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有志勇者となって勇者に復讐します。  作者: 鮫トラ
第七章 神は天からコチラを眺めている

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64 魔力に魅せられて


「で、なによ。力を貸して欲しいって」


 部屋を移りアリアナの執務室にて、ソファに深く座ったエリザは毒気の抜かれた表情でアリアナを見つめる。アリアナは彼女の前へと紅茶を差し出すと、席へと座る。


「私たちは幾度となく、エラーの襲撃に悩まされています。最初の方こそは、数が少ないために何とかなっていたのですが、ここ最近、数が爆発的に増え一体、一体の力量も上がってきています。おそらく、帝国や聖都にいたものたちも来ていると思われます」

「ふーん。で? 私たちもその防衛線に参加しろって? なら、エストに言いなさい。私たちのリーダーはエストだもの」


 そう言って紅茶を一口含んだエリザは一息つく。そういえば、こうやってのんびりするのがなんだか随分と久しぶりに感じるエリザは「やっぱり、年をとったのかしら」と胸の内で呟き、後悔した。なぜなら、目の前のアリアナが意外そうな表情で小さく吹きだしたからだ。


「ごめんなさい。プライドが高いと噂を聞いてたのですが、違ったものですからつい……ふふ」

「別に……気まぐれよ」

「それで、ただのブルーランクをリーダーと言うのですね。王国勇者で英雄と呼ばれる貴女が」


 その言葉に顔を上げたエリザはティーカップの縁をなぞり、鼻で笑う。


「まぁ、英雄って呼ばれはしているけど……プライドなんてこれっぽちもないわ。だって、プライドじゃ魔王は倒せないでしょ?」


 その言葉にアリアナは目元を細め、口を開こうとした時、エリザがコホンと咳ばらいをする。この話は早々に切り上げたいようだ。視ずとも雰囲気で察したアリアナはフッと息を吐き出し、テーブルの上で両手を組む。


「では、おしゃべりはここまでにして。先ほど、エラーの襲撃に悩まされていう話をしました」

「えぇ、そうね。数が増えてきて困ってるって」


 アリアナはコクリと頷く。


「そうなんです。前までは一ヶ月に一回程度の周期だったのが、どんどん狭まり、前回はその前から一週間以内にやってきました。それも、倍の数で」

「次はもっと早く来るかもってことね」


 エリザの瞳が鋭くなり、体が前のめりになる。


「はい。今までの経験から行くと、次来るのは早くて三日。遅くて五日以内には来るはずです。それも、前回の倍以上の物量を持って。そうなった場合、現在の兵力では防ぎきることは不可能でしょう……もしそうなった場合」


 アリアナはグッと組んでいた手を握り締めると、悲痛な面持ちで言葉を続けた。


「王都を捨てることとなります……そうなれば、ここに住む多くの民が死ぬことになります」

「王都を……」


 エリザは彼女の瞳を見据える。まだ若いとはいえ、彼女は一国という名の命を背負っている。それは英雄の命を背負うとは意味が違う。

 英雄はその時の命を背負う。それは、依頼者やその地域の人間といった限定的なものであり、一時的なものである。だが、王は……人を統べる者は違う。その民の人生という、考えもつかないほど途方もない命を背負っているのだ。故に、領地を捨てるという決断は本当に苦渋の決断だろう。

 エリザはフッと息を吐き出すと、そのまま彼女をまっすぐ見つめた。


「私たちが力を貸して、打破できるの?」


 見定めるような視線。もうこの際、考えていることは筒抜けでも構わない。どうせ、全て本心なのだから。


「……鋼鉄の魔術師の貴女がいれば攻め込んでくるエラー全てを――排除することが可能です」

「へぇ、それは気になるわね」


 ニヤリとエリザは白い歯を見せる。その表情は英雄ではなく、ただの探究者(魔術師)であった。











 双子と別れ、シュティレが眠る部屋へと戻って来たエスティアは、腰の宝剣と魔剣を部屋の隅へと置く。そして、ベッドの縁を背に床へと座り込むと、静かに目を閉じた。

 ルトとラーラの戦闘を思い出す。見たこともない独特な戦い方だった。ラーラはおそらく、魔術師だろう。ルトを強化しているのを見た時、“同じだ”とピンときた。だが、決定的な違いはルトの()()()()()()()()()()()()というところだ。


「魔術で創った武器って……使えるんだ」


 右手をグーパー動かしながら呟く。だが、できたとしても、エスティアには無理だろう。なぜなら、剣を振るうだけで精一杯なのだ。ああも多彩な武器を使いこなすことはできない。エスティアは体を横向きにすると、布団から出ているシュティレの手を握る。

 温かいそれに表情が緩むが、すぐにその表情が曇る。アリアナの推察ではあるが、最果ての迷宮から出る際の扉を開くために全員の魔力が吸い取られたのではという話だ。元々の魔力が人並外れているシュティレは回復に時間がかかるようだ。アリスも同様なのだろう。


「私の魔力をあげられたらいいのに……」


 人並程度の魔力のおかげか、すぐに回復したエスティアはそう呟く。とエスティアの頭に一つの言葉を思い出す。


――まさか、エストから魔力を貰ったの……?


