19.ありったけの罪を犯して、きみはなんにも得なかった
「…………ぼくたちがやりました」 、
本当は母さんにも内緒でやるつもりだったんですけど。ひと呼吸おいて、重たい調子でそう続ける。
勢いまかせではない、決然とした告白。誰もが静かに聞いていた。
「9月25日に自販機で栄養ドリンクを2本買って、片方は帰ってすぐ、もう片方は2日後の27日に飲んだ。そうなってますよね。……でも、本当に買ったのは24日なんです。その日、片方にパラコートを入れて冷蔵庫にしまっておきました」
トリックの話に興味はない。いかなる神算鬼謀があったとて、「そうだったのか、すごいなあ」以外の感想が出るだろうか。
だって、あなたたちの犯行なのは以前自ら教えてくれたじゃないか。改めて認めたのなら、あとは自首してもらえればそれでおしまいだ。
英樹の方針は最初からずっと変わっていない。けれども、その内心は健一たちの知り得ないこと。自分の都合だ。口には出せず、探偵は黙って耳を傾けた。
「なんでこんなことをしたかって、単純に自分でやったと思われたくなかったから。アリバイ工作って言うんですよね。もうひとつは、やった証拠を隠す時間が欲しかったんです。1日でも長く。ゴミ処理されちゃえばバレずにすむから」
素直になることにしたか、あるいは開き直ったか。
やり口を誇示するわけでもなく。健一は淡々と、神妙な顔つきで語り始めた。
「頭がぱっくり割れて血だらけのガイコツ……に見えるものを作ったんです。木とか発泡スチロール、あと黒いビニール袋なんかで。自分で見ても怖くできてました。最初は事件の2週間くらい前に自販機のとこへ置いて、噂が流れるように。登下校のとき以外は人通り少ないところだったから置くのは楽でした。学校で噂が流れるのを聞いたら、母さんに車で引き上げてもらう。『なぁんだ、作り物か』って言われる前にね」
「ここからあと、ガイコツを置くのと回収するのは全部私がやりました」
「2回目は25日、アリバイ工作の日に置いてもらいました。だいたい16時、下校の時間帯に。そもそもこれ、何のために作ったかわかりますか? 探偵さん」
「悪いが、こういうのは得意じゃないんだ」
アリバイ作りの一環なのはわかるが、求められているのは『どういう効果を狙ったか』だろう。
探偵にはそこまで深掘りして考えるだけの気力がなかった。今したいのはクイズじゃない。答えるのを避けようとした。不可能だった。英樹を試すようでもなく、健一はじっと待っているのだから。
「……人を近寄らせたくなかった?」
「違います。大はずれではないけど」
安直な想像が、今の彼には精いっぱい。
「怖がって逃げた学生を不審者と勘違いさせるためです。半分くらい運まかせでしたけど、うまくいったみたいで。その様子を近所のおじさんが窓から見てたそうです。それが4時くらいだったので、30分くらい時間ずらして自分も下校しました。帰りに自販機に寄って、飲み物を買うまねだけして。それもさっきのおじさんが目撃してたと」
思い出されるのは、公園で聞き込みをした3人の中学生。そのひとりだったメガネの少年が、『不審者』の正体なのだろう。もし『不審者』の特定に至って彼が取り調べられていたとしたら、どう責任をとるつもりだった? 浮かんだ疑問は心の奥にしまって、話を聞くのを優先した。
「あとはパラコートとガイコツ、その材料を買ったときのレシートとかを27日までに捨てて、取っておいたほうのドリンクをひとなめするだけでした」
きゃしゃな右手を軽く握って口元に。少年は飲むしぐさをした。さらけ出されたのど元の、でっぱりはまだなだらかで。落ち着いた様子で手口を語っている彼は、まだまだ幼い年ごろなのだ。英樹にはそれがひどくアンバランスに見えて、内情を知りたくなる。
「パラコートはだいぶ前におばあちゃんちからもらったのがあった……というか、それがあるのに気づいたからこの計画を考えたんです。以上で大丈夫ですかね」
「庭の雑草がひどかったので……使い切れずに長いこと放置していたんですけどね」
罪を吐露してひと段落ついたのだろう。親子はかすかに姿勢をゆるめる。手をひざから下ろしたり、背筋が丸まったり。
話すべきことは話した、言外にそう伝えているようでもあって。
「なるほど。過程はわかりました。ですが、」
英樹にはわからないことがあった。
ごくわずかではあれ毒を飲むのだ、苦しんだのは想像に難くない。ましてやひと口で逝けるような劇物だ。1週間ほど入院したとも聞いている。医療費もばかにならないだろう。
身体的にはもちろん、社会的にもリスクが大きすぎる。大事件の被害者を装うなど、バレたときにはマスコミの餌食。
――そもそもが、れっきとした犯罪だ。逮捕されないのと潔白なのは違う。
そこまでして自演に走った理由はなんだ? 息子を止めず、加担した理由はなんだ?
