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リベンジですよ、汚嬢様!  作者: 天川 七
リベンジですよ、汚嬢様!
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1、汚嬢様、鍵を開く!

まったり投稿です。のんびりとお付き合い頂ければ嬉しいです。

 一カ月近く閉じ籠っていた部屋の空気は、すっかり汚れているようで昨日から咳が止まらない。ゲホゲホと乙女らしからぬ咳をしながら、生理的に滲んだ涙を自嘲と共に拭い去る。


「ふ……っ、婚約者に逃げられた私にはお似合いの姿だわ……」


 腹が立つほどやわらかなベッドに倒れ込んだ彼女は、背中でこんがらがったクルクルの赤毛と、すっかり伸びてしまった前髪をそのままに沈んだ青い瞳を伏せた。


 彼女──アオラマス領主の伯爵令嬢、ミア・ディル・アオラマスは本来なら一月前に、平凡ながらも幸せな婚姻の日を迎えるはずであった。けして不美人とは言わないが、ありふれた顔のミアと違い、甘い顔立ちに物腰柔らかな王子様然とした婚約者、ジョル・ファーレは身分こそ彼女より低かったが、勿体ないほどの相手であった。


 彼とは幼い頃から知る仲であり、二人は少しずつ想いを育んできた、つもりだった。ところが、その婚約者はあろうことか他の女性と駆け落ちしてしまったのである。寝耳に水をぶっかけられたミアは、ショックが大き過ぎてしばし呆然自失の状態であった。


 裏切られた悲しみと、どうして婚約をする前に話してくれなかったのかという怒り、そして哀れにも捨てられてしまった自分が、無様過ぎてもはや笑いさえ込み上げる始末だ。若くして妻を亡くし男手一つで娘を育てて来た父はその比にならないほど激怒した。


 ジョルは子爵家の出だったが、父親同士は親しい関係にあり、なにより本人達が強く望んだことから成った婚約だった。そのことが、怒りに拍車をかけたのだろう。当然、婚姻の準備費用はジョルの家が払うことになり、今後もしジョルを援助するならば、ファーレ家との取引はいっさい行わないと言わしめたほどだ。


 これに慌てたのは取引先である子爵家だ。ジョルとは親子の縁を切ると宣言した先方は、なんとか息子によって起こされた被害を最小に食い止めようとしているようだ。ミアにとってみれば、聞きたくない! と言った心境である。だが、周囲の状況は彼女を余計に落ち込ませた。そして傷ついた彼女は自室に引きこもることにしたのであった。


 思い返しても代わり映えのない喪失感と、自分の胸のドロついた感情にうんざりして、不貞寝を決めようとしていれば、コンコンとドアを叩く音が彼女の眠りを妨げた。


「お嬢様、そろそろ出てきてくださいませんか? お父上のエドモンド様もとても心配しておられますよ。それに今日はオスカー様がいらしておりますし、ばあやもお嬢様のお顔が見とうございます。最近はお食事も残されるばかりで、お身体が心配なのです。どうかどうか、ドアをお開けくださいませ!」


 オスカーという名を聞いて、ミアはますます出たくなくなった。彼は男爵家の出ながらも軍に飛び込み戦績を上げ、ついに伯爵位と将軍の地位を賜ったと聞いている。おまけに新婚で、幸せの絶頂にいるはずの男だ。


 きっと彼とは対照的で、不幸のどん底にあるミアを笑いに来たに違いない。周囲の女性には凛々しくて男前、紳士的だと評判なのに、オスカーは昔からミアには遠慮なく絡んでくるのだ。からかうように笑う様子が頭に浮かんで、ミアはベッドに顔を隠す。


「……ごめんね、ばあや。人前に出られる状態じゃないし、オスカーにも会いたくないの。私のことは放っておいて」


「お嬢様……」


 ──ドン。ドアを強く叩かれて、ミアは驚きのあまり飛び起きた。


「ふざけるな。お前はそのまま逃げるつもりか?」


「えっ、まさかオスカー?」


「ああ、お前のもう一人の幼馴染様だ。ついでに言えば、ジョルと駆け落ちしたバカ女はオレの妻だぞ」


「ちょっ、ちょっと待って、それは本当なの!?」


 ミアははしたなくもあんぐりと口を開けて叫んでしまった。ドアに近づくと、ノックする音が止んで、面白そうな声が問う。


「詳しい話を聞きたくなったんじゃないか? だったら出てくるんだな。オレがこのドアを蹴破る前に」


 オスカーはやると言えば絶対にやる男だ。それに実際に話が気になる。ミアはベッドから降りると、一カ月間、かけ続けていたドアの鍵を外した。





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