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有志勇者となって勇者に復讐します。  作者: 鮫トラ
第九章 勇者よ神の剣を手に取れ。全ては未来の為に

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96 貴女を守ってみせる



 巨人の右手と魔剣がぶつかり、衝撃波が床を埋め尽くす黒い砂を吹き飛ばし舞い上がらせる。エスティアは舞い上がった砂を吸い込まないように口をギュッと閉めると魔剣へと全体重をかけた。だが、岩よりも硬く鋼鉄のような硬さの手を砕くことは愚か、かすり傷付けることさえ叶わない。

 巨人が軽く腕を押し込む。すると、それだけで、エスティアの体には隕石でものしかかって来たような重みが襲い掛かる。支える両腕の骨から嫌な音と感覚が伝わる。


『ォォォィィィィオオオオオオオオオオ』

「――グゥ……ッ!」


 エスティアの体が吹き飛ばされる。その速度は速く、このまま壁に叩きつけられたら身体能力が高い彼女といえどその衝撃によって体は木っ端みじんにはじけ飛ぶだろう。が、エスティアはいくつもの死線を潜り抜けている。


「たとえ、死ぬとしてもこんな死に方は嫌だね……っ!」


 迫る壁を睨みつけたエスティアはそのまま体勢を整え、壁へと左手を伸ばす。ほんの指先が触れた瞬間、彼女は勢いを殺さないように両足を壁へと付け――壁を全力で蹴る。完全に勢いを殺しきれなかったせいで、彼女の両足から体全体へと嫌な音が駆け抜ける。

 だが、まだ生きている。まるで大砲のように打ち出されたエスティアは自分の体が砕けそうなほどの逆風に逆らい魔剣を振り上げ――


「これで砕けろォォォォォオオオオオオッ!」


 勢い全てを乗せた一撃が巨人の右拳へと突き刺さる。硬い岩が砕けるような音が走り、無数のヒビがそこを起点に広がる。エスティアはそのまま巨人の右拳へと降り立つと、魔剣を腕へと突き刺す。

 ザクッ! ひび割れている隙間へとねじ込むように魔剣の鋭い牙が巨人の肉体を切り裂く。傷口から間欠泉のように黒い砂が噴き出す。が、エスティアは気にすることなく魔剣をより深く突き刺すとそのまま駆け出す。


 バリンバリンと砕ける音を響かせながら右腕を伝って巨人の顔まで向かう。通った後からは続くように黒い砂が噴き出している。破片がバラバラと黒い砂に覆われた床へと落ち、吸い込まれていく。

 巨人はエスティアへと顔を向けると、口があるであろう部分がぽっかりと開く。洞窟のようにその奥は真っ暗だ。

 おそらく、このまま行けば飲み込まれるだろう。だが、エスティアの表情に危機感といったものは浮かんでいない。


「そんな遅い動きで私を食べられると思ったら大間違いだよッ!」


 巨人の肩までたどり着いたエスティアは両足を踏み込み飛び上がる。もう、そろそろ左足の魔力が限界まで来ているのだろう。ボロボロと崩れ始める足にエスティアは“早く終わらせなきゃ”と自分を奮い立たせる。

 巨人が飛び上がったエスティアを飲み込もうと追いかけるように彼女へと顔をを向ける。すると、コォォォ、という音が響き、空中に浮かんでいるエスティアの体がわずかに引っ張られるような感覚を感じた。そう、巨人は息を吸い込み彼女を吸い込もうとしているのだ。

 エスティアは勢いを付けて吸い込まれようとしている体を捻り、魔剣を両手で振り上げ、縦回転しながら流星のように落下していくと――


「きぃぃぃりぃぃぃぃさぁぁぁけぇぇぇぇぇッ!」


 ガゴンッ! 魔剣と巨人の額から響くは重低音の衝突音。ぶつかり合った際に生じた衝撃波が部屋全体に広がり、部屋の壁にいくつもの深い傷跡を残す。だが、目的の巨人には僅かな亀裂ができただけだ。そして巨人は小石でもぶつかったのか? といいたげに小首を傾げると、コォォォ、と息を大きく吸い込む。

