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有志勇者となって勇者に復讐します。  作者: 鮫トラ
第七章 神は天からコチラを眺めている

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70 黄金の太陽が作る影は闇のよう


 眩い光が辺りを包む。それはいつもの純白の白さではなく――目がかすむほどの()()だった。


『ヴォォォッ』


 この光に思わずノーヴェンは怯んでしまったのか、振り下ろしていた拳で目元を覆うように一歩後退する。エスティアは目を瞑り痛む腹部を抑えながらどうにかして立ち上がり、ヨロヨロと後退する。

 傷口を焼かれ血が出ないせいで仮の部品が作れないためか、エスティアは足に力が入らず、そのまま地面へと――


「エストさん!」


 倒れ込むという手前で、アリスが滑り込むようにエスティアの体を支える。その時、エスティアの霞む視界に金色のような物がチラつく。

 そして、見つめてくる()()()()にエスティアの霞んでいた視界が一気に晴れ、驚きの表情を浮かべた。


「ア、アリス……? その、姿……ゴホッ」

「これが、私の“本当の姿”だったようです。それよりも、まずは応急処置をしましょう」


 黄金色の髪を揺らし、そう言って微笑んだアリスは一瞬、ためらうように黄金瞳を伏せた後、持っていた小さなナイフで――エスティアの傷口を思いっきり抉った。

 体中に駆け巡る鋭い痛み。ナイフはエスティアの焼けた皮膚を切り裂き、その奥で出たがっていた血液が噴き出す。


「がぁぁぁああああぁっ!」


 噴き出した血液がうねる。蛇のように叫ぶエスティアの体に巻き付き、傷口へと入り込み、()()()()をその血液によって形成した。これで、死ぬことは無いだろう。

 アリスはエスティアの血で真っ赤に染まった純白の籠手をキュッと握り締めると、エスティアの頬を血の付いていない左手で撫でる。


「アリス……」


 背後からシュティレの回復によって開いた穴をふさがれ、仮の部位が作られたといっても痛みが消えるわけではない。ボロボロに焼けた左手でアリスの肩を掴んだエスティアは、名前を呼ぶ。アリスは小さく微笑むと、そっと立ちあがる。

 純白の鎧が黄金の魔力に包まれ、聖剣の輝きも見たことの無いほどの輝きを放つ。エスティアはその後姿に言いようのない親近感を覚える。見たことは無いが、どこかで感じたことのある感覚に思わず手を伸ばしかけた。


「ノーヴェン……貴方は本当に人をやめてしまった。例え、仲間だったとしても」


 アリスは聖剣を構える。その瞬間、背後には数えきれないほどの光の剣たちが巨大な翼のように展開される。光輝くそれはまるでアリスが黄金の太陽にでも変わってしまったかのように錯覚させる。


「私は貴方を斬ります」


 一歩アリスが踏み出す。その瞬間――ノーヴェンの残った左目は、彼女を見失った。


『ヴォォォッ!?』


 トン、と。ノーヴェンの背後へと立ったアリス。その瞬間、ブジュリ、という音が響き渡り肥大化した右腕が根元から斬り落とされたように、地面へと落下する。

 ボトボトと溢れ出すマグマが地面を覆い、黒い床を作り上げる。痛みは感じないが、怯んだようにノーヴェンは声を上げ、体を激しく揺らしながら振り向き、その右肩からあふれ出すマグマをアリスへと振りかけた。

 当たれば一瞬で体を燃やし尽くし黒曜石の石像が出来上がるだろう。だが、アリスは息を短く吐き出すと同時に背後の剣を一斉に放ち、弾のように飛び散るマグマを全て撃ち落とす。


「ハァァアアアッ!」


 黄金と純白が交じり合った魔力を纏った聖なる刃を振るう。咄嗟に左腕でガードしようとするが、彼の腕が動くよりも早くその肩から先を聖剣は斬り落とす。


『ヴォォォォオオオッ!』


 瞬く間に両腕を斬り落とされたノーヴェンは怒り狂ったように、鋭くとがった角を振り回し、アリスへと襲い掛かる。が、飛び上がって躱したアリスはそのまま右角に聖剣を振り下ろす。

