アドベンから旅立つ件について。②
戦闘はほとんど無いと言ったな。あれは嘘だ。
まあ、戦闘と言っても大体二秒で終わるものですので。
ガチ系のマジ戦闘?何それ美味しいの?
「珍しいな。あのお前が俺に頼みがあるなんて…。」
怪訝そうな顔をしたエクリに俺は笑いながら言う。
「まあ、昔はあんまりそういうことは言わなかったからな。」
「ほう?心変わりした、ということは、やっぱり隣の彼女さんのおかげってやつか?」
「いや、だから彼女じゃねーってば。…って、そういう世間話をしに来たんじゃねーんだ。その頼みなんだが、俺とリツ…、俺の横の女の子と一緒にダンジョンに潜ってくれないか?」
俺の言葉にエクリは怪訝な顔をして問いかけてくる。
「なんだ、そりゃ。お前、彼女にいいかっこ見せようとでもしてるつもりか?
だったらごめん被るぞ。ダンジョンの深くないところだったら遊び感覚で行けるが、どうせお前のことだから、ダンジョンのかなり深くまで潜るつもりだったんだろ?
ダンジョンの深いところなんて、命の危険ばかりのところだ。いくらお前の頼みと言っても、そんなことで自分の命を危険に晒すのは無理だ。」
真剣な表情で言うエクリの表情に俺は何か勘違いをさせてしまったかと考えて弁明をする。
「違う違う。俺は別にそんな軽い気持ちで言ったんじゃない。いいか、俺とエツは本気でダンジョンを抜けて魔族大陸に行こうと思ってる。」
真剣な表情になった俺を見て少し考えた後、エクリは聞いてきた。
「お前、本気で言ってるのか?確かにお前はかなりの腕利き冒険者として名を馳せていたが、お前の横にいるお嬢ちゃんのようなお荷物を背負ったままじゃあダンジョンを通り抜けるどころか、ダンジョンの奥に辿り着けるかどうかも怪しいもんだぞ?」
エクリの話を黙って聞いていたリツが若干頬を膨らませてエクリに話しかける。
エクリに足手まとい、と言われたことが気に障ったのだろう。
「いえ、ボクは足手まといになんてなりません。ボクはエツに守ってもらわなくたって大丈夫なくらいには戦闘力がありますから。」
「おいおい、君みたいなお嬢ちゃんは、ダンジョンに入ったとしてもすぐにやられちまうと思うぞ?」
「そうそう、悪いことは言わないから、ダンジョンに潜るのは諦めな。」
周りの冒険者たちがリツにダンジョンに潜ることを諦めるように言う。
彼らは善意で言ったのだろうが、熱くなっているリツにはそんなことはわからない。
「いいでしょう。そこまで言うのだったら、この後ボクと勝負してもらえませんか?」
「おいおい嬢ちゃん、それはさすがに舐めすぎじゃね?俺らもとりあえずは結構強いつもりなんだけど?」
「そうだぜ、自分の強さに自信を持つってのは良いことだが、そこまで慢心しちゃあいけねえよ。」
リツの言葉に周りの冒険者たちもヒートアップしていく。
無理もないだろう。今までずっと鍛え続けてきて手に入れた強さを、か弱そうな少女に勝負しても大丈夫、といったような口調で勝負を挑まれたのだ。そりゃあカチンとくるものもくるだろう。
「おい、お前ら。ちょっと落ち着け。か弱い嬢ちゃん一人にヒートアップしすぎだ。」
そんな言い争いを聞いてうんざりしたのか、エクリが周りの冒険者たちを制してリツに話しかける。
「それじゃあ嬢ちゃん。中々に腕に自信があるようだし、少しだけ相手してやるよ。ただし約束だ。もし俺が負けたらちゃんとエツとお嬢ちゃんについていくが、お嬢ちゃんが負けたら、金輪際ダンジョンに潜る、なんて言いだすんじゃねえぞ。」
「うん、それでいいよ!」
自信満々、といったようなリツの態度に少し眉を顰めながらもエクリはリツについてくるようにジェスチャーをしてからギルドの裏にある決闘場に向かった。
「よし、それじゃあ審判役の奴、誰がやる?」
「それじゃあ、俺がやらせてもらう!」
リツとエクリがそれぞれ決闘場の端に立ってから冒険者たちの中の一人が審判役となり、早速決闘を始める。
「それでは、どちらかが降参、または審判に戦闘不能と判断されたら、もう一方の勝ちだ!
それでは…。決闘開始!」
その言葉を聞くと同時にリツとエクリは同時に飛び出す。
「行くぞ!」
エクリは斧を取り出して斬りかかろうとするが、斧を走りながら構えて改めて前方を向いて、その顔は驚愕の色に染まる。
「誰も…、いない…?」
その声は誰のものであっただろうか。だが、リツはそれほどの速さで動いているのだ。恐らく、リツの動きを完璧に視認できている者など、この場では俺くらいなものだろう。
「いや、後ろだ!」
冒険者たちの中の一人がそう叫んだ瞬間にエクリの背後に剣を持ったリツが現れる。
「よっ、と…。」
首筋に剣を当てられて呆然としているエクリやその光景を見て驚愕しているギャラリーたちに笑顔を向けながらリツは言った。
「さて、これでボクの勝利!で、いいんじゃないかな?」
「…、ハッ!しょ、勝者、リツ!」
固まった空気の中で、審判の勝利を告げる声だけが響き渡った。