表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有志勇者となって勇者に復讐します。  作者: 鮫トラ
第八章 貴女に全てを託す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/105

82 騎士となりたかった。だがそれは、彼の夢である


 銀色の剣が頬をかすめる。チクリとした痛みともいえない違和感が走り抜け、僅かな血が頬を伝う。エスティアは両手で握りしめた魔剣を横薙ぎに払う。

 ブォンッ、と風切り音と共に漆黒の刃が彼の体を真っ二つにせんと迫るが、片足で軽々と跳びあがった彼はそれを躱し、もう片方の足でエスティアの顔面を蹴る。


「させないっ! 貫け!」


 パシュン、という音が響き、全てをミンチにするほどの渦巻く風を纏った矢がエスティアの眼前まで迫っていた足に着弾。弾けるような音が響き、黒っぽい血と肉片がエスティアへと叩きつけるように降り注ぐ。が、その破片たちは弾けたシュティレの魔力がそよかぜのように連れ去ったためにエスティアの顔へと降り注ぐことは無かった。

 クルリと片足で着地した彼はミンチとなって見るも無残なものとなってしまったくるぶしから先を見ながら鼻で笑う。そして、フッと息を吐き出す様に力むと、彼の体内にある魔力が仮の足を作り上げる。

 それを見ていたシュティレは舌を鳴らす。ガッチリした見た目に反して軽やかな動きで動く彼の機動力を潰せれば、と思っていたが、そうはいかないようだ。だが、落ち込んでいる暇はない。すぐに次の矢を構え、放つ。


「斬り裂けッ!」


 矢と同時に駆け出していたエスティアは、撃ちだされたそれよりも一歩早く間合いに入り、魔剣を振るう。先ほどのような大振りではなくコンパクトに振るわれたそれに一瞬、彼は瞳を見開きその銀色に煌めく鉄剣で防ぐ。

 ガキン、と鈍い音が響き、エスティアは痺れる右手を左手で押さえこみながら、余裕そうな表情でいる彼と鍔迫り合いを繰り広げる。その時、背後の矢がエスティアの肩の横を通り抜け、彼の肩へと突き刺さった。


「――ぐぅ……っ」


 回転しながら骨を砕き、貫通したそれには流石の彼も呻き声を上げ、表情を歪める。だが、すぐにまたその顔を余裕そうな爽やかものへと変え、押し込もうとするエスティアを無理やり押し返す。


「はぁぁぁぁあああっ!」

「――っ!?」


 強化されているエスティアを軽々と弾き飛ばした彼はガラ空きとなっているエスティアへと、鉄剣を振り下ろす。その太刀筋は彼の性格を現すかのようにまっすぐで、力強い。魔力を纏っていなくても、一人の人間を斬り殺すことなど容易い。

 エスティアは左手で宝剣を引き抜き、それを防ぐ。が、力強いそれを完全に防ぐことはできず彼女の体は吹っ飛ばされ、床を水平に飛び、エリザの展開していた鉄壁へとその体を叩きつける。


「ご、は……ッ!」

「エスト!」


 背骨から悲鳴が上がり、エスティアは顔を歪める。どうやら、今の衝撃で脊髄を損傷したようだ。動けない彼女にシュティレは回復を施そうとするが、彼女の手がエスティアへと届く前に銀色の牙が迫る。


「回復する暇は与えないさっ!」

「させない!」


 伸ばしかけていた手にいくつもの魔力で出来た石を作り上げたシュティレは、それを彼の顔目掛けて放り投げる。赤、青、緑、などの様々な属性を孕んだそれはカッ、と眩く煌めいたかと思った瞬間、それは爆発し、小さな破片が彼の顔だけではなく、体へと降りかかる。

 振り下ろしていた剣で咄嗟にその破片を防ぐ。が、片手剣程度の大きさで彼の大きな体を完全に隠すことはできず、わき腹や太ももなどにいくつかの破片が突き刺さり、少量の血を流しながら、彼は距離を取った。

