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称号のメリット・デメリット

ダリルさんが帰還したその日の夕食。

文の後半は立地に関する説明で固くて回りくどく迷走しています、ほぼダラダラです。

読み飛ばしても大丈夫かな(-ω-;)

 一度侵略軍に荒らされた王宮内は石造りなので、外側から一見すれば無事そうな棟や搭も、内側は燃やされたり破損して、閉鎖した場所も多い。

 おかげで王族の私的(プライベート)な居住区である後宮も人員が減って、こじんまりと和気藹々としている。


「金目のものが、みんな王宮の表側に行っちゃったから、壊す心配をしなくて良いね」

 あっけらかんと笑うのは海軍卿の妹ファーリーラで、他の女性騎士と一緒に侍女の真似事をしている。


 その言葉のとおりに美術品や宝石類は持ち去られ、直筆の書など歴代国王ゆかりの、国の歴史的には価値のある、(だが国外では金銭的には価値が無い)骨董品は積極的に壊された。

 表宮などの、外国からの賓客の目に付く公的な場所を、取り返したり残された僅かな品々で飾る為に、侍従長や式典礼官達が苦労している真っ最中だ。



 連日うず高く積まれた書類に囲まれる、マーグガルス・ピザンテガロア副宰相とアリスティナ・エクト皇太子も、親しい者同士で夕食は共にできる。

 正しくは、夕食だけでも一緒に食事をしないと、結婚式前に花嫁のサイズが変わる、痩せる方向で。


「サンドイッチで、十分です」

 書類を手離さず、体を動かしていないから食べられないと、抵抗する『娘』に、

「駄目です、食べないともちませんよ」

 と、『養母』は(たしな)める。


 全員で食卓が囲めるようになるまでは、それはそれは揉めたものだ。

『例え、かつては我が子と呼んだ養父の親族でも、臣下として公私の区別をつけるべし』と主張して、身分や儀礼上はもちろん、物理的にも距離を置こうと、戦後の混乱が落ち着いたら女官長の職も辞して、カロルティナ夫人が一度は王宮を去ったのだ。


 だがそのはるか以前、具体的にはアーリシャ姫の御落胤発覚以降から、連日の暗殺者襲撃が続いて、腕に覚えのあるカロル夫人は警備の一人として、アーリシャ様から自分自身を遠ざける決意は揺らいでいたのを、マーガスもダリルも知っていた。


「頭が固いんだよなー、まあ、実家は建国王の時代から続く武門の家だし、本人も元騎士だし」

 良い意味でだけどね、とマーガスは苦笑する。


 我が国の歴史上でも、寵臣や妃の外戚が権力を濫用して、財政や人事を滅茶苦茶にした例は、数え切れないほどある。


 ただ、この三か月間の異世界からの度重なる勇者召喚に、寝所や浴室などの警護は、どんなに一騎当千のダリル達でも、男に立ち入らせる事の出来ない場所だと、身分をはばかる夫人達も折れた。


「二度とあのような思いはしたくありません」

 一度目の召喚が成功した時には、バルガス一門の女達は誰もアーリシャ姫の傍に居なかった。


 マーガスがどうやってか、異世界から彼女を取り戻して、安心したのも束の間、次の召喚は夜間だった。


 魔法宮の防御陣内に簡易寝台を置いて、アーリシャ姫が就寝中に、防御陣が召喚魔法に抵抗して、バチバチと音を立てながら発光したのを間近に見た時は、剛毅な女傑も真っ青な顔色になっものだ。


「あれは配慮も決意も、一切合切を吹き飛ばす光景だった」

 隣室で共に待機していた(実はコルサド国の動きを把握していた)マーガスが、何らかの対処を行って陣の光が消えた後、『娘』を抱きしめて震える母を見ながら、自身も内心では己の無力さを嘆くダリルだった。


