先行制圧を仕掛けて良いのは何を返されても良い覚悟を持つ者だけだ
1部最終話です。
「どうした、出部谷。顔色が優れないぞ?」
「あ、山上先生」
善は急げの精神で早速翌日の放課後。もうだいぶ秋も深くなってきたのにジャージの山上先生のもとへとやってきた。この時間は生徒指導室にいることはわかっていたので入ってみると、即こちらの心配をしてくる。本当に生徒をよく見ている。いい先生だと思う。
「何のようだ? 悩みの相談か? 」
「はい、その通りです」
男子生徒には優先的に巡回のカウンセラー(男性)に相談できる制度なんかもあったりするが俺は利用したことは無い。俺の知る限り雪之丞君がたまに使っている程度である。
まぁこういう悩みってのは知らない人だから話せるみたいのもあるのはわかるが、俺はそうではないのだ。
「実は────」
「ふむ……」
最近なんか周りの人が変な行動をとっていることを相談する。バイトの元同僚が突然家に尋ねて来たのに何もせずに帰って行ったり、部屋に普通にほぼ不法侵入で来る営業の人がいたりと。
取巻き先輩は別に普通だが。受験のストレスをこれでもかと他人である俺にぶつけてくることと、俺のこと好ましくないのに、虎先輩の為にとはいえ部屋に来るのは割に合わないのではと思っていることも相談した。
「顕在化したのは昨日ですが、見落としている何かがあったかも知れません」
俺が今心配なのは、これがなにか祐を巡る駆け引きに巻き込まれていて、俺が感知していない場合だ。女性が勝手に増えていくのは良いが、俺が世話を焼いたと判断されれば、事実上の非戦協定が破られることになる。濡れ衣破壊工作の因縁をふっかけられてはたまったものではない。
何よりも、俺の感知し得ないところで、祐に良い女性ができるのは良いとしても、それが望ましくない人間であるのは耐え難い。
俺は視野が狭いので、こういったことは有識者に意見を聞くべきだと、素直に判断したのだ。
「なるほど……まず言うとすれば」
「はい」
理解してくれたのか、目の前の生徒用の椅子に少し窮屈そうに座る山上先生は腕組のまま口を開く。腕に乗っかってとんでもないことになっているのが視界に入るのを、メガネを外してメモ帳を取り出すことで、事なきを得る。
「お前は0か10で考えすぎだな」
「……と言いますと」
どうやら、まず俺の思考自体に問題が合ったようだ。俺ほどクリティカルシンキングができるやつはそういないという自負がある、自分の考えなど微塵も信じていないから。なのでまずは素直に聞いてみる。
「好きならとにかく何でも肯定をする、嫌いなら相手の全てを否定する。そんなシンプルならば、世の中はもっと良くなるか滅んでる。人間はそんなに明確じゃない、アンビバレントな人の方が世の中多いくらいだ」
「単純じゃない……」
アンビバレント……ってなんだっけ? 確か、あれだっけ? 普通サイズの乳が好きじゃなくて、巨乳と貧乳【が】好きみたいなやつだった気がする。
「好きでなくともなんとなく興味がある人もいれば、嫌いじゃない程度の人でも気分によっては相手に対してそれなりに好意的な行動をとることもある。嫌いな人に施しをする時もある」
「あー、気まぐれという事ですか」
なんとなく暇だったから、近くに来たついでという事なのだろうか。竹之下とは正直なところ、小言の多い先輩とそれに対抗してうざ絡みをしてくる後輩という感じで、あまり良い関係だったとは思えない。
新人の頃は口数が少なかったあいつに、とにかくつきっきりで仕事を教えていたらついてくるようになったが、いつの間にか口を開いたらああだったので。
駄場さんは、もうわからない。ただあの人は昔から俺には結構甘いというか好意的だ。まぁ大事な取引相手だからなのもあるけど。まぁドジな人だからな考えが読めない。一回未開封証明ができないキット渡された時あったし、すぐ気がついたけど。
「そういう日もあるし、なんとなくで動く時もある。すべての行動に意味があり一貫性があるなんてのは、よっぽど狂った奴だけだ」
