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有志勇者となって勇者に復讐します。  作者: 鮫トラ
第七章 神は天からコチラを眺めている

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73 見上げる者は仲間の為に


 鋼鉄の鳥の背に乗り、風を受けながらエスティアははるか遠くにそびえる塔を睨みつけたまま口を開く。


「エリザ、あとどれくらいで着く?」

「この調子なら、あと数十分ってとこね」


 エリザはそう言ってエスティアとシュティレに、こちらを向くように促す。そして、不思議そうな表情で向き直った二人にエリザは懐から小さな女神像を取り出し見えるように置く。

 乳白色にうっすらと金色の装飾を施されたそれは見ただけでも、高価なものだとわかる。どうしてエリザがこんなものを持っているのか、と二人が怪訝な表情を浮かべる。

 エリザがそんな二人を見つめ、口を開こうとしたその時――


『私からお話いたしましょう』


 どこからともなく、声が響く。それは耳に響くというよりも、脳に直接響くようなそれに二人は声の主を探す様に辺りを見回したが、ここは空の上だ。自然と視線は女神像へと戻る。

 まさか、この女神像が……と二人はそう考えた時、再び脳に声が響く。そんな経験に慣れていない三人は一瞬、顔を顰めながら。


『驚かせてしまい申し訳ありません。ですが、今はあまり時間がありません。ですので、簡単な自己紹介をしたらすぐに本題に移らせてもらいます』

「あ、うん。どうぞ」


 複雑な表情でそう答えて頷いたエスティア。女神像は景色が見えているのか、返事の替わりにその体を薄く発光させると、言葉を続けた。

 エスティアとシュティレはどこかで聞いたことのある声だなと考えながら女神像の言葉を待つ。エリザは肩に乗るピーナッツに、小さな玉の形にした自分の魔力を食べさせると、真剣な表情で女神像を見つめる。


『ありがとうございます。私は以前はあの塔に住んでいた神族です。アリアナ様に頼まれて道案内として付いてきました』


 お辞儀のつもりだろうか、再び体を薄く発光させた女神像は言葉を続けた。


『神族はあの塔で生まれ、死ぬまで塔を降りることはとある事情を除き、地上へ降りることは禁忌とされています』

「そのとある事情って? 今回、アリスが連れていかれたのと関係があるんだよね?」

『はい。地上に降り立った神族を捕らえるのが主です』

「なんで、そんなことを」


 エスティアは思わず呟くが、禁忌とされているのなら仕方ないのかと考える。だが、納得できないエスティアは塔を一瞥すると、質問した。


「降りた神族を捕まえるのが目的なんでしょ? なら、なんでアリスが連れていかれるの。あの子は、少なくとも塔で育ってないはずなのに……」

『神族は地上を穢れた物であると考えられており、その土地に住む地上の者は穢れし存在とされています。そして、地上に降りた神族は穢れた者とされます。それは、どこで育ったなどは関係ありません。神族の血が流れている者が地上に居るということが問題なのですから』

「なにそれ……じゃあ、捕まった神族はどうなるの……?」


 なんとなく予想はできている。それでも、エスティアは僅かな可能性でも確かめておく必要があった。そうすることによってどうすべきか決めなければならないからだ。

 不安げな表情でシュティレはそっと、エスティアの手を握る。女神像は淡く体を発光させる。その様子がなんだか悲し気に思えたエスティアは軽く唇を噛む。


『……今回は事情が特殊なのでどうなるかわかりませんが、おそらく――処刑されるでしょう』

「そう……」


 これでどうするかは決まった。エスティアは腰に収まる魔剣の鞘を一撫ですると、その表情から感情を落とす。魔剣の鎖がチャリ、チャリ、と音を立てる。コロセ、コロセ、と囁く声。最近ではその声がどんどん自分の声とそっくりになっていくことに気付いたエスティアは鼻を鳴らす。

 




 フワリと着地した鋼鉄の鳥は、全員が背中から降りたのを確認すると一声鳴き、その姿を霧のように霧散させた。一足先に地面へと降り立っていたエスティアは、飛び込んでくるシュティレを受け止め、優しく地面へと降ろす。

 そして、エスティアは目の前にそびえる塔の頂上を睨みつける。雲に隠れているためにみることはできないが、それでも睨まずにはいられなかった。


「これが、入口ね。どう頑張っても入れそうにないんだけど」


 エリザはそう言って塔を睨むエスティアを軽く肘で小突くと、塔の入り口であろうと思われる巨大な扉を見渡す。灰色の石で出来た扉に取っ手は無く、試しにエリザが押してみるがビクともしない。エスティアも両手で押してみるが開かない。