 ただ、隣で何やら『狙い通り』という表情(かお)のマーガスにイラついたが。







 食事時の軽い(?)話題として世界を隔てる壁を越えた時に、神に会えたのかと聞いたら、兄妹二人共会った記憶は無いと答えた。


「顔を合わせたなら、俺はともかくアーリシャの誘拐に手を貸した共犯者だ、例え相手が(まこと)の神であろうと抗議をせずにおくものか」

「まぁ、お前はそういう奴だよな」

 拳を握りしめたダリルは、ブレない兄バカである。



「アーリシャ姫に()が付いているせいで、()が完全に閉じきれないようだ」

 この三ヶ月間に、あちらの宮廷魔導士共の監視のついでに『眼』を飛ばして調べた限りでは、

 異世界から召喚された『勇者達』に、尋常じゃない能力と成長スピード等の特典が付与されるのは、過去の魔王被害の際にあちらの世界の神様とやらが、『難題(魔王)』を外部の助っ人(勇者)に対処を任せる(丸投げする)為の、サポート体制を構築して世界に組み込んだのだが、魔王が殲滅されて神からの接触は無くなり。


 放置されたシステムだけ(••)(いま)だに健在で、今回の事に神が一々関わっていなくても、召喚陣そのものは使える状態だからだ。


「後始末はキチンとして欲しいものだ」

 説明をしめたマーガスの言葉に、全員が一斉にうなずく。


「神が作ったものならば、長い年月が経っても早々に壊れるわけは無いか、だが迷惑な輩に与えたままで、その後の確認もしないとは」


魔王復活(緊急事態)になったら自分達の判断で使え』と、ソレの管理を任されたのが、あの国の王族・・・


「私物化して悪用しまくりだよな、たぶん当時は本当(••)~に魔王の脅威に晒されてて、最初の管理者は真っ当だったんだよ、きっと」



「問題なのは、召喚の『鍵』になる魔石は回収、二度と馬鹿な気を起こさない様に制裁を(王宮内)加えて(壊滅)、宮廷魔導士も目ぼしい実力者が残っていない。

 それで尚且つ称号が消えてねぇんだよな、アーリシャ様が『コルサド王国の』勇者、お前聖騎士」

 そこまで言って、マーガスがブハッと吹いた。


「マーガス様、先ほどからお口がお悪いですよ」

 カロル叔母の視線に怯えて、エクルードが主の袖を引く。

 身内ばかりになるとマーガスは、下町の軽薄な若者のような言葉遣いになる。


「なに、とやかく批判するような、気取った連中は軒並み王宮から姿を消した」

 ダリルの言う通り、王位争いの有力候補だった先々代の兄王の遺児と、先日崩御したばかりの弟王の王子は、てんでばらばらに国土を切り売りする約束をガラムサ国をはじめとする諸外国と取り交わしていて、今では逃亡したり討ち取られたり、行方不明だったりする。

 その王子たちの後ろ盾となっていた外祖父達も、それぞれの派閥の者達も軒並み失脚している。


「せ・い・き・し!敵国の兵士からセイハの黒鬼とか、魔神とか恥かしい二つ名(仇名)で呼ばれるお前が、聖騎士!」

 何がツボにはまったのか、マーガスは笑っているが。

 おかげでダリル(脳筋鬼)は神聖魔法系の、治癒や解呪・抗呪、悪霊除け防御結界等のスキルが増えた。

 昨日の今日なので、増えただけでまだ使い方が、全く分からないが。


 今までのダリルファーンは戦士として、近隣諸国の侵略者達に恐れられていたが、脳筋なのでさして多くも無い魔力の使い道は、身体強化と敵の鑑定程度(非攻撃魔法)を防げる魔法防御に特化していた。

「体力・魔力その他諸々、『システム』とやらを、くぐったお陰でお前たちは二人とも色々と能力数値が跳ね上がっているぞ」

 武術一族を代表するようなダリルが、現在は宮廷魔導士を上回る魔力値を出している。


(息子はともかく、アーリシャ姫を『お前』呼ばわりした瞬間、女官長(カロルティナ)たち周囲の年配女性全員の眉がピクと動いた。)


