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☆3.ルーカスside

「いい? 誕生日は絶対に祝いなさい。ルナの誕生を祝う日よ。これほどにまで尊い日はないわ」


 それは6時間続いた説教の最後にエルがルーカスへと放った言葉だ。

 ルナの誕生日まで残り5日。にもかかわらずいまだにルーカスはルナへのプレゼントを何にするか決めかねている。

 ルナの誕生日を祝いたいが、いかんせん今まで女性にプレゼントをあげた記憶などない。そのため何をしたら女性が喜ぶのかわからないのだ。それに相手はルナだ。そこらへんの女とは訳が違う。変なものでも渡して嫌な顔でもされたら……。きっと立ち直れないだろう。

「ルーカス、ルナの誕生日が迫っているというのに暗い顔しているわね」

「ああ、エル」

 仕事の合間にもルナのことを考えていると、エルに出会った。これは神が与えたチャンスではなかろうか。ルーカスは光が差したように視界が明るくなるのを感じた。

 エルならばルナの好みを把握しているだろう。彼女に聞けばきっとルナの喜ぶものを手に入れることができる。

 だがすぐにそれでは自分からプレゼントする意味がないと考え直す。

「何よ。不満そうな顔して」

 そういうエルこそ機嫌が悪そうな顔をしている。大方、最近ルナと会う機会が少なくて機嫌が悪いのだろう。彼女が不機嫌になる理由など片手に数えるほどしかない上、その理由が大半を占めるのだ。さすが世界一ルナを愛していると自称するだけのことはある。それで同じだけとは言わずともルナに想いを寄せられているのだ。それが姉妹愛だと分かっていても、ルーカスの中から彼女への羨ましさが消えることはない。そしていつか自分も同じようにルナから思われたいものだと密かなる野望を胸の中へと隠す。

「そういえばルナがエルは最近忙しいって言っていたけど……」

「忙しいわ。とっても忙しい! 身体がもう一つ、いや三つは欲しいくらいよ」

「そんなに忙しいのか?」

「ええ。ルナの誕生日が間近に迫っているのにルナへのプレゼントを決めかねていたの。やっとプレゼントは決まったのだけれど、どんな服を着ていくか迷っていてね」

「服? そんなに重要か?」

 ルーカスにはそれがそんなに重要なことには思えなかった。ルナならばきっとエルがどんな服を着ていようが気にしないだろう。だがルーカスの返答にエルは怒りを沸きあがらせる。

「重要よ! ルナの誕生日は年に1度しか来ないのよ?」

 誕生日なのだから年に何回もあるわけがないだろう。だがそんなことをエルに言ったら怒られるだろうとルーカスは開きかけた口を閉じる。エルの機嫌は一度損ねたらなかなか治らないのだ。それにルナが関わることとなればなおのこと。余計なことは言わない方がいいに決まっている。

「で、ルーカスはルナへのプレゼント決まったの?」

「まだだ」

「は? 残り1週間もないのよ? 何しているの!」

 そういってエルはルーカスの手を引っ張った。

「どこへ連れて行く気だ」

「決まっているでしょ、ルナのプレゼントを探しに行くのよ。私も手伝うから」

 そして気づけばルーカスはエルと共に宝飾店にいた。仕事なんて後でも出来るからといいつつも、最低限の仕事をこなすまで待ってくれたのはエルなりの優しさだろう。終わり次第、どこから発揮されているのかと思わず疑問に思ってしまうような力で引きずられたのは考えものではあるが。そして店内では何度となくルーカスの背中を突き、奥へと案内する。辿り着いたのは輝かしいほどの宝飾品の数々が並べられたガラスのショーケースの前だった。

「これはどうかしら」

「なあ、エル」

「何よ」

「わざわざ宝飾店に来る意味あるか? 宝飾品だったら家に呼べばいいんじゃ……」

「家にはルナがいるでしょ。まさかあんたルナの目の前で買う気?」

「ルナへのプレゼントなんだからそれでいいんじゃ」

 寧ろ家に呼べばルナ本人が選ぶことができるだろう。それの何がいけないのだろうと首を傾げるルーカスにエルは呆れたように首を振った。

「わかってないわね。プレゼントは相手のことを考えて選ぶものよ。なのに本人の前で選ぶなんて……。ナンセンスね。それに店の者が持ってくるものが必ずしもルナに似合うとは言えないもの」

 確かに店の者は持ってくることのできるものには限りがあるから、その店の選りすぐりのものを持ってくる。

 エルがルナに似合うと感じるものからそうでないものまで様々なものを。

「で、さっきからエルも選んでいるように見えるんだが」

「一期一会なの。来た時に見とかないとルナにぴったりのものを見逃してしまうかもしれないじゃない」

 ……一緒に来てくれたのはいいが協力してくれるわけではないらしい。エルに頼るになるという選択肢をさっさと切り捨てて、ルーカスはルーカスでルナに似合うものを探すことにした。


 しばらく探しているとケースの中でひときわ目を引くものを見つけた。

「これは……」

「どうしたの?」

「これはいいんじゃないか」

「これって……。本当にこれを渡すつもりなの?」

「ああ、ルナにきっと似合うだろうな」

「そう……。そうね。きっと似合うわ」

 絶対に似合う!という確信を隠さずに力強く頷くと、エルは満足気に笑うのだった。



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