「深く考えない方がいいってことですか」
なんとなくわかってきた。要は、別に何でもないけど、そういう事があったと思えという事だろう。
「そこだぞ、出部谷」
「え、えっと?」
「お前はまた結論を、いや極論を出そうとした」
俺が今、納得したのに。むしろ山上先生は誤答をした生徒を嗜めるように、机に乗り出して小突いてきた。うわぁ、乗ってひろがって……しゅごい……。
「何もなかったでもこういう意図があったでもなくて、なんかあったかもしれないなぁ、でもわからない。そのくらいで受け取れという事だ。さっきも言ったがお前はなんでも0と10でしか見てないんだよ」
「……あぁ、そうかぁ」
そういわれてやっと、つまりまだ途中ってことかなって考えることが出来た。
確かに年齢二桁になったくらいにはもう、周囲のことを敵と味方とはっきり分けて見てた。この行動は攻撃なのか、それとも支援なのかって。祐に対する行動や俺へのその余波に目を光らせていたな。とも思う。
そういう何かしらの一手じゃなくて、ただなんとなくで動いてるということもあるってことか。
特に祐のこととなると、それが先への布石とかの行いでもないというのは、少し考えづらいのだけど。
「まぁそうやって生きてきたのがお前の自衛術だろう。難しいと思うが汲んでやれ。鳥槇とそのバイトの後輩とやらも、なにか白黒がついてないだけかもしれないからな」
「なんかの準備ができるまで、グレーのままでいいってことなんですね?」
「まぁ、そうなる」
そこまで言って先生は一息つく。疲れてはいないようだが、出来の悪い生徒を諭すような優しい口調と表情だ。夕焼けによく似合う。
「……何かあってからでもう遅いなんてことは、学生の内はそうそうない。こうやって相談したりすればな、だからそう深く囚われすぎるなよ」
先生はそういって笑う、少し胸元に手を伸ばしかけたのは、もしかしたら愛煙家で手癖なのかもしれない。新しい発見だ。
でも確かにそうだ。祐を陥れるような考えはさすがに二人と駄場さんにはないと思うし。
それならまぁすぐに考えなくてもいいだろう。多少俺の時間がつぶれる程度は問題ない。実害が出てから考えればいい。
「ありがとうございます。なんかすっきりした……ような気がします」
「ああ、それなら私も嬉しいぞ、頼られた甲斐があるというものだ。……だからお前はもう少し痩せろ」
「はは、こればっかりは」
小学校の頃の癖で未だに胃袋がでかいのだ、3人分をずっと食べてきたので、すっかり拡張済みである。高校になってからは料理はなくなったけど単純に食べる量はあまり減ってない。
しかしながら山上先生は本当に良い先生である。俺自身が何に悩んでいるのかいまいち不明瞭なのに、しっかりと寄り添って考えてくれるのだ。
これだけ優しくて、美人でスタイルもめちゃくちゃ良いのだから、さぞかし────
「先生みたいな人が恋人なら幸せだろうな」
お世辞ではなく本当に心の底から思った、これだけ真摯に誰かに向き合えるなんてすばらしい。願わくば祐のメンバーに入って欲しいなって。
何度目かになるそんな思いで思わず口から本音が漏れる。まぁ生徒は生徒しか見ていない人だからこその、人の良さっていうやつだろう。
「ん? それは私に対する告白か?」
にやにやとからかうような顔でそう言ってくる山上先生。大人だ。
俺から告白なんてされた日には、少なくとも同年代の女子なら、吐き気を催しトイレに駆け込むだろう。そして翌日から、俺が無理やり手籠めにしようとした噂もたつだろうからな。「告白とか高望みをできるほどの上等な人間か?」と前世さんが言っているがその通りだ。こういうのは寝る前の妄想程度で済ませるものだ。
「そうだな……卒業までに身長が伸びなかったなら。70kgを切るまで痩せてたら考えてもいいぞ?」
「え?……え? え!? ええぇ!!?」
いまなんと仰ったこの人は? え? ちょっと待って、まじめに答えてくれてる? こんな美人な先生が? 俺の? 冗談みたいな告白を? え、どういう、こと。え?