 急いでいるのに面倒くさいなと内心で毒づいたエスティアは、全員に離れるように言ってから魔剣を引き抜く。開かないのなら壊せばいい話だ。引き抜いた魔剣を大きく振りかぶったその時、エリザの懐が淡く光り輝き、声が響く。


『壊れませんよ。特殊な術式が組み込んであります。攻撃しても跳ね返ってケガをしてしまいます』


 エスティアは振り上げていた魔剣を鞘へと納めると、エリザが懐から出した女神像を見つめる。無表情だが、その黄金の瞳には苛立ちが見えている。


「なら、どうすればいい?」

『その扉を開く方法はあります。魔術師のお二人がいれば開くことは可能です。お二人がその真ん中にある紋章に魔力を流し込めばよいのです』

「なら、早く開こう」


 エスティアはシュティレとエリザを見る。二人はその視線に頷くと紋章へと手を翳す。紋章が眩いほどの光を放ち、扉がゆっくりと開き始める。だが、一気に魔力を吸い取られてしまったのか、二人は表情を歪め、早く入れとエスティアに視線を向ける。

 早く行こう。エスティアが扉へと飛び込もうとしたその時、彼女は何かに躓き――顔面から地面へと転んでしまう。


「――あだっ」


 辺りの空気が凍り付く。シュティレは呆気に取られていたが、眉尻を下げ、心配そうにエスティアを見つめる。エリザも最初は呆気に取られた様にしていたが、小さく吹きだし肩を震わせた。

 エスティアは恥ずかしさのあまり穴にでも埋まりたい気分だった。だが、あまりふざけている暇はない。気を取り直す様に立ちあがると、ほんのり赤く染まった顔で転んだ原因となった女神像を掴み上げた。


「なにす――」

『私を連れていってください』

「は?」


 エスティアが怪訝な表情を浮かべる。だが、別に荷物になるわけでもないし、早く扉をくぐらなければ二人に無駄に魔力を消費させてしまうので「わかった」と、言い頷く。すると、女神像が光り輝き、その形を小さな十字架付きのペンダントへと形を変え、エスティアの首元へと納まる。


『では、行きましょう。二人の魔力を無駄に消費させるわけにはいきません』

「あ、うん。じゃあ、二人とも。行ってくる……と、その前に」


 歩みかけていた足を止めたエスティアは自分の腰に収まっていた宝剣をその場に置く。そして、「シュティレ、持ってて」とだけ告げると、今度こそ扉の前へと移動し、小さく息を吸い込む。


「アリス、絶対に連れて帰るからね」


 僅かに開いた扉へと、エスティアは体を滑り込ませるように、今度こそその中へと消えていく。その瞬間、二人は扉から弾き飛ばされるように地面へと倒れ込んだ。それは、まるで、扉がこれ以上触れられることを拒むようだった。

 不思議そうに表情を歪め、二人は扉を見つめる。どうしても、もう一度触ろうと思う気にはなれなかった。何故かと聞かれても二人はおそらく答えられないだろう。


「エスト……」


 シュティレは、置かれた宝剣と一瞥した後、扉を見つめながらそっと胸の前で両手を握り、祈る。どうか、無事に戻ってきますように、と。












「ここが、天空の塔の中……随分と殺風景なんだね」


 エスティアはそう言って辺りを見回した。太陽などないのに明るい部屋は真っ白な大理石で作られたような床と壁が広がっている広場のような場所。だが、それだけで、神族と思わしき人影もない。あるのは、奥に見える上り階段だけだろう。

 なんとなしに、振り向くと、入って来た筈のドアは無くなっており真っ白な壁があるだけだ。エスティアは胸元に収まるペンダントへと話しかける。


「あの階段を昇ればいいの?」

『はい。でも注意してください。もう、神族の警備隊には入って来たことがバレています……この部屋の形は侵入者用だったはずですから』

「ふーん」


 興味なさげに床をつま先で蹴ったエスティアは歩き始める。確かに、どこからか見られているような感覚がある。侵入者が来たというのに、随分と警備隊とやらは怠け者なのか、脅威とすら思っていないのか。だが、好都合だとエスティアは足早に歩き、部屋の中央までたどり着いたその時、ペンダントが『あ、いい忘れてました』と呟く。