 それはカルミアと戦っていた時のセリフだった。確かこんな感じだった気がする。エスティアは首を傾げる。あげた記憶がまったくないからだ。

 でも、一つ希望が生まれる。それは魔力を分け与えるということはできるということだ。魔術師だけの特権だと思っていたが違ったということに、思わず笑みがこぼれる。


「うーん。でもどうやってあげるんだろ……」


 握っているシュティレの指の腹を爪で軽くつつきながら考える。いつも、シュティレが魔力をくれる時、どうしていただろうか……そこまで考えたエスティアの顔がまるで、酸素を得た炎の様にボッと音を立てんばかりに赤く染まった。

 シュティレの方へと顔を向ける。丁度、こちらを向いているおかげで彼女の気持ちよさそうな寝顔が視界に映り……その薄っすら開いた“唇”に視線が奪われる。すると、それはどんどんと近づいているような気がした瞬間、エスティアはその場から飛び退くように床へと尻餅をつく。


「ば、ばかばかっ! わ、私は……な、なんてことを……っ」


 よもや、寝ている彼女にキスしようとしていた自分自身を叱咤し、自分の顔を両手で覆う。なんてことを考えているんだ。エスティアは恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。

 チラリと、指の隙間からシュティレの様子をうかがう。やはり、というべきか。少し騒がしくしてしまったかと思ったが、ぐっすり眠っており、スー、スー、と寝息が聞こえてくる。


「眠り姫……」


 思わずエスティアはそう呟いていた。ただ眠っているだけなのに、余りにも美しいと思ってしまう。それはまるで、童話の眠り姫のようだ。あまりにも有名すぎるその話はエスティアですら知っている。王子のキスのよって目覚めるお姫様は幸せになりましたという、単純なストーリー。

 エスティアはブンブンと首を横に振ると、眠る彼女へと近づく。そっと絹のような柔らかい金髪を掬う。


「シュティレ……」


 名前を呼ぶと、彼女の表情が和らいだ気がする。エスティアはグッと意を決するように息を呑むと、彼女の顔に頬へと手を添えた。白磁のように透明感のある白い肌は柔らかく、同じ人間だとは思えないほどの美しさだ。

 エスティアは思う。こんなに美しい子が私のものなのだと。女神のごとき美しさと神々しさに息をするのも忘れて魅入ってしまう。ゴクリと生唾を飲み込んだエスティアは、ゆっくりと顔を近づけると――


「シュティレ」


 優しく名前を呼び、そっと唇を合わせた。

 柔らかい唇は何度合わせようと、その幸福感は増すばかりだ。だが、今回は強烈な()()()が絡み合うようにエスティアの尾てい骨からつむじへと突き抜けるような感覚が走った。

 眠っている相手に口付けをしているのだ。だが、エスティアは“シュティレの為だから。いつも貰ってる分をほんの少し返すだけだから”と言い訳しながら、喜びに震える自分自身を押さえつける。そして、エスティアは彼女の顔を天井へと向けると、そのまま薄っすら開いている口に唾液(魔力)を流し込む。


「んっ」


 シュティレの声から苦し気な声が漏れた。無理もない、眠っている状態の相手に液体を流し込んでいるのだ。下手をすれば咽てしまうだろう。だがどうやら、シュティレは眠りながらも流れ込んできた液体の正体を本能的に欲していたのだろう。コクリと、流れ込んできたそれを飲み込む。

 ああマズイ。

 エスティアの背筋がゾクゾクとし、心臓が止まってしまいそうな衝撃が走る。それは言いようのない感覚だ。いつもは、やられている側だからというのも気持ちを高鳴らせる要因となっているのだろう……このまま続けていたいという強い欲望が渦巻く。

 だが、ダメだ。そう自分に言い聞かせる。もう魔力は十分与えただろう、これ以上は彼女が起きた時にすればいいじゃないか。と言い聞かせて、エスティアが顔を離そうとしたその時――グッと後頭部を抑えられていたのか、再びエスティアの唇が彼女を奪う。


「――んっ!?」


 驚きでエスティアはバランスを崩してしまう。このままではシュティレを潰してしまうと考えるまでもなく、彼女は本能的に感じ取ると、頬へと添えていた手をベッドに置き、もう片方の手もベッドに置く。まるで、眠り姫へと襲いかかる獣のような、体勢となったエスティア。

 ギシリとベッドが悲鳴をあげる。それは思った以上に鼓膜に響き、エスティアの肩が跳ねる。

 その黄金の瞳の視線の先には、妖しく青い瞳を細め、艶やかな雰囲気が滲み出るシュティレの顔があった。一瞬にして首まで真っ赤に染まる皮膚。心臓が破裂しそうな勢いで脈打つ。


