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有志勇者となって勇者に復讐します。  作者: 鮫トラ
第七章 神は天からコチラを眺めている

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72 全てを視る


 時間にして数十秒の出来事だった。

 エスティアと唇を重ねたアリアナは、藍色の瞳(インディゴアイズ)へと大量の魔力を流し込み、黄金の瞳が見てきた光景を全て奪い取る勢いで輝く。そして、体験した光景をより深く理解、共有するためにアリアナはエスティアの口内へと舌を滑り込ませ、唾液を絡めとる。

 名残惜し気に引いた銀の糸が二人を繋ぐ。エスティアは急いでそれを拭うと、口元を手で覆ったままアリアナを見つめる。


「な、な、い、いきなり……なにを……っ」


 そっと、シュティレへと目線だけ向ける。すると、シュティレは至って平然としたまま。アリアナを見つめている。その様子にエスティアは、何故だか無性に悲しくなり、誤魔化すように視線を戻した。

 アリアナは口元をハンカチで優しく拭うと、顔を上げる。その表情は、この部屋にいる誰よりも真剣でいることに全員が固唾を呑む。


「私の魔眼でエストさんの光景を視ました。結果から言います――アリスさんは少し……マズイ状況にいます」

「……どういうこと」


 エスティアが黄金の瞳をギラりとランタンの光を反射させる。それは、静かな怒りを孕んでいる。


「貴女たちの前に現れた神族は、アリスさんの母親ではありません。彼女はどうやら()()()()()、と呼ばれる人物の命令でアリスさんを連れ去りに来たようです。連れ去った後、何をするかまでは知らないようなので、不明ですが。あの神族の感情からして、あまりいい意味ではないようです」

「そんな……私は……なんで、疑問に思わなかったの……っ」


 最初は疑っていた筈なのに、あっさりとあの女性を信用していた。エスティアは皮膚が破れそうなほど強く拳を握る。シュティレも気付けなかった自分に憤りを感じざるを得ないようだ。エリザはそんな二人を無言で見つめている。

 どうして、どうして。そんな考えにエスティアとシュティレの二人が囚われたその時――二人の額をエリザが小突いた。


「あだっ」

「いたっ」


 同時にそう言った二人は額を摩りながら、エリザに顔を向けた。


「いきなり何するのさ」

「ちょっと、痛かった……」


 不満げに口を尖らせる二人にエリザは、もう一度やられたいのかと言いたげに、拳を軽く振り上げ脅すと、二人はシュンと項垂れる。

 まるで、二人のお母さんみたい、とアリアナは思わずそう考えてしまって、吹き出しそうになってしまうのを何とか堪えると、口を開く。


「おそらく、神族の女性が何かをしたのでしょう。だから、あの場に居たアリスさんを含め、全員が()()()()()()()()()。まぁ、エストさんには効きが悪かったのか、違和感を持っていたようですが」

「なんで私?」


 エスティアがそう言って小首を傾げる。だが、全員がエスティアの“黄金の瞳”に注目していることに気付くと、自分の瞳に手を当てて「まさか」と呟く。


「そのまさかです。エストさんの瞳はやはり、神の目と呼ばれる代物でしょう」

「な、なんかハッキリ言われると、なんか複雑」

「どうやって、その瞳を手に入れたのかは知りませんが、その瞳のおかげで私は貴女の過去を視ることができた。……みなさん」


 アリアナの瞳が全員を順番に射抜く。


「今すぐ、聖都にある天空の塔へと向かってください。そこにアリスさんはいます」


 その言葉が脳へと落ちた瞬間、エスティアは即座に立ちあがるとシュティレの手を無言で握りしめ、部屋を出ていく。

 完璧に出遅れてしまったエリザは大きくため息を吐き出すと立ち上がり、後を追おうと、踵を返したその時、アリアナが声をかけた。





 部屋を出たエスティアは、急ぎ足で廊下を歩く。だが、引いていたシュティレが突然立ち止まったことにより、歩みを止めざるを得なくなった。振り向いたエスティアは困ったように眉尻を下げる。

 強く引っ張りすぎてしまったのだろうか。うつ向いたままでいるシュティレの顔を覗き込もうとしたその時――


「ちょっと、来て」

「うわっ、ちょ、シュティレ……?」


 手を引かれ、連れていかれるはトイレだった。個室へとエスティアを押し込んだシュティレは、後ろ手に個室のカギを閉めるとそのまま、飛び込むようにエスティアの胸へと抱き着く。