 睨み合う二人。シュティレはチラリとエスティアを見やると、意を決するように、その手に一本の深緑色の矢を創り出す。いつものように風を纏っているわけではなく、どこか草の香りがするそれを握ったシュティレはそれを――動けないエスティアの背中へと投げるように突き刺した。


「なっ」


 突然の行動に彼は口をあんぐりと開けたまま固まる。無理もない。彼の中で教えてもらった記憶では、シュティレはエスティアのことが好きで、傷つけるなんて行為は絶対にしないからだ。見ない間に関係が変わったということか、と訝しんだが、その予想は外れたようだ。

 エスティアの体へと突き刺さった矢はズズズ、と奥深くまで刺さる。そしてはそれは、彼女の体の中で弾けた。その瞬間――エスティアは跳ね上がるように起き上がり魔剣を構えた。

 そう、今の矢は攻撃ではなく、()()だったようだ。まるで、蒸発するように体に刻まれた浅い切り傷の消えていくエスティアを見るかぎりそうとしか言えないだろう。


「はは……そうか。君がエストに危害を加えるなんてありえないもんな」


 肩を竦めながらそう言った彼は笑う。


「まぁ、前の私だったらこんなこと、思いつきもしないだろうけどね」


 シュティレはそう返し、困ったように笑うエスティアへと顔を向け微笑む。以前のシュティレであれば、思いつかなかった方法。普段は、魔力を流すのが主だが、時間がかかる。だが、直接魔力を打ち込めば、治るのも早く、魔力を回復させる効果もある。

 エスティアが思う存分、自分の力を使えるように。シュティレの強い意志を感じ取ったのだろう。彼は口角を僅かに上げると、右手で剣を構えた。


「そうか……二人は随分と強くなったんだな」


 纏う雰囲気が変わる。それは先ほどの彼が握り締めていた殺気ではなく、ただ、ただ、戦いたいという燃え上がるような闘志だった。その瞳は剣のようにまっすぐにエスティアの黄金の瞳を貫き、その奥にある彼女の闘志に火種を投げつける。

 それは“ここからが、本当の勝負だ”とでも言っているように。エスティアは細く息を吐き出し、魔剣の柄を力いっぱい握りしめた。その黄金の瞳に殺気は宿っていない。ただ、目の前の敵を“倒したい”という炎を燃え上がらせていた。

 戦いたい、剣を交えよ。いつの日にか聞いた、魔剣を握った男のような自分のような、いろんな声が交じり合った囁きが脳を心臓を撫でる。いつもの、不快に満ちたそれではないことに気が付いたエスティアはシュティレへと振り向く。


「シュティレ、私たちの戦い。見ててほしい」

「うんっ。絶対勝ってね」


 晴れ晴れとした表情で言われてしまえば、シュティレに“ダメ”という言葉は出てこない。ニコリと微笑むと、シュティレは一歩下がり、鉄壁に背中を預ける。見ていると言っても、何かあれば彼を殺す準備はしておく。

 負けるなんて想像はしていない。だが、ここは敵の拠点だ。なにが起こるかわからないのだから。


「よし、始めようかエスト。言っとくが、俺は強いぞ」


 自信に満ちた声と顔つきに、エスティアは強気に微笑む。


「ふっ、私だって、それなりに強くなったからね。驚くよ」


 同時に駆け出す二人は、まるで鏡のように同時に自分の武器を振るう。銀と漆黒の刃が交差し火花を散らし、真っ赤な絨毯に焦げ跡を作る。鈍い音が響き、二人はもう一度腕を上げ、振り下ろす。それを何度も、何度も、何度も、何度も、繰り返す。



 まるで、お互いの武器が壊れるまで繰り返されるのではと思うほどに凄まじく力強い打ち合い。一定の間隔、同じ音程で繰り返される激突音はもう一生忘れることができないほど、奥深くまで焼きつく。

 エスティアの腕は強化されているとはいえ、疲れ知らずとは言えない。徐々に重たくなっていく腕を無理やり振るう。対して、彼は全く疲れていないかのように変わらない力とスピードで振るい続ける。