 エスティアは反動によってもう一度飛び上がると、巨人の額へと降り立ち、魔剣を突き立てる。


『――ッォォォォオオオオオオオオオオン』

「やっぱり、ヒビさえ入ってれば脆いんだね」


 先ほどの一撃で入った額のヒビの隙間にねじ込むように突き立てられた魔剣。その隙間から噴き出す黒い砂に顔を顰めながらも、叫び声を上げ手を伸ばしてくる巨人の顔を冷たく見下ろす。痛みを感じているのだろうか、苦しそうな声を聞いていると左目がわずかに疼く。

 わずかに暗い青色が混ざった左目。エスティアは自分の左目がそんな色になっていることなど知らない。フっと息を吐き出すと同時に叩き潰さんと迫る巨人の左手の隙間を縫うように躱し、続くように襲い掛かる右手を横っ飛びで躱そうとしてその時――左足に限界がやって来る。


「なっ」


 ガクンと右膝をその場でついてしまう。エスティアは左足にできた血だまりに軽く舌を鳴らすと、顔を上げる。もう、目前まで巨人の右手が迫っている。このままでは羽虫のように叩き潰され、無残な姿となるだろう。

 エスティアは急いで立ち上がろうとする。が、片足が無いというだけでうまく立ち上がることができない。だが、右手は迫ってきている。魔剣を杖に立ちあがり、右足の力だけで横へと飛び、ギリギリのところで彼女は右手を躱すと、そのままもう一度片足飛びで――


『ッァァァァアアアゥゥゥォォォォオオオオオオオ』

「――まずっ」


 巨人が叫ぶ。声と形容してよいのかという音を喉から響かせたその時、エスティアは嫌な予感を感じて巨人から離れようとしたが、それよりも早く巨人の体に刻まれたいくつもの傷口から噴き出した黒い砂が黒い槍となってエスティアの体を貫く。


「か、はっ……!」


 右太もも、腹部、両肩。心臓部へと放たれた槍を左手で掴むのが精一杯でほかのそれらは肉を斬り裂き、その奥にある臓器や骨をも砕き背中の皮膚を貫く。槍が刺さったままのおかげで一気に血液が噴き出すことは無いだろう。が、川のように流れ出してしまう血液は彼女から急激に体力や意識を奪い取っていく。

 そのまま、巨人の体を滑るように落ちていくが、寸でのところで魔剣を突き立てフラフラと立ち上がったエスティアは右太ももに突き刺さっていた槍を邪魔になりそうな部分だけ叩き折る。他の体に刺さったものも同様だ。無理に引き抜いて無駄に血を失うよりはマシと考えたのだろう。

 だが、それは、自分の首を絞める結果となる。なんせそれは――()()()()なのだから。


「――ッグアァァアァアアアアアアアアアアアアア!」


 体の中に残った槍は砂となり、エスティアの体内へと侵入していく。おかげで塞き止めるものが無くなった傷口から決壊した川のように大量の血が流れ出す。痛みを感じにくいといえど、体の内側を異物が這いまわる不快感にエスティアは咆哮を上げる。

 黒い砂は彼女の血管を通り、心臓へと向かおうとする。エスティアはこの時、明確な“死”を感じた。どんなに頑丈な鎧や筋肉に守られようと、内部を鍛えることは不可能。くわえて、今の彼女は魔力をうまくひねり出すことができない。

 ゆえに、心臓を守るすべはない。巨人は動けないエスティアを右手でつまみ上げ観察するように自分の顔の前まで持って来る。大きく開いた三日月形に歪む。


『スゥォォォオオオオオオオオオオオオオ』


 大きく吸い込んだことによって、エスティアの背中を風が叩きつける。が、彼女は動けない。内部に入った砂が手となり、彼女の心臓を掴んでいるからだ。最低限の動きしか許されない心臓が酷く重く感じる。


「ころ、す気……ないで、しょ……っ」


 息ができない。体から流れ出した血液が床に敷き詰められた黒い砂に吸い込まれていく。エスティアは霞む視界で思い切り巨人を睨む。奴は最初から殺す気なんてなかったんだ。おそらく、目の前の人間が命乞いをするまで殺す気はないだろう。

 それが、なぜかわかってしまったからこそ、エスティアは不快感を露わにした。わかりたくなかった。きっと、左目が知っているんだ。優しさという仮面をつけたやつの根っこはこうなんだ、と。