 エスティアは突然のことで一歩下がると、トン、と背中に壁が当たる。抱き着いたまま何も言わない彼女にエスティアはどうすることもできず、固まってしまう。


「……ごめん。いま、こんなことしてる場合じゃないってわかってる」

「シュティレ……」


 暗い声。それが泣きそうな声にも聞こえたエスティアはどうしようもなく胸が痛くなる。確かにアリスのことは心配だ、今すぐにでも行かなければいけないとわかっている。だが、どんなことがあろうと、一番優先すべきはシュティレだ。

 これはたとえ、天変地異が起こる前だとしても変わることはない。エスティアは安心させるようにシュティレの頭を撫でると、優しく声をかけた。


「いいんだよ。で、どうしたの?」

「……」


 顔を上げたシュティレは、ジッとエスティアの瞳を見つめる。その表情は怒っているような悲しんでいるような複雑な物だった。エスティアはそんな彼女のなんとも言えない表情を見ながら、暫く思いを巡らせる。そして、一つの結論に至る。


「シュティレ」


 優しく声をかけ、シュティレの顎に手を添えて上を向かせるとそのまま、少し強引に彼女へと口づけを落とす。甘い砂糖菓子でも口に含んだかのように、口の中に広がる優しい甘さに虜になってしまいそうだ。そしてエスティアは、驚きで瞳を見開きキュッと服の端を掴む彼女に愛おしさでいっぱいになる。

 数秒にも満たない、触れ合うだけのようなそれでも、シュティレの()()()を撃退することには成功したようだ。真っ赤な表情で固まる彼女の頭を撫でたエスティアはクスリと笑みを零す。


「シュティレ……好きだよ。この世で一番」


 そう言ってエスティアはもう一度、軽く口づけを落とすと、呆気に取られる彼女を強く抱きしめた。
















 目を覚ますと辺りは暗闇に包まれていた。冷たい石敷きの床に寝かされているようで、鎧をつけていないアリスの体は体温を奪われ、ブルリと体を震わせる。

 ここはどこだろうか。どうやら、閉じ込められているだけで拘束などはされていないアリスは体を起こし、辺りを見回す。

 ここは牢屋のようだが、鉄格子の奥は真っ暗で何も見えない。そして、装備は全て奪われてしまったようだ。おまけに、魔法封じだろうか、手首には不思議な術式が刻まれており、魔力の流れが抑制されているような気がする。

 試しに鉄格子を掴み、押し曲げようとするが聖剣の加護が使えない為か、普通の少女となっているアリスの筋力ではうんともすんとも言わない。


「はぁ……」


 諦めたように壁を背に座り込んだアリス。金色へと戻った毛先を弄りながら、なにも無い真っ暗な天井を見上げる。

 どうして、わかりきっていたことを信じてしまったのか。どうして、()()()()()()()()()()()彼女を母親だと一瞬でも信じてしまったのか。そこが最大のミスとなり、囚われの身となってしまった。

 知っていたのに。旅に出る前の日、村長に“両親ははやり病にかかって死んでしまった”と聞かされていた筈なのに。そこまで考えて、アリスは項垂れて石敷きの床を見つめる。


「ごめんなさい」


 思わずそう呟いていた。常に勇者として強くいなければならないのに、自分という存在は抑え込み、戦わないといけないのに。力なくキュッと拳を握り、力を抜くように手を開く。


 暫くそんなことをしていたアリスは、鉄格子の奥の暗闇から足音が聞こえてきことによって意識を一瞬で引き戻し表情を引き締めると、黄金の瞳で目の前の暗闇から姿を現した黄金の女性を睨む。

 女性は微笑みを浮かべたまま、アリスの鋭い眼光など気にならないと言いたげに、鉄格子へと近づくとその黄金の瞳でアリスを舐め回すように見た。その瞳の奥に嫌悪が潜んでいることに気が付いたアリスの眉間にしわが寄る。


「本当に……姉さんソックリ」


 そう言った女性はこれでもかと不快そうに表情を歪め、鼻を鳴らす。


「貴女は誰ですか。どうして、私をここに?」

「王が貴女を連れて来いと言ったからよ」


 女性がどこからか椅子を引き寄せると、そこに座る。


「それにしても、誘拐されたって言うのに随分と大人しいのね」


 探るように黄金の瞳を煌めかせる女性。その輝きはまるで闇夜で獲物をうかがうフクロウのような静けさと圧迫感に満ちていた。常人であれば、その圧迫感に耐えることはできないだろう。だが、アリスはその程度ではなんとも思わない。