「くっそ……」

「ははっ、エスト、疲れてきたんじゃないか?」

「まさか。まだまだぁっ!」


 打ち合いでお互いに弾かれる。エスティアは軸足にこれでもかと力を入れると、地面から浮いていた足で彼の晒された腹部に蹴りを入れる。ずっと、打ち合いをし、体にはリズムができている。それをいきなり崩すのだ。歴戦の勇者や騎士であれば、そんなものは対応され、逆にカウンターをくらってしまうだろう。

 だが、今戦っているのは、良くも悪くも所詮は初心者同士の戦い。見事、エスティアの蹴りは彼の腹部を捉え、彼の体は後ろへと飛んでいく。

 反動で倒れそうになるエスティアは、魔剣を握り締め一気に魔力を放出する。床に向けて放出された魔力の勢いを利用して無理やり体勢を立て直し、エスティアは飛び上がり体を弓なりにし魔剣を振り下ろした。


「――ぐっ!」


 彼は咄嗟に剣で受け止めた。ガキィィィン、と今までの打ち合いの中では聞こえなかった音が響き渡り、次の瞬間、彼の鉄剣がピシリと悲鳴をあげる。彼の表情が初めて焦りを浮かべる。

 これを好機と見たエスティアはニヤリと不敵な笑みを作る。その笑みは子どもの様に無邪気なことに、彼の瞳が大きく揺れる。


「ぶっ壊れろォォォォオオオオオオオッ!」


 パリィィィン! まるで、花びらが風に舞うように銀色の破片が黄金の瞳に映る。その光景は、あの洞窟で彼の剣が砕けた時と似ていると考えてしまったエスティアは一瞬だけ、その力にゆるみが出てしまう。

 折れた鉄剣から手を離した彼は、まるで自分の鞘から引き抜くように――エスティアの腰に収まるもう一振りの剣を引き抜く。

 鉄剣を叩き折った反動で空中で停滞している魔剣と自分の間に流水のような水色の魔力を纏った宝剣を滑らせる。すると、振り下ろすというよりも、重力で落ちてきた魔剣を受け止めた宝剣が輝くと、困惑を浮かべていたエスティアは、これでもかと眉を顰めた。

 騎士とは自分の武器というものに対して、誇りを持っているのだろう。武器が壊れれば自分の肉体で戦いを続けるとエスティアは考えていたが、彼はなんの躊躇もなく宝剣を自分の物としたのだ。それに対して、エスティアは言いようのない違和感を感じたのだ。


「騎士見習いじゃなかったっけ?」

「それは彼のことだ。俺は」


 受け止めた宝剣でエスティアを天井へと弾き飛ばした彼は体勢を立て直し、宝剣を構える。エスティアは天井へと叩きつける直前に身を翻し天井を蹴り、床へと着地すると、持ち主を裏切ってくれた宝剣と、それを握る彼を睨んだ。

 彼は宝剣を見せびらかす様に軽く剣先を揺らす。


「まぁ、魔剣と違って宝剣は持ち主は選ばないんだろう。おかげで、もう少し続けられそうだ」

「はっ、流石に宝剣を折るわけにはいかないね。まったく、そのコソ泥精神はオリバーの影響かもね」


 オリバーと名前を出したその時、彼は一瞬だけ瞳を伏せるのに気が付いたエスティア。その瞳は悲し気で、“どうして、そんな顔をするの”と思わず問いかけてしまいそうになる。だが、聞く暇はないだろう。辺りに濃密な闘志が包む。彼の握り締める宝剣が眩い輝きと、魔力の水を纏う。

 おそらく、この一撃で決める気だ。そう直感したエスティアは魔力を魔剣へと流し込む。黒く、濃い鉄のニオイを孕んだそれはエスティアの周りを渦巻き、魔剣を取り巻く。


 目の前の彼がどこか、似ている。あの洞窟で出会った騎士に。その考えを一蹴したエスティアは魔剣を低く構える。すると、彼は宝剣を掲げる。その構えは、頭から真っ二つにする気だろう。