「俺達は『特典』だけ受け取って『仕事』はせずに帰って来た訳だな、コルサドの奴らからしてみれば、詐欺だと非難したいだろうが、

 欲しくて得た訳ではないが、国を背負う以上は有効活用するべきだ」


「なに、例えて言えば、あいつらはうまい儲け話があると持ち掛けて、こっちの返事も聞かずに勝手に資金を『押し貸し』している様なものだ。

 気にするな、返す必要も無い、それよりも我が国は色々と忙しい」

 悪質な金融業者に、長いこと絡み付かれていた伯爵は、おかしな例えで言う。


 そう、『今後の戦い』だ。


 追い出すのに三年近く掛かったが、敵はこちらの世界側にもまだいる、ただ。

「馬鹿な連中だよなあ」



 侵略者達はガラムサ国といって、冬でも凍らない北の海岸線を、東に進んだ先にあった国だった(•••)

 セイハ国に到達するまでに、間に挟まれた二つの国も征服して版図を拡大していた、ガラムサ国だが、

侵略戦争(ヒャッハー)に明け暮れて自国を留守(からっぽ)にしているうちに、自分達の祖国が属国のグラブドという国によって、占領されたんだよな。

 間抜けな話だ」


 その属国を唆したのは、我が国の使者(みってい)だが。


 グラブドは大陸東端の、国土が三角旗のように東西に細長い国で、国境はガラムサとのみ接して、陸路を完全にふさがれている。

 献朝を強いられている為、交易は平等ではなく、ガラムサに不当な高値で売りつけられ、自国の品は買い叩かれる。

 残るは海路だが、ガラムサに許可された私掠船に襲われる。

 長年の恨みが相当に積もっていたたしく、あちらも機会を伺っていたようだ。



 大慌てで自国(ガラムサ)隣国(ケルンダ)にまで駆け戻り、国境線で睨み合っているので、当分戻っては来ないだろう。

 念のために先代当主を筆頭に、バルガス家の男達は『東の北』の辺境伯領の砦に待機している。


「創生女神を信仰してない国だから、と主張して、戦争を行っていけない期間に奇襲をかけて来た連中だ、王族の葬儀や婚儀に戦を仕掛ける礼儀知らず位は平気でやるだろう」

 もっともらしい理由ではあるが、


「バルガス将軍とご隠居様たち、結婚式に帰って来たくないんじゃないかな?日程が決まった途端に飲んだくれてたよね」

 遠慮のない部外者のファーラは、ザクっと断言する。


「やめて差し上げろ」

 笑っていたら女官長カロルティナ)が、静かに怖い笑顔になった。

「マーガス殿、お言葉使い」

 なぜ自分だけ叱られるのか納得いかないマーガスだが、海賊の少女と違って彼は三十を過ぎた成人貴族なのだ。






 ラサイエ大陸は東西に細長い、形としてはあちこち齧られたフランスパンに似ている。セイハ国はそのラサイエ大陸のほぼ真ん中に位置している。

 西と東の国境線は南端の海から北端の海まで、フランスパンのど真ん中を輪切りにしたかたちだ。


 それがどういう意味かと言うと、隣りの芝生が青いというか、

「人はまだ見ぬ世界にきっと此処より良い物、素晴らしい場所(らくえん)がある筈だと思うらしい」


 だが、西の国から東の果てへ珍しい品物を求めに行きたい商人も、東の国から生まれた自分達の『神の教え』を布教したい僧侶や導師とか呼ばれる宗教関係者も、セイハ国で引っかかる。


 やろうと思えば、この大陸の『全ての交易路』を、ふさぐ(•••)ことが出来てしまう、まあ、滅多に使わない外交上の奥の手だが。

 どこの国の商人相手でも、民衆の経済活動を阻害しては、悪影響しかないのでやりはしない。


 別に外国のスパイや軍隊、盗賊団のような犯罪者でもない限り、旅人や商人の入国を禁じたりはしていない、もちろん彼ら本人とその荷物に多少の税は徴収するが。


 陸上ではセイハ国を避ける迂回路は無い、海路でも商船は陸地が見えない程離れた所を航行しない。

 水棲の魔獣に襲われる危険がある以上、余程に座礁の多い海域でも無ければいつでも逃げ込めるように、交易船は北側・南側航路共に横目に陸地を見ながら領海内を進み。

 セイハ国に限らずどこかの国で、いずれは水や食料の補給のために寄港しなければならない。


 セイハ国の東側国境対面には四ヶ国、西側国境のすぐ外側に、四つ足のヒトデが(バツ)を描くように大きな山脈が南北に横たわっていて、山の手前と山岳部分に小さな国々がひしめくように十四ヶ国存在する。