 パリンと、ガラスが砕け散るように角。それに続くように光の剣がもう片方の角を砕く。音もたてずに地面へと着地したアリスは振り向き、聖剣の切っ先を向ける。

 両肩からマグマを垂れ流したノーヴェンは低いうなり声を上げながら、アリスを睨む。その左目からは戦意は失われておらず、ギラギラと殺気が放たれていた。


『ヴオォォォオオオオオ!』


 マグマが意志を持つかのように、うねり、それは腕の形を形成する。さきほどのように硬質化せず、マグマの形態のまま形作ったそれで――剣を構えるような体勢をとる。その次の瞬間、マグマの両手は巨大な黒曜石の大剣を握り締めていた。

 人間をやめたなんてよく言えたものだ。アリスはそう考えてしまった自分自身に驚いた。どうやら、解き放たれたのは魔力だけではなく、気持ちの面もあるようだ。

 ノーヴェンが静かに大剣を構える。その姿は“来い”と言っているようだ。


「……行きます」


 すべての感情を消しさる。何も思うな。

 足裏に魔力を流し込み、一気に踏み出したアリス。背後の剣たちが一斉に放たれる。それはまるで突然降り注ぐ鬼雨(きう)のような荒々しさだ。


『ヴォオオ』


 息を吸い込み蒸気のような白い吐息を吐き出したノーヴェンは、荒々しく降り注ぐ剣の雨へと飛び込む。うっすらと炎を纏った黒曜石の大剣を振るう。その速さは重さがあるとは思えないほどの速さで、まさに、“目にも止まらぬ”というほどだ。

 バリン。と音が響くと、剣の雨はノーヴェンを避けるように地面へと降り注ぎ、岩の様に固くなった地面にいくつものクレーターを作り上げる。そして、一歩踏み出し、大剣を盾のように構え――横薙ぎに振るわれた聖剣を弾いた。

 キィィィン! 甲高くも澄んだ金属音が空気を震わせる。アリスは弾かれた勢いを利用するように体を回転させ、逆方向から横薙ぎに振るう。軸となった踵とふくらはぎに嫌な痛みが走る。


「ハァッ!」


 バキッ、と黒曜石の肉体が砕けるような感触が聖剣越しに伝わる。だが、まだだ。まだ、斬り裂くまでには至らない。アリスは体から黄金の魔力を放出し、ブーストかける。

 

「斬り裂けェエエエエエエッ!」

『――ヴォオオッ!?』

 

 黒曜石の肉体がピシピシとひび割れながら、斬り裂かれていくまるで熱したナイフで氷を切断するようなソレはマグマという水を零し、周りの温度を際限なく高めていく。だが、その時、アリスの黄金の瞳は大剣を片手で持ち上げているノーヴェンを映す。

 鎧に守られているために真っ二つはないだろうが、全身の骨が砕かれるのは避けられない。だがここで避けるなんて選択肢は持ち合わせていない。アリスは相打ちを覚悟して聖剣を力いっぱい握り閉めたその時――


「アリス! しゃがんでっ!」


 アリスは反射的にその声に従い、聖剣を握り締めたまま膝を曲げて体勢を低くした瞬間、彼女の頭上を()()()()()が通過し、振り下ろされかけていた右腕を斬り飛ばす。マグマが噴き出すかと思われたが、漆黒の魔力がまるで包帯の様に切り口を塞いだためにそこからは何も出ない。

 斬撃に少し遅れて、氷を纏った矢がノーヴェンの左目を貫く。燃え盛るそれを砕いた氷の矢は蒸発し、白い蒸気でノーヴェンの視界が奪われる。

 その隙に、アリスは握り締めていた聖剣を力いっぱい振り切る。その時、パキンッ、と硬質化していた彼の心臓を砕く感触が伝わる。


『ッ……ヴォオ、オオ、オォ』

 

 ガクン、とノーヴェンの体から力が抜け、血液の様に体を循環していたマグマが硬質化を始める。まるで、暖炉にくべられていた薪が炭へと化すように熱を失っていくそれは、彼が死んだと言う証拠だった。キラキラと輝く黒曜石の石像となり果てていく。

