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リツが変わりすぎてる件について。どうしてこうなった。

リツとエツってやっぱり間違えやすい。


名前は変えないけど、注意しなければ…。

昨日、サンバさんにリツを預けてから一日経って朝になったので、俺は着替えてからギルドへの道を歩いていく。


今の俺の格好は白衣である。

親友の新たな冒険の始まりを祝っちゃおう、みたいなノリで白衣を着たまま家から出てきてしまったのだが、いかんせん白衣なのでとても目立つ。


「なあなあ、エツは医者ではなかったよな?」


「層だと思うが…。たぶん、昨日連れてきた彼女を幸せにするために収入の高い医者になろうと思ってるんじゃないか?」


「クソッ、リア充が。」


俺が白衣を着ているせいで、俺がギルドに入った時から色々と好き勝手言われているが、彼女ができた、なんていう噂を広められても困るので噂をしあっている奴を思い切り睨んで黙らせる。


「あ、エツさん。昨日ぶりですね。」


「ああ。サンバさんがどこにいるか知らないか?」


「サンバさんなら、エツさんの彼女さんを着せ替え人形にして今も楽しんでるはずですから、たぶん更衣室にいると思いますよ。」


「サンキュ。後、昨日俺が連れてきたのは俺の彼女なんかじゃないから。」


「ええ、ホントですかー?」


「あったりまえだろ。」


受付嬢と何気ない会話をしてから俺はギルドの奥にある更衣室に向かう。

向かう途中で何人かのすれ違った冒険者たちがリツのことについて聞いてきたが、全部スルーした。


「ここだよな、更衣室。普段は誰も使わないし、俺もほとんど使ったことないからわからんけど…。」


俺は『更衣室』と書かれた看板がぶら下がっているドアを叩いてノックした。


「はいはい。今開けますよ。」


中からサンバさんの声がして、ドアが開かれる。


「おや、エツじゃないかい。ああ、リツを引き取りに来たんだったね。リツはもうしっかりとした女の子の自覚を持っていて、どこに嫁に出しても恥ずかしくないくらいになったよ。」


「いやいや、嫁って…。そうならないように俺とエツはこれから冒険に行こうとしてるんだ。嫁に出しちゃあ意味ないだろ…。」


「そうかい?別にアタシとしちゃあ、長年彼女のいなかったエツの嫁になってほしいくらいなんだがねえ。」


「いや、しかもなんで俺?」


会話を交わしながらも俺とサンバさんは奥へと進んでいく。一番奥にあるカーテンのかかっている部屋を指差してサンバさんは言う。


「リツにはさっきまでここでアタシの着せ替え人形になってもらってたんでね。まあ安心しな、エツ。くどいようだが、しっかり女の子としての礼儀だとか自覚だとかは叩きこんでおいたからね。」


そう言いながらもサンバさんはカーテンを掴む。


「さあ、それじゃあお披露目といこうじゃないか。それじゃあリツ、開けるよ!」


サンバさんによって勢いよく開けられたカーテンの奥の黒髪赤目の美少女、というかリツを見て、俺は言葉を失った。


「えっと…、エツ、その…、変、かな?」


そこには、頬を赤くしてこちらを期待するように見てくるリツ(美少女)がいたのだ。


「えっと…、やっぱり変かな…。やっぱり変だよね…。ボクも頑張ったんだけどなぁ…。」


俺がフリーズしたまま何も言わないのを見てリツはその目に涙を溜めていく。

その様子を見て、俺は今度は違う意味でフリーズする。


(あれ?どうしちゃったの?何でリツが本物の女の子みたいな感じの性格になってんの?確かリツはしっかりサンバさんが面倒を見ておいてくれたから、こんな感じに性格が変わるなんて…。)


そこまで考えて俺は考える。


(いや、待てよ?サンバさんはリツに女の子としての常識を教える、と言っていた。「女の子としての常識」の中に女の子みたいな性格が入っているとは言えないが、サンバさんなら本当に性格をいじりかねない!)


