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神剣の銘

場面が、過去と現在を行ったり来たりしています。

仕切りを入れていますが、分かり辛いかもしれません。

 突然現れた"殿下"には、ダリルしか目に入っていないので、マーガスはそっと後ずさった、後々『共犯』として呼び出されるかもしれないが。


 扉に向かおうと振り返ったら、ニッコリ笑顔のファーラに行く手を阻まれた。

 エクルードも同じく笑顔で、しかしマーガスのゆったりした長衣の背中を、さり気なく掴む。

((一人だけ逃げるなんてズルいです))

 数刻、笑顔で見つめ合って、マーガスの方が視線を逸らした。


 今回のダリルによる『異世界殴り込み』は殿下にだけ(••)、内緒だったのである、まあ共犯者全員が、後悔はしていない。


 ついでに、あちらの世界を襲った『人災』もだ。


 居もしない(くだらない)魔王被害(たわごと)を理由に、唯一無二の大事な王太子を、誘拐した嘘つき共が、どんな悲惨な末路を迎えようと、望むところだ。






 あのバカバカしい喜劇の日から始まって。

 国内は内乱を起こした造反者と侵略者にぐちゃぐちゃにされ、ここまで復興させるのに、どれだけ大変だったことか。



 ✰ ✰ ✰ ✰ ✰



 どうしてもっと事前にリハーサルなり、確認なりをしておかなかったのだろうか?

 上は大公から下は男爵まで、国内の貴族家当主を一堂に集める、その前に。




「貴様っ、そう、貴様だっ!」

「はぁ?⤴」

 失礼ながら、声が裏返った。

(いかんいかん、こいつバカじゃねーの?ってのが丸出しになっちまったぜい)




 新年最初、三日間の【産みの()もり()】を終えると、王宮をはじめ行政府が開かれ、一斉に仕事が始まる。


 この世界の創世神話によれば、一の月は創生女神が夫と共に世界を創造し、更にそれを任せる大地神・天空神・海洋神を生み出した月とされている。


 なので創生女神を信奉する国々では神話にならって、上は王家貴族家から下は商家農家まで、当主・家長が次代の後継者をお披露目し、代替わりを行うのに最も相応しい月とされる。


 一の月は女神が世界と神々を生み出した神聖な月なので、諸外国も国内もこの期間は、戦争も内乱も控えるのが通例だ。

(現実的な問題として、季節的に雨量が多く、足元が泥濘(ぬかる)み行軍にも支障が出る、南方などは地域によって海が凍り、大地は雪に埋まる)


 諸外国の動向(だましうち)比較的(•••)気にしなくて良いこの一の月、我が国でも王太子選定が行われていた。



 前に出たがる者達の背に隠れて、伯爵位の列の中では末席に近い位置にいたマーグガルスに、王甥スルヴァノ殿下が指を突きつける。

「貴様は『職人』の真似事をしていると聞いたぞ!貴様が何か小細工をしたのだろう!」

 突然の冤罪である。


 大聖堂の中で、シャリンシャリンと金属の翼の羽ばたく澄んだ音色が、たった今拒まれた殿下を嘲笑う様に鳴り響く。


「聞き捨てならぬ事をおっしゃいましたな殿下、王権の拠って立つところである神剣を、なんと心得ておられるか!」

 マーガスが反論するよりも先に、国王の大叔父にあたる大公殿下が一喝する。

(たった今、王国の起源丸ごと全否定したものなぁ、王位継承第一位(スルヴァノ)の王子様)



 それぞれの立ち位置を説明すると、現国王は亡くなった先代国王の弟で、目の前で口から泡を飛ばしているスルヴァノ殿下は先代国王の長男だ。

 この国では珍しい(••••••••)銀髪紫眼、端正な美貌なのに、それを歪めて誰かを罵らずにはいられない小物感は、残念極まりない。



 十六年前の一の月、先王陛下が自身の体調の異変に気がついて療養すること四ヶ月、『選定の儀』を早めた際にスルヴァノ王子はまだ五歳、幼君が国王では傀儡政権と国内貴族や周辺国に思われてしまう。