「動機のほうが気にかかります、私は」
なにもかもを話してほしい。それを顔に出して逃げ場をふさぐ。バツの悪そうな2つの視線が、伏し目がちにこちらを見ていた。
「知ってると思いますけど、ぼくには父さんがいません。ぼくが4歳のときに離婚したから、ほとんど記憶もないです。だからってお母さんのせいではないですけど、からかってくるやつがいます。小学校でも中学校でも。親のどっちかひとりでもいないっていう同学年の子、中学校にひとりいるのしか知らない。いろいろ聞かれたり笑われたりしてしんどかった」
「…ごめんね」
あなたのせいではないと言われても、思うところはあるのだろう。震える声で、うつむいたまま啓子はこぼす。
西沢がテーブル越しにハンカチを渡してやっていた。
「無理にでもなかよくすればからかわれないだろうけど、ちゃんと話すのが怖かった。勉強は得意だったから、頭いいところ見せたら優しくしてくれるかなって。そしたら友だちになれるかなと思った。ひょっとしたら勉強以外でも自慢できそうなことありそうな気がしてた。
あのころはまだ背の順高いほうだったし、体育もみんなと同じくらいはできた。習いごとも……書道とスイミングスクールに通ってて、どっちもぼくより早く始めた子を抜くくらい昇級してたんだ。いっぱいがんばって、いっぱい自慢してやろう。そう考えてた。なのに……!」
うまくいかなさを爆発させるような。こぶしを握り、上半身を振りかぶる少年。その声には、悲しみと怒りが宿っていた。
「漢字テストで100点だったときとか、『おまえがそんな点とれるのむかつく』って言われて殴るふりされるし、授業で先生に当てられて間違えたりしたら笑われる。それと6年生になったくらいでどんどん他の子に身長抜かれて、運動もあんまりできなくなってきた。気づいたら頭のよさと書道しかアピールできるところがなくなっていました。このままじゃ大したことないのに威張ってるいやなやつになる。というか、もうなってる」
「けん君はいやなやつなんかじゃないわよ。完璧よ」
そっと息子の背をなでる母親。その表情はどこかぎこちなかった。反対に、健一にはわずかに落ち着きが戻りつつある。
「くだらない下ネタで大騒ぎしてたり、先生に怒られてもヘラヘラしてたりするやつらがバカに見えてきてるし。敵を作ってばかり。わかってるのに止められないんだ。近所の人とか同級生のお父さんお母さんとは普通に話せるし、なかよくもできるんだけど。同級生とかは見下しちゃってるってこと……なのかな」
認めたくないような、でも奥底ではわかっているような。探偵は、そんなためらいを健一から感じた。
「そのうち、嘘をつくことが増えました。『スイミングで3級になったんだ。15級のうちの3級だよ』みたいな。本当はまだ6級なのに。そうでもしなきゃ、ちやほやされない。バレたらよけい嫌われるのにね.