 二人はまるで糸で引き合うように、同時に駆け出す。

 お互いが狙うはお互いの命。漆黒は彼の魔力核(心臓)を。エメラルドグリーンは彼女の心臓を。


「いくぞぉぉっ! エストォォォォオオオオッ!」

「その命、斬り落としてやらぁぁぁああああああッ!」


 二人の獣のような咆哮が混ざり合い響き渡り、二人が地面を踏み込むたびにそれは衝撃波となって辺りに散らばっていた瓦礫が吹き飛ばされていく。

 彼の宝剣が、一歩早くエスティアの頭部へと迫る。まるで機械が振り下ろしたのかと思うほど、ブレることなくまっすぐなそれに思わず笑みが浮かぶ。

 予想通りだ。振り下ろす彼の方が早いに決まっているのだから。エスティアは体わずかに右へと逸らす。


「――グッ」


 まっすぐに振り下ろされた宝剣がエスティアの左肩口の皮膚を斬り裂く。水を纏ったそれは、あっさりと彼女の肉を斬り刻み、骨をもその刃で粉々に斬り裂いていく。

 左腕が体を離れ、落ちていく。だが、今更そんなものを気にする程度の物ではないとエスティアは、魔剣を力いっぱい握り締め――


「さよなら」


 小さくそう呟いた。


 彼の胸へと突き刺す魔剣。刃と斬り裂いた肉の隙間から、湧き水のように緩やかな速度で黒っぽい液体が涙のように流れる。だが、刃はまだ止まらない。

 一気に押し込んだ牙は彼の強靭な筋肉を斬り裂き、心臓を守る骨を容易く斬り裂く。そして、その奥で鼓動を打つことの無い、無機質な石へと到達。

 パキリ、という音と共に、彼の心臓の砕ける感触が魔剣越しに伝わる。その時、黄金の瞳から一筋に涙が頬を伝う。


「ご、はっ……ぐ……っ」


 心臓が砕け、貯蔵されていた魔力が一気に外へと流れだしてしまったようだ。彼はその顔を苦しそうに歪めると、カラン、と宝剣を取り落とし、ゆっくりと魔剣を抜くように後退する。

 ブシュリ、と魔剣が体から引き抜かれると同時に彼は、崩れ落ちるようにその場へと膝を付く。エスティアは、魔剣をその場に突き刺すと、そのまま顔面から倒れそうになる彼を抱き留めた。


「エ、スト……げほっ」


 魔力と言う名の灯が急速に消えかかり、もう殆ど見えていないであろう瞳でエスティアを見つめ、震える手で彼女の頬を撫でた彼は穏やかに微笑む。

 その姿に、エスティアは彼が本物ではないとわかっていても、その瞳に涙を貯めて潤んだ景色に支配されながら、彼を支えている右手の力を強めた。

 その手の強さに彼は嬉しそうに笑う。


「やつ、()()()……気を、つけろ……げほっ」


 その名前が彼の口から出たその時、エスティアの顔から表情が抜け落ちる。悲しみも、怒りも、なにも感じていないかのような、だけど、憎悪に染まってしまっているがゆえに無表情となっているのか。そんな彼女に彼は優しく微笑む。

 すると、途端にエスティアの顔に濃い悲しみの色が帰って来る。彼は微笑みを浮かべながら伸ばした手で彼女の瞳から流れた涙を掬い、そして――


「油断するな」

「えっ」


 もう、体の半分が砂となって消えていく者だとは思えないほど、力強い言葉に、エスティアは固まる。

 サラ、サラ、と砂が視界をかすめていく。


「エスト、きっとこの先にはツラいことが沢山待っている。だけど」


 彼の姿が消えていく。


「絶対に躊躇するな。アイツらの為にも殺してやってくれ」


 その言葉を最後に――彼はこの世から完全に消滅する。黒い砂は、サラ、サラ、と辺りを漂い、天へと昇るかのように窓の外へと流れ、見えなくなると、エスティアは流れていた涙を雑に拭う。

 そして、静かに立ちあがったエスティアは自分の体から湧き上がる怒りを抑えるように歯を食いしばりながら、息を漏らすような声で呟く。


「スライ……お前のことは、絶対に……殺してやるからな」


 その声はどこまでも、どこまでも、深い殺意に満ちていた。


 


 



 



次回更新日は2019年4月9日(火)を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