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男女比偏った世界ならモテるという甘えた考えは捨てろ  作者: HIGU
第2幕

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自己満足と卑屈-4

「お邪魔しますぅ」


「はい、どうぞ」


金曜日の夜、駄場さんが俺の家に来た。いつもなら水曜日とかに回収に来るけど、今週はずらしてもらったのだ。それは勿論先々週の一件をしっかり話すためだ。

連休明けの学校で受験生なのに授業が若干集中できないほどに、俺の頭はから回っていた。雪之丞くんからは相談ダイアルの書かれたチラシを貰った程に。


「……スーツなんですね」


「ええ、まあ。退勤後ですのでぇ」


撮影で使ってたような、多分1,2サイズ小さいピッチリしたのではなくて、普通のお仕事用のレディーススーツだ……でも少し窮屈そうだな。


一先ずリビングに招いて、今週分を渡すことにした。


「あのぉ……出部谷さん? これ……」


「はい、今週分です」


「予備で渡しておいた分も全部埋まってますね?」


「はい」


まぁ、なんだ。彼女のことを考えるということは、朧気だけど新鮮な先々週のそれと、今までの撮影で冷静に見るとエグいことをシていたという事実。そして一応の予備ですと撮影データの一部を今まで渡されていたという事を思い出し改めて確認と。

まぁ、ずっとイライラしてしまって大変だったのだ。即物的かつまるでお金で買っているようで嫌悪感もあるが。ある種のお礼である、この50回分は。


「あ、ありがとうございますぅ……鞄入るかな?」


いそいそと受け取ったものをしまっていく駄場さん。聞きたいことも話したいこともある。大人だからなのか。一切触らないで話しているけど。リビングまで上がってきてくれた時点で、俺と腰を据えた話があるのは同意してくれているはずだ。


「それであの、駄場さん……」


「さ、先にシャワー借りても良いですかぁ!? さ、流石に一日仕事したのでぇ……」


「…………」


「あ、あのぉ?」


えーと、これはつまりなんというか。彼女は俺の家に……ヤリにきたつもりなのだろうか。いや、まぁその……期待がなかったわけでは全然ないのだが。それにしても、なんというか、その……よしっ!


「どうぞ、お使い下さい」


「ありがとうございますぅ」


普通に許可を出した、一緒に入りましょうとか、シャワーなんて入らなくてもOKですよとかは。流石に上級者すぎると思ったから。とかではなく、少し時間が欲しかった。


しっかりと俺の考えを伝えて、謝る必要があるから。




まぁ、そんな俺の決意なんて、風呂上がりに下着とバスタオルだけで出てきた駄場さんが、ソファーで考え込んでる俺の横に座って、ベッド行きませんか? ってされてすぐに吹っ飛んだけど。





2回ほど終えて、シャワーを……今度は一緒に入って……まさに流されたわけだけど。二人共空腹の限界だったので、俺が作り置きしていたご飯を温めて二人で食べている。駄場さんは明日休みで終電で帰れば良いらしいから、というよりもお腹減ってそれどころではないという感じだったが。


「……美味しいですね」


「ありがとうございます」


目を丸くして、そしてほっぺたも丸くして食べる駄場さん。褒めてくれるのはありがたいが正直レシピ通りに作っただけだ。色々考えるのが面倒なので料理本と食料が全部届くサービスに入っている。外食よりはずっと安いのと、食べすぎないのと献立を考える苦労がないので。


「駄場さんにお話があります」


「はい、何でしょうか? 出部谷さん」


ちゃっかりと替えの藍色の下着に着替えてた彼女は、既にスーツ姿だ。メイクもいつ直してるのかわからないけど綺麗なままで。もしかしてシャワーで顔と髪を濡らさないで入ってるのか? なんて見当違いな方向に進んでいく思考を制する。


「これからの話です、その俺はまだ学生なので……」


「はいっ! 大丈夫ですよぉ何も気にしなくても」


「いえ、そのそうではなくてですね」


流石に俺もわかってきた。多分この話をしっかりと白黒つけることを彼女は嫌がっている。というよりも避けようとしている。大人な対応なんじゃなくて、何かしら触れてほしくないことがあるから、話題をそらしているんだ。


「わたしは大人ですから、責任とか所帯とかそういうのは考えなくても平気ですよ」


「そういうことじゃ……なくて……」


確かに彼女は働いていて、極論で言えば妊娠さえしなければ勝手に生活スタイルを維持できて、大きく変える必要もない人だ。だから俺とどうこうなっても、揺るがない基盤をもっている。


「出部谷さんは真面目ですから、深刻に考えすぎようとしてます、わたしは一人で生きていけますから、無理に背負う必要はないです、それに高校をやめて働きますとは、言えませんよね?」