 その為、当時人間の法律(都合)で決まっていた、継承順位を一時棚上げにして、神剣の判断に国の今後を委ねた訳だ。

 と、言っても、成人している王弟殿下を、一番最初に神剣に触れさせるだけだが。

 あくまで一応だ、『神剣の選定』は王族法も貴族の権力闘争(根回し)も、元老院の会議の決定も、全て吹き飛ばす。

 継承順位も選定の際に、神剣に触れる順番でしかない。

 五歳の子供が神剣に選ばれたら選ばれたで、別に良いのだ。

 それならそれで王弟殿下(当時)が、幼王の摂政に付いただけの事だ。


 確かにマーガスは、貴族にあるまじき事に、道楽で魔道具技師の真似事をしている。

 しかしこの王子は国宝の神剣と、魔法付与の魔剣を同格に扱って、列席していたマーガスが何か小細工をしたと、

 つ・ま・り 『神剣』が一介の魔道具技師に改造出来ると言ったのだ。

 周囲に居並ぶお歴々の眼差しが厳しくもなろうというものだ。





 建国王が王権の象徴として神から授かった神剣は、主を選び、(まこと)の主以外の手を拒む。


 戴冠式と立太子式にのみ、使用される大広間の真っ正面。

 謁見の間ならば玉座が有るべき位置に、金床(かなとこ)の台座があり、神剣は常にこの場に刺さっていて、王以外の手では抜くことが出来ないそうだ。

 国王が戦争に携えて行く場合は、当然鞘に収めるがこれも王以外の手では抜くことが出来ない。

 例外は立太子式を行って、国王と神剣に認められた王太子のみだが、『剣の主』としての優先権は国王にある、そうだ。


 そうだ、と伝聞なのはマーガスも今回初めて入室を許され、実物の『神剣』そのものも初めて見たからだ。

 当然のことだが、触れもせずに改造も調整もできる筈が無い。


 儀式の流れとしては、まず、近衛になれる身分だが『王家の血を引いていない』事がハッキリしている騎士が、金床から神剣が『引き抜けない』事を証明(パフォーマンス)して、次に国王が金床から神剣を引き抜いて鞘に収める。


 この場には先代国王の王子達と庶出の男子、現国王の王子達と庶出の男子、彼らの従兄弟(いとこ)はとこ(•••)にあたる大公家公爵家の王族の血を引く貴公子が、集められ剣を抜く順番を待っていた。


 スルヴァノ殿下にしてみれば、謀叛を疑われるので大きな声で表立っては言えないが、現在の国王は自分が政務を()れるようになるまでの中継ぎ、神剣は自分を選ぶ筈だと、私的な集まりでは口にしていた。


 そして殿下は、自信満々に真っ先に神剣を手に取ろうとした。


 おもむろに左手で(さや)を右手で(つか)を握って、おそらく天井に向けて意気揚々と、剣を(かか)げようとしたのだろう。

「ふんっ」

 汗で滑ったかのように、右の拳の中から柄が滑って、右手だけが中途半端に背後に跳ね上がった。


「あ、あぁいかん、緊張で汗で滑った」

 言い訳めいた事を口にしながら、額にもびっしりと汗を浮かべて、再度つかみ直しスルヴァノ殿下は剣を高く掲げた。


 今度は鞘ごと。


 背後に並んだ他の候補者達と、その後ろ盾(母方)の親族達の顔に密やかな冷笑が浮かぶ。


「むっ、くっ、ふんっ」

「あの殿下、もうそろそろ、その辺で・・・」

 チャレンジを止めないスルヴァノに、式典礼官の一人が恐る恐る声を掛ける。


「何だこれは?!私をバカにしているのかっ!」

 苛立った王子は両手で剣の(つか)を握りしめ、床に向かって振り下ろした(叩き付けた)、たぶん力づくで鞘を割ろうとしたらしい。

 見てくれだけの華奢な装飾剣(かざりもの)だったら、ひん曲がっていたはずだ。

 勿論、神剣は容易く壊れない。


 バリッツ

 鼓膜の敗れそうな衝撃とオゾン臭の漂う中、両手の平と身体を伝わって服の下も焼かれただろう殿下が、床の上でぴくぴく痙攣している。

 マーガスが少年時代に作ろうとした、表面に静電気が薄っすら帯びる程度の、雷の魔法剣とは比べ物にならない、殺しにかかっている威力の雷撃が、居合わせた者達の眼を()いた。

(うおぅ、軍用スタンガン(じか)握り・・・)

 だが、殿下とマーガス以外の、広間にいる全員は上を見上げていた。



 生家は没落貴族の代名詞、王宮に伺候している文官貴族としては正直下っ端であるから、意見を上申出来る立場ではないのだけれども、想定外ってのはどこにでもある。


 どうして、王族(候補者)だけで事前に確認しなかったのだろう?