これも僕が嘘ついたって知ったやつらがスクールの子に悪口流して揉めたから、スイミングやめちゃったし」
自分の行いが悪かったと理解してはいても、恨みはあるのだろう。低い声で、ぶつぶつとした話し方だった。
「こんなことしたくないんだ。まともな方法でみんなとなかよくいたい。お話ししたい。友だちが2,3人しかいないのはさみしい。
もう、変人だとか嫌なやつとしか思われてないんです。普通になりたくてがんばってたはずなのに、逆方向へ行っちゃった。あちこち会話に入ってみても、ちゃんと話せないし出てけって言われる。イライラしちゃってけんかになる。中学に入っても変わらない。
あいつらもちょっとは悪いけど。自分のせいでおしまいだ。悪いところは自覚してるしがんばったら直せそう。でも、みんなと近づくきっかけがない」
悲壮なひとり語りの中に、別の音が混じっている気がして。英樹の聞き間違いでなければ、それは後方でしたような。疑問に思いつつも気にしないようにしていると、視界の右端に手のひらが見えた。
美穂だ。背もたれに小さな右手を置き、探偵の座るソファ越しに応接スペースをのぞいている。問いただすことではないが、英樹には行動の意図が読めなかった。
かまってもらいたい……ということはないだろう。だとしたらさすがにタイミングが謎だ。
自由でマイペース、場の雰囲気を読むのが苦手な少女だが、『してはいけないとき』はある程度察せる。たかだか4,5ヶ月のつき合いでも、確信できることだった。
「だから、一発逆転したかった。毒殺事件のニュースをテレビで見て、そういや家にもパラコートがあるのを思い出したときに、ひらめいてしまったんです。被害者になって入院したら同情も優しくもしてもらえるじゃん、って!
そのタイミングで、たとえばお見舞いにきた人と正面から向き合って話したら、『なんだいいやつじゃん』と思ってもらえるかもしれない……そのはず、だったんだ」
くちびるを軽く噛んでいるのが見える。声は泣きそうに震えていた。
アリバイトリックは成功し、少年は被害者となったのだ。けれど、この態度を見れば失敗したのは察しがつく。
よほど言いづらいのだろう。少年は黙ったままだ。答えてもらうには、仮定をぶつけてみるしかない。ふとした思いつきを投げかけた。
「学校の子はどれくらい見舞いにきた?」
「言わなきゃだめ?」
どんぴしゃり。懇願するさまが答えだった。
「……ゼロだったよ。こなかったんだ、誰ひとり! ほんとに死ぬほど苦しんで、お母さんまで巻き込んで。こんなに悪いことをして! なのに、来たのは大人だけだった。先生とか、近所のおっちゃんとか。あと警察の人。
なんで来なかったのとは聞けないけど、そんなに同級生から嫌われてたんだなって……」
力なく背もたれに身体を預ける健一。意気消沈という言葉がぴったりだった。
「退院して学校に戻ったら、みんながひそひそ話してるんだ……」
その姿を正面にとらえながら、少年の左隣に目を向ける。
「加担した理由をお聞かせください」
「この子の気持ちはよくわかるんです。私もママ友の輪に居続けるのが大変で。出身が関西のほうだからというのもそうですし、馬が合わない人がいるのもありますけど。一番大きいのはやっぱり、片親なことですよね。心配してはくれるけど、下に見られることも多いんですよ。なにかの拍子に、母親としても大人としても失格だと思われるなんてこともあるのでは。そう考えるとこわいんです。だから私もつい見栄っ張りになっちゃって。健一にそういう血が流れたとしたら、きっと私のせいでしょう」
息子とは対照的にいたって自然体だ。己を責めていながらも、口元にほほ笑みが浮かんでいる。一抹のうすら寒さが探偵を襲った。
「あら失礼、動機の話でしたね。この子が自作自演の計画を練っていたノートを、部屋掃除のときに見つけたんです。当然しかりましたよ。でも、どうしてこんなことを考えたのか聞いたら、先ほどのように理由を少しずつ話してくれました。とても悲しそうな切羽詰まった顔だったんです。健一も私と同じようなことで悩んでいるんだと実感しました。親ですもの、うすうす感づいてはいましたよ? ただ、あまり学校でのことを話さない子なので」
