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罪と贖罪  作者: HARU
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第2話

 午後の授業が終わり、帰宅の準備をする。担任のHRが終わり、いよいよ帰宅だ。鞄を背負い教室から出ると携帯が鳴った。画面には博人の名前がある。電話の内容は空き教室への呼び出しだった。旧館三階にあるその教室は以前は何かの部室だったらしい。教室に入ると、すでに博人は待っていた。


「やぁ、昨日ぶりだな。昨夜は大変だったそうじゃないか。生きてて良かったな」

「ずいぶんな言い草だな。ってか、知ってたなら助けろよ。お前の仕事だろ」


 博人は成瀬家から僕の護衛を言い渡されている。それなのに昨日は忠告するだけで何もしなかった。職務怠慢だろ。


「まぁまぁ、そう言うな。代わりにあの転校生が来たじゃないか。いろんな情報をもってな」


 博人は何か知っている風だった。いや、もしかしたら知らないのは僕だけかもしれない。小夜さん、なんで僕には何も言わないんだろう。小夜さんへの嫌悪を募らせていると、博人が座れと促してくる。僕はそれに従い博人の隣に座る。顔は合わせない。


「昨日、青葉楓からどこまで聞いた?」


 博人が聞いてくる。


「どこまでって、八咫烏(ヤタガラス)の事とか、僕の封印の事とかだよ」


 それに答える。博人はため息をつき「全部か」と言った。


「お前は封印についてどう思った?」

「どうって、正直迷うよ。この力は、下手をすれば世界だって滅ぼせるかもしれない。そんな力の一部を解除するなんて、普通に考えればしたくないな」


 そう言うと博人は「だろうな」と言った。少しの間沈黙が訪れる。それを破ったのは僕だった


「なぁ、博人。もしも、僕が力を制御できずに暴走したら、どうする?」

「んー、そうだな。その時は、俺が責任を持って殺してやるよ」

「言うと思った」


 二人して笑う。


「まぁ、でも博人に殺されるなら、まぁいいかなぁ」


 そう言って席を立つ。


「決めたのか?」


 博人が聞く。僕は頷く。


「もう、このままっていうのは嫌なんだ。僕だって力になりたい」


 博人は、そうか、とだけ言った。僕は教師の扉に向かう。扉を開いたところで、博人が口を開いた。


「崇裕。俺にお前を殺させてくれるなよ」

「僕は誰にも殺されないよ」


 そう言って僕は教室を出た。下駄箱に行き、靴を履いて外に出た。グラウンドからは運動部の声が聞こえてくる。校門を出て右に曲がると、そこには咲が立っていた。その横を通ろうと歩き出す。咲を通り過ぎてちょっと歩いたところで、見えない壁に行く手を阻まれた。結界だ。成瀬家が得意とする妖術。振り返ると先がこちらを睨みつけていた。


「さっき、博人から電話で聞いたわ。崇裕、あんた何を考えているの! あんたは私たちに守られていればいいの! 私たち以外にあなたを守れる人間は存在しない! 仮にあんたが妖に殺されれば封印は強制的に解除されるのよ! それがどういう事か分かってるの⁉︎」


 咲は激昂する。相当怒っているみたいだ。僕の胸ぐらを掴み、大声を出す。


「私、言ったわよね。変なことは考えるなって! あなたは戦わなくていいって! なんで分かってくれないの⁉︎ あんたは死んじゃいけない。寿命でその命を終わらせなければいけないの! 分かってる⁉︎」


 胸ぐらを掴む手にさらに力が加わるのが分かる。どうにかしてそれを振りほどく。咲は肩で呼吸をしているようで肩を上下に揺らしている。荒い息がこちらにも聞こえてきそうだ。先程から、なんで、と繰り返す咲は明らかに平常心ではない。