「……はい、それは、できません」


そうだ、それは簡単には約束できない。言い方は悪いけど、もしこれが純で、そして妊娠したとしたら。俺は高校をやめてでも責任を取らないといけないかもしれないけど。そうするだろうけど。

それじゃあ駄場さんにするかと言われれば、最終的にはそうかもしれないが、少なくともその踏ん切りが遅いのは、内心自覚してしまっている。


「嘘はつけないのならば、できることを考えるだけで十分です。何れは養うとか幸せにするとか、先のことを保証する無責任な人じゃないですものね?」


「俺は、とても貴女に感謝しています、貴女がいなければ、多分俺はもっと、ひねくれて、もしかしたら祐や華にだって噛みつくような人間になっていたかもしれない」


俺は目に見える嘘は付きたくない。心にもないことを紡いで振り向かせたら、それは綻びになる。男女という関係ではなく、人間という集団はそういうものだ。だから軽々しくいえないけど、それでも。駄場さんには本当にお世話になっている。

俺が悪態をついたり弱音を吐いたりしながら、俺に頼ってくれる人は他にいなかったから。守るべき相手であった祐や、支えてあげたい華とは違う、そんな人だったから。


「貴女が俺を支えてくれていたから、毒を受け止めてくれるような人だから、今笑っていられるんです」


「ふふっ、ちょっと毒が強すぎますから、他の女の子と話す時はもっと希釈してくださいね?」


冗談めかして笑っている駄場さん。伝わっているのかはわからないけれど。


「はい。それはもちろん。だからその……もっと、駄場さんの事を知りたいんです」


「……ふふっ、おねだりが上手になりましたねぇ、わたしから学んだのでしょうか?」


俺のその言葉は駄場さんにはどう受け止められたのだろうか? すっと彼女の手が伸びてきて頭を撫でられる。俺が何か言おうにも、そのまま立ち上がり手を惹かれて寝室へと誘われる。


「もっと、教え合いましょうね?」


「……え、あの」


そういうことじゃぁ、ないんだけど。そんな言葉はついぞ俺の口から出ないで。導かれるままに、また寝室へと向かうことになる。彼女の思惑は、何一つ俺にわからないまま。




















「年を取って眠りが浅くなる事を感謝するとは思いませんでした」


何かを、おおよそは見当がつく、わたしへの質問をのらりくらりとかわしながら。結局夕食の後も若さの勢いに任せて彼のものとなりました。

そんな、とても幸せな時間も終わり、流石に疲れたのか横で眠る出部谷さんの顔を少しだけ撫でて、わたしは寝台から降ります。既に始発は動いているでしょうか?


彼がわたしをきっと受け入れる為の確認か告白かをしてくれるような、そんな気配を感じていました。もしかしたら、もう来ないでくださいの拒絶かも知れませんが、それならそれで好都合ではありました。心は耐えきれないかも知れませんが。


まだ、たった2日だけの彼との甘い関係ですが、すでにわたしの乏しい経験では、教えられるようなことはなく、リードできることもなくなってしまいました。貧しく灰色の人生に嫌気が差さないことはないですが、その果に出部谷さんと会えたのですから不満などありません。


「さようなら……出部谷さん」


今日で彼とお会いするのは、最後にします。仕事ももう出勤は殆どなく引き継ぎも済ませてます。契約顧客が少ないからあっさりでした。スマートフォンも機種変にともない、いくつかのサービスのアカウントも変えてしまいます。


これが、完全な自己満足だというのもわかっています。きっと彼ならば私の前の望み通り、老いるまで傍において、いずれ捨てるまで大事にしてくださることも。でも、彼と一緒にいて老いていく自分に耐えられるのか、わからなくなってしまいました。

彼のことを好きな他の子と比較されて、劣っていると見られた時に、彼を恨まない自信が持てなくなってしまいました。


こんな風に、わたしはとても自分で逃げ道を作るのが上手い、だからこそ一意専心で何かを信じるということも出来ない。


せめてまだ、彼が愛せる外見と、人柄の自分を見せて。思い出の中で無限に美化されて残るのならば、なんて考えてしまうのですから。


買ったは良いけれど、ほとんど使うことのなかったルージュを取り出す、一度やってみたかった、これで洗面所にメッセージを残すというのを。格好良いその女性の生き様に憧れたから。


忍び足で洗面所に向かい、さて何を書くかと少し悩んでしまいます。お礼は伝えるとしてそれでいて、わたしを忘れない程度の覚えててもらいつつ、探さないでもらい、さらに可愛い女の子を見つけて幸せになって欲しい。


