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リベンジですよ、汚嬢様!  作者: 天川 七
リベンジですよ、汚嬢様!
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22、選び間違えた男 前編

ジョル視点にて。PC復活にて、今回から再びPC投稿になります。よろしくお願いします!

 ジョルにとって婚約者のミアは、自分の自尊心を心地よく満たしてくれる都合のいい存在だった。純粋な好意は時に煩わしくも感じたが、幼い頃から一途に自分だけを慕ってくる様子は優越感も抱かせてくれた。それに比べて、ジョルとミアに兄貴風を吹かせるオスカーはいつだって疎ましい相手であり、距離を取って接していた。


 だから、ミアとオスカーの仲が拗れた時には内心喝采したものだ。オスカーがミアを実の妹のように大事にしていたことを知っていたからである。彼女との婚約が決まった時も、彼はわざわざジョルの元にやってきて男爵家の分際でミアを大事にしろなんて命令口調で言ってきた。本当に身の程知らずな男だ。その時、ジョルは彼に鷹揚に頷いてやったが、内心は唾を吐き捨てていた。


 ミアは可愛い人だったけど、残念ながら、ジョルが理想とする女性には到底及ばない相手でもあった。二人の関係はまるでままごとの延長のように婚約まで進み、婚姻に至ろうとしていた。それが、ジョルには我慢ならなかったのだ。ミアと婚姻すれば伯爵にはなれるが、大人しくジョルの好みに合わせようとする彼女より、刺激的な魅力に溢れたアンディの方が心惹かれた。


 彼女がオスカーのことで悩んでいると相談された時は、その美貌を称えて、心を蕩けさせる甘い言葉をここぞとばかりに囁いてあげた。次第にこちらに心を揺らすようになった彼女から駆け落ちしたいという言葉を引き出した瞬間、ジョルはオスカーに勝利したことを確信した。

 二人の愛さえあれば、全てが上手くいくと思っていたのだ。




「こんな宿に泊まるというの!? あたくしに不自由はさせないと言うから、貴方に付いて来てあげたのに!」


 さびれた宿を前に声を荒らげたのは、薄汚れたドレスを身に着けてもなお、美しいアンディである。豊かな黒い髪と榛色の瞳は彼女だからこそ似合うのだとジョルは信じていた。豊満な身体から放たれる色香は彼女の怒りを向けられても、僕の心を掴んで放さない。ジョルは周囲から向けられる好奇の目を気にしながら小さな声で彼女を諭す。


「落ち着いてくれよ。僕達は目立つわけにはいかないんだ。先週から父上達の支援が届かないのは君も知っているはずだろう? 今までみたいに贅沢三昧出来るだけのお金はもう手元にないんだよ。上等な部屋も食べ物も用意してあげたいけれど、今は我慢するしかないんだ。その内きっと父上達がなんとかしてくれるはずだ。それまでは、君も協力してくれよ」


 ジョルの言葉に返されたのはアンディの許しではなく、冷めた眼差しだった。呆れたようにため息を吐くと、彼女は首を振る。


「……計画が台無しよ。こうなっては仕方ないわ、そろそろ引き際ね。今日までまぁまぁ楽しめたし、あたくしはオスカー様の元に戻るわ」


「なにを言ってるんだい!? 君は僕と駆け落ちしたんだから、オスカーの元に帰るなんて出来るはずがないだろう?」


「出来るわよ。あたくし、オスカー様に手紙を残して来たもの。もともと本気で駆け落ちする気なんてなかったのよ。こちらの計画では、オスカー様に見つけてもらって、あたくしに対する思いに気付いたあの方に連れ戻されるところまで考えていたのに、まったく役に立たない男」


 美貌から吐き出される毒に、ジョルはショックを受けた。周囲の好奇に塗れた視線に晒されているのも忘れて、ジョルが持ってあげていた自分の荷物を奪うように持つと踵を返してしまう。ジョルは慌てて彼女を行かせまいと腕を掴む。


「待ってくれ! 君に見捨てられたら僕はどうすればいいんだ!? 僕は君の為に伯爵家の婚約者まで捨てたんだぞ!? それなのに、君だけがオスカーの元に帰るなんて許さないぞ!」


「あたくしがいつそうして欲しいと言ったかしら? 全て貴方が勝手にやったことでしょう? あたくしはただ貴方の甘言に乗せられてしまっただけよ。旦那様はきっとお許し下さるわ。だって、あたくし程美しい女をそう簡単に手放すはずがないもの」


 アンディは美貌に自信を滲ませて傲慢に微笑むと、縋りつくような視線を向けてくるジョルの手を払い落す。


「貴方はもう用済みよ」


「お願いだ、アンディ。僕と一緒に居てくれよ。愛してるんだ!」


「愛だけでは満足できないの。あたくしはいまや伯爵夫人よ? 子爵の三男にすぎない男性を本気で愛するわけがないじゃない」


「オスカーなんて所詮金にものを言わせた成り上がりの伯爵じゃないか! 僕は由緒ある子爵家の男なんだぞ!?」


「だからなんだというの? 身分が上なのはあたくしの旦那様よ。あなたは子爵から身分を上げることなんて出来ないでしょう?」


「僕を愛してるって言ったじゃないか!」


「──その口から紡がれる愛の言葉のなんと軽いこと」


 かっとなったジョルが怒鳴った時だった。笑いを含んだ朗らかな声がした。ジョルとアンディの様子を滑稽だと言わんばかりの言葉に、思わず睨むつもりで振り返れば、パシリ、パシリとおかしな音と一緒に誰かが近づいてくる。人ごみの中心が割れて、この場では絶対に会いたくなかった二人が姿を現す。


 優美なドレスを身に纏って現れたのは婚約者のミアだ。彼女をエスコートするのはジョルにとっては存在が嫌悪の対象となっているオスカーである。





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