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リベンジですよ、汚嬢様!  作者: 天川 七
リベンジですよ、汚嬢様!
23/44

23、選び間違えた男 中編

「お久しぶりね、ジョル。それと、情けない婚約者を盗んで下さった方は初めまして? ご機嫌いかがかしら」


 手の平に豪奢で大きな扇子のようなものを打ち付けて、彼女はにっこりと微笑む。しかしその青い瞳は少しも笑っていない。まるでそんな彼女を守るように隣立つオスカーからも鋭い睥睨を受けて、ジョルは顔を強張らせた。同じ男だというのに、比べ物にならないほど鍛えられた大きな身体を前にすると、自分の貧相さが際立つ気がして嫌になる。ジョルは虚勢を張るようにオスカーを睨み返した。


「僕達に一体なんの用だい?」


「なんの用だとはよく言えたものだな。心辺りは山ほどあるだろう」


「うふふ、オスカー少しわたくしに話をさせてちょうだい。仮にもまだ婚約者ですもの。でも、その前に……とうっ、成敗っ!!」


「ぬぎゃぅっ!?」


 ズバシーンッという音と共に股間に激痛が走って、ジョルはもんどりうって地面を転げまわる。痛いっ。両手で股間を押さえて冷や汗と涙を浮かべて激痛に呻く。


「ううぐっ、んぶうぅぅっ、なひ、を、すゆんだぁっ!!」


「あら、壊れかけのカラクリみたいねぇ、もう一回叩けば戻るかしら?」


「やめ、やめてくえっ!」


 股間を押さえて必死に背中を丸めるジョルの泣き顔を見て、ミアは至極満足そうに扇を巨大化したような形の凶器をパシリパシリと手の平に打ち付ける。上向いた手の平は重さを支えるように一瞬沈み、動きを止めている。見るからに重量のあるものでぶっ叩かれたことを知り、ジョルは恐怖に打ち震えた。満足そうなミアにオスカーは引き攣った顔を向ける。


「男の情けと思い、オレがあえて教えなかった急所を容赦なく狙うとは……恐ろしい汚嬢様だな」


「わたくしは女性だから男性特有の痛みはわからないわ。オスカーが情けをかけるほど痛いのなら罰にはちょうどいいのではなくて? こちらの心痛はその程度ではなかったのだから。わたくしとしてはもう二、三回は叩いておきたいところよ? だってせっかくハリーを綺麗に装飾したんですもの」


「嬉しそうに振りまわすんじゃない。まったく、とんでもないご令嬢が居たもんだ。男にとっちゃ死ぬほど痛たいが死にはしないのが、まさに地獄だな。──おらっ、ジョルしっかりしやがれ!」


「ひいいいっ! ぐぎょっ!」


 オスカーの大きな足に腹を踏みつけられて、ジョルの口から濁った悲鳴が漏れた。激痛に悶えて抵抗も出来ないジョルに追い打ちをかけるように、喜色を含んだ声が上がる。


「旦那様! ようやく、あたくしを迎えに来て下さったのね! あたくしが間違っていましたわ。オスカー様に愛されているのかつい不安になってしまったの。それでジョルに誘われて思わず従ってしまっただけなのよ。あたくしの心はずっと貴方のもの」


「そんな……、アンディィィ! 逃げたいって言ったのは君じゃないかぁ!」


「あたくしは知りませんわ。旦那様はジョルよりあたくしを信じてくださいますわよね?」


 ざっくり開いたドレスの胸元から零れ落ちんばかりの豊満な胸をオスカーの腕に押し付けて、アンディは甘えるように潤んだ青い瞳で夫を見上げる。しかし、オスカーは片眉を上げてしがみ付かれた腕を振り払うと、ミアの腰を抱く。


「はんっ、誰が旦那様だ? アンディ、お前との婚姻関係はとっくに解消されてるぜ。せいぜい今後の身の振り方に頭を使うんだな。今のオレはこいつに夢中なんでね、お前達に払う労力はないんだよ」


「きゃ……っ、もうっ、オスカーったら」


 オスカーがミアの頬に軽いリップ音を立てて口づけた。彼女は恥ずかしそうに頬を染めて、潤んだ目でオスカーを甘く睨む。ジョルは婚約者の変貌に唖然と言葉を失う。


「そんな目で熱く見つめられたら、火がついちまうぜ」


「こんな人の目のあるところで、恥ずかしいわ。それにわたくしはまだ……」


「お前の婚約者なら、オレの足元で無様に転がってるだろう? なぁ、ミア。オレのミィ。こっちに来いよ」


 ミアは目を潤ませて恥ずかしそうにオスカーの胸に額を寄せた。そのしどけない仕草には色気が滲み、色づいた頬は成熟しかけの女性の色気が滲んでいる。ジョルは思わず見惚れてしまった。これは、誰だ? 本当にこれが、あの大人しいミアなのか!? 


「旦那様……っ、まさか、まさか、このあたくしをお捨てになると、そうおっしゃるのですか!?」


 二人の様子に衝撃を受けたのか、よろめいたアンディは顔を青くしてわなわなと震えている。プライドの高い彼女はまさか自分が捨てられるとは思いもしなかったのだろう。オスカーはそんなアンディに侮蔑の視線を向けて皮肉に口端を上げる。


「お前もジョルに言ってただろう? オレもな、お前はもう必要ないんだよ。金を湯水のように使おうが、我儘放題に生活しようが好きにしろとは言ったが、身近な男に手を出すような尻軽な女はこっちの品格を下げる。そんな女を妻に据え続けるほどオレが愚かに見えたか?」




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