健一は顔をそむけており、どんな気持ちで聞いているかはわからない。ただ、大なり小なり暗いものであろうとは想像がついた。
「だから協力することにしたんです。ミステリはほとんど読んでこなかったのですけど、この子の計画に穴が多いのは明らかでした。発覚すれば罰金や逮捕になるかもしれない。そうでなくても、地域の人に疎まれてますます孤立する。立場が崩されるんです。
健一は少年法で罪にならないのは知っていました。でも私が罰を受ければこの子の暮らしに関わります。だから万が一にもバレないように、私の手でより完璧な計画にする必要があったんです。実際うまくいきました――」
横を向いたままだった彼の頭に手を添え、やんわりと自分のほうを見させて。そのままの姿勢で。
親は子に、ひどく冷たく言い放った。
「――なのに、この子が探偵さんに言うから」
健一の目が見開かれ、身体が電撃に打たれたようにびくつく。それは一瞬のことであったが、彼がショックを受けているのは明白だった。
探偵の左横。同じ母親としての感情か、西沢がめずらしく怒りをあらわにしていた。眉根がくっつきそうなほど寄っている。無理もない。
英樹にも怒りの気持ちはあった。あり方を押しつけられるのは大きなストレスになると、自分の親で知っている。
少年が見栄と虚勢を張るようになった要因。少なくともその一部は母にあるのだろう。
とにもかくにも、啓子を止めなければならない。探偵が腰を浮かした瞬間、健一は母の手を引き離した。傷ついているだろうに、あくまでも優しげな動きで。
「母さんは正しいこと言ってる。ぼくさえ黙れてたら完全犯罪だったんだ! すごいでしょ、13歳の子どもとその母親だよ? 普通の。かしこいのがぼくのとりえだ。テレビが取材にきて大騒ぎするかもしれないけど、きっと有名人になれる!ぼくは確かに罪を犯したけど、すごいなって思ってくれる人も、きっといる、よ。いるよね? ひぐっ、いるって言ってよ……! 無駄じゃなかったって!」
今度こそ健一は涙を流す。両手を目に当てて、ぐすぐすと泣きじゃくっていた。
「それは無理かな」
探偵はあえて容赦しない。テーブル上のティッシュを取るのと引き換えに、抜き身の真実を突きつける。
「君は犯罪に手を染めた。そうして、なにも得なかった。これが今回のあらましで、すべてだ」
ゆっくりと丁寧に、ひとことずつ伝えていく。彼の心に響くように。
「君ならわかっているはずだよ」
最後は優しい声音で発した。
おもむろに身体を起こしていく少年。ちゃんと届いていたのだろう。
「はい、認めたくなかっただけです。先週探偵さんと話したときだって、ほんとはぜんぶ理解してた。あれは本当にごめんなさい。ぼくがどうしようもないバカだったって知られたくなかったから、強い言葉で追い払おうとしてしまいました。自分のせいでみんなから嫌われたのに、
こんな大がかりな悪いことやらかして。それでひとりの気も引けない。はずかしい。一生笑いものにされる。普通になるきっかけが欲しかっただけなのに。ぼくはおしまいだ。どうすればよかったのか……は、知ってるんだけど。今さらもう遅いよね」
「おそくないよ!」
半ば叫ぶような美穂の声でそちらを見る。いつものふにゃっとした声質はどこへやら、はっきり事務所にとどろいていた。
らくだ色のニット帽がずれたのも気にせず、少女はまっすぐに立っている――と思いきや。右手をひらひらさせる、慌てたときのいつもの癖。
一瞬で視線を集めたのが恥ずかしくなったのかもしれない。赤いほほで話し始めた。
「えっとね、わたしもクラスの子となかよくなれてないの。お友だちかなって思う子もいるけど。みんなより勉強も運動もできない。たくさんしっぱいする。せいしんちたい? って言うんだって。最近しょちょーさんに教えてもらったの。なんでいやなこと言ってくる子がいるのかも教えてもらって、ちょっとすっきりした」