 アリスは、振り抜いた聖剣をパチン、と鞘へと納めると一瞬だけ、その黄金色に輝く瞳を伏せると踵を返す。血や埃といった、戦いの後のニオイが鼻腔をかすめていく。

 シュティレが安心したようにシールドを解除する。その隣には意識を取り戻したラーラがルトの治療をしている。安堵の表情を浮かべたエスティアが駆け寄って来る。

 アリスも微笑を浮かべながら歩み――


『ォォォォォオオオオオオッ!』


 異様な叫び声が響く。

 割れ鐘(われがね)のように轟き、空気を震わせるほどの重低音はまるでドラゴンの息吹のようだ。

 アリスは振り向きざまに聖剣を引き抜くが、一歩遅い。石像化しかけていく左腕が目前まで迫っていた。この段階まで来てしまえば、防ぐのも躱すのも困難。


「まずい……ッ」


 真っ赤に熱された腕がアリスの顔を握りつぶさんと大きく開く。

 心臓だけではなく、肉体である石像も砕くべきだった。ノーヴェンは戦士だ。どんな状況になろうと戦い続ける戦士であり、それはバケモノとなり果てていても変わらない。

 最後の最後でこれは大きなミスだ。力に溺れてしまった。アリスは歯を食いしばる。


「アリス!」


 魔剣を握り締めたエスティアがアリスの体を左腕で抱き寄せ、迫りくる石像の左腕から守る。その際に熱された左手がエスティア右肩を掴み握りつぶす。

 普段なら痛みに叫ぶところだが、熱によって神経が焼き切れてしまったようだ。全く感じない痛みにエスティアはニヤリと口元を歪め、腹部に使っていた血液を槍のようにノーヴェン目掛けて発射する。


「砕けて。……そして、アッチであの子を抱きしめてあげて」


 パリィィィィン、と音を立てて。槍が刺さった部分から木っ端みじんに砕けるノーヴェン。エスティアは自分の右肩を掴む石像の腕が砕けていくのを眺めながら、そう小さく呟いていた。その表情は悲痛に満ちていた。

 呆気ない最後だ。最後の声を発することも許されない。“どうして英雄ともあろう人が復讐なんて”ときっと何も知らない人間はそう言うだろう。だが、復讐が悪だとは思わない。確かに何も生まないかもしれない。

 でも、エスティアは当事者(復讐者)だからこそ、彼の気持ちが自分のことのようにわかる。こうするしか、弔う方法が見つからなかったのだ。死んでしまい、もう言葉を言えない彼らの代わりに自分が伝えてやるんだと。


「エストさん」


 ずっと左腕の中に居たアリスが声をかける。エスティアはハッとしたように、彼女を解放しようとしたその時――アリスはエスティアを抱きしめた。

 いつの間にか、アリスは鎧を解除していたようで柔らかい感触に包まれるエスティアは黄金の瞳を限界まで見開く。戦いの後だから、血や埃などといった不快な臭いが鼻をつくが、それでも、エスティアはその陽射しのような温もりに囚われてしまったかのように動けなくなってしまう。


「アリ、ス……?」

「エストさん。貴女はとても強い人です」


 ギュッと力強く抱きしめられる体。エスティアはアリスの言いたいことが何となくわかる気がした。だが、緩みかけていた表情を引き戻すと、優しくアリスの黄金に変わった髪を優しく撫でた。


「ありがとう……アリス。その体、本当に大丈夫?」


 心配そうに眉尻を下げたエスティアはそう言って、アリスの黄金色に輝く瞳を見つめる。琥珀色の時も宝石のようで美しかったが、今の瞳は比べ物にならないほどの美しさを放っている。以前、魔剣を握った騎士が、“カミノメヲ、モツモノ”と言ったのを思い出し、目の前の瞳こそが“神の目”だろうとエスティアはそっと言い返した。

 だが、普通の人間が神族となるのはあり得ない。封印でもされていたのか。エスティアは平気そうにしているアリスを心配しつつも、とりあえず帰ろうと考えたその時、ナニカの気配を感じた。


「アリス」


 そっと、アリスを庇うように前へ出ると、エスティアの前で風が渦巻く。そこだけ、光が差し込むように黄金の光が降りてくる。

 まるで、天使でも降りてきそうな雰囲気だと考え、バカバカしい一蹴したが、どうやらその考えは()()()()()()()()。降り立つ黄金にエスティアの表情がうわーと言いたげにしている。

 光と共に降り立つそれは美しい女性だった。黄金に輝く長い髪に、同じく黄金に輝く瞳、シルクのような白い服装のそれはまるで、噴水に居る女神像が人間となって現れたとしか思えないほどだった。


「アリス・エステレラ」


 静かに名前を呼ぶ女性。その声はまるでハープで出したかのように美しいが闇をも切り裂きそうなほどの芯の強さがうかがえる。

 エスティアとアリス、背後に居る全員が全く同じ感想を抱く。目の前の女神こそが――神の一族こと、神族なのだと。


 



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