「っぐ……命、ごい、して、ほしい……?」


 口の端から血を流しながら、エスティアはそう言って挑発的な笑みを浮かべた。巨人は裂けてしまいそうなほど口角を上げる。その笑みからすぐにわかる、奴が“命乞いをしてみろ。そうしたら、苦しませて殺してやる。もっと、苦しむ表情が見たい”、と言っていることが。

 黒い砂がうねり、エスティアの体を縛る。きつく縛られたせいで体の血が絞り出されるように流れ出る。もう、体の血液を全て流してしまったのではと思ってしまうほどの出血量。だが、彼女は死ねない。体に侵入した黒い砂が無理やり血液の替わりを果たし――死ぬことを許さないのだ。

 体の中を何かが這いずり回る強烈な不快感。エスティアはグッと心臓を握り締められるたびに口から血を吐き出し、巨人睨む。


『ォォォオオオオオオオオォォォォオオ』

「お前が言ってること、なんとなくわかるよ“死にたいか?”でしょ? 残念、私はまだまだ生きる気満々だからさ……死ねないんだよね!」


 エスティアがそう言うと、巨人は右手でエスティアの体を思いっきり掴む。ギリギリと体から骨がきしむような音と感覚が響く。心臓を撫でる手もガリガリと爪を立て外側包む血管を一本、また一本と斬り裂いてゆく。すると、一気に自分の生命という名の灯が小さくなっていくのをエスティアはなんとなく感じ取る。

 もうすぐ死ぬのか。そんな考えが浮かぶ。本来、普通の人間であれば“死がやって来る”というのは耐えがたい恐怖となって襲い掛かり、精神を保つことなど不可能だ。

 ゆえに、巨人はなかなか精神崩壊を起こしてくれないエスティアに苛立ちを覚え始める。それが、わかる彼女はニヤリと笑みを浮かべる。


「ねぇ、こうは思わない? 私の精神が壊れないのは、もうとっくに――壊れているからだとしたら、ってさ」


 魔剣を持つのも辛くなってきた。だが、エスティアは“待っている人がいる”と呟き、脳裏に大好きな彼女の笑顔を思い浮かべる。まだ、彼女に言っていない言葉が沢山あるんだ。もっと、彼女と同じ時間を過ごしたいんだ。

 

「まだ、死ねない……っ、私の、時間は……あの子の、シュティレの物だから!」


 魔剣を握り締める。もうこの体がどうなっても構わない。もう一度、彼女の隣に帰るんだ。その為ならなんだってやってやる。どうせ、魔力は()()()()()。ただ、少し出すのにコツがいるだけだ。

 エスティアはギリギリと握りつぶされていく体など気にするそぶりを見せず、自分の手の皮膚が裂けるほど強く魔剣を握り締める。だが、体の魔力は詰まったかのように出てこない。


「出ろ……私は帰るんだ……っ。私の体でしょ……少しぐらい……言うこと聞いてよぉぉぉぉおおおおおおッ!」


 バチン。体の中で何かが切れた音がする。その瞬間、エスティアの体から大量の魔力が溢れ出した。漆黒の魔力が噴き出し、彼女の内部を侵食していた黒い砂を消滅させていく。ドロドロと流れ出した魔力が体を循環し、彼女の命を無理やり燃え上がらせる。

 グググ、と巨人の右手が開く。エスティアは十分な隙間が出来上がると、そのままピョン、と巨人の右手に降り立ちニヤリと笑う。

 そんな彼女の空白だった左足は漆黒の魔力で無理やり形成された左足があった。煙のように揺らめきながらもしっかりと人間の足を形成している。だが、残っている魔剣の魔力を左足の形成と流れてしまった血液の代わりに使用しているせいで、魔法は使える気がしない。


 だが、エスティアは動く体さえあればどうにかなると言い聞かせ、体に眠っている()()()()()を呼び出す。魔剣の魔力とは比べ物にならないほど弱々しい魔力。たとえ、彼女の瞳の影響で一般人よりも量が多く質が良くとも、所詮は人間レベル。

