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有志勇者となって勇者に復讐します。  作者: 鮫トラ
第七章 神は天からコチラを眺めている

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75 人喰らい


「俺は君が死んだとしてもどうとも思わないさ」


 少年はニヤリと笑うと、アリスの体を舐め回す様に見た。服を着ているのにその奥の素肌までを見られているような気分になったアリスはそっと両腕で自分の体を隠すようにする。それが面白かったのか、少年はククク、と笑う。


「なんだ、見ない間に随分と人間らしくなったじゃないか。ただ、聖剣が言うまま、人に言われるがまま戦う聖剣の人形かと思ってたが……よかったよ」

「……どういう意味ですか」

「そのままの意味さ。俺はアリスちゃん、君が心配だったんだよ。俺のコレクションに加えるには君は少しつまらないと思ってたんだ。だってそうだろ? ペットにするなら楽しい奴じゃなきゃ()()意味がない」

「飼う……そう言っている割には、死んでも構わないというのですね」


 アリスは挑発的に言う。すると、少年は意外そうに笑った。


「ああ、一番は君自身が自分の意志で俺のもとに来てくれるのが一番だが、それは望めないだろう? なら、最低でも君の死体が俺は欲しいのさ」

「そうですか」

「つれないなぁ、もう少し楽しそうに話してもいいのに。……まぁ、いいか」


 少年はそう言うと、くるりと踵を返す。そして、数歩歩いた彼は肩越しに振り向き、ニヤリと笑う。その姿にアリスの背筋にゾクリと冷たい何かが走り抜ける。嫌悪と薄気味悪さに吐き気がしてしまいそうだ。


「さて、そろそろ帰るとするよ。この姿で長く居ると戻れなくなってしまうからな。君が俺の所に来るのをのんびりと待つとしようか。……またね。ア、リ、ス、ちゃん」


 そう言った彼は舞台俳優の悪役張りの高笑いを披露すると、その姿を霧のように霧散させた。アリスは黄金の瞳を凝らし、残った魔力がどこに行くか探す。彼の魔力はふよふよと暫くその場を漂った後、北の方向へと消えていく。

 その方向は確か、“魔王城”がある筈だ。アリスは睨むように暫くその方角を見つめていたが、諦めるように顔を戻し、鉄格子に遮られた空を眺める。


「エストさん……」


 外のはずなのに冬の空気とは思えないほど、どこか暖かい空気が声を連れ去る。やっと手に入れた手がかかりかもしれないのに、これを伝える術はない。彼女にはもう……会えないかもしれないのだから。

 そんな確信にも似た、予感を感じていたアリスは、“どうか、こんな私を助けに来るだなんて考えないでください”と胸の中で呟く。














 いくつもの階段を上った。だが、頂上まではまだまだらしい。早く、早く、と気持ちだけが先走りそうになるエスティアは走り続けていた。


「ハァァァァァアアアアッ!」


 魔剣を振るい、最後の一人である槍を持った青年神族の首を斬り飛ばし、魔剣を突き刺し血を啜る。だが、この人物も“偽物”だったようだ。どす黒い腐った液体を吐き出す死体を嫌がるように魔剣はその形を煙へと変えて鞘の中へと逃げ帰る。

 エスティアは、そんな魔剣の鞘を軽く叩くと、ペンダントへと話しかけた。


「ねぇ、これもう全員ダメなんじゃないの?」


 真っ白の床を真っ赤に染め上げるほどの死体の山を見つめながらそう言う。偽物はリーダー格や力が強い者だけのようだが……言っては悪いが、まるでアリのようにひっきりなしに出てくる神族にエスティアは疲れを見せ始めていた。

 偽物ではなくても神族というのは勇者で言えばレッドやオレンジランクがゴロゴロといるのだ。加えてリーダー格の偽物に関しては下手したら王国勇者になれそうなほどの実力者ばかりだ。まぁ、魔剣の邪悪すぎる魔力が怖いのか、怖気づいている間に全員殺してしまったが。


『ええ、塔の内部に居る神族はもうダメでしょうね』

「え、じゃあ、君の友達とかも……」


 そう言ってエスティアは気まずそうに表情歪める。


『平気です。ここまで酷いことになっているとは思いませんでしたが、おそらくまともな神族は塔を出ていると思われます。だから、最初に言った通り……遠慮はせず殺してください。でないと、貴女が死ぬだけです』

「……わかった」


 エスティアは上り階段を駆け上がる。その表情は酷く苦しそうだ。



「なんか、ものすごい居るんだけど……」


 新たな階へと足を踏み入れたエスティアは歪めていた表情をより一層歪めると、思わずそう呟いていた。無理もない、下の階では多くても十人程度の神族が待ち構えていた。だが、目の前はどうだ、軽く数えただけでも三十人はいるだろうか。

 とにかく、全員倒して上の階に行かなければ。エスティアは引きつっていた表情を戻し、魔剣を引き抜き威嚇代わりに漆黒の魔力を波動として部屋へと充満させる。このまま相手が怯んだところを狙っていくつもりでエスティアは駆け出そうとしたが――