「騙されるなこれは罠だ!」「自惚れるなっ!」「期待するな!」と前世さんが今までにない位に大声で叫んでいるが今は頭に入らない。音が聞こえるだけで処理にリソースが割けない。
「もちろん、考えるだけだ。お前は私の好みとは違うからどうだろうな? だがしっかりと自己管理が出来ない男など、まず眼中にはない。しかし、もししっかり仕上げてきたら真剣に考えてはやるぞ? 当然その後の是非は保証しかねるがな?」
一層と笑みを深くにやにやと、まるで仲のいい生徒に軽く冗談を言うような口調だ。きっと本気で俺が痩せるとは思ってないだろう。努力の足しになればいい程度だろう。告白の返しというのだって冗談に乗ってるつもりに近いんだろう。
そして仮に痩せても99.99%以上で断られてしまうだろう。それはわかる。高望みなんてレベルじゃないことも。場違いでありえないことも。
だけれども、俺のことをこの人は見てくれた。告白をしっかりと受けて、保留にしてくれたのだ。こんな冗談みたいなことでも。
こんなことは人生で初めてだ。俺が女性に一定以上に好意を示して、返ってきたことなど華との友情以外では経験したこともない。「お前は豚なんだ、愛されずに必要されずに生まれたんだ。気持ち悪いんだから、高望みはよせ。傷ついて終わり、惨めになるだけだ」と。ガンガン頭痛がするくらい前世さんが言っているけれど、ワクワク感が、興奮が止まらない。
「や、約束ですよ! 俺本気で痩せますよ! それで断るのは構いませんけど、しっかり考えてくださいね!! ちゃんとフって終わってくださいね!! やっぱ無しとか忘れたはなしですよ!」
「ああ、女に二言はない。ただ私も教師だからな? 喧伝はするなよ。それと目標体重になっても卒業式までは答えは出さんぞ。その代わり背が伸びたら基準は緩めてやる。そして痩せてたらOKというわけでもない」
カラカラ笑いながら俺に近づいて腹をぺしぺしと叩いてくる山上先生。余裕な感じだ。俺は今成長期でもないけど、この社会の日本人の平均よりは高い。たくさん食べてよく寝ているからな。ストレスで食が細い男子が多い中で。
「私は年上の誇り高い男が好きなんだ。条件は厳しいぞ? 何度も言うが最低限自己管理くらいはしろ。行動に自信を持て、そして目標を立てて計画して遂行しろ」
「は、はい! 俺、が、頑張ります! だから、その、ご検討の程お願いします!」
頭ではわかっている。ただ生徒を少し励ますためのリップサービスだって。
前世さんも言ってる。「自尊心を傷つけられて終わるだけで惨めだぞ」って。
でもこれは、きっと俺が人生で恐らく得ることのできる最後のチャンスだ。
祐のハーレムで我慢しようと思っていた、恋愛の疑似体験が、きっとできる最初で最後の機会だ。
最後にはフられて終わるのは目に見えているけれども、それでも今までの物が下に落ちるという道理くらいで、無理だった俺の恋愛イベントが。宝くじで一等を当てた後に、隕石にあたって死に。当選者不在で寄付されてから、そのお金で建てられた孤児院に俺の認知してない子供が入るくらいの確率になったんだ。
自分でも何言ってるかわからないけれども。それは0と俺の体内のクレオパトラのワインの量程の差なんだ。
前世さんが、またつらい思いをするだけだ、やめろと言っているけれど。壊れたプレイヤーのように繰り返しているけれど俺はこんな餌には釣られる。疑似恋愛を祐で楽しんでいたのに私情が入る程度には、恋愛に憧れがあるんだから。
最後にフられて卒業していい思い出で終わる。そんな事でもきっと一生分の体験として生きていけるだろう。楽しい思い出になるだろう。それで良いと思うんだ。それは高望みでもないと思うんだよ、前世さん。
山上先生の垂らしたこの細い蜘蛛の糸は、上り切る前にきっと途中で切れるし、昇った先は絶対行き止まりだろうが、垂れ下がってきた糸は掴まざるを得ない。