「……文章を推敲してくるべきでしたねぇ」


またやってしまった。どうにも衝動で行動して後悔することが多いのはわたしの悪癖の一つですね。まぁ手紙を認めて、その在処を書いて、お礼の一言でも残せばよいでしょう。さようならの文字だけは書いておき、踵を返してリビングに戻りソファをお借りして文字を書こうと鞄を開けば


「似合わないから、そういうの」


後ろから髪の毛を乱暴に引っつかまれて、ソファーに引き倒される。痛みと驚きと恐怖で強張った体を、抑え込まれるように覆いかぶさる影は。


「また、何か抱え込んでるよね」


「……で、出部谷さん?」


さっきまで寝室で良く寝ていらっしゃった、出部谷さんでした。昨夜は合わせて数え切れないほど出されていたので、絶対に起きてこないと思っていました。


「まぁいいや。もう俺も怒ったから、謝るのはやめる」


「あ、あのぉ……?」


ソファの肘掛けに仰向けに横たわるわたしの顔の上から、彼はまっすぐと見下ろして。もう逃げられないことは悟っていますが、それでもとばかりに視線をそらそうとすれば。両手で頬を挟まれて、顔を固定されていまう。


「俺、先々週に駄場さんとシた後。純に、後輩にね告白された」


「まぁ、おめでとうございます」


状況が非日常過ぎて、普通に返してしまう。今まで自分がやろうとしていたことも。今彼にされていることも、頭に入ってこないで。また只々流されるままに今の良いことだけを拾おうとする。

そうか、やっぱりわたしの予想は正しくて、ある意味では一番のタイミングで彼の初めてをかっさらった酷い女として記憶にのこれるのかと。暗い喜びが湧いてくる。


「卒業したら婚姻を結ぶ事になったから、駄場さんの件も話した」


「え? だ、大丈夫でしたか?」


それは、思春期の高校生の女の子には大分酷ではないだろうか? 自分でやっておいてどの口がなんて棚に上げて、今はただ彼の言葉に素直に反応だけを返していく。


「……平気そうにしてたけど、ほんの少しだけ泣かれた。でも、約束を反故にしないなら許すって言われた」


「そうですか……強い方ですね、出部谷さんにお似合いです」


まぁ、あまり気にしない娘も多い。最後に自分のところにいるのならばそれで良いというのは、結構主流な意見ですし。わたしもそう思います。それはそれとして初めては頂戴しましたが。


「駄場さんは、俺のこと嫌いだから、もう顔も見たくないし忘れたいから、体を使ってまで仕事をした事実を見たくないから。だから出てこうとしたんだよね」


「ち、違いますぅ!!」


「子供で面倒だから、年下の相手は疲れるから。丁度よい押し付け先が出来たから。思い出したくもないから、俺はもういらないんだよね?」


「何を言ってるんですかぁ! そんなわけないでしょう!?」


だから、そんな。彼の言葉に反射的に。行かないでって言われても断れる心構えはできていたのに。

彼に自信がついてきて、どんどんいい顔をするようになってきた。そんな出部谷さんが。ツラツラと出部谷さんを否定するような言葉を言うのは、とても耐えられなかった。

わたしの中で一生の残り続ける男の子が、わたしが否定できない人に貶められているのは、とても聞けなかった。


わたしは、愚かな女だから。見えている地雷だとしても、踏んでしまうような。そんな馬鹿な女ですから。少しだけ、口角を上げながら私はそう言って彼を見つめ続けた。





















正直な所、結構ギリギリだった。夕方から休憩を挟んで何回もしてものすごく疲れていたから。ちょっとだけの物音で起きれたのは、偏に今まで不定期に追加発注をかけてくれたおかげで。短期間で何回もすることが普通になるように長年トレーニングを積む羽目になった、駄目な大人のおかげである。


さようならと小さく告げられて、あぁ帰るのかなぁと思い、見送ろうと後ろからついていけば、洗面所にルージュでなにか書き出した瞬間に察した。これは、身を引こうとする自己満足系の面倒くさいヒロインムーブだと。俺はいろんな創作物から学んでいたのだ。


正直駄場さんには似合わない。クールな女性とかミステリアスな少女がやるアクションだが、何故か彼女はそうしようとしていた。

後ろから声をかけようとしたら、どうやら文章の推敲をするためにリビングに戻ってきたので、一度寝室に隠れて。背後から襲いかかった。


正直かなりむかついていたから。さんざんこっちの言い分を聞こうともしないで。エッチだけシてポイかよって。だからまぁ、思いっきり偽悪的に自分を否定してやった。

あっさり乗ってくる辺り、本当にこの人はダメダメだなぁって思った。


本当に彼女が俺のことを好きかは実のところ自信がなかった。でも、祐が彼女はきっと君が好きって言ってくれたから。それに賭けようと思ったんだ。

俺は駄場さんに好いてもらえる要素に全くもって心当たりはないから。都合の良い人間だなぁくらいに思われていても、金づる感覚で見てもらっていても。手のかかる弟程度でも、全然不思議じゃないとすら思えるから。