 すまし顔でいるアリスに女性は大きくため息を吐き出す。


「ほんとっ、そのすまし顔そっくり過ぎて気味が悪い」

「そう言う貴女は、写真で見た母に全く似ていませんね。姉さんと呼んでいる割に」

「――っ。言うじゃない」


 額に僅かな怒りを浮かべた女性。押さえているつもりだが、黄金の瞳にはしっかりと怒りと殺気が涙のように流れだしている。

 随分と短気な人だなとアリスは胸の中でそう思うと、立ち上がり、鉄格子を掴み女性を鋭く睨みつけた。


「もう一度聞きます。貴女は誰ですか?」


 鋭い刃のような言葉が降り注ぐ。女性は鼻で笑うと、鉄格子へと近づき冷め切った黄金の瞳でアリスの瞳を貫く。その冷たさはまるで凍てつく暗闇の中にそびえる氷山のようだ。

 アリスは心臓に冷たい風が通り抜けていくような感覚を感じたが、動揺を悟られまいとまっすぐに見つめ返す。


「私の名前は、ピオーネ・カエル。貴女の母親であるレーラ・カエルの妹よ」


 ニヤリと笑みを浮かべるピオーネ。顔つきは写真で見た母親のレーラと似てはいるが、その意地悪そうな笑みはきっとピオーネだけの表情だろう。それほど、悪意に満ちた顔つきにアリスは母親を汚されたような気分に陥り、自然と鉄格子を掴む手に力が入る。


「ふんっ、その表情は姉さんを騙したアイツにそっくりよ」


 したり顔でそう言うピオーネにアリスは噛みつくように言い返す。


「ウソをつかないでください。お父さんがお母さんを騙すはずがないっ!」


 産まれてすぐにいなくなってしまった両親だが、村長の話では仲睦まじいどこにでもいる幸せな夫婦だったという。まさか、母親が神族だとは思わなかったが、それでもアリスはピオーネの言葉が嘘だと言い張れる自信がある。故に、アリスの黄金の瞳は怒りをを濃く浮かべていた。


「騙したわよっ! アイツは、姉さんを……姉さんを……殺したんだから……っ」

「お父さんが……お母さんを……ころした……?」


 したり顔から一変して、悲痛に満ちた表情で叫ぶ。その声は先ほどのような余裕は全くなく、心の底からそう言っていると感じ取ったアリスは狼狽えた様子で、聞き返す。

 お父さんが殺したというのはどういう意味なのだろうか。アリスの頭にいくつもの“なんで?”が浮かび上がっては沈むを繰り返す。


「そうよ……アイツが、アイツが姉さんを連れていかなければ……そして」

「――っ!?」


 怒りに満たされた表情でピオーネは鉄格子の中へと手を差し入れ、アリスの胸倉を両手で掴むと、グッと勢いよく引き寄せた。その際に、鉄格子に額をぶつけたアリスの額から一筋の赤い滴が流れる。噛みつくようにピオーネはこう言った。


「アンタが生まれたせいで、姉さんは帰ることすら許されなくなった」


 ピオーネの表情は今にでもアリスを殺してやるという気迫に満ちていた。その様子にアリスはなにも言うことができず、ただただピオーネを見つめることしかできない。

 帰ることができなくなったというのはどういう意味なのか。ピオーネがアリスの髪に触れる。だが、その触り方はまるで壊れ物にでも触れるかのようなそれに、アリスは驚く。彼女の殺意の篭った瞳の中に、一筋の哀れみが見えたからだ。

 だが、ピオーネは自覚していないようだ。そっとアリスの黄金の髪を触り、小さく呟く。


「ずっと、()()されたままだったらアンタも平和だったのにね」

「それはどう――」


 突然、襲い掛かる眠気。まるで、意識という自分の体を鉛で固めてから海にでも投げ込まれてしまったかのように、アリスの意識が朦朧としてくる。視界がぼやけ、自分が今、なにをしているのかすらわからなくなってくる。どうにかして、必死に“目を閉じてはダメだ”と言い聞かせるが、アリスの体は崩れ落ちるように地面へと倒れ込む。

 アリスは体を起こそうとするが、痺れたように体はピクリとも動かない。もう意識が持たない。視界がドンドン暗闇に支配されていく中、彼女の耳に寂しそうな声が届く。


「ごめんね」



 その言葉を最後に、アリスの意識は深い、深い、闇の底へと引きずり込まれていった。

 



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