 そうすれば、最悪の被害は避けられた。

(この一大イベントの真っ只中で・・・居たたまれないねぇ)


(ついでに言うと、この傲慢(オレさま)王子が、こんな残念な有様(ありさま)なのも、ワザとバカになるよう育てて、必要な帝王学教育を実は受けさせてないからだよな)

 父親である先代国王が亡くなって、当然王宮には新しく即位した元王弟の新国王と、その家族が住まう事になった。

 場所を明け渡すことになった、母親であるそれぞれの妃たちが実家や離宮に移住しても、新国王の(新たに誕生する)王子達より継承順位の高い王子らまで、同じように王宮外へ追いやれない。

(叔父の手元に残されて出来上がったのが、おだてておだてて甘やかされ放題の、口から(ちょく)で失言駄々洩れからの株価暴落王子様、と)

 正確には与えられた教育水準は高かったけれど、兄の遺児相手では『遠慮』があって、性格を矯正するような躾はしなかった、のだろう。


 恥をかかされただろう王甥(バカ)殿下を、気遣うマーガスの気持ちも知らずに、治癒魔法で立ち直った途端に冒頭の冤罪になるのである。




「国護の神剣よ、建国王テラーキ様の後継者としてアルトラス・テルススパードが命ずる、我が手に戻れ」

 国王の()ぶ声にも応えず、金属同士の擦れあう音が心なしか威嚇の声に聞こえる。

(怒っているんじゃないかな?アレ)


 我がセイハ国の王位継承の『絶対条件』は、今まさに、立太子式の最中(さなか)に第一候補者の掌中から、電撃を浴びせて逃げ出したばかりである。

 神剣が、降りて来ないので、次の候補者達が選定を続けられないのだ。


 マーガスは天を仰いだ。別方向に。

 ぶっちゃけて言えば、この王子様、先王陛下に似てないってもっぱらの噂だったんだよなぁ・・・

 十六年前現国王の兄である先王陛下が、次代の選定を行わせた時、『神剣』は今回と同じくこの王子様とその弟達を選ばなかった。

(多分、選ばれなかった理由は、年齢じゃない)




 神様から賜ったと言うのは、誰かが話を盛ったんだろうなぁ、とマーガスも推測している。

 何しろこの神剣(笑)、その銘が『神剣ククルカン』である



 なぜにアンデスか?建国王。


 金床に刺さって正当な持ち主以外に抜けない剣は、マーガスもおぼろげだが前世でアニメにもなったイギリスの古い伝説(どうわ)に出て来る『伝説の剣』、そのまんまの由来(パクリ)だろう?


 建国王テラーキ様って、てるあき様?それとも寺木様かな?

 いやもう、前世持ちなら笑うところなのか?コレ?

 確かに鍔の部分が翼の意匠で、柄頭(つかがしら)が左右に目の様な丸い宝玉が嵌って(あたま)、そして刀身は胴体と尾の部分に当たるのだろう。

 天井近くで羽ばたくその姿は、正しく『翼有る蛇(ククルカン)』である。

(蛇のどこから何処までが胴体かは、俺も知らんがな)


(あの剣は、おそらく遺伝子を判定する機能が、組み込まれている)






 大広間の豪華な飾り窓(ステンドグラス)を思い切り良く、突き破って飛び出した神剣(笑)は、居並ぶお歴々の目前で、翼有る蛇の姿から鷹に姿を変えて飛び去った。

 ここは建国王の時代に建設された、大変歴史ある建物なんだが、豪快に壊したこの後にかかる修理費は、税金。


 金属の鞭のようにしなる尻尾(刀身)が、小さな翼で飛ぶのにはバランスが不安定だったらしい。

 一昔前の謎金属ロボットの様に、『今どこがどうなって、そうなった?もっぺん(もう一遍)やって見せてくれ』と言いたくなる様な、滑らかな目にも止まらぬ謎変形で鷹に化けた。



「と、とらえっっ」

「見逃がさぬように追跡せよ、その先に次期国王がいらっしゃる筈だ!」

 いやもう大混乱の茶番劇だ。


 金と銀の金属の光沢もギラギラしい、陽の光を反射しながら飛ぶ『神鳥』を、畏れ知らずにも野生の鷹の様に『捕獲』しろと叫ぼうとした王甥殿下を、彼の母方の祖父つまり先代王妃の父親であるコムタス侯爵が、殿下の肩を強く掴んで発言を押しとどめ。

 それをかき消すような大音声で、先程の大公殿下が近衛騎士や居並ぶ貴族達へ申し渡す。


「後を追いかけるだけだ、間違ってもその先におられる尊い御身を傷つけるでないぞ!

 ましてや、盗人呼ばわりして捕縛や処刑などしようとしたなら、一族郎党謀叛の逆賊として斬首されるものと思え!」

 さすがに重鎮である、年老いてやせ細ったその身体のどこにそんな気迫が有ったのか。

 後半部分は明らかに『神剣の選定』を待って並んでいた王子達とその外戚の貴族達に向けた警告、いや恫喝だ。


次話投稿は四月十四日の予定です。

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