「期待してるぞ、出部谷」
「は、はい。頑張ります!」
「それと……周りに良く目を向けてみるといい。とのことだ」
「承知しました!!」
朝悩んでいたことがバカみたいだ。
早速ランニングシューズと競泳用の水着を買わなければと思い立ち、それと勉強も疎かにできないと今までの積み重ねに感謝しつつ、俺は生徒指導室を後にするのだった。
此処数年は見たことないような軽い足取りで走り去っていく彼を見ながら、僕は教室に入る。
「山上先生、ありがとうございました」
「お疲れ様、エマ」
「ん、ゆかりと龍瀧か。なに大したことはしてない、偶然なのか誘導せずに向こうから来たから楽な仕事だったぞ。もらった台本も軽くなぞっただけだ」
今回の彼の行動は僕の読み通りだった。普段から疑り深いけれど、混乱しているからか、いい具合に動いてくれた。もともと僕の言葉にはズブいんだけどね。
「にしても、エマに協力してもらうって、こんな事でいいの?」
「はい、ゆかりさん。これが大事なんです」
僕の大事な親友。今日まで僕とそして僕の周りの人が幸せに生きてこれたのは彼がいたからだ。
きっと彼が思っているより、僕は彼に感謝をしてるし尊敬もしている。僕の両親だって本気で彼を養子にすることを検討するほどなんだ。恐れ多いって言ってるけどね。
だからってわけでもないけど、もし彼が困っているのなら力になりたいし、悩んでいることの手助けをしたい。彼のためなら安いもんだ腕の一本くらいって気持ちだ。
華には、それって初恋の人みたいだよとからかわれたこともあるけれど、恋愛感情じゃない。それだけは確かだ。
昔、小学校に入って華と別クラスになって、不安でいっぱいだった僕を押しつぶすように沢山の女子のクラスメイトに囲われて怖かった時に、助け出してくれたのが十三だった。
名前が嫌いだから十三は嫌だと言ってたけど、あの頃は気にせず十三って呼んでいたはずだ。
ねぇ……なんで鳥槇先輩には十三って呼ばせているんだい? ずるいじゃないか、十三。君の名前好きなのに。僕にはダメだって言ったのに、どうしてなんだい、ねぇ?
さて、彼は否定しているけど、少なくとも小学校の低学年の頃の十三はクラスの人気者だった。
だって、みんなより体が大きくて頭が良くて、落ち着いていて面倒見がいい。僕の周りで泣いている子がいたら周囲に取りなしてたし。クラスの中心だったんだ。
そう、少なくとも内面は格好良い彼だったんだ。でも、僕が変質者に襲われかけたのを庇って、かけられた液体で彼は手と顔に消えない痕が残った。だから僕の前で彼は手袋をしてる。僕に気を使ってだ。
それを揶揄してきた女子を気にせずにいたのに、いつからかどんどん疎まれていくようになった。許せないのはあの頃の華以外の女子と僕だ。
前よりもっと女性が怖くて仕方なくなった僕は、あんなになってもずっと十三に頼ってしまった。そして気が付けば積極的に嫌われ役をして、僕の周りにはなるべく優しい子を集めるようにしてて。
彼に好意があっただろう女子も平気で陰口や悪口を言うようになった。許せなかった、こうしてしまった自分が。
中学になってさらに僕に来るようになった女子のアプローチに、戦々恐々としている間に、十三は完全にみんなの嫌われ者になっちゃった。十三の良いところを見てもらおうとしても、十三は女子にどんどん嫌われるような事を平気で言ってしまうんだ。
本当は格好いいやつなんだ、優しいやつなんだ。でも、それを知ろうともしないで、あいつを居ない者のように扱う娘になんて、僕は笑顔を向けられないんだ。十三は僕なんかよりずっと優しくて、格好良いんだ。それに頼ってしまったんだ……いや、これも言い訳だ。最低なのは弱かった僕だ。