 エスティアは首を傾げる。


『塔の中に居る間は絶対に私を外さないでください。通常、天空の塔は神族以外の種族が入ると、その神聖な魔力で焼き尽くされてしまうのです』

「えっ」

『私を付けている間は私の魔力で守っているので安心してください』

「じゃあ、警備隊が襲ってこないのもそのせいなのかな……普通だったら死んでいる筈の人間が平気そうな顔で歩いてるから」


 見つからないとわかっていても一応、突き刺すような視線の出所を探しつつ階段の前までたどり着いたエスティアは上り階段を見上げる。淡い光に包まれてなにも見えないが、きっとこの階段を昇れば、神族の警備隊が待ち構えているだろう。

 エスティアはポケットに入っている飴玉を一粒取り出す。青色に輝き、キラキラと星屑の川のように白い模様が入ったそれは、シュティレから渡された物だ。これを食べれば、彼女がいなくても強化魔術が発動し身体能力を上げることができる。まぁ、いつもよりは効果が薄くなってしまうが、神族は未知の存在だ、強いと言われているがそれがどの程度なのかはわからない。

 相手を殺す気でいかなければ、おそらく殺される。エスティアはペンダントを軽く握る。だが、殺してよいのだろうか。すると、そんなことを考えが伝わってしまったようだ。


『出てきた神族は全て殺してください』

「え……?」


 彼女は抑揚のない感情も篭ってないかのようなその声に、エスティアはその瞳を伏せる。すると、ペンダントが淡く光り輝く、その光はまるで“気にするな”と、言っているようだった。


『彼らには変化が必要です。その為に、悪しき風習をいまだに守る者を殺すべきです。平気です、変化を望む者(死にたくない者)は隠れて出てこないはずですから。……それに、もう』

「そう……なら――」


 言葉尻はあまりよく聞こえなかったが、気を取り直すように飴を口の中へと放り込んだエスティアは、右手で魔剣を引き抜き、振り向きざまに背後から迫ってきていたソレへと突き立てた。

 グチャリと肉を斬り裂き、骨を砕く音と感触が伝わる。エスティアは魔剣の餌食となり、必死に胸に突き刺さった魔剣を両手で引き抜こうとしている青年を冷たく見つめた。黄金色の髪に瞳を持ち、神なる一族といわれても所詮、作りは同じのようだ。真っ赤な血を流し、苦し気な姿にエスティアはグッと魔剣を深く差し込む。


「コイツは死にたがりってことでいいんだよね」

「あ、が……ッ」


 漆黒の剣が青年の背骨を砕き、貫通する。傷口から大量の真っ赤な液体が流れ出ると魔剣は歓喜の声を上げ刀身に赤い葉脈のようなものを浮き上がらせ、流れ出た血液(食料)を啜る。神族の魔力は質も量も最高のようだ。青年の体を流れる血液を全て啜った魔剣は自分の魔力となったソレを垂れ流す。

 青年は顔を文字通り真っ青にしながら悲鳴すら上げることができずに、その体はミイラのように干からびさせ事切れる。エスティアは青年を蹴り飛ばし魔剣を引き抜くと、倒れた青年の死体を魔剣で叩き壊す。まるでハンマーで叩いた角砂糖のように、粉々に砕ける青年だった物を一瞥したエスティアは突き刺さる視線に警告する。


「アリスを返せ。無理なら邪魔をするな。もし、邪魔をするようならコイツのように血を啜り粉々に砕いてやるからな」


 人間とは思えないほどの強烈な殺気を放つエスティア。黄金の瞳をギラリと輝かせると、どこかで誰かが息を呑むような音が聞こえた。その様子に鼻で笑う。


「いいか、アリスに何かしてみろ。目についたお前らを……一人残らず殺してやるからな」


 その言葉が部屋に響く。すると、まるで小鳥が驚いて飛び立つようにエスティアへと突き刺さっていた鋭い視線と気配が消えてしまう。

 てっきり襲い掛かってくるものだと思っていたエスティアは、“神と言われてる割には臆病な奴らめ”という言葉をそっと飲み込む。


「さて、では気を取り直していきますか」

『お気を付けください。今の挑発でおそらく次の階には幹部クラスの神族がいるかもしれません』


 心配するような声色の彼女に、エスティアはガリガリと後頭部を掻くと、両手でパンッと頬を叩く。思った以上に力が入ってしまったことによりヒリヒリとした痛みに涙が出そうになるが、スっとその表情を正すと魔剣を握りなおす。


「平気。気を使わなくていいなら私は何でもできるから」


 エスティアはそう言うと、ようやく上り階段へと足を踏み出した。



 


次回の更新は2019年3月16日(土)を予定しております。

これからもよろしくお願いいたします。

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