新米貴族の資金繰り
引き続きマーガス少年の一人称です。
どなたか感想をプリーズ(´;ω;`)ウッ…
無事にと言っていいのかわからないが、僅か十歳にしてピザンテガロア伯爵になりました。(やれやれ)
そして、過払い金がっ!ちょっぴり戻って来ました!(拍手ー!)
「ほぼほぼ罰ゲームだよなー、親戚一同みんな逃げたし、領地没収にならなかったし」
親戚には、もれなくオプションで付いてくる莫大な借金が効いたらしい。
前世みたいな破産再生法?だっけ?そんな借り逃げを許してくれる法律がない以上、前伯爵の残した借金で領地爵位没収された上で、投獄コースでも不思議じゃない。
「貴族院のサダラント卿は、仕事に真面目ないい人だった」
経理を任せていた代官が行方不明で、この一年間の会計報告が、物理的に帳簿が無い。
「オー」
七年前に俺の祖父が亡くなった直後から、数字が合わなくなっていた帳簿は一昨年なんか見事に真っ赤っかだった。
その杜撰な書類を広げながら、領地のこと国に納める税金の事、借金の返済と領民の今後の生活について、僅か十歳の子供を相手に、三日間にわたって真剣な議論に付き合ってくれた。
借金全部をチャラにするのは無理だけれど、利子分は増殖するのを凍結してもらった。
「貴族という身分はホントにインチキだね」
何かを売って利益をあげるそばから、借金の返済に持っていかれたら、再建も設備投資もへったくれもない。
もちろん、俺に借金を踏み倒す気は全く無い(キリッ!)ので、正規の利子分も含めて全部返済するぞ!
「でもゴメン、返済開始は十年待って」
現在、我が伯爵領には騎士がいない、領内を巡回警備する兵士も専任の者はいない。
「全部借り物、金銭が無いからねー」
「あー」
領内の農民を労役に徴発する事も出来ない、どこの村もかろうじて頭数は居るけど、栄養失調的な意味合いで限界集落状態、無茶振りすると住民が壊滅しそうだ。
「食べるもんが無いなら、この際だから売り物でも牛や豚を食べればいいじゃん、って思ったんだけどなー、ウチ牧場だし」
「う~ん~」
「馬鹿親父の最後の悪あが・・・じゃなくて、立て直しの為の必死の努力で、売れる物はみんな売ってた」
残ってるのは、これだけは売るのは勘弁してくださいって、領民が縋り付いて残させた母牛(豚)と種牛(豚)。
「それがまた年寄りで、ガリっガリに痩せててな~、ホラ、俺もまだ子供で若様だから、踏まれて骨折でもされたら、自分らがかなわないって、今までは近寄らせてもらえなかったんだよな」
親父が生きているころだと、絶対に誰か責任取らされて処罰されるよな。
とりあえず雇用を増やすのは領内の経済的にも有効なんで、兵士として十人前後雇い入れたけど、その素人を訓練指導する立場の奴まで、賃金未払いで愛想を尽かして居なくなってるんだぜぇ。
指揮指導も含めて現状そこら辺は全面的に、バルガス家に頼りっきりだ、支払いは俺の出世払いである。
「もう、爺様達には足を向けて寝られないよ」
「アウー」
事務処理の合間にボヤキを聞いてくれるのは、養父母が働いている間俺の執務室にいる赤ん坊だけ、侍女も秘書も執事もいません、留守なんじゃなくて存在してません。
こんな事ばっかり話してると、教育に悪いかな?
ま、オムツ替えてミルクも飲ませているんだから、勘弁してくれ、ちなみに哺乳瓶も湯煎魔道具も俺が自作しました。エヘン!
もちろんエリオとタバサ(下男夫婦)は、難色を示したよ。
畏れ多いってのもあるだろうけど、半年経っても俺はまだ十一歳で、下の兄弟を世話した事もない一人っ子の、貴族の若様だもの、赤ん坊を預けるのは不安だよな、でも、前世で年の離れた姉貴が、シングルマザーだった?気がする、未婚かバツイチかは覚えていないけど、高校生の青春時代に、こき使われた恨みは魂にシミ憑いている。
「だけどあの二人、赤ん坊にメロメロ過ぎなんだものさあ」
基本いい人だよ、使用人がみんな家畜とか壁から剥ぎ取った鏡とか、退職金の代わりに持って居なくなるのに、最後まで残ってくれたし。
拾ったエクルードを、我が子同然に可愛がっているけど、
「外灯も無い日没後は仕事になんないんだから、そういう事は家に帰ってからにしなよね」
雇用主として強権発動だ。
「子供は預かった!返してほしければ仕事をしなさい!!」 ビシッ!
寝かしつけ用のチコチコ時計モドキも作ったぞ、泣いたら縦抱っこだ!