親しい人以外目を合わせるのが苦手な彼女が、健一の目を見て話している。
「もう2学期になっちゃったけど、まだなかよくなれる気がしてきたんだ。だからね、いっしょだよ。……あっ、お名前なんだっけ……」
「健一だよ。道場、健一」
「ありがとー。けんいち君もきっと、だいじょうぶ」
ほにゃりと笑いかける。やや戸惑った気配がありつつも、彼は笑顔で返してきた。
「だいじょうぶだよね、ルナちゃん?ほら、ルナちゃんもうんって言って……ることにするの。がんばろうね、けんいち君。わたしもがんばる」
キャベツ人形をしっかりと抱き、そそくさと西沢のデスクに戻っていく。小さな背中はたった今、ありったけの勇気を出したのだろう。
あとでいっぱい褒めてやろう。英樹は脳裏に刻みつけた。
ゆるんだ顔を無理やり戻し、親子のほうへ向き直る。
「そういうわけです。今からでも遅くないのかもしれません。無理して周りに合わせなくとも楽しめる生き方、見つけられるといいですね。お互いに」
美穂にならって明るく語りかけた。『普通』や『大人』でわが身を縛りつけ、ずっと止まっていた自分を鼓舞するためにも。
「調査の中で、ひょっとしたら僕の悩みと似ているかもと感じたんです。今日話してみて、改めてそう思った。僕も学生時代は、みんなと一緒がいいとか普通になかよくしてたいだとか思っていろいろ試したんです。ひとりが嫌なのは今も変わらない。どうにかしたい気持ちはわかります。居場所を守りたいというのも」
しっかりと聞き入っている親子の顔つきから、よけいな力が抜けている気がした。すべてを自覚したうえで、向き合う覚悟がついたような。
単なる都合のいい期待かもしれない。それでも、英樹はふたりを信じることにした。信じられると思った。
彼らにも善性がある。自分を客観視する力がある。それは十分に伝わった。
相手が罪を受け入れていなければ、決して届かないお願いをするのだ。
「だからといって、味方するわけにはいきません。人にどうこう言える立場ではないけれど、あなたたちの行いはとうてい許されないこと、裁かれなくとも犯罪だ。そして道場さん、未婚の身でえらそうなことを言わせてもらいます。子どもは親が箔をつけるための道具ではありません。それだけは思い出して、忘れないでください」
伸びた背筋、おだやかな視線と気まずそうな視線。ゆっくりと首が縦に振られる。
「出頭していただけますか」
「……はい」
ふたつの声が、重なった。
少しだけ間をとる。自分の選択をかみしめ、飲み込んでもらうためのひと呼吸。
もうひとつ、伝えねばならないことがある。
「実は先ほど言わなかったことがあります。たしかにふたりとも罪には問われません。ですが、健一君は少年院に送られる代わりに補導され、警察から児童相談所に通告がいきます。そして普通に生活しつつ児相の支援を受けることになります。非行行為を改善したり、精神状態や周りの環境をよくするための。
いじめ調査でいくつかの児相とかかわったことがありますが、総じて誠意にあふれた場所でした。そこは信じていただければ」
漂いかけた緊張を優しくほぐしていく。いくつか今後についての質問を受け、専門外ながらもわかる範囲で親身に答えた。
やがて、外に出て見送りのとき。人通りの少なさをいいことに、道幅のすべてを占拠する。狭くてふだんは薄暗い路地に、雲間から陽が射していた。
「今日は遠くからお越しいただきありがとうございました。あと忘れていたのですが、告発電話など実際には存在しませんのでご安心ください。だましてしまい申し訳ありませんでした」
「いいんですよ、もう。ありがとうございましたと申し訳ございませんでしたはこちらのセリフです。……では」
罪が暴かれやしないかじゃない、これから自分たちがどう生きるかだ。今考えるべきなのは。
啓子の凪いだ口ぶりは、きっとそういうことだろう。
「お世話になりました。僕はがんばります。じゃあ、さようなら」
「……お元気で」
美穂や西沢とともに礼をする。1歩ごとに小さくなるうしろ姿を、見えなくなるまで見つめていた。