そこまで考えてから俺はサンバさんの方を見る。


サンバさんは、ニヤニヤした笑みでこちらを見ていた。


おのれ。図ったな。


「えっと、あの、やっぱりボクなんてダメな女だよね…。女らしさも無いし、美人でもなければ、気配りができるような良い人でもない…。うう…。」


俺がそうこう考えているうちにかなりの時間が経ってしまっていたらしく、リツは既に泣き出す寸前までなっていた。


「ああ、いや、その、お前があんまりにも綺麗だったから見惚れてたんだ!」


嘘は言ってない。

嘘は言っていないのだが、どうしても恥ずかしいことを言っているような気がして、顔がどんどん熱くなっていく。恐らく今の俺の顔はかなり赤くなっているだろう。


「ちょ、そんなに赤くなって言われると、さすがにボクも恥ずかしいっていうか…。」


そんな俺の反応に顔を赤くしながらリツは俺と同じように顔を赤くしながら下を向く。


部屋の中に沈黙が訪れて、なぜかピンクの空気が幻視できるようになっていた。


そんな俺たちを見かねたのか、サンバさんが俺たちに声をかけた。


「ああもう、アンタたち、十九歳くらいの思春期の男女かい!」


「いや、そうですけど何か!?」


俺のツッコミも無視してサンバさんは呆れたように言う。


「まったく、その様子だったらリツの性別を元に戻したりなんてしなくてもよかったんじゃないかい?どうせならそのまま二人でゴールインしちまえば良いのに。」


「ちょ、それはダメだ!」


語気を強めてサンバさんの言葉を否定した俺をサンバさんは怪訝な目で、リツは泣きそうな目で見てきたが、俺はそれに構わず続ける。


「あのなあ、そもそもリツは俺の大事な人なんだ。俺はそんなリツのために店を休業にしてまで冒険に行こうとしてるんだ。リツも冒険に行くことは賛成してたんだ。それなのに、リツにいきなり嫁に行けだなんて言えるわけねーだろ!

そもそも、大事な人にそんなことをするくらいなら、死んだ方がマシだ!」


俺の言葉にサンバさんは「ほぅ…」と言って楽し気に目を細め、リツは「大事な人…。大事な人…。」と呟いている。


ちなみに、大事な人、というのは恋愛的な意味ではない。親友的な意味だ。俺はいきなり性別が変わってしまった親友に心配心よりも先に恋愛感情を持つようなクズではない。


サンバさんは俺の答えになぜか笑って頷き、俺とリツに向かって言った。


「よし、アンタたち。二人でどんな時でも助け合って、互いを支え続けるんだよ!それじゃあ、行ってこい!」


「「おお!」」


二人揃って答えた後に、俺はリツに言う。


「ちょっと、少しだけサンバさんと話したいことがあるから、先に俺の家に行っておいてくれないか?」


「うん。それじゃあ、後で。」


リツが出ていったのを見て、俺はサンバさんに話しかける。


「なあ、サンバさん。二つだけ、質問があるんだが。」


「だろうね。言ってみな。」


サンバさんが頷いたのを見て、俺は質問を始める。


「それじゃあまず一つ目から。何でリツはあんなに女の子っぽい性格になっちまってるんだ?女の子としての常識を教えたとしても、性格まで変わるのはおかしいだろ。」


「ああ、やっぱりそのことかい。アタシはリツを借りてる時間の中で、できるだけたくさんの自分が女であると自覚せざるを得ないようなことをさせてきたからね。内容は…。聞かない方が身のためってやつさ。」


「そ、そうか…」


サンバさんの答えに顔を引き攣らせながらも俺はもう一つの質問をする。


「それじゃあ二つ目、最後の質問だ。何で俺の好感度があんなに高いんだ?」


俺の問いにサンバさんは逆に聞き返してくる。


「おや、何でエツの好感度が高い、なんて思ったんだい?」


「そんなの、どこぞのハーレム漫画の主人公でもなけりゃ気づくだろ。

ただの友達に自分が女らしくないと言われただけであそこまで落ち込むなんて、それは、俺に、その…、恋でもしてないとおかしいだろ。」


そう言った俺の顔を見ながらサンバさんは言う。


「ああ、そりゃあ、あそこまで露骨だったらさすがにわかっちまうか。」


「やっぱり気づいてたんじゃねーか。何であんな風になっちまったんだ?」


俺の質問にサンバさんはしばらく何かを考えるように目をつぶって、しばらくしてから目を開き、俺に答えを言う。


「ああ、エツが知ってるかどうかは知らないけど、あの子はほとんど同性、いや、今では異性か…。とにかく、男で親しい存在がエツ以外にはいないんだよ。」


「そうなのか?」


「ああ。リツは無自覚にハーレムを作っていたからね。基本、リツの周りには男がいなかったのさ。そんな中でたった一人の男友達であるエツは、男だった時から特別な存在なんだよ。

同性だった時にすらエツはリツの中で特別な存在だったのさ。それが異性になったらどうなると思う?」


「さらに特別な存在になる、か…。」


「そういうことだね。」


「そうか、そっか…。まあいいか。聞きたいことは大体聞けたし、これで良しとしとくよ。」


そう言って部屋を出ていこうとする俺をサンバさんは引き留める。


「あ、ちょっと待った。」


「なんだよ?」


「エツ。頼むから、リツを気持ち悪がったりしないでくれよ。」


「ハッ。性転換したとはいえ、自分の親友を気持ち悪がるほど俺はクズじゃねえよ。」


「そうかい。」


そこで俺とサンバさんの会話は終わり、俺は部屋を出ていく。


「ハァ…。」


今後の面倒くさくなりそうな未来を想像して俺はため息を吐くのだった。



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