まったくもう。
◆ ◆ ◆
前世での話だけど、一人暮らしの大学生時代に、熱帯魚を飼ってた。
一匹百円くらいのやっすい奴を数匹と、保温用のヒーターと酸素供給用の?ポンプ、そしてインテリアとして色付きの照明と数本の水草。
この"水草"が大問題。
いや、他にも意外に電気代を食ったり、玄関兼台所兼脱衣所に備え付けの下駄箱が、水槽の重さに負けて開かなくなったりもしたんだけど。
何より大変だったのは、水槽のガラスの内側一面に、魚も見えない位に、
謎の『つぶ貝』がびっっっっしりと、張り付いた。
水草に、目に見えない小っさな卵が付いていて、大繁殖したらしい。
熱帯魚を余所に避難させてから、水を全部抜いて上半身裸で、『うげー』と言いながら、謎つぶ貝退治をする羽目になった。
◇ ◇ ◇
な~んでこんな話をしているか?というと。
ウチの特産物は牧畜業(特殊)。
普通の牧畜は今でも続いている、前世と似た品種の馬は、王都の平役人の年収相当の価格で売っている。
ウチの生産馬は、実は国軍にも納入しているブランド馬だったから、普通乗用車(新車)位の相場だと思う、ただ魔獣の蔓延る世界ではいささか弱い、下っ端の平騎士用だね。
食用の牛豚は物流に問題がある、肉を冷蔵して大量に運べないから、生きたまま荷車に乗せるか、王都まで自分達の足で歩かせるかだ。
燻製は肉じゃなくて焦げ臭い石だから、問題外、要改善。
ちなみに王都までは、二頭立ての馬車に人間二人乗せて、急いで三日間かかる。
領内を流れる川は王都へと続いているけれど、小さな川船だと山羊や豚ならともかく、牛や馬だと暴れられたらどころか、乗せる時に船縁に足を掛けられただけで沈没しそうになった。
馬車も船も無料じゃない、アレ絶対にわざと床を踏み抜こうとしてる。
腐敗を気にしなくていいのは、繊維用の羊の毛くらいだけど、布かせめて糸くらいまで製品になってないと、買いたたかれる。
機を織るのは、農家の主婦なら仕事のうちだけど、出来た布も自分達で消費するのには問題なくても、商品として出荷するのでは、今のところ庶民向けがせいぜい。
品質向上を目指せば、可能性は有りかな?
やっぱり主力商品は将軍クラス用、翼竜とか鷲獅子とか、オーダーメイドの超高級外車みたいなもんだから単価がデカかったんだよな。
世話をする牧童だって、貴族に仕える使用人か?って位の人数で対応したらしい。
つまり立て直しの近道は、戦闘騎乗用幻獣種の生き物を生産もしくは卵を預かって。
本来は凶暴な肉食獣を、騎手の言うことをよく聞き(ココ超重要)、主が敵なり魔獣なりと戦っている時には、自分の身を自分で守るどころか、並の魔獣程度なら積極的に踏み潰しに行く位に、訓練された状態に仕上げる。
つまり前世で言うなら、ライオンに平均台を渡りながら、ジャグリングもやらせる位の難易度の芸を、仕込めと・・・
祖父の代までは出来ていたらしいけど、俺の父親も遺産相続でごたごたしてくれた叔父たちもできないし、勝手に期待の星(笑)にされてたらしい俺も、スキルは発現しなかった。
はい、特殊騎獣事業の継続は無理です。
無理なので次に行きましょう、って事で、普通に麦とか豆とか野菜を育てようとした、今までは他所から買い付けていたんだよ。
農作物の為には肥料を用意しよう。
農家の男達に手間賃払って、牧草地の一画で家畜(普通)の糞と、領地内にある森(魔獣生息)から落ち葉を持って来て、発酵させて腐葉土にしよう。
で、
「何をやっとるかー!!」
駆けつけて来たバルガスの爺様と、その息子さんのシグルド・ダリルのオジサンにメチャメチャ怒られた、物理で。
なんでって?落ち葉の中に卵がありました。
何の『卵』かって? 魔虫の卵だよ!!
さすが魔虫の卵だけあって、かき回すと結構な熱と蒸気を出してた、醗酵中の堆肥の中で、元気に孵化していやがった。
通常の十から二十倍サイズの、蚯蚓百足飛蝗ダンゴ虫に、G!
一部羽があるから飛ぶ跳ぶ、ウニョウニョわらわらブブブッ!バババッ!
『うげー』どころか『ウギャー』だよ。
その魔虫を喰いに、どこかからゴブリンがやってきてモウ、闇宴会?
