未知言語の部屋
よくわからない小説です。
「もう三日目ですね」
「そうだな」
縦横高さが全て、自分が四人ほどの長さの立方体の部屋。
僕たちは、そこに閉じ込められていた。
壁は一面真っ白。
外に続くドアはどこにも見当たらず、どうやって自分たちが入ってきたのかすら分からない。
いわゆる、記憶喪失というやつだった。
「ご飯食べます?」
「まだいいや。そっちは?」
「こっちもまだいいですよ」
「はいよ」
一つ訂正をしよう。
この部屋には一つだけ、ポストの投函口サイズほどの穴がある。
途中で折れ曲がっているらしく、そこから外の様子をうかがい知ることはできない。
が、色んなものがそこから流れてくるのでどうにか生きていける。
今日のご飯は、金属の袋に入れられた何かだ。
うまく説明することがでいないのだが、黄色の乾パンを水でふやかして塩と砂糖で味をつけたような、そんな食べ物。
正直、吐きたくなるほどまずい。
「なんでこんなことやってるんだろうな」
僕は作業をしながら同じ被害者に声をかける。
ポニーテールの銀髪で、セーラー服を着ている。
一昨日、学生なのかと聞いたところ、わからないという返答が返ってきた。
記憶喪失は向こうも同じらしい。
「ほんっと、生きてるのかどうか怪しくなりますよね」
はぁ、とため息を一つ。
まったくもってその通りだ。
「まあ、でも作業さえすれば食べ物はもらえるしな」
「それにしたって、意味が分からないじゃないですか」
そう。僕たちは今作業をしている。
内容は簡単だ。
僕たちが一切わからない文字の羅列が送られてくる。
それを部屋においてあった本を見ながら返す。
といっても、部屋に置いてある本に僕たちが知っている言語もあるわけがなく。
矢印で指示した通りに、意味の分からない文字列を書いて文章を返すのだ。
自分でも、何をしているのか一切わからない。
「はぁ、めんどくさ」
「どっちかがサボると食糧半分になるってのがまたつらいですよね」
「ほんとに。ブラック企業かよってんだ」
たった今書き終えた書類をポストに投函。
別の書類が送られてくるまで、ちょっとだけの休憩だ。
ちょうど彼女も仕事を終えたらしい。
隣に座ってきた。
「さっきの文章、何のために書いてるんだろうな」
「さぁ? お仕事としてしかとらえてなかったですね」
きょとん、と首を傾げられた。
「そうは言わずにさ。……んーじゃあさ、この仕事を与えてるのは人間だと思う?」
「どうなんでしょ? 人間でなくても、ある程度文明を発展させた知的生物だとは思いますけどね」
驚いた。
彼女は、相手が地球の生物でない可能性まですでに考えていたのか。
相槌を打つと、彼女はつづけた。
「送られてくる手書きの文章、たまに結構クセがあるのありますよね。それで、個人差があることはわかるんですよ。だから、少なくともロボットとかがやってるとかではないと思うんですけど」
「じゃあ、僕たちがやってるのは簡単な翻訳みたいなものか」
「おそらくは。それか、カスタマーセンターみたいな単純作業ですね。定型文を送り返してるので」
俺たちの存在意義ってなんなんだろう。
「パソコンで代替できそうな仕事だよな」
僕がそういうと、彼女は笑った。
僕はつづける。
「どう考えても、じゃん。ロボットでよくない? これ」
「確かにそうですね。その通りですね! 私たち人間しかもってない心関係ないからロボットにやらせればいいですよねこんなの」
「ど、どうした突然に」
「いや、わかったじゃないですか。彼らは、ロボットやそれに準ずるものを持ってないんですよ」
「と、いうと?」
「そこらの人間がやりたくなくて、割と集中力を使わなきゃいけない仕事を私たちにさせないといけない程度の文明レベルってことです」
「おお」
それは、確かに。
「選民意識があって、こうやって食べ物を与えながら生きることをよしとしないって考えることもできるし」
「うん」
「まあ、わかったところで何って話ですけどね」
「あはは」
自虐するように二人で笑う。
所詮外の奴らにとっては、仕事をしてくれる機械みたいなものだ。
まだ次の仕事には時間がある。
「そっか、僕らがコンピューターか」
「人間コンピューターですよ。笑っちゃいますね」
「コンピューター自体、人間のプログラミング言語を理解してるわけじゃないもんな」
「そうなんですか?」
「ほら、これと一緒だよ。人間が与えたとおりに、これが起きたらこれをしろ、みたいなのに従ってるだけ」
まあ、僕らよりもできることは多いんだけどね、と付け足す。
「ふむ」
そっか、と彼女が言った。
「私たち人間って、なんなんでしょう」
何かに気づいたように言った。
「私たちが考えてることって、シナプスが出してるじゃないですか。でもそれって別にシナプスは今の私達みたいに決められた通りの仕事をしているだけで、やることの意味を理解してるわけじゃないじゃないですか」
僕も、やっとそこで気が付いた。
「私たちって、なんなんでしょうか?」




