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不動屋敷 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 よっしゃ、ウルトラレアゲットー! 前々から欲しいと思ってたんだ、これ。

 いやはや「ガチャ」っていうのは、本当に恐ろしいもんだ。昔はお小遣い片手に、店の前で回していたこいつが、デジタルの世界に登場しちまったんだから、大変なものだよな。

 物理的な制約があった時には、自分が持ち歩ける財布の中身はもちろんのこと、後ろに並ぶ人のことだって気にかけなきゃいけなかった。一人で独占して延々と回し続けるなんて、「空気読め」って案件さ。

 でも、今だったら個人が持つ端末で、思うがままに金と時間を費やすことができる。今や電子マネーのような実体を伴わない金も多い。その手で金を動かしているって実感が、殺されているなあと僕はつくづく感じているんだ。

 それでいて中身もわからない、宝箱を掴まされ続けていく。たいていが値段不相応なのに対してだ。開けるまで分からないっていうのは、つくづくたちが悪いと思うよ。下手に期待を持たせ続けちゃうって、意味でもさ。

 中身が分からないゆえの期待。そいつはいつの世でも、人の心の中でじわじわと広がっていってしまうものらしい。その確認できない代物のひとつに、出くわした人の昔話、聞いてみる気はないかい?

 

 むかしむかし。まだ日本の中でも、流れ者が多かった時代でのこと。とある村のはずれに、いつしか二人の男が住まうようになっていた。彼らは家を空けることが多く、何日かして戻ってきては様々な珍品を露天商に売り払って、金を得ていたという。

 仕事を訪ねる近隣の者たちには探検家と名乗っていた彼らだが、その実は盗掘者の一味だった。この国のまだ誰も踏み入っていないところにある、墓場や遺跡。その中へ収められている品々を勝手に持ち出しては、世に流していた。


「宝というのは、皆に見せてなんぼのものだ。後生大事にしまっておいたところで、死んだ者が起き上がって、喜ぶわけではあるまい。宝は今もなお生きている。死んでいる者より、生きている者と触れ合うべきであろう」


 そんな思いが彼らの中へあったそうね。ひとつところに長くとどまることはしなかったとか。


 そして今回、彼らがここへ越してきたのにも、わけがある。新しい標的に狙いを定めたからで、彼らにしては珍しく、知名度の高いものが選ばれた。

 おおよそ100年前まで、この辺りを治めていた「不動」という武士の棟梁が住んでいた屋敷だ。かつては源平の戦にも参加したことがあると伝わる彼ら一族だったが、その100年前を境に、忽然と姿を消してしまったというんだ。

 そのうえ、屋敷の四方は真新しく壁が塗りなおされている。元来、壁だったところはもちろんのこと、玄関や障子が張ってあった箇所さえも、すべてが壁に遮られてしまって出入りができない状態になっているとのこと。

 この100年の間で何度か壁を削り取ってみようとする動きはあった。しかし、削っても削っても中身が見えてくる様子はないのだとか。まるでこちらが削った分、内側から新たに壁が作られているかのようで、じょじょに誰もかれもが飽きや底知れなさを覚え、手を止めてしまうのだとか。

 やがてそこに住まう者たちは、その「不動屋敷」に近寄らなくなってしまったんだ。


 その中身をつまびらかにしてやろうというのが、今回、二人がこの土地にやってきた目的だった。準備が整うと、彼らは集めた情報を元に「不動屋敷」へと向かう。

 さほど迷うことなくたどり着いたのは、屋敷といってもせいぜい民家を数軒束ねた程度の大きさしかない平屋で、彼らは少々がっくりしたようだ。ただ、何年も人が寄り付いていないにしては、周囲に生えている草の丈が低すぎる。誰かが定期的に手入れをしているのだろうか。

 一番、外側の門扉は壁と化さずに開いている。そこをくぐり、不動屋敷の周りをめぐる二人。だが、裏手に回ってみて、思わず笑ってしまった。

 確かに出入口となるべき部分は、白い石壁らしきものによって、すべて埋められている。けれども足元、すなわち縁の下にまではその強固な防御が及んでいない。その中へ這っていき、家の真下から穴を開けて、中へ入り込めばいい。実際、底の部分が住民たちのいう、「きりのない」壁と同じ材質かどうかは、試してみてのお楽しみ。


 数日ほど屋敷付近に張り込み、近づく者がいないことを確認した二人は、白昼堂々と計画を実行に移した。日が暮れれば明かりが必要になる。当時の照明はまだまだ値段が高く、おいそれと使えるものじゃない。

 ひとりが見張り、ひとりが縁の下へ潜りこみ、屋敷の中ほどで工具を当てる。石が数寸削れると床板らしき木材が確認できて、思わず笑みがこぼれてくる。ここには住人の話す、石壁は存在しなかったんだ。更に掘り進むと、あっけなく穴が開いた。


