が欲しい上級様向けのファクトリーである。
各地にある全寮制のそれは、幼少期から刷り込みというか、洗脳そのものを施す。精通を迎えるか、ひどい時はその前に【出荷】されるという仕組みだ。
救えないことに、この制度のおかげで人口が維持されているのも事実だ。年間万単位で生まれる孤児の内1割、仮に1000人が此処に入り、精力の全盛期を全てそういった行為に当てれば毎日一人を義務として、着床出産まで2割としても年間7万人だ。1%が望まれない子で種馬教育を受ければサイクルとして充分以上に成立する。
男女比が歪んだ世界で、倫理観も科学も発達は当然歪むわけだ。
俺はその教育、もとい洗脳が効かなかったのだ。種馬でも容姿がそこまででなければバンクの方にまわるが、そこにすらいかなかった数少ない例外の俺は、里親制度みたいな形で、ここで暮らしている。書類上の保護者とはあったこともない。
俺がここに生かされているのは、単純に男であるからで、そしてここにいるのは都合がよくないからだ。勝手に生きてどこかで子供を作れば良し。種馬教育に関しても正直どこの国でも似たりよったりで割りと暗黙の了解みたいなところがある。告発なんかは無意味だ、人類の危機だからな。
なので、俺は今日も3人分用意されている飯を一人で食う。この家は書類上3人ぐらしだから。
定期的に国の後見人だかが様子を見に来るが、小学校の入学式に来て以来見てはない。
まぁ俺が自活能力を示しすぎたからだ。
これで知性も天才だったら、別の道もあったのになぁ。
前世さんが申し訳なさそうにそう言う。
種馬教育がうまく行かなくとも、天才早熟の少年だったから、俺は国に預けられながらもただの種馬にならなかった。
しかし、色々テストの結果、勉学自体は優秀だが規格外ではなかったために、宙ぶらりんな対応になった。
まぁ今さらだ、プリントに書かれた自分の名前を見て、忌々し気に丸める。
こんな社会に生まれて一度目をつけられた時点で、政府としては種馬にして、必要に応じて管理されるだけなのだろう。
洗脳が効かず、本物の天才でもなかった俺は、幸運だった。友達ができて、普通に学校に通える。あの場所に居た男の子達の表情は今でも時折夢に出るほどだから。
そんな、俺の名前は
出部谷 十三
苗字は知らないが、その年のその支部で13人目の預けられた子供だったからだろう。あの教育の果に必要に応じて源氏名がつくらしいが、その時にまともな名前になるのだ。だからこんな名前である。クソみたいな名前だ。ブタ呼ばわりのが感情がこもっててましだと思えるほどに。
まったくもって腹立たしいが、男女比が歪んだ世界で、男女平等が真に成立し得る訳がないだろうに。
そんな歪んだ世界であるのはわかっているけれども。
食事を無駄にしないために、俺は時間をかけてゆっくりと食事を続ける。全部しっかり食べ終わるまで。
どうせ宿題以外やることがない子供なのだから。
「先輩、ちょっといいですか?」
そろそろバイトも終わろうという時間。この時間のコンビニは空いているのもあり、隣でレジを打っている奴が声をかけてくる。
「……なんですか、竹之下さん」
今は勤務中で、周りにお客様がいないかを確認して答える。
ちらっと一度胸元を確認する。名札に書いてある名前を見るためだ。一応は知っているけども、正直フルネームは、シフト票にあったが漢字が読めなかったから曖昧だ。
「今週末空いてますかぁ?」
にやにやと笑いながら聞いてくるのを無視して考える。土曜日はもとよりバイトで、日曜日は午前中なら空いているか。予定はしっかり管理しないと、必要な時に動けないので今週くらいはすぐ出てくる。
「日曜の午前中は空いていますね」
「へー、そうですかぁ……じゃあー?」
口角を上げながら、ニヤニヤと笑みをうかべてこっちを見てくるのがうざったいが、ここでドアが開き客が入ってくる。
すぐに向き直っていらっしゃいませーといえば。そのままレジに来た客に煙草を売り渡して、ありがとうございました~と帰っていったのを見送ってから。
「それで、シフト変わって欲しいのですか?」
そう言ってやれば、後輩はにやにや浮かべていた笑みを消して、つまらなそうに口を開く。
「なんだぁ、先輩舞い上がってどこ行く? とか聞いてきたらからかおうと思っていたんですけどぉ」
「慣れていますから、竹之下さん。それと裏以外では語尾はしっかり発声して下さい」
「はいはい、わかりましたぁ。あと、シフト日曜なら別にいいです。代わらなくて」
「そうですか」
時々こうして、面倒な絡みをするのが本当に面倒だ。しかし間もなく終わるなと、壁の時計を見ていると、珍しい客が入ってくる。
「やぁ、もうあがりだよね?」
「祐? どうした……どうなさいました?」
外の駐車場に泊まった黒いごつい車から降りてきたのは祐だった。なんでも用事で近くまで来ていたので。ついでに拾っていこうかと思って来てくれたのである。正直微妙に距離が有るのでありがたい。自転車通勤が禁止なのが面倒なのである。
最もこの社会でも俺が一人で出歩いてなんらかの問題があるわけでは、正直ないのだが。
「それじゃあ、車でまってるよ」
「おう、後10分待っててくれ」
そう言ってレジ横のガムを買って戻っていく。俺も引き継ぎを適当に済ませてぱぱっと着替えて祐の車へと向かうことにする。
「それじゃ、おつかれ」
「え、あ、お、お疲れ様です?」
なにやらぼーっとしている竹之下を横目に。
「え、なにあれ、本物のイケメン?……実在したんだ……」
親友枠くんの名前がやっと出ました。
出部谷君です。デブかブタで悩み両方になりました。
作者はぶたくんって呼んでます。