「あのさ、僕だって色々考えたんだよ。それで出した結論なんだ。そりゃ、咲たちに守ってもらうのが一番安全だろうけど、それじゃダメなんだ」


 諭すようになるべく優しく言う。しかし、咲の怒りは収まらない。


「分かってるならなんでなの⁉︎ そのままでいいじゃない。あんたが死んだら世界中が不幸になるのよ!」

「だからだよ。このまま守られていたって、咲たちを超える妖が来たら、どうせ僕は死ぬだろう。だったら僕も一緒に戦って死なないようにすればいい」


 精一杯優しく言う。咲がまた僕の胸ぐらを掴む。


「そんなの来ないわよ。来ても私が絶対に殺してやる」


 声が震えている。咲の目からは涙が溢れていた。咲の涙を見たのは初めてだった。


「咲、覚えているか? 僕が最初にお前の家に行った時の事」

「覚えてるわよ。それがどうしたの」


 胸ぐらは解放されない。


「咲は言ってくれたよな。命を賭して僕を守ってくれるって。あの時、すっげえ嬉しかった。周りはみんな敵ばっかりだったからさ」

「言ったわ。だからこうして今もあんたを守ってる」


 より一層掴む手に力が入る。


「それで、思ったんだ。このままでいいのかって。だからさ、恩返しってわけじゃないけど、今度は僕に咲を守らせてくれないかな」


 何も言い返してこない。まさか、さらに怒らせただろうか。すると、咲は僕の胸ぐらを離した。


「もういいわ。どう言っても、もう変わらなそうだし」


 その代わり、と言って人差し指で僕を指してくる。


「決めたんだったら、絶対に死ぬんじゃないわよ」


 その顔には、もう涙はなかった。咲は振り返り、歩いて行ってしまった。夕焼けを背にし、僕は拳を強く握りしめた。


 家に帰り楓に電話をかける。三コール目で出た。


「はいはーい! こちら青葉楓です! 電話してくるってことは、返事、聞いちゃいっていいんですよね?」


 相変わらずのテンションで聞いてくる楓に若干の嫌悪を覚える。しかし要件は楓が言った通りなので、そうだよ、と返事をする。


「んじゃ、聞きますね。崇裕さん。あなたは八咫烏退治のため、自らの封印の一部を解除しますか?」


 深呼吸をする。決心は揺るがない。


「僕は、力が欲しい。いつも守られてばっかりだった。でも、もう嫌なんだ。だから僕は封印を解除したい」

「いい返事です。」


 電話越しに楓が不敵に笑っているのがわかる。


「それでは、明日の朝七時に山の麓の神社に来てください。ではまた明日、よろしくお願いします。」


 それで電話は切れた。七時か、早いな。今日も早く寝るか。昨日買った惣菜の期限が切れていないことを確認して電子レンジにかける。冷凍してあった白飯も続けて電子レンジにかけて、冷蔵庫から卵を取り出す。ご飯を早急に済ませ、風呂を沸かしている間に出ている課題を終わらせる。風呂に入り、着替えて九時にはもう布団に潜った。いつもよりかなり早い時間で、眠れるか心配だったが、この眠気なら大丈夫そうだ。


 ーー翌日ーー

 

 アラームの音で目がさめる。久々に熟睡というものをした気がする。時刻は六時。寝癖を直し、朝食を軽く済ませ着替える。時刻は六時半、神社までは歩いて十五分くらいだからまだ時間はあるが、家を出る。戸締りをしっかりとして歩き出す。自転車を使えば良かっただろうか。まぁ、どちらでもいいか。頭をこれからのことに切り替える。


 今日、僕は自分の『闇』と真正面から向き合うことになる。耐えられるだろうか。今更になって少し震えてきた。けど、もう引き返すことはできない。僕は決めたんだから。あれこれ考えているとすぐに神社に着いた。階段を登り、鳥居をくぐって境内に入る。青葉楓はすでに神社で待っていた。


「あっ、崇裕さーん、こっちでーす。こっちこっちー!」


 楓は本堂の階段に座って手を振っていた。


「ちょっと時間より早いですけどまぁ、いいですね」


 楓は真剣な表情を作って僕の顔をじっと見つめてきた。そして確かめるように言った。


「崇裕さん。気持ち、変わってませんよね」


 僕は頷く。楓は「わかりました」と言って立ち上がる。


「では始めましょうか」


 そう言って神社の地面にチョークで陣を書き出した。数分で書き終わったその陣は、とても複雑な構造をしていた。おそらくは成瀬家秘伝の何かだろう。


「では、その陣の真ん中に正座で座ってください」


 言われるがままに従う。


「目を瞑って、手で円を作るようにお腹の前で合わせてください」


 言葉に従って目を瞑り円を作る。すると楓が何かぶつぶつと言い始めた。何を言っているかは全く聞き取れないが、何かの詠唱であることは間違いないだろう。数分に及ぶそれは最後に大きめの声で叫ぶことによって終わった。


「はい、これで終わりです。封印は解除されました」

「え?」


 拍子抜けだった。僕の覚悟は何だったのだろう。こんなにあっけなく、あっさりと終わってしまった。念のため確認する。


「本当にこれで終わりなのか?」

「はい。これで終わりです」


 楓はうなずく。二度目の肯定に全身の力が抜けるのを感じる。虚無感とも安心感とも取れぬ感情が襲ってくる。だから楓の言葉を聞き逃した。


「だから、死んでください」


 気付いた時にはもう遅く、どこに持っていたのかわからない日本刀が僕の眼前に迫っていた。

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