「寝込みを襲うなんて、エストは随分と悪い子なんだね」


 にやりとと舌なめずりをしたシュティレ。その表情にエスティアは「あ、いや……その……っ」と言葉にならない声を上げながら顔を上げようとするが、がっちり固定された後頭部が動くことは無い。


「シュティレ……あの……」

「まだ、足りない」

「へ……?」


 間抜けた声がエスティアから漏れ出ると、シュティレはクスリと笑みを浮かべる。その笑みを見ただけでエスティアの体が熱を持つ。言葉の意味など考えるまでもない。

 彼女は満足していないんだ。叶えようよ。そんなことを言いながら欲望が理性の背中を蹴り飛ばし、闇の底へと陥れようとしてくる。が、理性はどうにかして踏ん張っている。


「もっと、ちょうだい?」


 後頭部に回されていた掌が撫でるように首筋へと下がり、襟足をかき上げるように滑らせる。エスティアは唇をわなわなと震わせ、言葉を紡ごうとしたが、その口から出たのは熱の篭った吐息だけだった。

 理性が穴に落ちた。だが、片手が名残惜し気に縁を掴んでいる。欲望がその理性の片手を踏みつける。


「シュティレ……」


 エスティアが小さく呼ぶと、シュティレが微笑む。それはまさしく天使や女神といった邪気の無い笑みだった。

 理性が今度こそ穴に落ちた。拳を天につきあげ勝どきを上げる欲望が見ている。そのしたり顔は“さぁ、やれ”と言っているようだ。エスティアはゴクリと息を呑むと、重力に従うように彼女の唇を奪う。

 シュティレが歓喜の息を漏らす。首筋に回されていた手はエスティアの襟足を鷲掴み、その興奮を伝えてくる。その様子にエスティアの体を電流のような快感が流れる。


「んっ……っ」


 流れ込む魔力を飲み込んだシュティレの口から熱の篭った湿り気のある声が落ちる。その声は今まで聞いた中でも聞いたことの無い、ドキリとするように甘く湿った甘美な声であり、声を発した本人ですら驚きで顔が赤くなるほどだ。

 もっと、もっと。エスティアは熱に潤んだ瞳で彼女の瞳を見つめながら、触れ合っている唇の隙間に自身の舌で“入れて”とノックをする。扉はすぐに開かれ、彼女の舌が、その中で待ちわびていたそれと触れ合い絡め合う。


 夕日が射し込み始めている。静かな部屋に響くは二人の口から落ちた水音のみ。もう、魔力は十分行き渡った。どちらもそれを理解していようと、その行為をやめる気にはなれなかった。

 もっと、もっと……まるで飢えた獣のようにシュティレの唇を貪るエスティア。だが、終わりの鐘は意外な形で鳴り響く。

 ぐぅぅぅ。

 そんな音が鳴った。二人はピタリと動きを止め、顔を見合わせる。そして、もう一度音が響いた。それは二人のお腹から鳴り響いたものだと理解するのに時間はかからなかった。

 無言で見つめ合っていた二人は同時に吹きだすと、お腹を抱えて笑いだした。


「あははっ。そう言えば、ご飯食べてなかった」


 エスティアがそう笑いながらゴロンと、彼女の横に寝転がる。ベッドの悲鳴は笑い声にかき消されて誰の耳には届かない。


「ふふふ。エスト、もしかして、私が起きるまで食べないつもりだったの?」


 瞳から零れ落ちそうになっていた涙を指で拭いながら、シュティレはそう言った。エスティアは歯を見せると、シュティレの頭を撫でる。


「だって、シュティレのいないご飯なんて食べる気起きなかったから」

「……っ。……本当に私のこと大好きだよね」


 そう自分で言ったシュティレの頬は赤い。エスティアは一瞬、呆気に取られた様に瞳を見開くと、すぐにふにゃりと笑顔を見せた。


「大好きじゃ、足りないくらいだよ」


 エスティアが体を起こす。そして、彼女を見下ろしながらそっと頬を撫でる。その降り注ぐような黄金の視線は愛おしむように細められていた。

 シュティレの胸がドキッと高鳴る。それは先ほどまで感じていたような快楽染みたものではなく、果てしないほどの温かさだった。温もりのようなそれに抱きしめられながらシュティレは上体を起こす。


「エスト、大好きよ。言葉じゃ足りないくらい」


 フッと倒れ込むようにシュティレは、エスティアの吐息を奪う。


「えっ」


 一瞬のようなそれに呆気に取られるエスティア。そんな彼女の頭を軽く撫でたシュティレは流れるような動きでベッドから降りると、そのまま部屋を出ていく。

 だが、思い出したように顔だけドアの縁から覗かせたシュティレは悪戯っ子のような笑みを浮かべ。


「早く、来ないと置いて行っちゃうよ」


 それだけ言い残し、後にする。

 暫く放心状態だったが、ハッとしたように立ちあがったエスティアは急ぎ足で彼女を追いかけるのだった。



 


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