危なく魔物の養殖をして、スタンピードの原因って、逮捕されるところでした、故意にやったって認められたら、内乱罪とどっこいの犯罪です。
「この程度なら任せとけ!」
って、頼もしくもザクザク切り刻んでくれたのが、ダリルおじさんの長男の方のダリル(ハイドダール)十一歳、俺と同い年で前世で言えば小学五年生、のはず。
爺様の長男次男に子供がいなくて、三男のシグルド・ダリルおじさんの長男だけど、実質バルガス家の跡取り息子。
まだ細いけど身長は既に大人並、剣の腕前も並みの大人以上。
「あー、惜っしいなー、もう少し育ってれば、魔法の杖用にいい値段で売れたぞ、コレ」
余談だけどさ、知ってるかい?トレントって双葉のうちから喋るんだぜ、舌っ足らずな幼い声で『コロちゃないでくだチャイ』って。
「もったいないけどダメだよダリル、一晩で若木どころか、エルダートレントに育っちゃうから」
本来は竹みたいに地下茎で、森の木々に寄生しながら殖える、植物性の魔物だけれど、拳大の木の実でも増えるのか・・・初めて知ったよ。
薪にもならないけど、小さいうちに切り倒せて良かった。
「安心するのはまだ早い、森に親樹が居るのは確実じゃ、急いで討伐隊を組むぞ」
ですよねー、爺様。費用は出世払いでよろしくお願いします。
幸い西も東も国境線には、去年も今年も小競り合い以外、戦の気配はないらしく。
手持ち無沙汰だったらしい、バルガス一門の精鋭二十名(爺様の息子や甥っ子)とその家臣達による、ガチの討伐のおかげで、落ち葉を集めて来た近場の森だけじゃなくて、領内四ヶ所全部の森を順番に魔獣討伐が行われた。
セルフネグレクトって言うんだっけ?あの馬鹿親父が、『家の中』のことがどうでもよくなってて、キチンと魔獣の定期的な間引きをしていなかった。
魔獣にとっては、魔素の濃い森の中の方が住みやすいから、自分からは出てこない(そうだ)けど、増えれば縄張り争いに負けた奴らは外に出てくる。
いやもう、マジで慢性的な自殺ですから! 俺や領内の領民巻き込んで。
『嫡男』の立場で、領主に無断で爺様達に依頼を出したり、ましてや貴族院に密告なんて出来なかったしなぁ。
そんで又しても、支払いは無利子催促無しの出世払い、それどころか魔物の素材を売った利益の一部を、税金として領主の俺に納めてくれた。
「甘えてばかりですみません」
討伐費用の支払いではなく、領内再建に使うようにと言って。
「なあに、あてにして待っとるぞ。
ま、坊主一人で何十年かかるか分からんが、坊主の ひ孫の代ぐらいには返してくれや」
さて、話は農作業に戻して、堆肥作り。
「うん、ホントに似てるの、見た目だけなんだね」
騒動がおさまってから農民達に教えられたけど、偽麦って植物があってね、ファンタジー小説だとこれが、実は米とか言うパターンが多いけど、米ではない。
「貴族の若様が知らんでも、当たり前ですぜ」
ホントにそこらじゅうに生えてる雑草、麦の形をしているのに、正体はススキ?穂の中身にデンプンとか、栄養になる物は無い。
いや、米が見つかっても俺の知識じゃ育てらんないんだけどさ、これを牛や馬の飼い葉や寝藁に使っているらしい。
「最初からプロに聞けば良かった・・・」
坊ちゃんが、なんかおかしなことやってるな~って(生)温かく眺められてた、農民が貴族に意見なんて出来ないよな。
牛糞や馬糞、使用済みで汚れた寝藁、豆を収穫した後の茎や葉、畑から引っこ抜いた雑草、その他色々で作り直しました。
農業改革=腐葉土って思い込みがあったんだよな、あの騒ぎは何だったのか・・・Orz
その堆肥を使って、農作物が豊作に・・・は、なりませんでした。イロイロ問題が出てきてさ、その問題はまた今度。
ウチの領内を流れる川の下流は王都に続いていて、王都周辺の三分の一は王の直轄領で王軍の訓練にも使われる山野が広がる。
残りの三分の一は、王族に連なる大公家・公爵家領地の飛び地、最後の三分の一に王都の台所を支える農村地帯が広がっている。
けれどその農村地帯ってのは、子爵男爵が治める小さな領地がひしめくように隣接していて、消費者(特に上級貴族)の要求に応えるため、連作障害もへったくれもない、実に計画性の無い農業をやってるらしい、休耕地?そんなこと言える土地の余裕は無いんだよ!って感じで。
以上、情報提供は借金取り(やや良心的)から。
領主になって一年半、十二歳の新米貴族が打ち出した、わが領最初の新商品は、『肥料』になりました。
地味だー!
次回は四月29日予定です。