この時からかな、どうしたら彼が昔みたいに戻ってくれるんだろうと、ずっと考えていた。
高校の1年になって、流石にみんな勉強で忙しいけれど、本格的に結婚とかを意識する年になったわけで。あまりにも露骨な娘は減ったけれど。彼は相変わらず疎まれてばっかりだった。
「祐君、大丈夫?」
「はい、平気ですよ。ゆかりさん」
そっと撫でてくれる彼女の手が僕の頭にあるのを感じて、気分は少し落ち着いてくる。十三のこの辺りの事を考えると、どうしても自己嫌悪でいっぱいになってしまうんだ。
「おいゆかり、学校だから節度は守ってくれよ」
「当然じゃない、エマ」
目の前の山上先生、ジャージを着ているけどそれでもわかる程に、とても女性らしいプロポーションの人だ。すごく魅力的だとは思うけれども、全くそういう目で見れない。
それは十三の好みだから。というのも理由はあるかもしれない。本当は僕にはゆかりさんがいるからだけども。
そんな十三が今年の春ぐらいから、妙な悪だくみを始めていたのに気付いたのは。横のゆかりさんに好きだって言ってもらった時位だった。
華とは自然に恋人になったし、亜紗美先輩は気が付いたら近くにいた。うたもふみも後輩がいつの間にか恋人になった感じだったけど。
あの日ドアに見覚えのある字で書かれた張り紙を見つけて、ゆかりさんに見つかる前に剥した時に、そういえばと確信したんだ。
直接は聞かなかったけれど、彼が何をしたいのかは分かった。
あいつは、僕のために女子を見繕い始めたんだ。正直言うと嬉しかった。僕がこの娘なら……なんて思った娘を的確にだったからだ。こうまでしてもらわないと、正直女性とどうのこうのってのは、イメージが出来なかったから。仲良くなる前の告白はたくさんされたけど、仲良くなっての告白は、殆どなかったからね。
でも何様かと思ったのは否定できない。それは余計なお世話だ! じゃなくて、お前はどうなんだよという意味でだ。
でも、あいつは全然自分の事なんて考えてくれなくて。僕の事ばっかりなんだ。
この前の竹之下さんだって、どう見ても下手だとは思うけど、いじらしくアプローチしているのに、あいつにはまるで響いてないどころか、想定すらしてない。
鳥槇先輩だって亜紗美さん曰く、あの娘があんなに懐くの珍しいのよ? ということで、少し意識してるみたいだけど、彼は認識すらしてない。
あのおばさん、いや駄場さんに関しては、正直彼の傍にあまりいてほしくないけれど、彼的には世話になっている認識なのか妙に甘い。まぁそれは彼が選ぶことだ。でも破滅願望がある人は、結構困る。
そう、今日のこの件は計画の第二歩。
いつの間にかなくなっていた、彼の前向きな考え方。強引だけどまずマインドに火をつけさせてもらった。彼が滅茶苦茶好みだって言ってた、山上先生にお願いしてもらって。
ちなみに第一歩は皆に彼のことをリークした先日の一件。色々目的はあったけど、一番大きかったのは、アレだけ拒絶されれば彼ならば一旦は止まる。
そうすれば自ずとリソースが浮いて、自分のことをするようになる。
今の彼の心は博物館の展示品みたいに空っぽだった、でも何とか走り出してほしいから、無理やりエンジンを載せてもらったんだ。
先日亜紗美さんから聞いていた予定に、この前交換した竹之下さんと連絡をして、少しだけ入れ知恵をして。鉢合わせたら二人に危機感を持ってもらった。きっと彼女たちの心にあった【彼のことを好きになるなんて私だけ】みたいな驕りを焦りにした。
まぁ、十三の様子から、好意にも僕の狙いにも全く気が付いてないみたいだけれども。
十三にも女の影が普通にちらついてるし、変な女性に絡まれているのも二人は認識したはず。まぁ、あの人が図書館からずっと覗いてたのは想定外だった。
まぁともかく。そんな状況でまた別の女性に向けて邁進する彼がいれば。停滞してた状況は動くよね?