でも好かれていたなら当然嬉しいし、だからこそ賭けてみようと思った。俺はあいつになら全額で賭けられるから。


「それじゃあ、勝手にいなくなったりしないでよ。俺まだ高校生だけど、子供に見えると思うけど! 駄場さんと一緒に居たい、これからもずっと」


「……それは、嬉しいけどぉ。わたしは17も年上で……きっと直ぐにおばさんになるのにぃ」


それは、俺も思っている。そう年の差だけは変えられないから。


「でも、俺が捨てるまでは一緒にいてくれるんだろ? じゃあ、ずっと一緒にいればいいじゃないか」


「え?」


祐から聞いた時はあまりわからなかったけれど、じっくり考えてでもそれは一種の看取られと変わらないんじゃないかって思った。

強い感情で見送られたいというのは、多分そういうことだ。あとはもう性癖同士のぶつかり合いでしかないだろうから。


「俺は、女の人を捨てられるほど。贅沢な人間じゃないからさ、捨ててあげられないと思う」


「で、でも……その時には」


「駄場さんは外見を気にしないんでしょ? 祐の方が顔好みなのに、俺を選んだんだよね? 俺も外見はあまり頓着しないから」


「あ、あぅ……あの、あのね? 出部谷さん」


こういう小難しいことを言ってくる面倒な人には、本人の言葉を当てるのが良いのである。

肉体関係になって、正直あの日言ってた「祐の方が格好良い」って言葉になにかこう、少し喉に引っかかるようになって覚えていたから。


「告白された竹之下さんに、もう一人の鳥槇さんもいい娘じゃない? 素敵な娘だよ?」


まだ、うだうだ続けるようだ。納得するまでは付き合うつもりだけれど。



「でも、最初に俺を見てくれたのは駄場さんだ、それを考えちゃ駄目なのか?」


「他の子みたいに、若くないし。その、胸もないよぉ? わたし」


「でも、お尻は大きいのが好きだ」


「こ、子供だって、他の娘よりたくさん産めないよぉ?」


「こんな社会の為に産む必要はないから、欲しい数でいい」


「時々束縛するような、面倒で意地悪で偏屈な大人だよぉ?」


「最初から知ってる」


まぁ、うん。質問している割に顔が笑ってる。本当にずるくて、駄目な女の人だ。でも、そういう所が俺は気に入ってるんだ。

この人といると、自分を格好良くしなきゃっていう気持ちが萎んで、そのままで良いやって思えて楽になれるんだ。


「というか、駄場さん。俺の初めて貰っておいて、ポイするの?」


「あ、いやその……し、しません……できません」


「はい、よく言えました」


まぁうん。この人にさ。格好良い去り方なんてできないんだよ。変な感じなんだけど。駄場さんは俺がいないと駄目なんだ。

人間的な性能とかじゃなくて、から回るというか暴走するというか。そんな、しょうがない人なんだよね。


「で、出部谷さん」


「なんですか?」


「社会人になるまで、他の子にはちゃんと避妊するんですよぉ? だめですからねぇ?」


ほら、こんな風にへんな事ばっかり考えてるんだから。きっと頭が良くて、色々考えるから。余計なことまで気を回しちゃうんだ。その分俺に甘えてイーブンになるならそれでいいよ。


「はいはい、わかってます」


「その分、気兼ねなくわたしを使ってくださいねぇ? 呼べば何時でも来ますから」


遠回しなアピールだったのかもしれない。まぁなんでもいい。この人に関しては。まっすぐ向き合ってきたんだ。これからもそうすればいいだけ。見限られたら、俺が悪かっただけ。







「なにせ、わたしもうお仕事やめましたからねっ!! どうしようぅ!」


「……再就職先探しましょうね?」


どこか、締まらないし格好もつかないけど。この人はなんだかんだで俺のそばを離れない。そういう確信があるから。ゆっくりなるべきようになるだろうって。そう思った。




ぶた君の認識する駄場さんと、駄場さんの内面はずれているけど。

割れ鍋に綴じ蓋なのでした。 そんなお話です。

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[良い点] 割れ鍋に綴じ蓋 まさにひねくれ者同士のカップルは見てて気持ちいですね
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