 ――これで100年間も中の様子を知らないだと? そろいもそろって、間が抜けた連中がいたもんだ。


 見張っていた一人を呼び寄せると、二人は開いた穴の中へ自らの身体をくぐらせていく。


 どうやら穴を開けたのは、居間のほぼ中央。囲炉裏のすぐ横の部分だった。四方を壁で覆われているはずなのに、室内はやけに明るかったとか。

 畳は敷かれていない。囲炉裏にも五徳や自在鉤といった部品はくっついておらず、すでに何者かの手によって運び出された可能性が高い。そのうえ、この空間には棚や置物のひとつも置かれていなかったんだ。

 次の部屋、その次の部屋も、ほぼ同じ作りと状態。手軽に持ち出せるものはなく、老朽化し始めた壁や床板をはがすくらいならできるだろうが、それが金のたしになるとは思えなかった。

 近寄った者がいないなど、所詮はよそ者に聞かせる方便だったのだろう。実情はこの100年の間に様々なものを持ち出され、売りさばかれたのだろう。自分たちは金銭的に何の得にもならない、物見遊山の客と変わらない存在に落ち込んだんだ。

 そんなことを考えつつ、彼らはやがてただひとつ、まだ調べていない部屋の前へ立つ。これまでの部屋を区切る襖や障子たちはだいぶ傷んでいたものの、ここの三方を囲む障子は傷どころか、ほこりもついていない。


 二人が障子を開けると、およそ四畳半の部屋がそこにあった。棚、箱、掛け軸などの類はなかったが、床の間に置かれているものが二人の眼を引き付ける。

 即身仏のように思えた。座禅を組んだその姿は、二人の身体の半分ほどの体高しかない。胸の辺りには骨が浮かび、四肢と首、顔には限りないしわが見え、黄土色に染まった肌からは入滅してより、さほど時間が経っていないのではないかと思わせられた。

 二人はしばし、その仏の姿に見入っていた。仏はこの辺りでは見ない、紅を基調としながら金の刺繍が入った、高級そうな衣を一枚、まとっていたからだ。

 このままずらかっては骨折り損。せめてこの衣一枚を売り飛ばせば、今日の飯代くらいにはなるかと、片割れのひとりが手の届くところまで、ずいっと近づいていったところ。


 即身仏が座禅を解いて、すくっと立ち上がったんだ。驚く二人を、目玉のない眼で見やったのち、唇が無くなって歯がむき出しになった口がぱくぱくと開く。その中には信じがたいことにひょろ長い舌の姿も見受けられた。


「動くものだ! 動くものだ! 逃げられるんだ!」


 そう叫んだ即身仏は、二人の脇を通り抜け、開いた障子から屋敷の奥へと逃げていってしまう。障子に近いところにいた一人が、その背を追おうと体を向けかけた時、ふっと目の前に大きな影が降りてきた。


 鎧兜を身にまとい、顔には鬼の面を付けた武者。その腕だけで彼の身体とほぼ同じ太さを持ち、倍以上の背丈を持つ壁のごとき相手に、とっさにどうすればよいか分からず固まってしまう。

 武者の右腕が伸びてくる。自分の顔に近づいてくるそれを、彼は自らの息さえ止めてじっと見つめるばかりだったが、ほどなく背中から悲鳴が聞こえる。

 あの即身仏の衣に手をかけようと、床の間まで近づいていた彼だ。彼は手近にある障子に飛びつき、部屋の外へと駆け出して行った。その足音はどんどん遠ざかり、戻る気配を見せない。相方を置き去りにし、逃げ出したんだ。

 腕を伸ばしかけていた武者の首が、開かれた障子へ向く。次の瞬間、武者は目の前にいる彼を無視し、猛然たる勢いで、逃げ出した彼が開けた障子へ。そのまま外へと飛び出して行ってしまう。

 それを見届けた彼は、緊張からの解放感で、ぺたりとその場に座り込んでしまったが、すぐに立ち上がる。


 ――あの武者、動くものにさとく反応するのではなかろうか。だから自分ではなく、明らかな動きを見せた、遠くのあいつへがむしゃらに向かっていって。


 見る限り、あの武者の足は逃げていった彼を上回る機敏さを持っていたように思う。もしも武者が戻ってきてしまったら、自分が逃げ出すのは至難のわざとなるだろう。彼は武者の後を追わず、自分たちが入ってきた穴へと小走りで急ぐ。

 穴を抜ける直前、屋敷の奥の奥の方で、彼らしきものの絶叫が聞こえた気がしたが、もう戻らず、振り返りもしなかったとか。


 最初に逃げ出した彼は、何日経っても帰ってはこなかった。残された彼は盗掘稼業から足を洗うことになったが、生涯、不動屋敷には二度と近寄らず、あの逃げた即身仏の行方も分からないらしい。

 もしもあの時の彼が武者に殺されていなかったら、屋敷のどこかで即身仏になっているかもしれない、と彼は語ったそうだ。動くことで武者の気を逸らすことのできる誰かを、ずっとずっと。



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― 新着の感想 ―
[一言] ミイラ取りがミイラに……とはちょっと意味合いが違うかもしれませんが、すごく面白かったです! 盗掘はいただけませんが、でもどことなくトレジャーハンター的なわくわく感もしました。 あの武者も怖い…
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