君が始めたんだ。おかげで僕は今幸せになった。なら
「僕も、君の下世話を焼いてもいいよね?」
僕は君の親友なんだから、幸せを願うのは当然だよね。
大丈夫、君みたいに二人きりを作るだけみたいな、ワンパターン戦法にはしないよ。彼女たちの自立性に最大限配慮する。道は舗装するし標識も置くけれどね。
「にしてもエマ。貴女よく協力してくれたわよね?」
「ん? そうか? 生徒の為なら当然のことだろう?」
山上先生は、僕が十三の為にしたいことを考えたときに、ぜひとも味方にしたかった。ゆかりさんに繋いでもらってなんとか協力を得ることができた。
僕は十三と違って頭が良くないから、皆に協力してもらう。その方が良いものができるから。
「まぁ貴女は、年上の格好良くてプライドが高い男性が好きだものね。あくまで教師としてでなら……」
「厳密には、そんな男性を屈服させて女装させて妹にしてお姉さまと呼ばせて可愛がるのが好きだ」
「言葉を濁した私の配慮を返しなさいよ! 特殊すぎるのよ!」
「だが、母が父にそうしてたのを見て憧れたのだ、仕方ないだろう」
ゆかりさんが、山上先生のだいぶ特殊な趣味を窘めている。まぁこの人は着火剤であり時々発破をかけてもらえればいいので。自由にしてもらう。
あとは卒業式の時に先生が決めることだ。最も卒業式まで1年ちょっとあれば、十三の山上先生への好意が別の娘に向くかもしれない。
「しかし、もし良い男になったら遠慮なくもらうつもりだ。どうにもあいつからは少し枯れたオス味を感じていたからな。年下なのに。あと1年で自信が付いたら、案外化けるかもしれない」
……うーん、たしかに時折同い年なのを忘れそうになるけれど。山上先生より年上だとは思えないかなぁ。でもそれは僕は関知しないかな。うん。
舌なめずりするネコ科の肉食獣みたいな山上先生は、正直怖い。まぁそういう強そうな女性も十三の好みだって言ってたし大丈夫だろう、うん。
「あんた、本当にそういうのやめなさいよ!」
「なにを言う、ゆかりと違ってきちんと隠して、生徒に手を出す事無く、真面目に教師をやっているぞ」
「まじめにやってるから、なおたちが悪いのよッ!」
ま、まぁ彼がちょっと山上先生を理想視しているのは薄々思っていた。それだけ好みなのだろう。彼はわかりやすく女性的な女性が好きだしね。鳥槇先輩は女性的な所作や立ち振舞、竹之下さんは単純に容姿で押す方向が良いと思う。
そういえば、これは彼と僕との一種の知恵比べになるのかな?
お互いがどちらをより【相手を】幸せにできるかっていう。幸せにする陰謀対決かな?
それならば、僕には協力してくれる皆がいる。華は言わずもがな、亜紗美さんも鳥槇先輩のことは気にかけているし、うたとふみはあまり言いたくないけど意趣返しがてら面白そうなら乗ってくれるし。ゆかりさんも山上先生もだ。
だから、十三。もう変な考えをやめて欲しいんだ。
取りつかれたように自分を卑下する君はもう見たくないから。
「覚悟はあるって言ってたもんね? 多くの女性を喜ばせてこそ、一人前の男で。俺に楽しみを求める人がいれば、いつでも受け入れる準備はあるんだもんね?」
君の先手番は終わった、じゃあ今度は僕の後手番だね?