「うわっ!」


 三十人もの神族が一斉に斬りかかる。エスティアは咄嗟にバックステップで雪崩の様に襲い掛かるそれを躱そうとするが、逃げきれずにいくつもの槍が彼女の体を貫いた。


「が、は……ッ」


 真っ赤な鮮血が舞い散り焼けつくような痛みが傷口からじわりと広がる。だが、痛みに苦しんでいる暇はない。エスティアは刺さっていた槍を魔剣で叩き折り距離を取ると、次々に襲い掛かる剣を持った神族の首を刎ね飛ばし心臓を切り裂く。それでも、捌ききれずに無数の切創が体に刻まれ、大量の鮮血がエスティアの体から流れ地面を真っ赤に染めていく。

 ボトボトと絶え間なく流れる血液。もう、人間の致死量などとっくに超えている。だが、魔力を大量に孕んだそれは生き物のようにうねり、体に刺さっていた槍の穂先を抜き取り傷口を塞ぐ。


『まだ来ます!』

「わかってる!」


 ペンダントの彼女の言うと通り再び神族が襲ってくる。エスティアは突き出された槍を飛び上がりで躱し、その持ち主である女性の頭を太ももで挟み、捻る。ゴキッ、と頸椎の折れる音と感触が伝わり、ガクリと女性の体が脱力し倒れるていく。

 エスティアは即座に女性から離れると、飛んできた矢を寸でのところで躱す。だが頬をかすめていたのか彼女の頬からタラリと血の涙が垂れる。

 距離を取っていても意味はない。エスティアは魔剣を低く構えると、前へと突っ込む。傍から見れば自殺行為だ。だが、エスティアは振り下ろされている斧をくぐるように躱し、持ち主である屈強な男性神族の逞しい首を斬り落とす。コンパクトに振るわれたにもかかわらず魔剣はあっさりと首を刎ね飛ばし歓喜に震え、真っ赤な血を啜った。


「次だッ!」


 魔力をブーストとして使い、その隣に居た女性の体を真っ二つに切り裂くつもりで、できるだけ隙ができないように振るう。だが、女性は後ろに立っていた女性の腕を引き盾のように使う。当然、盾に使われた女性は魔剣の餌食となりその体は二つとなって床へと落ち、真っ赤な液体と中身が床に流れる。

 仲間を盾に使うなんてとエスティアはその非道さに一瞬、怯んでしまいその女性に追撃を仕掛けることを躊躇してしまう。だが、戦場において、それはよくなかった。どこからか、飛び出してきた青年の拳がエスティアに直撃する。


「っぐ、あ……っ!」


 ガードする暇もなくエスティアの体は吹っ飛び壁へと叩きつけられる。心臓部へと叩くような衝撃で呼吸が止まりそうになる。心臓を守っている骨も折れてしまったようだ。どうにかして立ちあがったものの、心臓のリズムがおかしくなってしまったかのように激しい胸痛が襲い、足元もおぼつかない。

 先ほど、仲間を盾に使った女性がレイピアをエスティアの心臓部目掛けて突き出される。魔剣を持ち上げてガードする暇はないと、なんとか判断できたエスティアは、魔剣を手放しその針のように鋭い刃を掴む。

 何とか掴むことはできたが女性とは思えないほどの力で押し込まれていく。そんな女性の背後からは神族が襲い掛かろうと駆け出しているのが見える。心臓を貫かれるのが早いか、大量の神族の波にのまれ各々の武器でミンチにされるか。


「くっそ……っ!」


 まさに絶望の二択。だが、エスティアは諦めない。漆黒の籠手に魔力を流す。

 ボロボロ、と漆黒の籠手に掴まれている鋭い刃が風化するように崩れていく。エスティアは握りつぶす様にそのレイピアを破壊するといつの間にか左手で握っていた魔剣を横に振るい、女性の首を刎ね飛ばした。

 放物線を描き、どす黒い血を吐き出しながら地面へと女性の首が地面へと落下していく。どうやら、彼女がリーダー格だったようだ。司令塔を失った瞬間、他の神族がそのままの体勢でピタリと動きを止める。その様子はまるで、そこだけ時間が止まっているかのよう。


「やっぱり、リーダーを殺せば全部止まるみたいだね」

『そのようですね。では、時間短縮の為にも明らかに強い個体を狙っていきましょう』

「そうだね。魔力足りるかな……」


 下の階層でも、リーダーと思われる人物を殺した瞬間に他の神族が動きを止めたことを思い出したエスティアはそう呟き、固まっている神族を避けるように上り階段がある奥まで歩く。

 赤い血を流すということは、エラーではないようだが、普通の生き物にこんなことができるのだろうか。息をもしていないかのように固まっているソレを一瞥しながら彼女は階段を駆けあがった。