 奴を倒しきる力とは思えない。エスティアはそんな魔力を全て魔剣へと集める。そして、体に残っているシュティレの魔力をも呼び出す。


「シュティレ……力を貸してね」


 シュティレの魔力が体から無くなったことによって、魔術依存症の症状の一つである強烈な渇きが体を支配しようとやって来る。次に彼女の脳を支配しようとするは“シュティレが欲しい”麻薬中毒者のように彼女のことばかり頭に浮かぶ。だが――好都合だ。

 他のことは考えなくていい。彼女に抱きしめてもらう為にこのバケモノをぶっ殺せばいい。エスティアはボロボロと瞳から血の涙を流しながら魔剣を掲げる。


「テメェをぶっ壊して……私は帰るんだ……帰るんだァァァァッ!」


 魔力が体から噴き出し魔剣がその刀身を何倍にも魔力によって膨れ上がらせる。身の丈を優に超えるソレは巨人の顔程はあるだろうか。ほとんどがシュティレの魔力ではあるが、その膨大な魔力は風を巻き起こし彼女へと襲い掛かろうとしていた黒い砂が瞬く間に消滅していく。

 全てを切り裂く風と、全てを燃やす炎が絡み合い、収束する。さぁ、全て斬り裂け。歩むべき幸せのために。


「斬り裂けェェェエエエエエェェェェェエエエエエエエエエエエッ!


 全てを切り裂く風と炎が融合した極大の剣が振り下ろされる。巨人はそれを真正面から顔面で受け止める。光が黒い砂を呑み込み燃やしていく。舞い上がった黒い破片は吹きつける風に斬り裂かれ跡形も残らない。

 凄まじい音を立て、眩い光が辺りを包み込む。 





 まさに、消滅の一撃。だが、代償は大きい。魔剣の魔力がサポートし命を繋ぎ止めてくれているとはいえ、多大な負荷によりその命はいつ燃え尽きてもおかしくない。

 巨人が消滅したことにより、エスティアは足場を失い、そのまま落下を始める。このままでは床に残っている黒い砂に呑み込まれるかもしれない。だが、体はもう動かない。


「やっぱ、り……全部は、無理か……」


 巨人は消滅したが、その心臓部である彼の肉体は無事だったようだ。床に横たわりながら、砂を操り、エスティアを飲み込もうとしている。

 早く逃げろ、捕まったらアイツの養分にされてしまうぞ。そんな声が魔剣から聞こえる。だが、その声は聞いたことが無いくらい弱々しく、今にでも消えてしまいそうだ。エスティアがふと視線を魔剣へと向ければ、魔剣の体には――無数のヒビが刻まれていた。

 まるで、あの時のようだ。エスティアは初めて魔剣と出会った時を思い出す。あの時、守ってくれた彼の剣もこんな感じだった、と。


「まけ、ん……カル、ネジ、ア……」


 黒い手がエスティアを掴もうと手を伸ばすその時、魔剣を握る右腕が()()()()()。まるで、誰かが導くように動いた魔剣は槍のように鋭くなった黒い砂を受け止め――砕け散る。

 パリィィィィンという甲高い音と共に漆黒の牙は無残に砕け宙を舞う。その瞬間、砕け散った魔剣は魔力となってエスティアの中にあるユーティナの魔力へと帰る。


「はは……」


 エスティアの口から乾いた笑いが漏れる。たった一撃を防いで帰るなんて酷いじゃないか。まだ、脅威は過ぎていない。すると、その時、エスティアの胸元から物言わぬピーナッツが飛び出す。フワフワと一緒に落下していくそれを眺めながら、エスティアは下で待ち構える黒い砂を一瞥する。


「シュティレ……」


 そう小さく呟く。もう、無数の砂の手は目前まで来ている。いや、手だけではない、槍の形をしたものも混ざっている。エスティアは最後の力を振り絞り、もう一度、会いたくて仕方のない彼女の名前を呼んだその時だった――


「凍りつけェェェェェェッ!」


 そんな、大好きな声と共に凍り付きそうなほど冷たい風がエスティアの体を撫でた。

 






いつも読んでくださりありがとうございます。

事情により、暫く更新をお休みさせていただきます。

一応、早くても2019年6月25日(火)以降となると思われます。永遠の未完にする気はありませんので、のんびりと待っていただけたら幸いです。

どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。

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