アドベンから旅立つ件について。①
今回はただ飯を作るだけ。
俺の家の扉を開けて俺は中に入り、店のお座敷に行く。
「やっぱりここにいたか。」
「うん。ねえ、サンバさんと何を話してきたの?」
「いや、大したことじゃねえよ。それよりリツ、昼飯は何が食いたい?」
「うーん、基本的には何でもいいんだけど…。それじゃあ、この前言ってたそば、とかいうものが食べてみたいかも。」
「オッケー。」
会話を終わらせて俺は厨房に入る。
あまり時間をかけるつもりはないので、俺は新鮮な手打ち蕎麦ではなく、前から作っておいた蕎麦を茹でて蕎麦を作ることにする。その前に蕎麦のつゆを作るのが優先だが。
「よいしょっと…。」
鍋の中にお湯を沸かして鰹節でだしをとってからそこに醤油とみりん、酒、砂糖を入れて一煮立ち。
これだけでつゆは完成だ。
つゆを完成させたので、それを冷ましながら俺はいよいよ麺の調理を始める。
と言っても、麺の調理なんてそこまで難しい物ではないのだが。
「えっと…、蕎麦の麵を取り出す前に鍋に水を入れてから湯を沸かしてっと…。」
呟きながら鍋にいっぱいのお湯を沸かし、沸かしている間に冷蔵庫から蕎麦の麺を取り出す。
「お、ちゃんと沸いたっぽいな。」
お湯が沸きあがったのを確認して俺は蕎麦の麺をバラバラとほぐして鍋に入れる。
「フンフンフフーン。」
鼻歌を歌いながらも十秒か二十秒くらい箸で鍋をかき混ぜて、それが終わったら麺を取り出してざるに入れて、そのまま普通の水につける。
「確か、三、四十秒かき混ぜ続けるんだったよな。」
温かい麺を三、四十秒かき混ぜてから麺を再び取り出して、次は麺を氷水に入れる。
「お、中々にキュッとしてきたな。」
麺がキュッとしたのを確認してから冷めたつゆを茶碗に入れて、麺を皿に入れてから俺はそれらをお座敷に運んでいく。
「おーい、できたぞー。」
「ほんとう?ねえねえ、これがとても美味しいっていう、あのそば、っていう物なの?」
「とても美味しいって…。それ、どこから聞いたんだよ…。」
「エツのお店の常連さんからだよ!冒険者の中にも、エツのお店、トモエを好きな人は多いから、ダンジョンの中でもよく噂は聞いたよ!」
「マジでか。知らなかったわ。」
俺の店を好きな人が意外と多かったことに驚きながらも俺はお座敷に置いてある机に蕎麦を置く。
「ほいよ。見た目は多少、ってかかなり変だけど、味は安心できると思うぜ。」
「うん!それじゃあ、いただきまーす!」
「おう。そんじゃ俺も、いただきます。」
二人で蕎麦を食べ始める。
「うっわ、おいしいー!」
「そうだろう、そうだろう!やっぱり蕎麦は良いよなぁ!」
ワイワイと騒ぎながらもしっかりと蕎麦を二人とも完食し終えたので、俺は蕎麦の皿とつゆの皿を持って厨房の中に戻り、食器を素早く洗い終えてからまたお座敷に戻った。
「よし。昼飯も食ったし、そろそろ行くか。」
「うん。そうだね!」
二人揃って店を出て、店の入り口に『これからしばらく休業させて頂きます。』と書かれた紙を張り付けた。これなら俺の店で働いてる従業員の人たちも気づいてくれるだろう。
紙を張り付けてから、二人でギルドへの道を再び歩いていく。
リツは美人なのですれ違った男たちがリツに振り向くが、リツが嬉しそうに俺に話しかけてきている様子を見て諦めたかのように肩を落として去っていった。
そんなことを何度も繰り返しているうちに俺たちはギルドの入口に辿り着いた。
「おお、エツの奴、また来たのか。」
「しかも今度は昨日の彼女を連れてきてるぜ。」
「クソッ。彼女がいない俺たちへの当てつけか!?」
ギルドに入った瞬間に冒険者たちが言っている言葉を聞いてリツは「うう…。彼女…。彼女…。」と小さな声で繰り返し始めたが、俺はそんな様子を無視してリツの手を引っ張って十人の冒険者が集まっているのところに連れていく。
「おお、彼女ができたっていうエツじゃねえか!そこの横の子が彼女か!それで、今日はなんのようだ?」
冒険者たちの真ん中にいるスキンヘッドで顔にいくつかの傷跡がある屈強な男が話かけてくる。
こいつはエクリ。このギルドの中でも指折りの実力者だ。
エクリの声で周りの冒険者たちが一斉にこちらを見てくる。
ちなみに、この冒険者たちも中々の手練れの集団だ。
エクリと周りの手練れの冒険者たちが全員こちらに視線を向けてきたことを確認してから俺は言う。
「っつーか、彼女じゃねーから。、じゃなくて、実はお前に頼みたいことがあってな…。」