 階段を上がった先には――誰もいなかった。

 真っ白な空間が広がる代り映えしない部屋。先ほどとは打って変わって静けさに包まれたその光景にエスティアは、拍子抜けしたように小さく声を漏らしていた。

 そして考える。これは罠ではないだろうか、と。だが、考えていても仕方はない。早く、アリスを取り戻して帰らなければ。


「……よし」


 たとえ、罠が仕掛けてあったとしても全てぶっ壊せばいい話だ。体はボロボロで激しい痛みが体を駆け巡っているが、戦えるのなら問題はない。エスティアは魔剣を握り締め部屋へと一歩踏み出す。

 その瞬間、ペンダントの彼女が鬼気迫る声で叫んだ。


『エスト様! 上です! 逃げてください!』

「え――ッ!?」


 天井を見つめる。そこには――大量の神族が()()()()()()()。まるで、天井に群がる蜘蛛のように両手両足で天井へと張り付いているそれらは、無表情でエスティアを見つめていた。

 言いようのない嫌悪感が背筋を駆け巡る。あれが神族なのか。もう、なんでもありではないか。彼女は「逃げろ」と言ったが、エスティアは口元を引きつらせながらそれを見続けることしかできない。おそらく、目を逸らせば襲い掛かってくるだろう。

 無意識に数を数える。だが、天井を埋め尽くすほどのそれに吐き気を覚えたエスティアは早々に数えるのをやめた。きっと数えた所で意味なんてない。絶望感に叩きのめされるだけだから。


『見てはダメです! 気が狂いますよ!』


 ペンダントの彼女の声が聞こえてくる。だが、その声はどこかくぐもって聞こえる。頭がボーっとしてきた。早く、早く、と焦る気持ちが息を吸い込んだ肺のように膨らみ、食べ物を食べた時の胃のように膨らんでいく。

 声が聞こえる。耳鳴りのような音が響き、視界が揺らいでいき――


『エスト様!』


 ハッと意識がクリアになって行く。今、何をしていたのか。エスティアはそんなことを考えながら見つめていた天井に()()()()()ことに気が付く。天井を埋め尽くすほどの黄金色がまるで夢だったかのように。だが、どこかで、ペタリ、という音が聞こえた。

 咄嗟に振り向くが、遅い。まるで野犬のようにエスティアへと飛びついた女性が、彼女の右肩に頬が裂ける程大きく開いた口を近づけていたのだから。

 躱すことは不可能。人間とは思えないほど異常に発達した犬歯が服を貫通し、皮膚を破り肉へと食らいつく。


「っああぁぁぁあああ……ッ!」


 肉を切り裂いた刃はその下にある僧帽筋をも切り裂き、想像を絶するほどの激痛がそこを起点に広がる。痛みに慣れ、鈍感になっていたとしてもエスティアは叫び声を上げずにはいられなかった。まるで硬くて切れない肉を噛みちぎるように咀嚼(そしゃく)しながら引き延ばす様に、女性は肉を食い千切る。


「ぐぁぁぁああああああああっ!」


 ブチリと引きちぎられたエスティアは痛みに叫びながらヨロヨロと距離を取る。噴き出した血が即座に開かれた傷口に纏わりつき仮の肉体を作り上げる。だが、痛みが消えるわけではない。荒い呼吸を繰り返しながら傷口を左手で押さえるような仕草をしながら、エスティアは倒れたい気持ちを必死に蹴り飛ばす。

 ここで倒れたら死ぬ。自分に言い聞かせ飛びそうになる意識を無理やり引っ張り魔剣を構えたが――


「うそ、でしょ」


 グチャリ。グチャリ。嫌な音が響き、カラァン、という音が響く。

 それは、エスティアが魔剣を落とす音だった。いや、彼女の魔剣を握り締めた()()()()()()()が正しい表現であろう。


「っ、あ……」


 あらゆるところから痛みが発生していてどれに苦しめばいいかわからない。倒れ込んだ先に自分の右腕が見える。そして、それを楽しそうに齧り続ける黄金の瞳を持った女性。自分の体がランチになった光景が叩きつけられるように見せつけられる。

 酷い光景だ。体の感覚が無い。どうやら左腕も持っていかれてしまったようだ。右腕とは反対の方向からコロ、コロ、と指が転がって来る。どこの指かなんてほとんど骨となっているためにわからない。

 両足から生温い感覚と硬いものが食い込む感触がおぼろげながらも伝わって来る。そんなに美味しいか。エスティアは自分が貪られていく様を見ていることしかできない。流れ出た血を神族がジュースのように飲み干していくせいで体を作ることができないのだ。


『エスト様! 気を失ってはダメです! 頑張ってください!』

「ぁ……あ、む……り……か……も」

『エスト様!』


 体が冷たくならない。もうとっくに死んでもおかしくない状況なのに、体は生きようと熱を発している。魔剣が無理やり生かしておいてくれているのか。だが、意識を掴み損ねたようだ。エスティアはまるで、眠るようにその意識を手放していった。







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