君が僕に潤沢な手札と盤面をそろえてくれたんだ、思う存分、君を攻略していくよ。
久々に、本気での遊びなんだ、楽しんでほしいな?
そうしてまた、十三って、呼ばせて欲しいなぁ
僕はそう思って、校門から走っていく君を見送っているのだった。
これは救いを求めているのにひねて諦めている友人に
彼を好きな女の子をぶつけて、僕が君のことを好きだってわかってもらう。
そんな愉快なお話。
Q.こんな面倒な前世の干渉とネガティブ自己評価をどうするんですか?
A.エッチな女教師の誘惑で一発です。男だもん
長いあとがきです。
最後にまとめてありますので、読み飛ばしてそこだけでも構いません。
あんまり作品に関して、本編以外で語るというのも無粋ではあるのですが、
今回ばかりは事情がございまして。
まずはご愛読ありがとうございました。
さて長くなりますので簡潔に言いますと。
こちらの拙作は、ある作品を強烈にインスパイアしております。
Arcadiaというかつて栄華を誇ったHPにある
けん・さいとー様の書かれた
異世界で親友のために下世話焼く男の話
という中編SSです。1話で前書きで言及しております。
お時間があればぜひお読みお下さい。こんな話よりもずっと爽やかです。
5万字ほどの作品ですが、とても私の性癖に刺さり。この作品をきっかけにいわゆる親友枠物というものにはまり読み漁った記憶があります。そして、そんな元作品を読んで、10年ほど自分の中で色々沈殿したものが拙作になります。リスペクト元を読んだ方からしたら、ふざけるなと言うほどの別物ではありますが。
ヘドロのような不純物という、私の感情だけを取り出した、ねちゃねちゃした話にできたと自負しております。さて、つまりどういうことかと申し上げますと、本当に書きたいことはここからの話です。
はい、下世話な奴がカウンターを仕掛けられる話が、
とてもとてもとてもとっても!!
私は、ずっと! 読みたかったんです! 彼がどう攻略されていくんだろうって!
考えて眠れぬ夜もあったほどに!!
親友枠の人物が普通にヒロインができたり、モテないなか世話焼きをするものはあっても。普通に惚れられてハーレムができるものが多少あるだけで。
意図的に返されて、親友にわからせられるような、低い自己評価に端を発する勘違い系コメディものは、いくら探しても完結中編以上はなく。もどかしさがありました。
やったらやり返される、
歪んで諦めていた奴がひどい目に合う。
依存と感情の矢印が一気にひっくり返る。
そういう話が好きなんです。
要するに、私のいつもの面倒くさい女の子と面倒くさい男の性癖バトルになります。
面倒くさい男女の恋愛しか最近書いてない者です。
もしお時間があれば、過去の拙作をお読みくださいどれも面倒な女子が出てきます!
かわいくて素直に主人公に矢印を向けてくる娘が、腹に1つも隠し事がないという娘が
全く出てこない、そんなものはないです。な話を書いてます。
最も、この作品は祐のヒロインを可能な限り薄味にするべく、極限まで描写を削って軽量化しておりました。それにより、かなりヘイトが向いたようですね。
リスペクト元のように作られる側のヒロイン一人称による認識やアイデアを入れればよかったかもですが、くっつけるために動いたという事実のための簡易舞台装置化してます。
極論幼馴染と美人の先輩がいればよくて、先生はいると便利程度の造形だったので。双子で人数を稼いだのは内緒。
その分これからの話は、ねっとりと面倒くさい拗れたぶた君のヒロインを書いていきたいと思ってます。
でろでろべちべちと暗い第1幕が終わりましたので、
これからは、じくじくとくどい第2幕をお楽しみいただければと思います。
まとめ
・リスペクト元面白い作品です
・お暇なら拙作を読んでめんどい女の子好きになって下さい
・感想・評価お待ちしてます。