「諸外国にとっては、セイハ国の芝生は青く見えるのではなく、自慢ではないが実際に青い(豊かだ)と断言出来る」

 建国王の時代から我が国の国土面積は余り増減が無い。


『国土を広げてもその分だけコストが掛かる』

 原文そのまま、建国王の身も蓋もない遺言である。

 だが確かに国土ばかり拡大しても、困窮した下級層の人口ばかりが増えて、安定して税収が得られなければ、結果は、新たに支配下に取り込んだ民が蓄えを奪われて餓死するか、国全体で行き詰るかだ。




「戦争が起こる理由は基本的に、食糧でも金銀財宝でも自分達が持っていない物、足りない物を他所から奪うのが目的だ」

 マーガスの言葉に、

「まったくだよ、無ければ奪う、平民がやったら盗っ人なのに、国のお偉いさんがやったらほめられるんだね、おかしいよね?」

 海賊の娘は憤慨する。


 攻めて来る国のそれぞれの事情によって、民が切実に飢え死にしかねないのか、権力者の欲の皮が突っ張ているだけなのかは違う。

 我が国は建国王のもたらした、どこかで聞いたことがあるような政策や技術革新のおかげで、他国(よそ)侵略(おか)す事なく、交易(に伴う関税と通行税)と農業と牧畜で国民を充分に養って(食わせて)いるので、防御(まもり)だけを固めている。


 ただし、この世界は「戦争は嫌だから止めましょう」と話し合いだけ(口だけ)理想論(綺麗事)を述べても周囲は聞く耳を持たない。

 権力者が先頭に立って国家レベルで強盗殺人をしに来ている集団が、既に押し寄せてきている状況では価値が無いこと寝言以下だ。



 ところで、称号とは微妙に違うが、周囲の者たちは殿下もしくは、アーリシャと愛称だけで呼んで、王太子を正式名称(フルネーム)で呼ぶのは避けている。


 西の国から移住してきた傭兵団である、バルガス家は『真名縛りの呪縛』への対策として、わざとややこしくした名前で、個人を特定(●●)されるのを防ぐ。

 優れた呪術師ならば、名前だけで相手を縛れる、という危険がある、もちろん王族ともなれば守護術符(タリスマン)など、対抗手段もあるが。


 名前に関する呪法は一部分だが、『ソレは自分の事』という本人の自己認識が影響する、精神魔法の要素を含む。


 例えば、生まれた時から一門の跡取りになるのが決定していたダリルことハイドダール・ファーンは、『ダリル』という名がそもそも愛称で、父と弟六人も『ダリル』のうえ、『ファーン』は従兄弟(いとこ)又従兄(またいとこ)弟大叔父に計十一人いる。

 更にわざとハイドダ()ル・ファーンと呼んだり、ダール(●●●)ファーンと呼んだり、間違いを誘っている。

 これでは呪いで名を縛っても、効果は霧散する。


 エクト皇太子は、『現在の正式名称』はアリスティナ・エクト・セイファラッドだが、生まれた時点では家名はバルガス。

 さらにバルガス家では、アーリシャと同じ年に生まれた、✕✕✕・エクト・バルガスと命名されたのは、カロルティナの六男を含めて他に三人いる。

 これは当時のバルガス家の、当主夫人と嫁たち全員が、全部の事情を知った上で、話し合って決めた事だ。

要約すると母の愛。

王族相手のガチの呪術は反逆罪です。バルガス家は中途半端に上級の武将なので、国境を接している国の数だけ恨みを買う、と。



次回投稿は四月の26日の予定です。

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